小説探偵

夕凪ヨウ

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Case46.本当の悪②

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「待てよ・・だったら・・・!」
 刹那、玲央は全てを理解した。これが罠だと言うことを。
「龍! 戻ってくれ!」
「はあ? 行くんじゃないのかよ」
「そうだけど、ダメだ! 事情は後で話すから、今すぐ戻ってくれ!」
 龍はただならぬ兄の顔を見て、急いで引き返した。哲也の家に着いて車を止めた途端、玲央はすぐさま外へ飛び出す。
「・・・やられた・・・・やっぱり罠だったのか・・・」
 哲也がいた場所には、微かな血痕と争った後が残っていた。龍は車を出て現場を一瞥し、全てを理解した。
 弟の理解を目にするなり、玲央は溜息混じりに口を開いた。
「仕方ない。片っ端から当たろう」
                    
            ※

「この事件が終わったら話がしたい」
 哲也たちの行方を探している時、突然龍がそう言った。
「話?」
「ああ」
 そこで言葉が切れた。玲央は窓の外を見ながら、哲也たちが向かったと思わしき建物へのルートを頭の中で反芻する。龍は淡々と言葉を続けた。
「お前が勘違いしてるみたいだから、はっきりさせておこうと思ったんだよ」
「勘違い? 3年前のことなら、もう・・・・」
「着いたぞ」
 言葉を断ち切るように龍がそう言うと、玲央はシートベルトを外して外に出た。目の前には、海里が伝えた建物のうちの1つが建っている。薄汚れ、煙草やガスの匂いが充満していた。
「人の気配はしないね。巧妙に隠れている場合もあるから、取り敢えず中に入ろう」
 玲央は扉に近づき、ゆっくりと開いた。中は明かりもなく真っ暗で、人の話し声は聞こえない。
「ここじゃないのかな?」
「・・・そうとも限らないみたいだ」
 龍が指し示したのは、床に飛び散った新しい血痕と子供の靴だった。まだ汚れが新しく、よく見ると、その周りにも多くの足跡がある。玲央は納得したように頷いた。
「地下室があるのかも。急ごう」
 2人は駆け足で中に入り、建物内を見渡した。すると、よく見なければ分からないが、奥に1つだけエレベーターがあった。玲央はそれに気が付き、龍を手招きする。
 龍が手を伸ばして上下ボタンを押すと、重い音がしてエレベーターが上昇してきた。玲央は外から建物を見た時、上階の窓にはカーテンも何もなかったことを思い出す。
「地下だな」
 短い言葉に玲央は頷いた。
「ああ、行こう」
 エレベーターに乗り込み、B1と記されたボタンを押した。音もなく扉が閉まり、エレベーターが階下へ移動する。
「早い到着だな」
 扉が開いた瞬間、凄まじい照明が広い部屋を照らした。2人は思わず目を瞑り、微かに聞こえる人の声を辿る。そこには複数の男女と、哲也たち3人の姿があった。3人は全員気絶し、縄で拘束されている。
「君が哲也君の義理の父親・津雲浩彦だね。話に聞いた通り、ろくな人間じゃないことは分かったよ」
「口の減らねえサツだな」
 津雲は、平均身長よりも長身な龍と玲央より大柄で、色黒の男だった。警察である2人の前で堂々と麻薬を吸い、古ぼけた椅子に座っていた。
「まあいいや。こうして会えたんだし、君に聞きたいことがある。話に聞くより頭は正常みたいだから、受け答えくらいできるだろ?」
 挑発するかのような玲央の口調に、龍は何も言わなかった。津雲は眉一つ動かさず、顎で玲央に続きを促した。玲央は笑い、
「ありがとう。じゃあ質問。?」
 津雲の動きが止まった。玲央は続ける。
「君たちは薬物の売人じゃない。誰かから薬物を買い、それを自分たちで使っているだけだ。当然それだけで罪にもなるし、暴行・虐待の件も君は罪に問えるだろう。どちらも許されることじゃない」
 突然始まった探偵のような推理口調に、津雲たちは明らかに動揺していた。玲央は気にすることなく「でもね」と続ける。
「それらの犯罪を手引きした人間も、許されるべきじゃないんだよ。罪人は等しく罰せられるべきだ」
「・・・・何が言いたい?」
 津雲が尋ねた。玲央は冷静に言う。
「哲也君の家に行った時から、おかしいと思っていたよ。ただ虐待するしか脳のない男なら、わざわざ2人を拐う意味はない。それなのに、君たちお仲間の女性に母親のフリをさせてまで、俺たちを騙してここに来させた。
 正直、薬物を使用している君たちの知恵とはとても思えない。だから、黒幕がいないと話が成り立たないんだよね」
 玲央は言い終わると、ゆっくりと拳銃を出した。銃口は津雲に向いている。
「警察官に人を殺す権限はない。ただ、真実を明らかにする権限はある。君たちの断罪と証言によって、救われる命があるなら救わなきゃならない」
 津雲の周りにいた男女が一斉に立ち上がり、武器を構えた。しかし、玲央は決して動じない。彼は自分のスマートフォンを出し、津雲たちに画面を見せた。画面には、江本海里の4文字がある。
『初めまして、津雲浩彦さん』
「江本? おい玲央、どういうことだ?」
「聞けば分かるよ」
 玲央は笑った。龍は意味が分からず、スマートフォンに視線を移す。
『あなたのことはお2人の部下が調べてくださいました。暴行、恐喝、薬物・・・溢れるほど余罪が出てきました。もちろん、あなたの仲間の方々も』
「てめえ・・・サツか?」
『いいえ、私はただの小説家です。そちらにいらっしゃるお2人と多少縁があるので、頼みを聞いてあなた方のことを調べたまで。
 ちなみに・・・玲央さんの仰った“黒幕”も、大方目星がつきました』
 海里の声は落ち着いていた。彼の会話から察するに、玲央はずっとスマートフォンで通話画面を開き、スピーカーにしていたのだと分かる。
 全てを見通すかのように澄んだ海里の声は、すぐさま結論を発した。
早乙女佑月さおとめゆづき。かつて、暴力団の組員として名を馳せた方らしいですね。現在、暴力団は解散し、彼も引退・・・・歳は50に近いと聞いています。薬物売買を含む多くの犯罪に手を染め、警察の一部では本格的な調査が行われている。
 あなた方が薬物を買ったのは、この方からでしょう? どこにいるのかご存知ならば、教えて頂けませんか? 真実か否か、調べますので』
 優しい声に圧があった。津雲たちは息を呑む。
「・・・・知らない・・・知らねえよ! 早乙女の居場所は知らない‼︎ あいつはっ・・急に現れて、売って、消えて行った! どこに行ったかなんて、知らねえよ!」
『・・・・居場所は知らないが、早乙女佑月という男と接触はあると。つまり、彼の姿は見ているのですね? 特徴の1つや2つ教えてくれませんか?』
 海里は徐々に強い口調になっていた。玲央が言葉を継ぐ。
「自分たちで調べても情報には穴があるんだ。君たちの口から聞いた方が、確実で調べやすい。さあ、早く」
 その時だった。背後で物音がし、龍がゆっくりと振り向いて言った。
「玲央、到着したぞ。」
「ああ・・・良いタイミングだね」
 2人の背後には捜査一課の刑事たちが揃っていた。海里は、玲央から情報を得た直後、浩史に連絡をし、場所を伝達していたのだ。
 玲央は拳銃を仕舞い、津雲たちに向き直った。
「君たちの罪は、裁き切れないほど出てくるだろうね。まあ、丁度良い。刑務所で頭を冷やして、自分の行いを恥じればいいよ。それが、多くの人間を苦しめて来た君たちへの罰なんだから」
 玲央は笑って龍を見た。彼は頷き、手錠を取り出す。
「津雲浩彦。薬物所持・使用及び、暴行罪・恐喝罪、諸々の容疑で逮捕だ」
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