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Case24.魔の館の変死体③
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「一先ず、映像を見てくれませんか」
少女の強い瞳に気圧され、私たちは頷いた。警察が管理している被害者の部屋に入るなり、少女は慣れた手つきで監視カメラの映像を再生する。
だが、それは映像の体を成していなかった。明らかに何者かによって手を加えられており、映像の中に何かがあると察するには時間もかからなかった。
「まだ姉には見せていません」
少女の言葉を受け、東さんは他言無用だと告げた。私も同意だった。
ただ、映像の体をなしていない映像が鍵になる。それだけが理解できた。
ーカイリ『魔の館の変死体』第3章ー
※
「あれ以上にお話しすることはありません」
小夜は自分の部屋に入った直後、開口一番にそう告げた。
「では、和豊さんたちにお聞きするしか・・・・」
「無理です。ここに呼べたとしても、大したことは話してくれないはずです。母上も父上の言葉に従うだけで、自分の話はしてくれません。叔父上は父上に忠義とも言える感情がありますから、話を聞き出すなんて・・・・」
小夜の言葉に海里と龍は溜息をついた。龍は小夜に尋ねる。
「取り敢えず、こちらもお三方の情報が欲しい。叔父である和彦さんについてお話ししてくれませんか? 特に、5年前のこの事件のことを」
そう言いながら龍は鞄を開け、浩史にもらった新聞を小夜に手渡した。一瞬にして、彼女の顔が青くなる。龍はすぐさま言葉を続けた。
「これは本当ですか? もし本当であれば許されないですし、許せません。命を奪っておきながら裁かれないなどあってはならない。
私たち警察官は、法に則って職務を遂行する。法に背く者は、誰であろうと裁きを受けなければならない。立場や家柄に関係なく」
小夜は長い間、何も言わなかった。視線は机に置いた新聞を見つめ、組んだ両手の細い指に力がこもっていた。
「・・・・本当の話です」
絞り出すように小夜は言った。海里の瞳に光が増す。
「そこまで仰られた以上、隠すことはできません。本当に優秀な方ですね」
龍の眉が動いた。小夜は何でもないという風に首を振り、続ける。
「天宮家が隠蔽したのは、その事件だけではありません。父や叔父が財力と権力を使って隠蔽した事件は数多くあります。私が分かる事件は少ないですが、お話しできることはあるでしょう。何よりーー」
「小夜」
何の前触れもなく扉が開いた。そこには和豊と、彼より頭一つほど身長が高い男ーー瓜二つなので弟の和彦だろうーーがいる。呼びかけと同時に肩を震わした小夜の様子は、明確な恐怖の表れだった。
和彦は、身長と体躯が龍よりも大きかった。小夜を見つめる瞳には、何の感情も宿していない。
やがて、和彦が口を開いた。
「警部殿。あなたは今回の事件のことを聞きに来たのでしょう。過去のことなど聞く必要はないはず」
深掘りするな、とでも言うかのようだった。龍は椅子から立ち上がり、頷く。
「ええ、ありません。私たちがお聞きしたいのは今回の事件です。小夜さんたちからは大方話を聞けましたので、次はあなた方からお聞かせ願えますか?」
龍は小夜を庇うよう前に立って言った。和豊と和彦はしばらく沈黙した後、軽く頷き、龍と共に部屋を出て行った。
足音が聞こえなくなった後、海里は小夜に尋ねる。
「外に聞こえるのですか? お部屋は防音ですよね?」
海里は、先日春菜から聞いた全ての部屋が防音なので聴取内容は漏れないという言葉を思い出して言った。小夜は曖昧に頷く。
「ええ、防音です。ただ、私たちの部屋は、その役目を果たしていない」
小夜は天井の隅にあるカメラを指した。海里は驚く。
「家の中に防犯カメラを?」
「監視カメラでいいですよ。
あれは父の提案です。おかげで、余計なことを話せば全て父に知られる。あの人の部屋に、全ての部屋の音声と映像が行き届きますから」
小夜は笑ったが、微かに震えていた。海里は何も言えなかったが、あることに気がつく。
「・・・・逆に考えると、父である和豊さん以外は、勝手な行動が不可能。和豊さんだけは自由に行動できるのでは?」
海里の言葉に小夜は苦笑いを浮かべた。
「探偵さん。もし、私たち4人が犯人を知っていると言ったら、あなたは信じますか?」
突然の言葉に、またも海里は混乱した。昨日と同じく、虚を衝かれたのだ。
「・・・・な・・何を言って・・・・本当にご存じなんですか?」
「どう思います? 探偵さん。嘘を見抜くのがお得意なのでしょう? 私の言葉が真実か、嘘か。あなたなら分かるのでは?」
海里は何も言えなかった。今まで、犯人も被害者と関わった人間も、自分の犯行を知られたくない、早く終わって欲しい、という思いを感じた。嘘も、当たり前のように見抜けた。
だが、今回は違った。小夜の発言全てが、海里を翻弄し、悩ませる。先にある真実が全く見えなかった。
「私が分かっていることをお話ししても?」
海里の答えが得られないと踏んだのか、やがて小夜は言った。海里はほぼ無意識のうちに頷く。
「参考にします。どうぞ」
「まず、真人は絞殺ではありません。全身の骨を折られて殺害されています。犯人は絞殺に見せかけるために糸を巻いたのでしょうが、馬鹿馬鹿しい隠蔽ですね。いいえ、隠蔽にすらなっていない」
「・・・・断言するのは吉川線の件で?」
「はい。探偵さん、仰っていましたよね? 手を縛られた痕などないと。絞殺された人間が、何の抵抗もなく殺されますか? 例え手を使えないようにされていたとしても、絞殺すれば遺体にその証拠が残るでしょう? 真人の体には、それが見受けられなかった」
まるで現場を見たかのように説明する小夜に、海里は何も言わなかった。彼女は続ける。
「真人の服に手の痕がありました。」
「手の痕?」
「はい。骨を折る時に、犯人が彼の体を支えにしたのでしょう。つまり犯人は、片手で彼の骨を折ったことになります。
加えて、手の痕は2種類。大きさから考えて、成人した男女、もしくは高校生くらいの男女ですね」
「ちょっと待ってください」
海里は我慢できずに口を挟んだ。小夜が犯人しか知らないような情報を述べることに違和感を覚えたのだ。
「なぜ、そこまで分かるのですか? 秋平さんから聞いた話では、遺体を遠目に見ただけだと伺っています」
「はい。それが何か?」
「おかしいでしょう。遠目・・・・この場合、階段の上だと思いますが・・・・知っての通り、階段から遺体発見現場の大広間までは、かなりの距離があります。そんな遠い所から、そこまで細かく見えますか?」
小夜は笑った。満足そうな笑顔だ。
「流石は探偵さんですね。
ええ、その通り。私は遺体を見ていない。遺体を見たのは秋平で、これは秋平の推理です。あの子が言っても信じてくださらないかもしれないと思ったので、代弁しました。
でも、裏は取れると思いますよ? 私の事情聴取が始まった時点で遺体が運ばれていたことは、警察の皆さん、ご存知ですから」
こんなことがあるのか? 彼女は、何一つ嘘をついていない。彼女は秋平さんから遺体の状況と彼の推理を聞き、間違っていないと確信した。しかし秋平さんが話しても警察が信じない可能性を考慮して、代弁した。
それは、捜査に行き詰まっている私たちに助け舟を出すためでもあり、私の探偵としての頭脳を図るためでもある。この2つを同時に行うために、犯人の正体を仄めかす言葉で、事前に私の思考を混乱させたんだ。
※
「しけたツラしてるな。何かあったか?」
数分後、小夜の部屋の前で溜息をつく海里に龍が言った。海里は壁から体を起こし、質問に答えず尋ねる。
「事情聴取は終わったんですか?」
「一応な。だが、想像通りと言うべきか、要領を得ない。あの3人、とことん何も言わなかったよ。過去の事件と含めて聞いたがダメだった。“知らない”、“今回と関わりのない事は話さない”、“真人にも殺される理由があった”・・・・それだけだ」
「そうですか。しかし、親が親なら子も子ですね。先ほど、小夜さんと話をしていましたが、彼女も中々やり手ですよ」
海里はそう言って、小夜とのやり取りを話した。龍は深い溜息をつく。
「仮に犯人を知っているなら、なぜ話さない? 証拠も無しに犯人扱いしたくはないが、両親と叔父に対する嫌悪感からして、彼らが犯人でも庇っているとは考えられない。弟妹の発言からしても、被害者との関係は良好だ。
そのどちらでもないのなら・・・・天宮小夜本人か」
「私もそれは考えました。婚約関係で揉め事があった可能性は捨てきれませんから。しかし改めて遺体の写真を見て、小夜さんを通して伝えられた秋平さんの推理が正しいと分かりました。成人女性という発言は自分も含まれるのに、そんな危険な橋を渡りますか?」
「それも一理あるか」
龍は納得した、という反応を示した。彼は続ける。
「泉龍寺真人の遺体、鑑識に詳しく調べてもらった。
その結果、口内から綿の繊維が検出されて、布かタオルで口を塞がれて骨を折られたこと、手首もほぼ同じ時に抑えられていたので抵抗が不可能であり単独犯ではないこと、着用した衣服の手の痕、手袋はしていたので指紋はないが、その大きさから複数人の男女が犯人であることが確定した」
「秋平さんの推理は正しかったと?」
「生憎な」
海里は腕を組んだ。ここまで進展のない事件では、何から取り掛かって良いのかすら分からない。最も要領を得られるであろう小夜に聞いても、はぐらかされことは目に見えていた。
すると、廊下の奥の方で部屋の扉が開く音がして、春菜が2人の元へ走って来た。手には白いパソコンを持っている。
「今、大丈夫ですか?」
「ええ。どうかしましたか?」
「昨日の夜、父の部屋に入って監視カメラの映像を調べてみたんです。そうしたら、こんな映像が」
春菜はそう言いながらパソコンを差し出した。海里が尋ねる。
「こちらは、ご自分の?」
「はい。持ち帰って頂いても結構です。一先ず、映像を見てくれませんか」
春菜は小夜の隣室ーー真人の部屋なので現在は警察の管理下にあり、監視カメラは機能せず防音のみ機能しているーーに2人を通した。整頓された机にパソコンを置き、映像の再生ボタンを押した。場所は大広間、遺体発見現場である。
映像が始まってすぐ、監視カメラの死角から青年が現れた。
「この人が真人義兄さんです。台所に水でも飲みに行くんだと思います」
遺体の写真以外で、真人の顔を見ていなかった海里は、穏やかで優しい印象を持った。柔和な顔立ちは若さを感じる。
そんなことを考えていると、真人が大広間の中央まで来た。しかし、その時、突然監視カメラの映像が消えたーーいや、画面が歪んだのだ。音声は全く聞こえず、人影らしきものが微かに見える程度だった。
そして、曖昧な映像が10秒ほど続いた後、映像は鮮明さを取り戻した。そこには、遺体となった真人の姿だけがある。
「亡くなっていますね。遺体発見現場に来た時と同じ体勢です。しかし、全身の骨を折って絞殺するなどという芸当、この短時間では・・・・」
「不可能だな。春菜さん。この映像、小夜さんたちには?」
「まだ見せていません。お姉様に見せていいものか迷ってしまって・・・・」
龍はそれなら良かった、と言って続けた。
「他言無用でお願いします。これを知られて、また新しい推理を持ち出されては困りますから」
少女の強い瞳に気圧され、私たちは頷いた。警察が管理している被害者の部屋に入るなり、少女は慣れた手つきで監視カメラの映像を再生する。
だが、それは映像の体を成していなかった。明らかに何者かによって手を加えられており、映像の中に何かがあると察するには時間もかからなかった。
「まだ姉には見せていません」
少女の言葉を受け、東さんは他言無用だと告げた。私も同意だった。
ただ、映像の体をなしていない映像が鍵になる。それだけが理解できた。
ーカイリ『魔の館の変死体』第3章ー
※
「あれ以上にお話しすることはありません」
小夜は自分の部屋に入った直後、開口一番にそう告げた。
「では、和豊さんたちにお聞きするしか・・・・」
「無理です。ここに呼べたとしても、大したことは話してくれないはずです。母上も父上の言葉に従うだけで、自分の話はしてくれません。叔父上は父上に忠義とも言える感情がありますから、話を聞き出すなんて・・・・」
小夜の言葉に海里と龍は溜息をついた。龍は小夜に尋ねる。
「取り敢えず、こちらもお三方の情報が欲しい。叔父である和彦さんについてお話ししてくれませんか? 特に、5年前のこの事件のことを」
そう言いながら龍は鞄を開け、浩史にもらった新聞を小夜に手渡した。一瞬にして、彼女の顔が青くなる。龍はすぐさま言葉を続けた。
「これは本当ですか? もし本当であれば許されないですし、許せません。命を奪っておきながら裁かれないなどあってはならない。
私たち警察官は、法に則って職務を遂行する。法に背く者は、誰であろうと裁きを受けなければならない。立場や家柄に関係なく」
小夜は長い間、何も言わなかった。視線は机に置いた新聞を見つめ、組んだ両手の細い指に力がこもっていた。
「・・・・本当の話です」
絞り出すように小夜は言った。海里の瞳に光が増す。
「そこまで仰られた以上、隠すことはできません。本当に優秀な方ですね」
龍の眉が動いた。小夜は何でもないという風に首を振り、続ける。
「天宮家が隠蔽したのは、その事件だけではありません。父や叔父が財力と権力を使って隠蔽した事件は数多くあります。私が分かる事件は少ないですが、お話しできることはあるでしょう。何よりーー」
「小夜」
何の前触れもなく扉が開いた。そこには和豊と、彼より頭一つほど身長が高い男ーー瓜二つなので弟の和彦だろうーーがいる。呼びかけと同時に肩を震わした小夜の様子は、明確な恐怖の表れだった。
和彦は、身長と体躯が龍よりも大きかった。小夜を見つめる瞳には、何の感情も宿していない。
やがて、和彦が口を開いた。
「警部殿。あなたは今回の事件のことを聞きに来たのでしょう。過去のことなど聞く必要はないはず」
深掘りするな、とでも言うかのようだった。龍は椅子から立ち上がり、頷く。
「ええ、ありません。私たちがお聞きしたいのは今回の事件です。小夜さんたちからは大方話を聞けましたので、次はあなた方からお聞かせ願えますか?」
龍は小夜を庇うよう前に立って言った。和豊と和彦はしばらく沈黙した後、軽く頷き、龍と共に部屋を出て行った。
足音が聞こえなくなった後、海里は小夜に尋ねる。
「外に聞こえるのですか? お部屋は防音ですよね?」
海里は、先日春菜から聞いた全ての部屋が防音なので聴取内容は漏れないという言葉を思い出して言った。小夜は曖昧に頷く。
「ええ、防音です。ただ、私たちの部屋は、その役目を果たしていない」
小夜は天井の隅にあるカメラを指した。海里は驚く。
「家の中に防犯カメラを?」
「監視カメラでいいですよ。
あれは父の提案です。おかげで、余計なことを話せば全て父に知られる。あの人の部屋に、全ての部屋の音声と映像が行き届きますから」
小夜は笑ったが、微かに震えていた。海里は何も言えなかったが、あることに気がつく。
「・・・・逆に考えると、父である和豊さん以外は、勝手な行動が不可能。和豊さんだけは自由に行動できるのでは?」
海里の言葉に小夜は苦笑いを浮かべた。
「探偵さん。もし、私たち4人が犯人を知っていると言ったら、あなたは信じますか?」
突然の言葉に、またも海里は混乱した。昨日と同じく、虚を衝かれたのだ。
「・・・・な・・何を言って・・・・本当にご存じなんですか?」
「どう思います? 探偵さん。嘘を見抜くのがお得意なのでしょう? 私の言葉が真実か、嘘か。あなたなら分かるのでは?」
海里は何も言えなかった。今まで、犯人も被害者と関わった人間も、自分の犯行を知られたくない、早く終わって欲しい、という思いを感じた。嘘も、当たり前のように見抜けた。
だが、今回は違った。小夜の発言全てが、海里を翻弄し、悩ませる。先にある真実が全く見えなかった。
「私が分かっていることをお話ししても?」
海里の答えが得られないと踏んだのか、やがて小夜は言った。海里はほぼ無意識のうちに頷く。
「参考にします。どうぞ」
「まず、真人は絞殺ではありません。全身の骨を折られて殺害されています。犯人は絞殺に見せかけるために糸を巻いたのでしょうが、馬鹿馬鹿しい隠蔽ですね。いいえ、隠蔽にすらなっていない」
「・・・・断言するのは吉川線の件で?」
「はい。探偵さん、仰っていましたよね? 手を縛られた痕などないと。絞殺された人間が、何の抵抗もなく殺されますか? 例え手を使えないようにされていたとしても、絞殺すれば遺体にその証拠が残るでしょう? 真人の体には、それが見受けられなかった」
まるで現場を見たかのように説明する小夜に、海里は何も言わなかった。彼女は続ける。
「真人の服に手の痕がありました。」
「手の痕?」
「はい。骨を折る時に、犯人が彼の体を支えにしたのでしょう。つまり犯人は、片手で彼の骨を折ったことになります。
加えて、手の痕は2種類。大きさから考えて、成人した男女、もしくは高校生くらいの男女ですね」
「ちょっと待ってください」
海里は我慢できずに口を挟んだ。小夜が犯人しか知らないような情報を述べることに違和感を覚えたのだ。
「なぜ、そこまで分かるのですか? 秋平さんから聞いた話では、遺体を遠目に見ただけだと伺っています」
「はい。それが何か?」
「おかしいでしょう。遠目・・・・この場合、階段の上だと思いますが・・・・知っての通り、階段から遺体発見現場の大広間までは、かなりの距離があります。そんな遠い所から、そこまで細かく見えますか?」
小夜は笑った。満足そうな笑顔だ。
「流石は探偵さんですね。
ええ、その通り。私は遺体を見ていない。遺体を見たのは秋平で、これは秋平の推理です。あの子が言っても信じてくださらないかもしれないと思ったので、代弁しました。
でも、裏は取れると思いますよ? 私の事情聴取が始まった時点で遺体が運ばれていたことは、警察の皆さん、ご存知ですから」
こんなことがあるのか? 彼女は、何一つ嘘をついていない。彼女は秋平さんから遺体の状況と彼の推理を聞き、間違っていないと確信した。しかし秋平さんが話しても警察が信じない可能性を考慮して、代弁した。
それは、捜査に行き詰まっている私たちに助け舟を出すためでもあり、私の探偵としての頭脳を図るためでもある。この2つを同時に行うために、犯人の正体を仄めかす言葉で、事前に私の思考を混乱させたんだ。
※
「しけたツラしてるな。何かあったか?」
数分後、小夜の部屋の前で溜息をつく海里に龍が言った。海里は壁から体を起こし、質問に答えず尋ねる。
「事情聴取は終わったんですか?」
「一応な。だが、想像通りと言うべきか、要領を得ない。あの3人、とことん何も言わなかったよ。過去の事件と含めて聞いたがダメだった。“知らない”、“今回と関わりのない事は話さない”、“真人にも殺される理由があった”・・・・それだけだ」
「そうですか。しかし、親が親なら子も子ですね。先ほど、小夜さんと話をしていましたが、彼女も中々やり手ですよ」
海里はそう言って、小夜とのやり取りを話した。龍は深い溜息をつく。
「仮に犯人を知っているなら、なぜ話さない? 証拠も無しに犯人扱いしたくはないが、両親と叔父に対する嫌悪感からして、彼らが犯人でも庇っているとは考えられない。弟妹の発言からしても、被害者との関係は良好だ。
そのどちらでもないのなら・・・・天宮小夜本人か」
「私もそれは考えました。婚約関係で揉め事があった可能性は捨てきれませんから。しかし改めて遺体の写真を見て、小夜さんを通して伝えられた秋平さんの推理が正しいと分かりました。成人女性という発言は自分も含まれるのに、そんな危険な橋を渡りますか?」
「それも一理あるか」
龍は納得した、という反応を示した。彼は続ける。
「泉龍寺真人の遺体、鑑識に詳しく調べてもらった。
その結果、口内から綿の繊維が検出されて、布かタオルで口を塞がれて骨を折られたこと、手首もほぼ同じ時に抑えられていたので抵抗が不可能であり単独犯ではないこと、着用した衣服の手の痕、手袋はしていたので指紋はないが、その大きさから複数人の男女が犯人であることが確定した」
「秋平さんの推理は正しかったと?」
「生憎な」
海里は腕を組んだ。ここまで進展のない事件では、何から取り掛かって良いのかすら分からない。最も要領を得られるであろう小夜に聞いても、はぐらかされことは目に見えていた。
すると、廊下の奥の方で部屋の扉が開く音がして、春菜が2人の元へ走って来た。手には白いパソコンを持っている。
「今、大丈夫ですか?」
「ええ。どうかしましたか?」
「昨日の夜、父の部屋に入って監視カメラの映像を調べてみたんです。そうしたら、こんな映像が」
春菜はそう言いながらパソコンを差し出した。海里が尋ねる。
「こちらは、ご自分の?」
「はい。持ち帰って頂いても結構です。一先ず、映像を見てくれませんか」
春菜は小夜の隣室ーー真人の部屋なので現在は警察の管理下にあり、監視カメラは機能せず防音のみ機能しているーーに2人を通した。整頓された机にパソコンを置き、映像の再生ボタンを押した。場所は大広間、遺体発見現場である。
映像が始まってすぐ、監視カメラの死角から青年が現れた。
「この人が真人義兄さんです。台所に水でも飲みに行くんだと思います」
遺体の写真以外で、真人の顔を見ていなかった海里は、穏やかで優しい印象を持った。柔和な顔立ちは若さを感じる。
そんなことを考えていると、真人が大広間の中央まで来た。しかし、その時、突然監視カメラの映像が消えたーーいや、画面が歪んだのだ。音声は全く聞こえず、人影らしきものが微かに見える程度だった。
そして、曖昧な映像が10秒ほど続いた後、映像は鮮明さを取り戻した。そこには、遺体となった真人の姿だけがある。
「亡くなっていますね。遺体発見現場に来た時と同じ体勢です。しかし、全身の骨を折って絞殺するなどという芸当、この短時間では・・・・」
「不可能だな。春菜さん。この映像、小夜さんたちには?」
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