25 / 237
Case25.魔の館の変死体④
しおりを挟む
「お願いですから手を引いてください! 私たちの手で片付けますから!」
泣きそうな表情で叫ぶ彼女は痛々しかった。恐らく、過去に何度も同じようなことがあり、片付けることなどできなかったのだろう。口に出さずとも、態度で分かった。
しかし、私は退くわけにはいかなかった。東さんも同じ気持ちなのか、いつもと同じ堂々とした声を出す。
「法に背いた人間を、そのままにしておくことはできません。何より、お父君が手段を選ばないのは、警察だけではなくあなたたちに対しても同じはずです。
ですから、これ以上、危険な橋を渡らせることはできません」
顔を歪ませた彼女は項垂れ、やがて頷いた。しかし、その頷き1つさえ、彼女にとっては命をやり取りをしているかのように重いもののように見えた。
ーカイリ『魔の館の変死体』第4章ー
※
「急に呼び出して悪いな。仕事は大丈夫か?」
「はい。何か進展がありましたか?」
春菜に監視カメラの映像を渡された2日後。海里は近所のレストランで龍と落ち合っていた。
海里の言葉に、龍は頷く。
「あの映像、鑑識に回して解析してもらったんだ。その結果が、これだ」
龍はパソコンを開いて海里に画面を見せた。海里は再生ボタンを押し、映像を見始める。
「泉龍寺さんが現れて、広間の中央まで・・・・ここは見ましたね。次は・・えっ?」
海里は目を疑った。真人が広間の中央に来た瞬間、画面の端から出てきたのは小夜だったのだ。彼女は真人と何かを話し、共に台所へ向かっていた。
そして、その直後、真人の遺体が映った。
「どういうことですか? 小夜さんと台所に行って、すぐに遺体? なぜ殺害過程が抜け落ちたままなんです?」
「恐らく、まだ解析が足りないんだ。犯人は殺害過程を徹底的に隠した。当然鑑識に更なる解析を頼んだが、今のところ進展はない」
「つまり、犯人はプロさえ上回るほど機械の扱いに長けていると?」
龍は頷いた。海里は静かにパソコンを閉じる。少しの間目を瞑り、やがて何かを決意したように顔を上げる。開かれた青空のような瞳は、日の光に照らされて透き通っていた。
「天宮家に行きましょう。この映像と合わせて、和豊さんが経営されている会社のこと、ご家族全員が機械類の扱いに長けているのか、そうだとしたらどれほどなのか・・・・多くを聞かなければ」
「そうだな。あと、昨日天宮小夜に電話したら、彼女たち4人は、事件解決まで別宅で過ごすそうだ。自分たちに話があるなら、爆発事件で避難所として使っていたあの館に来てほしいと」
「分かりました。行きましょう」
※
別宅に到着した2人を、例の如く黒田が迎え入れた。
「お嬢様方は裏庭にいらっしゃいます。お取り込み中ですので、終わったらお呼びしますね」
黒田は2人を本宅よりいくらか小さい部屋に通して去って行った。2人は顔を見合わせ、事件の整理を始める。
「被害者は泉龍寺真人、23歳。天宮家長女、天宮小夜の婚約者。
遺体には絞殺と思しき痕跡があったが、天宮家長男・秋平の推理により絞殺ではなく全身の骨を折られて殺害されたと判明した」
「泉龍寺真人さんと小夜さんを含む天宮家の子供たちとの仲は良好ですが、両親・叔父との関係は悪かった。子供たちも3人を嫌っており、深い確執がある。原因は不明」
「泉龍寺真人は優しく、誰にでも平等に接する人間だった。これは遺族や友人関係を当たって分かったことだ。
そして当然、不正などの悪事を嫌っていて、その件で何度も当主の和豊と衝突していた。殺害の動機はそこら中にある」
「春菜さんを通じて遺体発見現場の監視カメラ映像が入手できましたが、殺害の瞬間は切れたか、消されたか、以前として不明。更なる解析が必要です」
大まかな事項を確認しながら、2人は何度も例の映像を見ていた。どこをどう見ても、不自然であることに変わりはない。小夜と姿を消した直後、首と手足にロープを巻かれ、体が変な方向にねじ曲がった真人が現れる。しかし同時に、映像の不自然さを解明する隙も見当たらなかった。
海里は何度か映像を見た後、口を開いた。
「もう1つ不思議なことがありますね。この映像の時点で、彼の体を縛っているのはロープです。ですが、私たちが現場に到着した時には、糸になっていた。
犯人は、わざわざロープと糸を取り替えるという手間をかけた。殺害後、もう1度現場に来たことになります」
「考えられる可能性としては、ロープに指紋が付いていた、とかだな。それに気がついた犯人が取り替えた」
2人が議論を続けていると、部屋の扉が開いて4人が入って来た。全員が真っ白な着物と黒い袴を装着し、足袋を履いている。小夜と春菜は長い髪を括り、額には汗が滲んでいた。
「お待たせしてすみません。捜査に進展が?」
「多少は。ところでその格好、弓道ですか?」
海里の質問に小夜が頷いた。タオルで汗を拭いながら、彼女は言う。
「はい。母が幼い頃から指導してくれて、今は気分転換として時々やっています」
小夜は苦笑した。4人が椅子に腰掛けると、龍は例の映像を見せる。もちろん、遺体が映っているので遠目にではあるが。
「なるほど。確かに不自然ですね」
「ええ。しかし小夜さん。あなたはこの時間は既に就寝していると仰いましたよね? どうしてここに映っているんですか?」
映像を見返した小夜は、海里の言葉にふふっと笑った。
「ああ・・・・違いますよ、探偵さん。これ、母です。私に見えるかもしれませんが。顔立ちが私そっくりで年齢を感じさせないので、見間違えるのも無理はないです」
「えっ? しかしどう見ても・・・・」
海里は秋平たちを見た。3人も、映像を見直し、母親の綾美だと主張した。
「なぜ母親の綾美さんが真人さんと?」
「それは分かりません。元々、母は真人との関わりは薄かった。わざわざ夜に話すなんてこと、無いと思いますけど」
犯人かと考えたが、直球すぎると海里は考えを打ち消した。
「そうですか。そう言えば、なぜこちらに? 会社も本宅の方が近いと伺っていますよ?」
海里の質問には秋平が答えた。
「父が邪魔だと言ったんです」
「秋平、やめなさい」
「本当のことだろ?
父は、刑事さんや探偵さんに協力的な俺たちを邪魔に思っているんです。先日、“これ以上奴らに協力するなら頭が冷めるまで別宅にいろ”と追い出されました」
「反対しなかったのですか?」
海里の質問に秋平は首を横に振った。
「無駄なんです。父は自分の意見が通らないと気が済まない。家の中でも外でも、支配者として君臨しています」
「支配者・・・・ですか」
海里は俯いた。小夜たちが別宅にいる以上、自分たちは本宅に入れないだろう。和豊たちは、本当に公にしないつもりなのだと分かった。
だが、2人は決して許さなかった。龍はゆったりと口を開く。
「小夜さん。私たちは明日も本宅に行きます。和豊さんたちに何か聞かれても、私たちの一存で何も知らない、と言ってください」
その言葉を聞いた瞬間、小夜はギョッとして声を上げた。
「そんな・・・・! これ以上踏み込んだら、父は法的手段に出るかもしれません‼︎ 裁判となれば手加減なんてしない・・・・お願いですから手を引いてください! 私たちの手で片付けますから!」
小夜は必死の表情で叫んだ。過去に同じようなことがあり、勝てないと知っているのだろう。しかし、龍は決して首を縦に振らなかった。
「法に背いた可能性のある人間を、そのままにしておくわけにはいきません。何より、和豊さんたちが手段を選ばないのは、私たちだけではなくあなたたちにもでしょう。どんな危険が及ぶか分からないこの状況で、あなた方に解決を任せることはできない」
龍の言葉に4人は顔を歪ませた。小夜はおもむろに立ち上がり、2人に向かってこう言った。
「分かりました。そこまで言うなら、捜査をお願いします。
ただ、本当に気をつけください。警察の方が、天宮家の周辺で起きた事件にここまで深く関わることはなかった。どんな手段を選ぶか、私たちにも予想がつきませんから」
※
「どうして全てを話さなかったの? お姉様。あの人たちは私たちの味方。話しておいて損はないはず」
「そうかしら? 彼らは“全て”を明らかにしたがっている。下手に話したら余計なことまで明るみになるわ」
「しかし小夜様。もし旦那様に知られれば、ただでは済みませんよ。旦那様がお怒りになった結果、何が起こったかはご存知でしょう」
黒田の言葉に小夜は両肩を強く抱き、震えながら、声を絞り出した。
「・・・・分かっているわ。でも、もう後には退けない。私たちが自由になるために、私たちは自分の両親と叔父を罠に嵌めたの。何の問題もなく終わるはずだったけど、真人が死んで、探偵さんと警察が深く関わって来た。こうなった以上、事件を解決してもらうしかないの」
小夜が呟くと、玄関扉を叩く音がした。黒田は彼女たちに一礼し、颯爽と玄関へ向かう。
「どなたです? こんな夜中に・・・・和彦様?」
街灯に照らされる和彦は、怪しい笑みを浮かべていた。
「そんなに驚くな。小夜たちはもう眠ったか?」
「夏弥様以外は、まだ。何か御用でしょうか」
「ああ。兄上に4人の様子を見て来いと言われたんだ」
「お嬢様たちの?」
黒田が顔を顰めると、和彦はズボンのポケットから録音機器を出した。彼が驚く間もなく、和彦はボタンを押す。音声はすぐに聞こえた。
ーー本当にやるのか? 姉さん。失敗したらまずい。
ーー何度も言ったでしょう? やるしかないの。少し計画は狂ったけれど、大丈夫よ。あの2人が、東堂龍警部と探偵さんが、必ず事件を解決してくれる。そうなれば、私たちは晴れて自由の身よ。
ーー・・・・そうだな。分かったよ、姉さん。
黒田の顔が青ざめた。和彦は不敵に微笑む。
「夏弥以外は起きていると言ったな? 会わせてくれないか? この音声について、色々聞きたいことがある」
「しかし・・・・」
反論しかけた黒田の言葉を遮るように、和彦は声を上げた。
「これは私の意志ではない。兄上の“命令”だ。執事ごときのお前が、兄上に逆らっていいとでも?」
※
「龍。今から天宮家の別宅に行ってくれ」
突然の浩史からの提案に、龍は目を丸くした。
「今から? 何か捜査に進展でも?」
「いや。執事の黒田と名乗る男から電話があったんだ。叔父の和彦が訪ねて来たらしい。意味は分かるな?」
龍は頷き、弾かれるように警視庁を飛び出した。
泣きそうな表情で叫ぶ彼女は痛々しかった。恐らく、過去に何度も同じようなことがあり、片付けることなどできなかったのだろう。口に出さずとも、態度で分かった。
しかし、私は退くわけにはいかなかった。東さんも同じ気持ちなのか、いつもと同じ堂々とした声を出す。
「法に背いた人間を、そのままにしておくことはできません。何より、お父君が手段を選ばないのは、警察だけではなくあなたたちに対しても同じはずです。
ですから、これ以上、危険な橋を渡らせることはできません」
顔を歪ませた彼女は項垂れ、やがて頷いた。しかし、その頷き1つさえ、彼女にとっては命をやり取りをしているかのように重いもののように見えた。
ーカイリ『魔の館の変死体』第4章ー
※
「急に呼び出して悪いな。仕事は大丈夫か?」
「はい。何か進展がありましたか?」
春菜に監視カメラの映像を渡された2日後。海里は近所のレストランで龍と落ち合っていた。
海里の言葉に、龍は頷く。
「あの映像、鑑識に回して解析してもらったんだ。その結果が、これだ」
龍はパソコンを開いて海里に画面を見せた。海里は再生ボタンを押し、映像を見始める。
「泉龍寺さんが現れて、広間の中央まで・・・・ここは見ましたね。次は・・えっ?」
海里は目を疑った。真人が広間の中央に来た瞬間、画面の端から出てきたのは小夜だったのだ。彼女は真人と何かを話し、共に台所へ向かっていた。
そして、その直後、真人の遺体が映った。
「どういうことですか? 小夜さんと台所に行って、すぐに遺体? なぜ殺害過程が抜け落ちたままなんです?」
「恐らく、まだ解析が足りないんだ。犯人は殺害過程を徹底的に隠した。当然鑑識に更なる解析を頼んだが、今のところ進展はない」
「つまり、犯人はプロさえ上回るほど機械の扱いに長けていると?」
龍は頷いた。海里は静かにパソコンを閉じる。少しの間目を瞑り、やがて何かを決意したように顔を上げる。開かれた青空のような瞳は、日の光に照らされて透き通っていた。
「天宮家に行きましょう。この映像と合わせて、和豊さんが経営されている会社のこと、ご家族全員が機械類の扱いに長けているのか、そうだとしたらどれほどなのか・・・・多くを聞かなければ」
「そうだな。あと、昨日天宮小夜に電話したら、彼女たち4人は、事件解決まで別宅で過ごすそうだ。自分たちに話があるなら、爆発事件で避難所として使っていたあの館に来てほしいと」
「分かりました。行きましょう」
※
別宅に到着した2人を、例の如く黒田が迎え入れた。
「お嬢様方は裏庭にいらっしゃいます。お取り込み中ですので、終わったらお呼びしますね」
黒田は2人を本宅よりいくらか小さい部屋に通して去って行った。2人は顔を見合わせ、事件の整理を始める。
「被害者は泉龍寺真人、23歳。天宮家長女、天宮小夜の婚約者。
遺体には絞殺と思しき痕跡があったが、天宮家長男・秋平の推理により絞殺ではなく全身の骨を折られて殺害されたと判明した」
「泉龍寺真人さんと小夜さんを含む天宮家の子供たちとの仲は良好ですが、両親・叔父との関係は悪かった。子供たちも3人を嫌っており、深い確執がある。原因は不明」
「泉龍寺真人は優しく、誰にでも平等に接する人間だった。これは遺族や友人関係を当たって分かったことだ。
そして当然、不正などの悪事を嫌っていて、その件で何度も当主の和豊と衝突していた。殺害の動機はそこら中にある」
「春菜さんを通じて遺体発見現場の監視カメラ映像が入手できましたが、殺害の瞬間は切れたか、消されたか、以前として不明。更なる解析が必要です」
大まかな事項を確認しながら、2人は何度も例の映像を見ていた。どこをどう見ても、不自然であることに変わりはない。小夜と姿を消した直後、首と手足にロープを巻かれ、体が変な方向にねじ曲がった真人が現れる。しかし同時に、映像の不自然さを解明する隙も見当たらなかった。
海里は何度か映像を見た後、口を開いた。
「もう1つ不思議なことがありますね。この映像の時点で、彼の体を縛っているのはロープです。ですが、私たちが現場に到着した時には、糸になっていた。
犯人は、わざわざロープと糸を取り替えるという手間をかけた。殺害後、もう1度現場に来たことになります」
「考えられる可能性としては、ロープに指紋が付いていた、とかだな。それに気がついた犯人が取り替えた」
2人が議論を続けていると、部屋の扉が開いて4人が入って来た。全員が真っ白な着物と黒い袴を装着し、足袋を履いている。小夜と春菜は長い髪を括り、額には汗が滲んでいた。
「お待たせしてすみません。捜査に進展が?」
「多少は。ところでその格好、弓道ですか?」
海里の質問に小夜が頷いた。タオルで汗を拭いながら、彼女は言う。
「はい。母が幼い頃から指導してくれて、今は気分転換として時々やっています」
小夜は苦笑した。4人が椅子に腰掛けると、龍は例の映像を見せる。もちろん、遺体が映っているので遠目にではあるが。
「なるほど。確かに不自然ですね」
「ええ。しかし小夜さん。あなたはこの時間は既に就寝していると仰いましたよね? どうしてここに映っているんですか?」
映像を見返した小夜は、海里の言葉にふふっと笑った。
「ああ・・・・違いますよ、探偵さん。これ、母です。私に見えるかもしれませんが。顔立ちが私そっくりで年齢を感じさせないので、見間違えるのも無理はないです」
「えっ? しかしどう見ても・・・・」
海里は秋平たちを見た。3人も、映像を見直し、母親の綾美だと主張した。
「なぜ母親の綾美さんが真人さんと?」
「それは分かりません。元々、母は真人との関わりは薄かった。わざわざ夜に話すなんてこと、無いと思いますけど」
犯人かと考えたが、直球すぎると海里は考えを打ち消した。
「そうですか。そう言えば、なぜこちらに? 会社も本宅の方が近いと伺っていますよ?」
海里の質問には秋平が答えた。
「父が邪魔だと言ったんです」
「秋平、やめなさい」
「本当のことだろ?
父は、刑事さんや探偵さんに協力的な俺たちを邪魔に思っているんです。先日、“これ以上奴らに協力するなら頭が冷めるまで別宅にいろ”と追い出されました」
「反対しなかったのですか?」
海里の質問に秋平は首を横に振った。
「無駄なんです。父は自分の意見が通らないと気が済まない。家の中でも外でも、支配者として君臨しています」
「支配者・・・・ですか」
海里は俯いた。小夜たちが別宅にいる以上、自分たちは本宅に入れないだろう。和豊たちは、本当に公にしないつもりなのだと分かった。
だが、2人は決して許さなかった。龍はゆったりと口を開く。
「小夜さん。私たちは明日も本宅に行きます。和豊さんたちに何か聞かれても、私たちの一存で何も知らない、と言ってください」
その言葉を聞いた瞬間、小夜はギョッとして声を上げた。
「そんな・・・・! これ以上踏み込んだら、父は法的手段に出るかもしれません‼︎ 裁判となれば手加減なんてしない・・・・お願いですから手を引いてください! 私たちの手で片付けますから!」
小夜は必死の表情で叫んだ。過去に同じようなことがあり、勝てないと知っているのだろう。しかし、龍は決して首を縦に振らなかった。
「法に背いた可能性のある人間を、そのままにしておくわけにはいきません。何より、和豊さんたちが手段を選ばないのは、私たちだけではなくあなたたちにもでしょう。どんな危険が及ぶか分からないこの状況で、あなた方に解決を任せることはできない」
龍の言葉に4人は顔を歪ませた。小夜はおもむろに立ち上がり、2人に向かってこう言った。
「分かりました。そこまで言うなら、捜査をお願いします。
ただ、本当に気をつけください。警察の方が、天宮家の周辺で起きた事件にここまで深く関わることはなかった。どんな手段を選ぶか、私たちにも予想がつきませんから」
※
「どうして全てを話さなかったの? お姉様。あの人たちは私たちの味方。話しておいて損はないはず」
「そうかしら? 彼らは“全て”を明らかにしたがっている。下手に話したら余計なことまで明るみになるわ」
「しかし小夜様。もし旦那様に知られれば、ただでは済みませんよ。旦那様がお怒りになった結果、何が起こったかはご存知でしょう」
黒田の言葉に小夜は両肩を強く抱き、震えながら、声を絞り出した。
「・・・・分かっているわ。でも、もう後には退けない。私たちが自由になるために、私たちは自分の両親と叔父を罠に嵌めたの。何の問題もなく終わるはずだったけど、真人が死んで、探偵さんと警察が深く関わって来た。こうなった以上、事件を解決してもらうしかないの」
小夜が呟くと、玄関扉を叩く音がした。黒田は彼女たちに一礼し、颯爽と玄関へ向かう。
「どなたです? こんな夜中に・・・・和彦様?」
街灯に照らされる和彦は、怪しい笑みを浮かべていた。
「そんなに驚くな。小夜たちはもう眠ったか?」
「夏弥様以外は、まだ。何か御用でしょうか」
「ああ。兄上に4人の様子を見て来いと言われたんだ」
「お嬢様たちの?」
黒田が顔を顰めると、和彦はズボンのポケットから録音機器を出した。彼が驚く間もなく、和彦はボタンを押す。音声はすぐに聞こえた。
ーー本当にやるのか? 姉さん。失敗したらまずい。
ーー何度も言ったでしょう? やるしかないの。少し計画は狂ったけれど、大丈夫よ。あの2人が、東堂龍警部と探偵さんが、必ず事件を解決してくれる。そうなれば、私たちは晴れて自由の身よ。
ーー・・・・そうだな。分かったよ、姉さん。
黒田の顔が青ざめた。和彦は不敵に微笑む。
「夏弥以外は起きていると言ったな? 会わせてくれないか? この音声について、色々聞きたいことがある」
「しかし・・・・」
反論しかけた黒田の言葉を遮るように、和彦は声を上げた。
「これは私の意志ではない。兄上の“命令”だ。執事ごときのお前が、兄上に逆らっていいとでも?」
※
「龍。今から天宮家の別宅に行ってくれ」
突然の浩史からの提案に、龍は目を丸くした。
「今から? 何か捜査に進展でも?」
「いや。執事の黒田と名乗る男から電話があったんだ。叔父の和彦が訪ねて来たらしい。意味は分かるな?」
龍は頷き、弾かれるように警視庁を飛び出した。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)
MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。
しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。
母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。
その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。
純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。
交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。
日本国破産?そんなことはない、財政拡大・ICTを駆使して再生プロジェクトだ!
黄昏人
SF
日本国政府の借金は1010兆円あり、GDP550兆円の約2倍でやばいと言いますね。でも所有している金融性の資産(固定資産控除)を除くとその借金は560兆円です。また、日本国の子会社である日銀が460兆円の国債、すなわち日本政府の借金を背負っています。まあ、言ってみれば奥さんに借りているようなもので、その国債の利子は結局日本政府に返ってきます。え、それなら別にやばくないじゃん、と思うでしょう。
でもやっぱりやばいのよね。政府の予算(2018年度)では98兆円の予算のうち収入は64兆円たらずで、34兆円がまた借金なのです。だから、今はあまりやばくないけど、このままいけばドボンになると思うな。
この物語は、このドツボに嵌まったような日本の財政をどうするか、中身のない頭で考えてみたものです。だから、異世界も超能力も出てきませんし、超天才も出現しません。でも、大変にボジティブなものにするつもりですので、楽しんで頂ければ幸いです。
コーヒーとCEOの秘密🔥他
シナモン
恋愛
§ コーヒーとCEOの秘密 (完)
『今日もコーヒー飲んでなーい!』意思疎通の取れない新会長に秘書室は大わらわ。補佐役の赤石は真っ向勝負、負けてない。さっさと逃げ出すべく策を練る。氷のように冷たい仮面の下の、彼の本心とは。氷のCEOと熱い秘書。ラブロマンスになり損ねた話。
§ 瀬尾くんの秘密 (完)
瀬尾くんはイケメンで癒しの存在とも言われている。しかし、彼にはある秘密があった。
§ 緑川、人類の運命を背負う (完)
会長の友人緑川純大は、自称発明家。こっそり完成したマシンで早速タイムトラベルを試みる。
理論上は1日で戻ってくるはずだったが…。
会長シリーズ、あまり出番のない方々の話です。出番がないけどどこかにつながってたりします。それぞれ主人公、視点が変わります。順不同でお読みいただいても大丈夫です。
タイトル変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる