小説探偵

夕凪ヨウ

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Case182.真紅に染まる遊園地④

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「は・・・?」

 爆発の威力はさっきよりも大きかった。火の粉が舞い、建物の瓦礫が落ちる。

「取り敢えず東堂さんたちの所に行きましょう!安全を確保しないと・・・!」

 海里が小夜の腕を掴もうとした時、2人の近くでもう1度爆発が起こった。大きく地面が揺れ、地鳴りのような音が耳にこだまする。

「2発目・・・⁉︎どうして、今・・・!」
「でも距離があるわ。脅しかもしれない。」

 次々と爆発音が聞こえた。しかし、2人はそのうち妙なことに気がついた。

「何か、おかしくありませんか?」
「ええ。炎が収まっているし、煙もない。地面も揺れていない・・・・。」
「まさか・・・!」

 海里は走り出した。小夜は慌てて後を追う。
 そして数分後、2人は遊園地の中央広場に到着した。広場のベンチの上に、1台のスマートフォンがある。海里は手袋を嵌めそれを手に取った。

「やっぱり・・・“1回目の爆発音を録音していた”んですね。人の悲鳴が微かに混じっていたから、妙だとは思いましたが。」
「3発目までが本物ってことね。そのスマホ、指紋は?」
「付いてませんね。まあ、ここまで来てそんな失敗はしないでしょう。しかしこのスマートフォン・・・大きいですね。女性が使う物ではないかもしれません。」
「でも女性が購入した可能性もあるし、断言できないわ。」

 やがて、爆発が収まると捜査一課の刑事たちがやって来た。

「大丈夫ですか⁉︎お2人とも!」
「はい。義則さん、東堂さんと玲央さんを呼んでください。お話ししたいことがあります。」
                     
         ※

「・・・確かにこれは1回目の爆発と同じ音だ。犯人は1回目の爆発が起こる時園内にいた可能性があるね。」
「しかしベンチの上か。さっき爆弾処理班が回った時には報告がなかったから、調査が終わった後の短い時間で置かれたのか。俺たちが通りかかる可能性があるはずだが、よく避けて通れたな。」
「そうですね。でも、私たちの行動が見られる場所・・・監視カメラが管理されている部屋なら、どこにいるか分かるはずです。」

 3人は茂木の案内で監視カメラの管理部屋へ向かった。

「こちらです。一応、どこも壊れていないと思います。」
「ありがとうございます。失礼します。」

 玲央は椅子に座り、パソコンを弄り始めた。いくつかの映像が一気に巻き戻る。

「時間にすると30分前くらいだね。」
「だがその間、磯井たちも園内を回っている。外部の人間がいるとは考えにくいな。」
「内部の人間が犯人という考えは崩すべきではありませんね。」

 しばらくキーボードを弄っていた玲央だったが、ふと手を止めた。スマートフォンが置かれていたベンチ近くのカメラに、黒いコートとフードを被った怪しげな人物が映ったのだ。

「こんなに分かりやすくいたのに、誰も見つけられなかったんですか?とても信じられないのですが。」
「そうだね。磯井君たちは、こんな人を見た?」

 義則たちは一斉に首を横に振った。玲央は困ったように髪をくしゃくしゃと掻く。すると、黙っていた小夜が口を開いた。

「全員の死角に入れば見つからないわ。加えて短い時間だから、“巡回セールスマン問題”を使った可能性がある。」

 海里たちは首を傾げた。

「巡・・・何ですか?それ?」
「出入口から全ての目的地を巡り、出入口に戻って来る最短ルートを求める問題のことよ。
遊園地はアトラクションがたくさんあるでしょ?その中で乗りたい物をピックアップして、出発地点から1番近い所へ初めに行き、次は初めの場所から1番近い場所へ・・・と繰り返して行く。こうすることで、短距離かつ短時間で移動できて、効率的にアトラクションを回ることができるの。」
「犯人はそれを使ったと?」
「可能性としては高いわ。屋根を伝ったりするのは現実的じゃないもの。犯人はどこかの出発地点から歩き始め、最短距離でスマートフォンを置いて戻った。内部の人間であれば見つかりにくい場所も分かるだろうし、この問題を知っていればさほど難しくない。」
「でも、それってかなり専門的な話じゃないの?」
「ええ。私もかじった程度だから、大まかにしか分からないしね。」

 小夜は首をすくめた。玲央はなるほど、と言いながらもう1度キーボードを叩く。

「もう1度見てみよう。龍。この映像アサヒに送れる?」
「ああ。こう言ったことはあいつの専門だし、俺たちよりは分かるだろう。」

 その後、玲央は監視カメラの映像を見返して黒いフードの人物が写っていた映像を停止させた。龍はそれを写真に撮り、アサヒに送った。

「ついでに従業員の情報送って欲しい、か。磯井。資料を持って来てくれ。」
「はい!」

 龍が資料を送り終えた後、アサヒから電話がかかって来た。

『この量を調べるのは時間がかかる。最低でも明日の早朝ね。』
「そうか。」
『っていうかそこにいて大丈夫なの?また爆発したんでしょ?』
「まあな。今一度処理班に調べてもらってるが、まだ結果は聞いてない。そっちに送ったジェットコースターの破片からは何か出たか?」
『生憎、何も。黒焦げになっているせいで調べにくいし、破片自体にあまり証拠が残っていないのよ。』
「・・・分かった。とにかく頼む。」

 電話を終えると、龍は手短に結果を報告した。玲央は頷き、証拠として回収していたスマートフォンを義則に渡す。

「これアサヒに渡して来て。何か情報があるかも。」
「分かりました。すぐに。」

 義則が去って行くと、海里は息を吐いた。

「どうしましょうか。アサヒさんの映像解析が終わるまで待ちますか?」
「そうするべきかな。とは言っても、本当に1つも爆弾がないのか分からないし、明日まで張り込んだ方がいい。江本君は妹さんと小夜と帰って大丈夫だよ。」
「分かりました。」

 2人は休憩スペースで暇を持て余していた真衣の元へ急いだ。

「終わったの?」
「明日に回します。取り敢えず今日は帰りましょう。」

 小夜は入り口近くに止まっている根岸警視監の車を一瞥し、すぐに歩き始めた。

「どう思う?江本さん。今回の事件・・・。」
「うーん・・・犯人の動機が1番分かりません。犯人らしき人物は警察の捜査で絞られていますから、監視カメラの映像と小夜さんが先程仰ったことが一致すれば・・・と。」
「でも本当に使ったのかは分からないわよ?」
「可能性が高いのでしたら、十分だと思いますよ。」

 その時、海里はふと真衣が持っている地図に目を止めた。そこには、黒い点で回る順番が記してあり、点同士が線で繋がれていた。しかも、入り口に戻って来ているのだ。海里は息を呑んだ。

「真衣・・・その道順、あなたが?」
「うん。兄さんが好きにしろっていうから決めたやつだよ。」

 真衣が差し出した地図を見て、2人は驚いた。それには、巡回セールスマン問題が使われていたのだ。

「ああ、TSP問題のこと?私、理系の大学だったからそれは知ってるよ。便利だもん。」
「・・・・玲央さんが感じたあの視線は・・・人ではなくこの地図に向けられていたのではありませんか?」
「あり得るわね。自分の計画に組み込んでいたから、目が行った。犯人はやっぱり相当頭がいいわ。そうじゃなきゃ、こんなことできないもの。」
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