小説探偵

夕凪ヨウ

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Case149.天才科学者の証言②

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「B型だけでも20人以上か・・・。時間かかるな、これは。」
「苦労するね。ところでアサヒは?」

 玲央が鑑識課の人間に尋ねると、1人が口を開いた。

「西園寺さんなら、“用事がある”って先ほど帰られましたよ。お2人が来たらこちらの資料をお見せするよう言われていたので。」
「そっか・・・。」

 顔を曇らせた玲央に、龍が尋ねた。

「何だ、兄貴。気になることでもあるのか?」
「うん・・何て言うか・・・あの2人、アサヒと父親の茂さん、仲が良いようには見えなかったから。」
「成人したらそんなもんじゃないのか?俺たちだって似たようなものだろ。」
「そうなんだけど、龍も感じなかった?あの人の笑顔・・・嘘っぽいんだよ。無理してあの笑顔を作っているように感じる。」

 龍は同意も否定もしなかった。パソコンの画面をスクロールしながら、彼は口を開く。

「仮にそうだとしても他人の家の話だ。簡単に踏み込めない。元々あいつは自分の話をしなかったし、触れて欲しくない部分があるんだろ。」
「まあ、そうだろうけどさ。何か心配なんだよ。彼女、抱え込むことが多いから。君だって知ってるだろ?」

 龍の脳裏に過去が蘇った。彼はポツリと呟く。

「・・・・まあな。」

 沈黙が流れた。玲央は少し明るい声を出す。

「解剖の結果はどうだったの?氷室さんから聞いたんだよね?あの怪我は銃弾?」
「ああ。銃弾と同じ金属片が心臓内部から見つかった。弾は貫通していて、遺体の側に転がってたよ。そこの棚にある。」

 龍は顎で奥にある棚を指し示した。玲央は鑑識課の1人に許可をもらい、棚から引き出しを出す。

「警察の銃弾と同じくらいか。自動式拳銃?」
「多分な。凶器は見つからなかったんだろ?」
「生憎ね。犯人が持ち去ったんだろう。研究所を一応探したけどなかったから、自宅かな。まあ犯人の特定が終わってないから何とも・・・。」
「ここにいらっしゃったんですね。」

 姿を表した海里に、2人はわずかに驚いた。

「江本。わざわざ来なくていいぞ?家に妹いるんだから、早く帰ってやれよ。」
「ありがとうございます。でも明日、調査に行けないので、今日のうちに報告を終えておきたくて。」
「明日何かあるの?」
「ちょっと所用で京都に。」

 海里はそう言いながら聞き込みをしたメモを渡した。玲央は礼を言いながらそれを受け取る。

「うわあ、びっしり。ありがとう。」
「いえいえ。赤丸が付いているのはB型の人です。その他の怪しい人は青丸を付けたので調べてみてください。」
「OK。あ・・そうだ。江本君、西園寺さんと話した?」
「はい。協力できることがあったらしてくださるそうです。研究所の内部は茂さんの方が詳しいですから、案内くらいならお願いできるかもしれませんね。」
「・・・・そうだな。」

 龍の浮かない顔に、海里は首を傾げた。彼は気にしなくていいという風に首を振り、海里は頷いた。

「では、失礼します。何かあったら知らせてください。連絡は受けられるので。」
「ああ。じゃあな。」

            ※

「兄さん、遅い!明日早いって言ったでしょ!」
「すみません。意外に捜査が難航しまして。」
「まあ仕方ないけど・・・。ほどほどにね。また過労で倒れたりしたら許さないから。」

 海里は苦笑した。真衣はテーブルに置いた夕飯を食べるよう言う。 

「京都に行くのは4年ぶりくらいですか?」
「うん。ずっと眠ってたし。久しぶりに、お父さんとお母さんのお墓参りができるのは嬉しいかな。何より、兄さんと一緒だし!」
「そうですね。私も、真衣と一緒に行けて嬉しいですよ。」

 屈託のない笑顔を浮かべながら、2人は静かな夜を過ごした。

            ※

「植物?」

 翌日、アサヒは姉の日菜に電話をして、聞ききれなかった解剖の話を聞いていた。

『うん。身体中の切り傷が気になって、傷口を調べたら、葉の欠片が出てきた。研究所の入り口に植え込みがあったでしょ?被害者は、そこに体ごと突っ込んだんだと思う。傷のついている箇所は露出している部分と合ってたしね。』
「そっか・・・。他に何か分かった?」
『髪の毛にビニール手袋の繊維があったよ。殴打痕には指紋がなかったから、ビニール手袋を付けて殴ったことは確実かなあ。』

 アサヒは2度3度頷きながら言った。

「色々ありがとう、姉さん。」
『お礼なんていいよ。仕事だからね。アサヒこそ大丈夫?昨日、父さん家に上がったんでしょ?』

 アサヒはわずかな沈黙の後、微笑を浮かべた。

「大丈夫よ。警察をやめさせることなんてできないし、異変があれば気付く人間がいる。簡単に手は出さないわ。」
『・・・そっか。それなら良いよ。またね。』
「ええ、また。」

 アサヒは電話を切ると、息を吐き、扉を開けた。

「新しい情報が入ったわ。被害者は研究所の入り口にある植え込みに体ごと突っ込んだ。切り傷は全てあそこにある植物でできたもの。加えて、指紋は残っておらず、ビニール手袋の繊維があったから、研究員の説は問題ないと思う。」
「そっか。じゃあ植え込みとその周辺を調べて、争った形跡がないか確かめよう。体ごと植え込みにこけるなんて普通じゃありえない。」
「ああ。足にも同様の傷があったから・・・真横じゃなくて斜めに倒れた感じか。だがあの辺に転ぶ凹凸はないし、被害者もヒールは履いていなかったはず。何がどうしてそんなことに・・・?」
「今のところ何とも言えないね。調査を急ごう。」

 植え込みを調べた結果、わずかに外に散乱した土から、人の靴跡が見てとれた。大きさは違い、争った形跡はなかったものの、2人の人間が植え込みにいたことは分かった。

「この位置・・植え込みの側だ。ここなら、植え込み側にいた人間は片足を中に突っ込んでいることになると思うんだけど、中の土に靴跡はないね。ただ踏み荒らされた跡がある。」
「そうだな。恐らく・・・」

 龍は手袋を嵌めてしゃがみ、植え込みを掻き分けた。

「やっぱり、土の“盛られた”跡がある。犯人が足跡を残したことに気がついて消したんだろうな。」

 玲央は頷いたが、土を見て眉を顰めた。龍の隣に屈み、土を凝視する。

「元の土と盛られた土の色が違うね。どこから持ってきたんだろう。」

 2人が首を傾げていると、突然頭上から声がした。

「それは温室の土ですね。」

 現れたのは茂だった。2人は気配なく背後に立った茂を見て驚く。しかし、2人は何とか動揺を隠し、龍は尋ねた。

「温室?そんなものがあるんですか?」
「ええ。研究所の裏手に小さな温室がありまして。そこには多くの堆肥があるのですが、それはその内の1つと同じ色です。良ければご案内しましょうか?」
「・・・・では、お願いします。」

 3人は急足で温室へ向かった。中に入ると、花の甘い香りがし、色とりどりの花が咲き誇っていた。茂は真っ直ぐに通路を突き進み、置かれてある内の1つの堆肥を指し示した。

「あ・・・これですね。先程の土と同じじゃないですか?」
「確かに、同じですね。ありがとうございます。」

 痕跡を探そうと玲央がしゃがんだ時、背後で扉と鍵が閉まる音がした。

 3人はわずかな間の後、それぞれ声を上げた。

「ん?」
「おや?」
「えっ?閉じ込められた・・・?」
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