小説探偵

夕凪ヨウ

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Case128.瓜二つの容疑者①

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「久々の我が家は落ち着きますね」
 マスコミ騒ぎがあった1週間後、海里は自分の家に帰っていた。荷物を片付け、一息ついた彼は自室のベッドに横たわる。
 マスコミの間でもてはやされている話がデマであれば苦労はしない・・・・真実であるだけに、小夜さんにとっては重苦しいものになっている。しかし、誰が何のために? 小夜さんが警察に開示した情報にも、その事は一切無かったと東堂さんも言っていた。当然のことだ。それなのに、その情報が出回っている・・・・まるで、彼女の動きを封じ込めるために行動しているみたいだ。
 そんなことを考えている時、海里のスマートフォンが鳴った。龍からである。
『今、来れるか? まだマスコミに追われるなら、無理して来て欲しいとは言わないが・・・・』
「いえ、行きます。今は大丈夫そうですし。どこですか?」
『アサヒの家の近所だ。住所はーー』
「分かりました。すぐに行きます」
                    
            ※

「やあ、江本君。すっきりした顔をしてるね。その後、特に問題はなし?」
「はい。小夜さんはどうですか?」
「まだ全然。彼女の家の前を通ったけど、ずっとマスコミがたむろしていた。まあ、居場所が割れてないだけでも万々歳かな」
 玲央は苦笑し、海里を手招きする。
 事件現場はアサヒの家から1kmも離れていない家だった。彼女の家に負けず劣らずの豪邸で、中世の外国の城を彷彿とさせる門構えである。白い煉瓦で作られた壁は輝いており、庭には花畑や噴水が見えた。
「この辺りは豪邸ばかりですね」
「そういう場所なんだよね。政治家とか、会社経営者とか・・・・都内の富裕層の多くは、この辺りに住んでいるらしい」
「そうなんですね。そういえば、天宮家は、ここから遠いですけど、この辺りでしたもんね」
「ああ。年がら年中、高級車の通るところだよ」
 家の中に入ると、写真を撮ったり指紋を採取したりしている鑑識と、住人と話をしている龍の姿があった。
「東堂さん。お疲れ様です」
「昼間から悪いな。こちらが、被害者の妻・立原風子たちはらふうこさんだ」
「初めまして。カイリと申します」
 立原風子は遠慮がちに頭を下げた。その時、隣にいた玲央の息を飲む音が聞こえた。海里は思わず目を丸くして彼に視線を移したが、玲央は誤魔化すように笑った。
「あ・・・・いや、何でもないよ。よろしくお願いします、立原さん。話は弟から聞きますので、あちらで休まれてください」
「ありがとうございます・・・・」
 立原が奥の部屋に行くと、玲央は龍の方を振り向いた。
「事件の概要は聞けた?」
「ああ。今日の午前8時頃、風子さんは仕事に出かけた。出勤先は本庁近くの公民館だ。ちなみに、被害者の立原おさむさんの父親・誠也せいやさんが会社の社長をしていて、一応そこの社員だが仕事はろくにしていない。」
「なるほど。風子さんはなぜ仕事を?」
「誠也さんからの勧めらしい。修さんと同じ仕事場だと、彼が余計に怠けるかもしれないから、全く違う場所に勤務欲しいと言われたって話だ」
「釈然としない話ですね・・・・。誠也さんにお話は聞けませんか?」
「仮にも社長だからな。風子さんに話したが、無理そうだ」
 海里は考え込む姿勢をとった。漠然とした話にあまり納得がいかないらしい。
「やはり会社に直接行くべきでしょう」
「そんなこと言うだろうと思っていたが、本気か? かなり無茶な話だぞ」
「それは理解していますが、親子間の話が曖昧すぎます。直接本人に聞いた方が早いですよ」
 海里の言葉に2人は眉間を抑えた。納得のいく言葉だが、簡単にいかないこともまた、事実であった。
 その時。
「連絡しましょうか?」
「えっ、アサヒ?」
 他の鑑識と仕事をしていたアサヒは、話が聞こえていたのか、立ち上がりながらそう言った。3人は唖然としている。
「詳しくは言えないけど、多分できるわ。一応、風子さんにお聞きしてくれる?」
「あ・・うん」
 玲央は風子に連絡の許可をもらい、アサヒは部屋を出て、誰かに電話をかけ始めた。話の内容は聞こえないが、親しみを感じる軽い口調が聞こえて来る。
「12時半から30分だけ時間を作れるそうよ。江本さんとあなたたちのどちらかが会社に行く感じでいいんじゃない? はい、住所」
「ありがとうございます」
 龍と玲央はアサヒの人脈を不思議に思ってたが、余計な事は聞かなかった。海里も2人と同じく彼女のことが気になったものの、事件の真実を知ることを優先した。


 そして12時半前になり、海里と龍は会社に向かう準備を始めた。
「じゃあ行って来ます。すぐに戻りますので」
「急がなくてもいいよ。また後でね」
 パトカーで来ないで欲しいと言われたので、仕方なく2人は龍の車に乗って立原誠也が経営する会社へ向かった。会社は高層ビルで、入口で2人を1人の女性が出迎えた。
「東堂龍様と江本海里様ですね。お待ちしておりました。社長秘書の辻眞美つじまみと申します」
 2人は辻麻美の顔を見て目を見開いた。彼女は立原修の妻、風子と瓜二つだったのだ。2人が唖然としていると、彼女は心配そうに2人の顔を覗き込んだ。
「あの・・・・?」
「ああ、すみません。警視庁の東堂です。本日は時間を作って頂き、ありがとうございます」
「いえいえ。中へどうぞ」
 3人は従業員用のエレベーターに乗って、社長室がある最上階へ向かった。長い廊下を進んだ後、最上階の奥にある立派な木製の扉を眞美がノックする。間を開けずに、中から太く威厳のある声が聞こえた。
「わざわざ足を運んで頂き、感謝します。どうぞお二方。おかけください」
 丁寧な口調だったが、気怠げな感情が含まれていた。2人は気にせず続ける。
「息子さん・・・・修さんが亡くなられたことはご存知ですか?」
「風子さんからお聞きしました。確か・・・・刺殺と」
「はい」
 事実の確認を済ませた龍は軽く頷き、海里の方を見た。後は任せるという意味だと取った海里は笑い、誠也に向き直る。
「修さんが亡くなる原因に心当たりはありますか? 怨恨の線などは?」
「あり得ないとは断言できませんね。最も・・・・恨まれるなら私である気がします。息子は亡き妻に似ていますし、間違い殺人の可能性も低い。となると、息子個人への恨み嫉みかと」
「そうですか・・・・。修さんの死亡推定時刻は今朝の10時頃なのですが、その時間どこで何を?」
「ここで仕事をしていました。証人は辻です」
 眞美は軽く頷いた。恐らく、他に出入りした社員も同じことを言うだろうし、膨大な防犯カメラを誤魔化すことは難しいだろう。何にせよ、2人はお互いのアリバイを証明できると言って良かった。
「1つよろしいですか?」
 口を開いたのは龍だった。海里はわずかに目を開く。誠也は落ち着いた口調でどうぞ、と言った。
「風子さんと眞美さん、随分容姿が似ていらっしゃいますよね。ご親戚か何かですか?」
「いえ。赤の他人ですよ。他人の空似というやつですね」
「・・・・なるほど」
 短い事情聴取が終了し、2人は現場に戻った。
「どうだった?」
「親子の仲が悪いわけではないようです。ただ、誠也さんは風子さんをあまり・・・・よく思っていない気がします。彼女のことについて話題を振ったりすると、露骨に顔を曇らせていたので」
「嫁姑ならぬ嫁舅か。そんなのもあるんだね」
 玲央が感心した声を上げると、龍は溜息をついた。
「どんな反応だよ。で、どうする?」
「取り敢えず事件の情報が欲しい。アサヒ、いつものように頼める?」
「ええ。・・・・分からないことが、多いもの」
 そう答えたアサヒと、彼女を見る龍と玲央は、なぜか不安に満ちた表情を浮かべていた。
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