小説探偵

夕凪ヨウ

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Case162.愛の刃⑤

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「何で・・何でそんなこと言うの?私は・・・‼︎」

 萌音は必死に叫んだが、龍はすかさず言った。

「ふざけるのも大概にしろ。学生時代、風子に嫌がらせをするだけに飽き足らず、兄貴を階段から突き落として、挙げ句の果てに大量殺人?いいご身分だな。そんなに犯罪は楽しかったか?」

 龍の言葉に萌音は目を丸くした。

「龍・・君、あの時のこと気づいて?」
「あんな嘘見破れないほど馬鹿じゃねえよ。黙っていたのは風子に何も言われなかったことと、大きな実害がなかったからだ。でも兄貴が怪我をした以上、何をするか分からない。だから兄貴に気づかれないよう親父に相談して、学期の途中でクラスを変えてもらったんだ。」

 萌音は次々と明かされる真実に絶望していた。龍は深い溜息をつく。

「峯岸、桜田はどこだ?今、お前が住んでる家にはいないだろ?」
「調べたの⁉︎」
「当たり前だ。あの小屋は橋が落ちて入れないはず・・・。桜田をどこにやった?」

 萌音は少し間を開け、呟いた。

「・・・倉庫。」
「どこの?」
「東京港近くの倉庫よ!今までの殺人がバレて、出頭しろって言ったから‼︎」

 それを聞いた玲央は、すぐにスマートフォンを出し、部下に指示を出した。

「今近くにいる刑事たちが急行した。そのうち連絡が来るよ。」
「分かった。じゃあ俺はそっちに行くから、兄貴ここ頼む。」
「了解。」

 龍は踵を返して去って行った。萌音は海里の腕を解こうともがく。

「待って!行かないで、龍君‼︎」
「呼ばないでくれる?」
「えっ・・・?」
「聞こえなかった?龍の名前を呼ぶなって言ってるんだよ。」
 
 玲央は真顔だった。ゆっくりと手錠を取り出し、海里に腕を押さえてもらいながら、萌音の手首に手錠をかける。

「高校の頃までの所業ならまだ許したんだけどね。殺人は許さない。」
「何よ・・・警察官になったからって、偉そうに言わないで!あなただって殺したんでしょ⁉︎雫さんのこと・・・!」
「そう思うならそれでいい。俺が言いたいのは、君を許せないということだ。」

 玲央は海里が放した萌音の腕を掴んで続けた。

「別に俺は、龍のためなら怪我しようと罪人になろうと殺されようと構わないんだよ。龍がその結果幸せになるなら、それで満足。
ただ龍は俺に死ぬなと言うから、死なないようにしているだけ。だから、君に階段から突き落とされたことも別に恨んでない。龍に実害が行かなかっただけで安心できた。」
「玲央さん・・・。」

(そうか。私がお2人を信じている理由は・・・人間性に芯があるからだ。
頭が良いとか、力が強いとか、そういうことじゃない。人として当然のことを、普通にできる。家族へも、友人へも、分け隔てなく接して、大切に思って、その死を嘆く。お2人の人間性の素晴らしさを、私は信頼し、尊敬しているんだ。)

「少し話しすぎたね。行こうか。」

 萌音は、何も言わずに連れて行かれた。パトカーの赤いライトが、病室の窓を照らしていた。

         ※

「やっぱりこちらにいらっしゃったんですね。」

 龍は、高台にある墓地に来ていた。玲央も一緒におり、お墓参りをしている。

「亡くなった同級生の皆さん・・・ですか?」
「ああ。今回の事件で安心したのは、アサヒが無事に帰ってきたことと、桜田が死ななかったことくらいだな。それ以外は・・・最悪だ。」

 語尾が弱々しかった。海里は口を開く。

「・・・・でも、東堂さんのせいではありませんよ。あれは、殺人に喜びを見出した人の狂気が暴走しただけです。」
「分かってるさ。それでも、悔やむくらいはいいだろ。」

 花を添え終えた龍は、ゆっくりと立ち上がって町を見下ろした。

「そういえば龍。父さんが呼んでたよ。お墓参り終わったら来いって。」
「はいはい。じゃあまたな。」

 龍が去って行くと、海里は龍の妻・風子の墓石の前に立った。玲央は不思議そうに首を傾げる。

「どうしたの?江本君。」
「・・・・分からないことが・・多すぎて。東堂さんも、玲央さんも、誰かを大切に想って守ろうとしている。でも私は・・・何なのだろうと、ふと、思ったんです。真衣を守りたいとは思います。でもあの子は強くて、私より大人びて見える時もある。」

 海里の言葉に、玲央は少し間を開けて答えた。

「・・・・兄弟って、不思議なものだよね。自分が兄姉だと、弟妹を守りたいと思う。でも、その想いが強すぎるからかな。兄姉は、弟妹の成長に鈍感なんだ。自分が思っていることを、相手が思っているなんて考えない。俺たちの中では、ずっと小さな子供のようだから。
そして守られた時、俺たちはなぜか悲しいんだよ。背伸びしてきた背が、追い越されたみたいで。でも俺は・・・それでいいと思ってる。人は誰しもが成長して、1人で生きて行くんだから。」

 玲央は笑った。海里は確信を突かれたかのように驚く。

「そっか。そういう、ことなんですね。」
「自論だけどね。それに、君はまだ若いんだから、これから色んな答えが見つかるよ。家族以外で大切な人が現れるかもしれない。先が分からないから、人生って面白いんだ。」

         ※

 警視庁。

「急に呼び出して何だ?仕事が溜まってるんだ。」
「まあそう怒らないで。君と話がしたかったんだ。」

 武虎は龍に椅子を進めた。彼は訳が分からないという顔をしながら腰掛ける。

「今回の件、君はどう考えた?あの事件を防ぐ方法はあったと思うかい?」
「何だよ、急に。」
「いいから答えてみて。」

 有無を言わさない父親の態度に、龍はゆっくりと口を開いた。

「・・・・分からない。中学時代、1度峯岸に告白されたことはあった。でも断って、それで終わったと・・・そう思っていたんだ。今思えば、自己完結していただけ。あいつの本心に気が付かなかった時点で、防げなかったのかもしれない。」

 武虎はなるほど、と言いながら頷いた。

「この際だからはっきり言うけど、龍。君はもっと周りを頼ったほうがいい。峯岸萌音の件にしたって、4年前の件にしたって、君は1人で抱え込みすぎている。自分の限界を知るのも、1つの方法だよ。」
「そうだとしても・・・下手に関わって巻き込むくらいなら、苦しみ何もかも、背負うのは自分だけで・・・・」
「そういう考えを捨てろって言ってるのさ。確かに君はしっかり者だけど、自分だけで解決できる問題なんて数えるほどだ。人を頼れない人間ほど、苦しみが増えるだけ。それとも何かな?苦しみの果てに死んでいいとでも?」

 少し苛ついた武虎の言葉に、龍は曖昧に反対した。

「別にそういうことを言ってるつもりは・・・。ただ、巻き込んだ時に最悪な結果になったらって・・・・」
「・・・・君は、失うことを危惧してるよね。4年前の時からずっと。」

 龍は黙った。武虎は龍の前に座る。

「いい加減気づきなよ。君は全てを守れるほど強くはないし、他のみんなは君に守られるほど弱くはない。失うことを恐れて他人に執着するなら、それは依存でしかない。愛情なんてなくなるんだ。君は、峯岸萌音と同じになりたいのか?」

 厳しい口調だった。龍は俯く。

「そんな顔をしないで。別に怒っている訳じゃない。考えを改めろと言ってるんだ。」
「改める?」
「そう。今回の件で分かっただろう?
彼女は・・・アサヒは強い。頭脳とか身体とかじゃなく、心が強い。だから迷いなく行動するんだ。自分の置かれている状況を理解して、すぐに行動した。下手に犯人を追求しなかったのは、自分の限界を知っているからだ。
でも君は、自分の限界を考えずに無茶をする。そのせいで、どれだけの人間が君を心配すると思う?君は無茶をする時、少しでもそんなことを考えたことはある?」

 図星だった。武虎は静かに続ける。

「完璧な人間なんていないよ、龍。完璧になろうとしなくていいんだ。自分にできることをやって、できないことは他に任せたらいい。犯人が襲い掛かれば助けたらいい。考えるのに限界が来たら、玲央やアサヒに任せたらいい。頼りたいなら、外部の人間でも構わない。江本君相手ならできるのに、どうして身内だとできなくなっちゃうのかな。」

 どこか呆れた顔の武虎に、龍はムッとして言った。

「・・・親父に言われたくねえよ。あんただって、色々抱え込んでたじゃないか。」
「うん。“だから”言えるんだよ。あの時、君たちが俺に言ったから。」


“俺たち、もう子供じゃない。悩んでいるなら、相談して欲しい。一緒に考えるから。”

 
「俺は君たちを信用しているし、信頼している。だから、もう自分にはできないと思ったら周りを頼って。必ず誰かが力になってくれる。だって、君が築いて来た人間関係は、間違ってないんだから。自分の限界を理解して、もう1度よく周りを見てごらん。これは、父親として息子へのアドバイスだよ。」

         ※

 仕事場に戻ると、なぜかアサヒが来ていた。

「事件の資料まだあったか?」
「それは玲央に渡したわ。あなたに渡したい物があったの。」

 アサヒは白衣のポケットを探り、小さな袋に入った何かを差し出した。黒い袋に藍色のリボンが巻かれており、手のひらサイズで収まる物である。

「こないだのお礼。」
「お礼って・・・俺、特に何もしてないぞ?」
「嘘。玲央から聞いたのよ。心配してくれたんでしょ?」

 アサヒは微笑を浮かべた。龍は一瞬言葉に詰まり、笑って言う。

「ああ。心配したよ。」

 龍がそう言うと、アサヒは苦笑した。

「正直ね。そんなんだから変な女に狙われるのよ?」
「はあ・・・?何だそれ。」

 げんなりした龍だったが、アサヒは嬉しそうに笑い、踵を返しながら言った。

「そういうところ、好きよ。それ、ちゃんと使ってね。」

 リボンを解いた真っ黒な袋の中には、龍の誕生石であるペリドットが埋められた、ネクタイピンが輝いていた。
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