125 / 127
償い煙は3本と少し 〜竹一族の記憶(六)〜
十四
しおりを挟む
父さんって煙草吸うんだな、と思いながら縁側に立っている姿を見つめた。その顔は、どこか悲しげで、複雑な感情を宿している。何を考えているのか、俺にはわからなかった。
「四音。あんまり近くによっちゃダメだ。煙、吸っちゃうぞ」
「一樹兄さん。いや、それはわかってるんだけど、珍しいと思ってさ。仕事中でも吸わないし、家でも喫煙スペースとか作ってないし」
「・・・・まあ、この時期だけだからな。死者への弔いってところか」
迎え火と送り火があるのに? と尋ねるのはやめた。なんだか野暮な気がしたからだ。
それに、一樹兄さんも、お盆の時は父さんと同じ表情をする。
「俺も成人したら、一緒にやった方がいい?」
「ダメだ。体に悪い」
「弔いって言ったのにかよ」
何かを隠していることは知っている。賢三兄さんよりもわかりやすい2人だから、俺でもわかった。体に悪いと言いながら続けるのは、何かしらの深い理由があることも。
「そういや、今日も出てたな。一樹兄さんの結婚相手の話」
拗ねた表情を見せてからわざと話題を変えると、一樹兄さんは苦笑した。兄さんは今年25歳で、昨今の晩婚化を考えると早い。だけど、一族としては早く進めたい話なんだろう。父さんと違って分家の人間からしか相手を選べないから、妙な争いが激化している。
「まあ、父さんと母さんは25歳で俺を産んでるわけだからな。同じくらいにと思われるのは当然だ。問題は、相手が応じてくれないってことで」
「やっぱり決めてるんだな。知ってたけど」
一樹兄さんと年の近い分家の子供たちは少なくない。だけど、兄さんが誰と結婚したいかは、家族なら百も承知だ。ただ、周りがうるさいから進まないってだけの話。そういうところが面倒臭えな、この一族。
「まあ、そのうちどうにかなるだろうから、これ以上は何も言わないよ。
ところで、賢三兄さん、いつ帰ってくると思う?」
「送り火の日だろうな。あいつ、本当に顔出さなくなったから。分家の顔すら見たくないんだろ」
「顔ねえ・・・・。別に俺も見たくねえけどな」
呟いた声は、思った以上に大きかったのか、一部の分家がギョッとしていた。昔なら気になっていたはずだが、今は特に何とも思わない。母さんの話を聞いて、本当に良かった。
俺はおもむろに縁側に出て、父さんの隣に立った。俺の姿を認めて慌てて煙草を消す姿は、とても喫煙者と思えない。
「急にどうした?」
「空が見たくなった」
父さんは笑って同じように見上げた。やっぱり、星はうっすらとしか見えない。
「・・・・あそこにいるのかな。ご先祖様」
「ああ、きっとな」
虫の声は聞こえない。ただ、夜風の冷たさが身に染みて、夏に凉をもたらしていた。
「四音。あんまり近くによっちゃダメだ。煙、吸っちゃうぞ」
「一樹兄さん。いや、それはわかってるんだけど、珍しいと思ってさ。仕事中でも吸わないし、家でも喫煙スペースとか作ってないし」
「・・・・まあ、この時期だけだからな。死者への弔いってところか」
迎え火と送り火があるのに? と尋ねるのはやめた。なんだか野暮な気がしたからだ。
それに、一樹兄さんも、お盆の時は父さんと同じ表情をする。
「俺も成人したら、一緒にやった方がいい?」
「ダメだ。体に悪い」
「弔いって言ったのにかよ」
何かを隠していることは知っている。賢三兄さんよりもわかりやすい2人だから、俺でもわかった。体に悪いと言いながら続けるのは、何かしらの深い理由があることも。
「そういや、今日も出てたな。一樹兄さんの結婚相手の話」
拗ねた表情を見せてからわざと話題を変えると、一樹兄さんは苦笑した。兄さんは今年25歳で、昨今の晩婚化を考えると早い。だけど、一族としては早く進めたい話なんだろう。父さんと違って分家の人間からしか相手を選べないから、妙な争いが激化している。
「まあ、父さんと母さんは25歳で俺を産んでるわけだからな。同じくらいにと思われるのは当然だ。問題は、相手が応じてくれないってことで」
「やっぱり決めてるんだな。知ってたけど」
一樹兄さんと年の近い分家の子供たちは少なくない。だけど、兄さんが誰と結婚したいかは、家族なら百も承知だ。ただ、周りがうるさいから進まないってだけの話。そういうところが面倒臭えな、この一族。
「まあ、そのうちどうにかなるだろうから、これ以上は何も言わないよ。
ところで、賢三兄さん、いつ帰ってくると思う?」
「送り火の日だろうな。あいつ、本当に顔出さなくなったから。分家の顔すら見たくないんだろ」
「顔ねえ・・・・。別に俺も見たくねえけどな」
呟いた声は、思った以上に大きかったのか、一部の分家がギョッとしていた。昔なら気になっていたはずだが、今は特に何とも思わない。母さんの話を聞いて、本当に良かった。
俺はおもむろに縁側に出て、父さんの隣に立った。俺の姿を認めて慌てて煙草を消す姿は、とても喫煙者と思えない。
「急にどうした?」
「空が見たくなった」
父さんは笑って同じように見上げた。やっぱり、星はうっすらとしか見えない。
「・・・・あそこにいるのかな。ご先祖様」
「ああ、きっとな」
虫の声は聞こえない。ただ、夜風の冷たさが身に染みて、夏に凉をもたらしていた。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
近づいてはならぬ、敬して去るべし
句ノ休(くのやすめ)
ホラー
山中、もしあなたがそれに出会ったら……
近づいてはいけない。
敬して去るべし。
山を降りろ。
六年勤めた会社を辞めた。お荷物だとはわかっていたし、むしろ清々しくもあった。
28歳のコウイチには、仕事より大切なものがあった。
田舎歩きだ。そこ大事なのが学生のときにかじった民俗学だ。廃集落、古い祠、忘れられた神々——それを訪ねることは、彼のたった一つの愉しみだった。
大学時代、民俗学の講義で准教授はこう言った。「神々は神ではない」。人が畏れ、従い、忖度したものがかみになる。その言葉がコウイチを変えた。
会社の営業で関東のあちこちを歩きまわった。コウイチは仕事よりも土地の古老の話に耳を傾けることに熱中した。
ふと見つけた資料にコウイチは目を奪われた。
「名付け得ぬ神」。
東京の西、檜原村の奥深く、コボレザワという場所にその祭祀を担った一族がいたという。山奥には祠があるらしい。だがもう六十年も前に無人になってしまっているようだ。
コウイチは訪ねることにする。
道中、奇妙な老人に出会う。一人目は気のいい古書店主。二人目は何かを知りながら口を閉ざす資料館の老人。そして三人目は——
雪深い山の中でコウイチはついに祠を見つけた。巨大な岩を背にした祠は古び、壊れていたが、まだ人が来ている痕跡があった。
不穏な気配にコウイチは振り向くが、なにもない。
あれ? 鳥の声が、まったくない。
都市伝説レポート
君山洋太朗
ホラー
零細出版社「怪奇文庫」が発行するオカルト専門誌『現代怪異録』のコーナー「都市伝説レポート」。弊社の野々宮記者が全国各地の都市伝説をご紹介します。本コーナーに掲載される内容は、すべて事実に基づいた取材によるものです。しかしながら、その解釈や真偽の判断は、最終的に読者の皆様にゆだねられています。真実は時に、私たちの想像を超えるところにあるのかもしれません。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/3/8:『ほうもんしゃ』の章を追加。2026/3/15の朝頃より公開開始予定。
2026/3/7:『こんびに』の章を追加。2026/3/14の朝頃より公開開始予定。
2026/3/6:『えれべーたー』の章を追加。2026/3/13の朝頃より公開開始予定。
2026/3/5:『まよなかのあしおと』の章を追加。2026/3/12の朝頃より公開開始予定。
2026/3/4:『ぎいぎいさま』の章を追加。2026/3/11の朝頃より公開開始予定。
2026/3/3:『やま』の章を追加。2026/3/10の朝頃より公開開始予定。
2026/3/2:『いおん』の章を追加。2026/3/9の朝頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
境界の音
迷い人
ホラー
大学二年の榊真樹は、臨床心理学科教授の紹介で映像関連企業のインターンに入る。
慣れないオフィスでの雑務に追われる日々、営業の高木歩だけは、真樹の不安を切り捨てない人だった。
距離の近い声、触れそうで触れない手、名前の呼び方ひとつで揺れる心。
惹かれてはいけない、と分かっているのに、真樹の身体はその優しさを覚えてしまう。
けれど、穏やかな時間に混じって、海の気配が増えていく。
波の音はないのに聞こえ、足音がひとつ多い気がして、見られている感覚だけが残る。安心を与える腕ほど、境界を曖昧にする――そんな違和感を抱えたまま、真樹は高木の出張に同行し、香川・琴平へ向かう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる