小説探偵

夕凪ヨウ

文字の大きさ
45 / 237

Case45.本当の悪①

しおりを挟む
「死ぬ? どういうことか説明してくれる?」
 玲央は平坦な口調で尋ねたが、少年は声を絞り出すように叫ぶ。
「説明なんて暇は・・・!」
「文句言わないで。説明なしに現場に行って、下手な死に方はしたくない。一応の事情は聞く必要がある。手短に」
 早口に諌めた玲央の言葉を聞いた後、少年はゆっくりと口を開いた。声が震えている。
「昔、俺たちの父さんが事故で死んだんだ。母さんはすごく悲しんで、必死に働いていたんだ・・・・でもある日、母さんは“あいつ”に出会ったんだ」
「あいつ?」
「俺たちの今の父親」
 その言葉で玲央は何となく事情を察した。ここまで来れば、選択肢は絞られてくる。
「あいつは初め、母さんに一目惚れしたんだ。でも、母さんは父さんが好きだったから、無視し続けて・・・・でも、ずっとそれを続けていたら、仕事場を特定して、母さんに迫るようになった」
「典型的なストーカーだね。それで?」
「母さんはやめと欲しいって言って、職場の人たちも母さんの味方をしてくれたんだ。でも、あいつは力が強くて、短気で・・・・職場の人たちがいないところで、母さんを殴って、住所まで特定して、うちに・・・!」
「・・・・大方検討がつくから、それ以上話さなくてもいいよ」
 玲央は少年の心身に負担がかかると思ったのか、そう言った。しかし、少年は引かない。
「ここからが重要なんだ! あいつは、暴力を振るっただけじゃない!」
 少年は怒鳴った。玲央は黙る。
「母さんが仕事に行ってる間、あいつはずっと家でくつろいでいた。俺たちは学校に行ってたけど、ある日家に帰ったらあいつ、煙草吸ってて・・・・でも、何か煙草にしたら変だと思ってたら、母さんが真っ青な顔で・・・・・」
「麻薬だね」
 玲央の結論に、少年は驚いていた。
「君の妹は暴力を振るわれ、麻薬を吸わされた・・・・そんなところでしょ? そして、恐らく君の母親もだ。君は暴力は振われるけど、学校には行っている。行かなければ怪しまれるから・・・浅知恵だが、他人の目を欺いているよ」
 玲央はそれだけ言うと、転がした銃を拾って仕舞い、少年を起こした。
「名前は?」
崎村哲也さきむらてつや。妹は沙彩さあや、母さんは沙里さり。」
「そう。じゃあ哲也君、家に案内して。本来なら本庁に君を連れて行った方がいいんだろうけど、時間がない」
「・・・・助けてくれるの?」
 哲也の涙を含んだ声に玲央は優しい笑顔を浮かべて頷いた。
「それが俺の仕事だよ。さあ、早く」
「うん・・・‼︎」
                    
            ※

「玲央さん遅くない? お墓参り、そんなに時間かかるっけ?」
「長い時もあるだろ。ん・・・?」
 玲央からの電話だった。龍は苛立ちながら通話ボタンを押す。
「どこで何やってるんだよ。こっちは待ちくたびれてるんだぞ」
『ごめん。ちょっと会議に参加できなくなった』
「は?」
『事情は手短に話す。何だったら君が来てくれ。
 さっき、お墓で出会った男の子から相談を受けたんだけどーー』
 事情を聞いた龍は眉を動かした。
「その男の名前は?」
津雲浩彦つくもひろひこって言うらしいけど』
「・・・・聞いたことがあるな。薬物の売人じゃなく、暴力の方で。確か、気に入った女をストーカーして、個人情報を特定・・・暴力を振るった挙句、自分の“所有物”にするって話だ。恐らく、その過程が薬物なんだろう」
『なるほどね。情報ありがとう。また後で』
 それは遠回しに“来い”と言われているのと同義だった。龍は溜息をつき、スマートフォンを仕舞う。
「すみません。抜けます」
「ああ。事情は大体分かった。刑事を何人か派遣するが、気をつけろよ」
「はい」
 龍は返事をするなり駆け出した。浩史と美希子はその様子を見て笑う。本当に兄を心配しているのだと分かるからだ。
「素直じゃないね、あの2人」
「不器用なんだろう。そのうち、きっと戻るさ」
                     
            ※

「あれが哲也君の家かい? 随分立派だね」
「軽口言ってる場合かよ!」
「静かに。・・・・隠れて」
 玲央は哲也の家を見て顔を顰めた。玄関の扉が開いており、人の声がしない。窓ガラスが割れ、カーテンも裂けている。
「ここで待ってて。俺が戻ってくるまで、絶対に出てきちゃダメだよ」
 哲也が頷くのを見ると、玲央はゆっくりと彼の家へ歩き出した。銃を出し、物陰に隠れながら近づいていく。玄関扉の側の壁に体をつけ、そっと中の様子を伺った。
「・・・これは酷いな・・・・」
 家の中は酷い有様だった。棚は倒れ、壁は傷つけられ、至る所に血痕がある。奥に進むと、銃弾の跡もあった。
「一体、何が・・・・」
「哲也・・・?」
 か細い声がして視線を動かすと、ソファーの上に1人の女性が倒れていた。玲央はそっと駆け寄る。
「崎村沙里さんですか? 私は警視庁の者です。娘さんはどちらに?」
「娘・・・。沙彩・・! 沙彩が拐われたんです!」
 その言葉を聞いた瞬間、玲央は哲也の話と随分違うと感じた。義父が麻薬を吸い始め、娘にすら害が及んでいるのだから、母親もすっかり侵されていると思っていたのだ。
 しかし、正常でいてくれる方が話も聞きやすいのは確かだった。
「拐われた? どこに?」
「分かりません・・・でも、あの人が“仲間”と一緒に連れて行って・・!」
 沙里は荒い息を吐きながらそう言った。玲央はゆっくりと頷く。
「・・・・外に哲也君がいます。彼と共に警視庁に向かってください。娘さんは必ず見つけ出しますので」
 それだけ言い残すと、玲央は家の外に飛び出し、哲也に同じことを伝えてから、スマートフォンを取り出した。
「江本君」
『玲央さん? さっきの話・・・・』
「それはまた今度にしてくれ。ちょっと問題発生中なんだ」
 玲央が手短に事情を話すと、電話の向こうで海里が息を吐くのが聞こえた。
『薬物の売人・・・つまり、ヤクザなどの暴力団が潜む場所は、都内で限られますよね。血痕は乾いていますか?』
「いや、まだ新しい。微かに車のガスが臭うし、猛烈な煙草臭が家の中に残っていたよ」
『それは都合がいいですね。犯人はそう遠くには逃げていません。丁度刑事さんたちがここにも来られたので、彼らが上げた場所と私が予想した場所の候補をいくつか挙げますから、端から当たって見てください。恐らく当たります』
「恩に着るよ」
『これも人助けですから』
 電話を終えると、玲央は海里に言われた場所を頭の中で整理した。走り出そうとした瞬間、横に車が止まる。
「走って行く気かよ。歳なんだからやめとけ」
「本当に来てくれたんだ」
「一方的に電話したのはお前だろ」
 龍の額には、微かに汗が光っていた。この肌寒い時期に、汗を掻くなど普通はあまりない。玲央が笑うと、龍は眉を顰める。
「何だよ」
「・・・・いや、何でも。行こう」
 玲央が車に乗ると、龍はすぐにアクセルを踏んだ。現場に向かう間、2人は一言も会話を交わさなかった。


 しかし・・・妙だな。義理の父親は母親である沙里さんに執着していたんじゃないのか? なぜ沙彩さんだけを攫った? 第一、哲也君の話と比べると、随分状況が違う。俺が足音を立てないように家の中に入ったのに、わずかな音で目覚めた・・・?
「どうした?」
 龍に尋ねられ、玲央は状況を整理しつつ言った。
「・・・・少し急ごう。俺の予想が当たっていれば手遅れになるかもしれない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...