小説探偵

夕凪ヨウ

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Case174.料理人の失敗②

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「・・・まだ臭いが残ってるな。ここの犯行、2週間前だろ?」
「うん。掃除は終えたと聞いたけど、こんな廃屋じゃ仕方ないか。」

 2人は第1の事件現場である廃屋に来ていた。血生臭い臭いがこびりつき、心なしか空気が澱んで見える。

「確か・・発見時は部屋の中央に椅子があって、そこに座った状態で亡くなっていたんだっけ?」
「ああ。1人目の死因は絞殺。で、何のためか殺害後に全身の骨を折るという凶行に及ばれていて、全身に紐が巻きついていた。」
「全身の骨・・か。かなり手間のかかることをしたんだね。絞殺だけじゃ物足りないとでも言いたげだ。」
「胸糞悪い話だけどな。」

 玲央は椅子が置かれてあった部屋の中央に足を運び、周囲を見渡した。天井にはいくつもの管が通っており、窓も割れて紐がくくれる状態になっている。

「紐がくくれる場所は多いね。ただ全身の骨を折るとなると相当な時間がかかる気がする。何か道具を使った可能性があるかな。」
「泉龍寺真人の時みたいにか?」
「うん。俺たちは体を鍛えているけど、全身の骨を折れと言われて簡単にできないだろ?一般人なら尚更、並の力ではできやしない。」

 龍は奥にある割れた窓に触れた。ガラスは薄汚れているが、微かに血がついている。

「犯人はここから逃げたのかもな。被害者は血があまり出ていないし、ガラスで切ったか?」
「そうかもね。ちょっと鑑識呼ぼうか。」

 玲央が連絡すると、すぐに鑑識がやって来た。

「他の事件も君が血液検査を?」
「はい。全ての事件現場に犯人の血液が落ちていたわけではありませんが、他の現場では被害者と違うAB型の血液が検出されています。」
「AB型?珍しいな。」

 鑑識は頷き、警視庁に戻って調べますねと言って去って行った。

「さて、俺たちも次に行こうか。」

 次の現場は、第1の事件現場から車で30分はかかる場所だった。こちらはあまり隠されておらず、広い公園の巨木の裏で遺体が発見されたらしい。

「えっとここは・・・出血死?」
「ああ。胸や頭部を含む計15箇所を刺されて亡くなっていたらしい。第一発見者は早朝にランニングをしていた近所の夫婦だ。」
「なるほど。」

 玲央は事件の資料を見返した。1人目には“A”、2人目には“Y”の文字が手の平にあったらしい。全てが血文字で、被害者の血で書かれたものだった。

「やっぱりこの血文字は被害者の名前のイニシャルだね。1人目が“愛羅”、2人目が“由良”だから。」
「つまり、遺体を酷く損傷させたから、警察が誰か分かりやすいように印を付けたってことか。」
「酷い話だよ。でも、被害者の条件は女性であるということだけ。年齢はバラバラなのが分からないな。若い女性を狙った連続殺人なら聞いたことがあるけれど、子供から大人までいる。手当たり次第だ。」

 龍は溜息をついた。

「被害者は計6人。死因は順番に窒息死、出血死、溺死、焼死、圧死、墜死。最後の墜死は自殺が疑われたが、両腕にロープが巻かれており、人の手で切られた後があった。被害者の年齢は10代~50代の女性で、いずれも家庭を持った人間ばかりだ。」
「幸せを奪いたい・・?いや、それなら女性ばかりはおかしいのか。女性に恨みを持ってる説が有効かな。」
「だろうな。あと、3人目の溺死した被害者だが、発見時は巨大な水槽に裸で放り込まれていた。加えて亡くなった直後に手首の頸動脈を切られ、水槽は血の池と化していた。」
「あれ?でもそんなことしたら血文字が書けないんじゃ?」
「いや。犯人はあくまでそこにこだわっているらしくてな。下半身だけ水に浸されて、上半身まで水が入っていなかったんだ。両腕は水槽の淵に置かれ、そこに文字が。」

 龍の言葉に、玲央は頭を掻いた。

「じゃあ焼死は?」
「右腕だけ焼く前に切り落とされて、そこに文字が書いてあったんだ。圧死や墜死も同じ手口だった。」
「・・・周到だね。」
「全くだ。」

 その後、2人は残りの事件現場を回って警視庁に戻った。

「やっと帰って来た。さっきあなたたちに呼び出されて行った巡査から報告よ。第一の事件現場にあった血液、AB型ですって。」
「じゃあほぼ確定かな。入り口には入った靴跡しかなかったらしいし、犯行後は窓から出て、その時にガラスで体のどこかに怪我をした。」
「多分ね。でも生憎、犯人はその血液以外証拠を残していない。髪の毛も落ちていなかったし、指紋も無し。」
「まあ、これだけ大掛かりなことやってるんだ。指紋くらいじゃ失敗しないだろ。だが髪の毛が落ちたりしていないのか・・・。帽子を被っていた可能性があるな。」

 アサヒは頷いた。

「どのみち、気持ちのいい話じゃないわ。私は5つ目の事件現場に行ったけど・・・まあ酷かったわよ。人気のない工事現場で鉄鋼を倒されて文字を書かれた右手以外潰れていたわ。発見したのが子供だったし、トラウマを植え付けちゃったかもね。」
「ああ・・そうか。遺体発見現場は住宅街だったね。しかし子供が見える所で殺人か。犯人には情というものがないらしいね。」
「強いて言うなら、殺人欲というドス黒い感情だけだ。この事件、早く解決しないとまずいな。」
                     
         ※

「美味しい?兄さん。」
「はい。」

 海里は熱々のグラタンを頬張りながら頷いた。退院したお祝いとして、今日の食事当番は真衣になっていた。

「料理が上手になりましたね。良いお嫁さんになれますよ。」
「兄さんったら!先に兄さんが結婚するでしょ?」

 真衣の言葉に海里は間を開けて答えた。

「私が恋愛を真剣にした記憶がありますか?」
「・・・無いけど・・・・。兄さんはそういうこと考えないの?」

 海里は頷いた。真衣はがっくりと肩を落とす。

「同級生に嫉妬されるほど容姿に恵まれてるくせに、何でうちの兄は・・・。」

 真衣がぶつぶつと文句を言っていると、テレビからニュースが流れて来た。

『都内のY区の廃屋で、女性の遺体が発見されました。遺体は激しく損傷しており、最近の猟奇殺人と同一犯と見られています。』
「また犠牲者出ちゃったんだ。」
「知ってるんですか?」
「うん。兄さんが入院中に始まった事件。今日は結構近いよね・・・。」

 海里はカメラで映された事件現場を見て椅子から立ち上がった。残りのグラタンを食べ終わると、コートを羽織る。

「少し出かけて来ます!なるべく早く帰りますから、戸締りをしっかりしてください‼︎」
「ちょ・・兄さん⁉︎」

 真衣の声も聞かず、海里は家を飛び出した。エレベーターの前を通り過ぎ、階段で1階まで駆け降りる。

 事件現場は、今日海里と真衣が昼食を取った“M”の近くだった。海里は警察の制止を振り切って建物の中に入る。

「江本⁉︎お前、何でここに・・・⁉︎」
「待って!あんまり見ない方が・・・」

 2人の声も聞かず、海里は遺体を見た。そこには、ありとあらゆる肉を削がれた、血まみれの遺体があった。海里は荒い息を吐きながら足を止める。

(もし・・私の判断が間違っていなければ、この事件の犯人は確定している。そして、次に狙われる人間は・・・まさか・・・⁉︎)
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