小説探偵

夕凪ヨウ

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Case181.真紅に染まる遊園地③

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「警部、よろしいんですか?根岸警視監、ずっと見られてますけど。」
「気にしたらキリがないよ。彼のことは置き物だと思ってたらいいさ。」

 玲央の皮肉に部下は苦笑した。海里はハンカチで鼻を覆いながら現場に踏み込む。

「酷いですね・・・。被害者は全員救出できたんですか?」
「ああ。軽傷の人間も多いが、ほとんどが重傷だ。ジェットコースターに乗っていた人間に関しては、死者が既に数人出ている。」
「・・・・そうですか。」

 海里は屈み、ボロボロになったジェットコースターに触れた。まだ熱を帯びており、黒い炭が手袋にこびりついた。

「爆弾が設置してあったのはジェットコースターの裏面でしたね。あまり違いは見られませんが、足元の方がわずかに焼けた跡が酷い。」
「鑑識も同じことを言ってたよ。時期に結論が出るんじゃないかな。」

 小夜は少し離れた所にいた。彼女は現場の周りを歩いてみたり、自分たちがいた場所まで歩いていたりしていた。

「何か分かりましたか?小夜さん。」
「明確には何も。ただ、時限爆弾の設置は難しいかも知れないわね。あまり詳しくないけれど、時限爆弾はタイマーが付いているから音が漏れる可能性があるし、管が隙間から見えることだってある。遊具の点検をしているのを考えると、磁石などでくっ付けられる小さな爆弾で、遠方からでもスイッチ1つで爆発できる代物かも。」
「確かにその可能性が高いですね。加えて、あの爆発はわずかな時間で数回起こっていましたから、ジェットコースターの裏面にいくつか仕掛けられていたのでしょう。」

 2人は淡々と話し合った。刑事が会話に加わろうとするが、早いテンポで進む2人の話に入るのは難しかった。

「爆弾の話はここまでにして、犯人の検討をしましょう。状況と場所を見る限り、点検の際に仕掛けられたと見るのが妥当ですね。」
「同意だな。点検中に仕掛ければ不思議はないし、監視カメラに映っても疑われない。」
「でもいつから仕掛けられていたんだろう?俺と小夜がここに来た時間が開園直後くらいだったから、昨日の閉園時間から今日の開園時間に仕掛けられたと考えて・・・・」
「職員が帰る準備をしている時間を含めると、昨日の午後18時~今朝の7時くらいまでになるわね。」
「結構長い時間ですね。ここって監視カメラいくつあります?」
「えっと・・・」

 玲央は考えながら職員にもらった地図を開いた。

「15個以上はあるね。取り敢えずジェットコースター周辺のカメラを確認して、何もなかったら範囲を広げて・・・ってやるしかないか。」

 その後、監視カメラを調べる玲央・龍と、調査をする海里・小夜に分かれた。

「今回の事件、犯人が遊園地の職員だとしたらなぜそんなことをしたんでしょうか。自分の仕事場ですよね?」
「さあ?犯罪者の考えは分からないわ。人を殺したいって気持ちだけで爆弾くらい手に入れられたりするんじゃないの?」
「はた迷惑な話ですね。」

 小夜は不満げに頷いた。2人の周りを根岸警視監の連れた部下たちが歩くことは、さらに2人を苛つかせていた。

「ここの職員は何人?」
「50人はいると聞きましたよ。取り敢えず、責任者に話を聞きますか?」
「そうね。この環境で歩くのは嫌だもの。」

 2人は遊園地の奥にあるスタッフルームに行った。事情を話すと中に入れてくれたので、責任者である茂木賢一郎に会った。

「警察の方ですか?」
「協力者とでもお考えください。ここで聞いたことは警察の方にしか話しませんから、ご安心を。」
「はあ・・・。」

 腰の低い男性だった。オロオロと周囲を見渡し、2人を見ることもしない。

「いくつかお聞きしたいことがあるのですが、構いませんか?」
「はい・・。何でしょう?」
「爆弾を仕掛けられる心当たりはありませんか?誰かに恨まれているとかは?」
「ありません・・・。な、何であんなことが起こったのか・・・・。」

 茂木は青い顔で震えた。海里は困ったように頭を掻く。すると、小夜が言葉を継いだ。

「勝手ながら少し調べさせて頂きました。以前、この遊園地に殺人犯が紛れたことがあるらしいですね。その際の警察の記録が見つからなかったのですが、なぜですか?」
「なぜも何も・・!あんなものが世間に出たらうちはおしまいです‼︎長年やって来たのに殺人犯如きで閉園なんてできません!」

 小夜は柔らかい笑みを崩さぬまま尋ねた。

「・・・怪我人や死者は?」
「幸い、いませんでした。警察の方がすぐに駆けつけたので。」
「その後、従業員の金銭横領問題もありましたよね?あの件はどうなったんですか?」
「金を返して謝ったので、警察には通報していません。今もここで働いています。」

 海里と小夜は顔を曇らせた。過去にあった問題は、恐らく他にもあると思ったのだ。海里は息を吐き、尋ねた。

「犯人に心当たりは?」
「ありません。」
「分かりました。では、金銭を横領したという職員に会わせてください。勤務日でないのなら、電話でも結構ですから。」

 茂木はあたふたと奥の部屋に引っ込み、赤い丸をつけた地図を渡した。

「あの態度では聞くことも聞けませんね・・・。」
「ええ。あ、あの人かしら?」

 建物の周囲で掃除をしている青年は、2人に気がついて顔を上げた。

「お仕事中すみません。少しお話しよろしいですか?」

 頷いた青年は金髪にピアスをした、あまり素行の良くなさそうな青年だった。

「南吉成さんですか?」
「ん・・。何の用?横領の件なら聞かないよ。もう金は返した。」
「そちらではなく、本日の事件のことです。ご存知ですよね?」
「ああ。俺は丁度ジェットコースターと反対側のアトラクションを掃除してたから、怪我はしなかったけど。実際・・被害ってどんくらい?」
「それはお答えしかねます。」

 海里ははっきりとそう言い、質問を続けた。

「あっそ。・・・てかさ、これって事情聴取ってやつ?警察じゃないのにいいの?」
「一応、警察の方から許可はもらっていますから。」
「ふーん。でも、話すことなんて何もないよ。俺はジェットコースターの裏に仕掛けられた爆弾が爆発したことしか知らない。」
「“裏”に爆弾があると知っていたのね。」

 小夜は南を真っ直ぐに見つめてそう言った。南は苦笑いを浮かべる。

「何?疑ってんの?」
「いいえ。ただ、警察が先程手に入れた情報を知っているものだから、驚いて。」
「いや、だから・・・」
「まあ普通の考えよね。ジェットコースターみたいな乗り物に爆弾を仕掛けるなら、裏。そこ以外だったらバレちゃうもの。」
                     
         ※

「危険な橋を渡りますね。」
「カマをかけただけよ。逆上してくる様子もなかったし、今のところは白じゃないかしら。あの人が私たちの話を聞いていて・・・って可能性もあるでしょ?」
「あるにはありますが・・・あまり危険なことをしないでください。玲央さんに怒られます。」

 小夜はいたずらな笑みを浮かべた。

「玲央に頼んで、この遊園地のこともう少し調べてもらいましょう。怨恨の線が深いわ。」
「そうですね。茂木さんの態度といい南さんといい、不穏な空気が立ち込めていますから。」

 そんなことを言って2人が歩き始めた、その時だった。

 2人の背後で、爆発が起こった。
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