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Case142.小さな手の向かう先①
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その日、海里は新しい話の打ち合わせを終え、家に帰る途中だった。
「真衣も明後日には退院でしたね。帰って掃除でもしますか・・・。」
そんなことを呟いていると、海里の正面から走ってきた少年が、思いっきり海里とぶつかった。当然転びはしなかったが、海里は体制を崩し、背後にいる老人にぶつかりそうになった。
「すみません。こら、前を見ないと危ないですよ?」
「・・・・ご、ごめんなさい。」
少年が走り去ろうとする刹那、海里は少年の腕を掴んだ。はずみで少年の体が宙に浮き、地面に何かがぽとりと落ちる。
「あっ。」
「盗みとは感心しませんね。近くに交番があるんですよ?」
落ちたのは海里の財布だった。海里はゆっくりとそれを拾い、鞄に押し込む。周囲の注目が集まらぬうちに少年の腕を引き、近くの公園に入った。
海里は公園の奥へ足を運び、少年とベンチに並んで座った。
「ごめんなさい!もうしないから、警察には・・・!」
「今回は多めに見ましょう。それで?なぜお金が必要なんですか?必要ないように見えますが。」
少年は、子供服であったものの、ブランド物ばかりを着ていた。少年は軽く息を吐く。
「妹が・・・・ううん、やっぱりいいや。他人に話しても意味ないし、急がなきゃ。」
「・・・・誘拐事件なら警察に連絡した方が賢明ですよ。」
海里の言葉に、少年は目を丸くした。彼は少し優しげな口調で続ける。
「さっきぶつかった時に、ズボンのポケットに地図が見えました。赤丸で囲まれたところは廃屋ですね。子供が1人でそんな場所に行くとは思えませんし、先ほども言った通り、身なりが整っているあなたなら尚更です。
何よりすぐにでもお金が必要であるなら、考えられることとしては誰か・・・この場合は妹さんですね。妹さんが誘拐されて、1人で探していると言ったところでしょうか?」
少年は、少しの間、海里の推理に驚いていたが、やがてはっとし、頷いた。
「警察に連絡しないのは、誘拐犯からの要求か何かですか?」
「ううん。父ちゃんがやらないって言ったんだ。だから俺、1人で妹を探して・・・」
「そうは言っても、子供1人でそんな事をやるなんて危険すぎます。あなた、お名前は?」
海里の穏やかな口調に落ち着いたのか、少年はポツリと呟いた。
「・・・・坂藤快斗。」
「では、快斗さん。ご両親に連絡を取って、警察に連絡するよう言ってください。警察の力無しで、犯人逮捕はできません。」
快斗は頷き、自分の携帯をいじり始めた。見たところ小学生なのに、立派なスマートフォンを持っている。どこかの令息かもしれないと考えながら、海里は快斗を見ていた。
「兄ちゃんに変われって。」
「おや、私のことを話したんですか?」
「一応・・・はい。」
海里は仕方がないと言った様子でスマートフォンを受け取り、耳に当てた。
『突然変わってもらってすまないね。私は坂藤信義。快斗の父だ。』
「どうも。しかし、なぜ私に電話を変われなどと?私は警察ではありませんよ。」
『そうだな。だが、名前は知っているよ。“小説探偵・江本海里”君。』
「なぜ私の名前を?それにそのあだ名・・・・」
『君は気づいていないかもしれないがね、君は自分で思っている以上に有名人なんだよ。特徴的な外見を聞いて、君だと分かった。』
海里は眉を潜めた。やはり、ただの父親ではないだろう。
「・・・・そうですか。ではお聞きしますが、なぜ警察に連絡されないのですか?娘さんが誘拐されたのでしょう?」
『ああ。だが、警察は信用できないんだ。』
「しかしですね・・・・。」
海里は少し迷った後、仕方ないと溜息をついた。
「信頼できる警察官がいます。彼らなら、前向きに事件の調査をしてくれると思いますよ。もっとも、私は部外者ですから、無理に立ち入る気はありませんけれど。」
『確かなのか?』
「はい。」
躊躇わずに答えた海里を信頼したのか、信義は安堵の息を吐いた。
『では、申し訳ないが頼まれてくれるかな?』
「分かりました。住所は息子さんから聞きますので。」
海里は通話を終えてスマートフォンを快斗に返すと、すぐに自分のスマートフォンをいじり始めた。
『江本?何か用か?』
「私事ではないのですが・・・少し事件が発生しまして。協力して頂けませんか?」
※
話を聞き終えた龍は、すぐに向かうと言い、快斗の家に向かった。海里も快斗にに案内され、彼の家へ足を運んだ。
「来て頂いてありがとうございます。快斗の母の坂藤優奈です。どうぞ。」
細身の女性が海里たちを中に迎え入れた。外見から立派な豪邸を見て、玲央はなるほどと呟く。
「坂藤グループ・・・でしたっけ?ご主人は社長さんですか?」
「ええ。そうなんです。」
「誘拐されたのは快斗君の妹さんだと?」
「はい。紗凪と言って・・・今年6歳になったばかりなんです。」
優奈は不安げな顔で居間の扉を開けた。大きな大理石のテーブルの上座に、小太りな男性が座っている。周囲には執事やメイドがおり、海里たちが入ってくるなり頭を下げた。
「警視庁の東堂です。突然押しかけて申し訳ありません。」
「いえ・・・。こちらこそ申し訳ない。快斗の父の坂藤信義と申します。警察には、少々苦い思い出がありまして。」
「構いませんよ。過去に事件のトラウマを持っていたりする方にある傾向ですから。」
龍は笑い、勧められた椅子に腰掛けた。
「では、娘さんが誘拐された時のことを詳しく教えて頂けますか?」
信義は軽く頷き、ゆったりとした口調で話し始めた。
「はい。誘拐されたのは昨日の夕方・・学校帰りです。普段、快斗も紗凪も迎えに行くんですが、昨日は仕事が立て込んでしまって・・・。友人たちと帰るよう言ったんです。」
「つまり、快斗さんと紗凪さんは別々に帰られたということですね?」
海里の質問に、信義は頷いた。海里は難しい顔をし、まだ昼間の光がある外を見る。
「快斗が帰って来たのが16時頃でした。紗凪は友人たちと長く話しますが、17時になっても帰って来ないので、心配になったんです。快斗を通じて紗凪の友人宅に電話をしましたが、“別れたきり知らない”と言われまして・・・・。」
「それで誘拐に思い至ったんですね。犯人から身代金などの要求は?」
「全くありません。と言っても、我が家は個人の携帯しか使わないので、家の電話は放置しています。」
龍はなるほど、と言って続けた。
「どこの家でも普通はそうでしょう。ただ、私たちが見て来た誘拐事件の経験から考えるに、身代金の要求は必ずと言っていいほどあるんです。特に、坂藤さんは会社を経営されているでしょう?そういう金銭目当てで、誘拐・・・というのがよくあるケースなんです。全て当てはまるとは言いませんが。」
龍の言葉に、信義はそうですか、と暗い顔をした。すると、ずっと話を聞いていた玲央が口を開いた。
「捜査員を呼び、正式に捜査を開始しましょう。誘拐されたのが昨日の夕方ですから、それほど時間は経っていない。捜査範囲もそこまで広くならないはずです。構いませんか?」
「・・・・娘が見つかるのなら、お願いします。」
「必ず見つけ出します。」
玲央が強く頷くと、海里はハッとし、快斗に視線を移した。
「快斗さん。先ほど持っていた地図をください。捜査の上で必要になるかもしれません。」
「あ、これ?はい。」
「ありがとうございます。お2人とも、これも参考に・・・。」
捜査を始める海里たち。だが、犯人が既に動き始めていることを、彼らはまだ知らなかった。
「真衣も明後日には退院でしたね。帰って掃除でもしますか・・・。」
そんなことを呟いていると、海里の正面から走ってきた少年が、思いっきり海里とぶつかった。当然転びはしなかったが、海里は体制を崩し、背後にいる老人にぶつかりそうになった。
「すみません。こら、前を見ないと危ないですよ?」
「・・・・ご、ごめんなさい。」
少年が走り去ろうとする刹那、海里は少年の腕を掴んだ。はずみで少年の体が宙に浮き、地面に何かがぽとりと落ちる。
「あっ。」
「盗みとは感心しませんね。近くに交番があるんですよ?」
落ちたのは海里の財布だった。海里はゆっくりとそれを拾い、鞄に押し込む。周囲の注目が集まらぬうちに少年の腕を引き、近くの公園に入った。
海里は公園の奥へ足を運び、少年とベンチに並んで座った。
「ごめんなさい!もうしないから、警察には・・・!」
「今回は多めに見ましょう。それで?なぜお金が必要なんですか?必要ないように見えますが。」
少年は、子供服であったものの、ブランド物ばかりを着ていた。少年は軽く息を吐く。
「妹が・・・・ううん、やっぱりいいや。他人に話しても意味ないし、急がなきゃ。」
「・・・・誘拐事件なら警察に連絡した方が賢明ですよ。」
海里の言葉に、少年は目を丸くした。彼は少し優しげな口調で続ける。
「さっきぶつかった時に、ズボンのポケットに地図が見えました。赤丸で囲まれたところは廃屋ですね。子供が1人でそんな場所に行くとは思えませんし、先ほども言った通り、身なりが整っているあなたなら尚更です。
何よりすぐにでもお金が必要であるなら、考えられることとしては誰か・・・この場合は妹さんですね。妹さんが誘拐されて、1人で探していると言ったところでしょうか?」
少年は、少しの間、海里の推理に驚いていたが、やがてはっとし、頷いた。
「警察に連絡しないのは、誘拐犯からの要求か何かですか?」
「ううん。父ちゃんがやらないって言ったんだ。だから俺、1人で妹を探して・・・」
「そうは言っても、子供1人でそんな事をやるなんて危険すぎます。あなた、お名前は?」
海里の穏やかな口調に落ち着いたのか、少年はポツリと呟いた。
「・・・・坂藤快斗。」
「では、快斗さん。ご両親に連絡を取って、警察に連絡するよう言ってください。警察の力無しで、犯人逮捕はできません。」
快斗は頷き、自分の携帯をいじり始めた。見たところ小学生なのに、立派なスマートフォンを持っている。どこかの令息かもしれないと考えながら、海里は快斗を見ていた。
「兄ちゃんに変われって。」
「おや、私のことを話したんですか?」
「一応・・・はい。」
海里は仕方がないと言った様子でスマートフォンを受け取り、耳に当てた。
『突然変わってもらってすまないね。私は坂藤信義。快斗の父だ。』
「どうも。しかし、なぜ私に電話を変われなどと?私は警察ではありませんよ。」
『そうだな。だが、名前は知っているよ。“小説探偵・江本海里”君。』
「なぜ私の名前を?それにそのあだ名・・・・」
『君は気づいていないかもしれないがね、君は自分で思っている以上に有名人なんだよ。特徴的な外見を聞いて、君だと分かった。』
海里は眉を潜めた。やはり、ただの父親ではないだろう。
「・・・・そうですか。ではお聞きしますが、なぜ警察に連絡されないのですか?娘さんが誘拐されたのでしょう?」
『ああ。だが、警察は信用できないんだ。』
「しかしですね・・・・。」
海里は少し迷った後、仕方ないと溜息をついた。
「信頼できる警察官がいます。彼らなら、前向きに事件の調査をしてくれると思いますよ。もっとも、私は部外者ですから、無理に立ち入る気はありませんけれど。」
『確かなのか?』
「はい。」
躊躇わずに答えた海里を信頼したのか、信義は安堵の息を吐いた。
『では、申し訳ないが頼まれてくれるかな?』
「分かりました。住所は息子さんから聞きますので。」
海里は通話を終えてスマートフォンを快斗に返すと、すぐに自分のスマートフォンをいじり始めた。
『江本?何か用か?』
「私事ではないのですが・・・少し事件が発生しまして。協力して頂けませんか?」
※
話を聞き終えた龍は、すぐに向かうと言い、快斗の家に向かった。海里も快斗にに案内され、彼の家へ足を運んだ。
「来て頂いてありがとうございます。快斗の母の坂藤優奈です。どうぞ。」
細身の女性が海里たちを中に迎え入れた。外見から立派な豪邸を見て、玲央はなるほどと呟く。
「坂藤グループ・・・でしたっけ?ご主人は社長さんですか?」
「ええ。そうなんです。」
「誘拐されたのは快斗君の妹さんだと?」
「はい。紗凪と言って・・・今年6歳になったばかりなんです。」
優奈は不安げな顔で居間の扉を開けた。大きな大理石のテーブルの上座に、小太りな男性が座っている。周囲には執事やメイドがおり、海里たちが入ってくるなり頭を下げた。
「警視庁の東堂です。突然押しかけて申し訳ありません。」
「いえ・・・。こちらこそ申し訳ない。快斗の父の坂藤信義と申します。警察には、少々苦い思い出がありまして。」
「構いませんよ。過去に事件のトラウマを持っていたりする方にある傾向ですから。」
龍は笑い、勧められた椅子に腰掛けた。
「では、娘さんが誘拐された時のことを詳しく教えて頂けますか?」
信義は軽く頷き、ゆったりとした口調で話し始めた。
「はい。誘拐されたのは昨日の夕方・・学校帰りです。普段、快斗も紗凪も迎えに行くんですが、昨日は仕事が立て込んでしまって・・・。友人たちと帰るよう言ったんです。」
「つまり、快斗さんと紗凪さんは別々に帰られたということですね?」
海里の質問に、信義は頷いた。海里は難しい顔をし、まだ昼間の光がある外を見る。
「快斗が帰って来たのが16時頃でした。紗凪は友人たちと長く話しますが、17時になっても帰って来ないので、心配になったんです。快斗を通じて紗凪の友人宅に電話をしましたが、“別れたきり知らない”と言われまして・・・・。」
「それで誘拐に思い至ったんですね。犯人から身代金などの要求は?」
「全くありません。と言っても、我が家は個人の携帯しか使わないので、家の電話は放置しています。」
龍はなるほど、と言って続けた。
「どこの家でも普通はそうでしょう。ただ、私たちが見て来た誘拐事件の経験から考えるに、身代金の要求は必ずと言っていいほどあるんです。特に、坂藤さんは会社を経営されているでしょう?そういう金銭目当てで、誘拐・・・というのがよくあるケースなんです。全て当てはまるとは言いませんが。」
龍の言葉に、信義はそうですか、と暗い顔をした。すると、ずっと話を聞いていた玲央が口を開いた。
「捜査員を呼び、正式に捜査を開始しましょう。誘拐されたのが昨日の夕方ですから、それほど時間は経っていない。捜査範囲もそこまで広くならないはずです。構いませんか?」
「・・・・娘が見つかるのなら、お願いします。」
「必ず見つけ出します。」
玲央が強く頷くと、海里はハッとし、快斗に視線を移した。
「快斗さん。先ほど持っていた地図をください。捜査の上で必要になるかもしれません。」
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