小説探偵

夕凪ヨウ

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Case180.真紅に染まる遊園地②

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「これは・・・!」

 爆発したジェットコースターの周囲は地獄絵図だった。火傷を抑えて呻き声をあげる人や、柱に押し潰されて脱出しようともがく人、泣き叫ぶ子供たち。

「大丈夫ですか?立てますか?」
「は・・はい。あなたは・・・?」
「警察です。もう少しで消防と救急車が来ますから、辛抱してください。」

 玲央は動ける人たちを非難させ、子供たちにその後を追わせた。だが、既に命を落としている人もおり、焦げ臭い匂いが充満していた。

「た・・助けてくれ!柱に足が挟まって・・・‼︎」

 玲央は柱を持ち上げようとしたが、びくともしなかった。ジェットコースター全体が乗っかっており、玲央1人の力ではとても不可能なのだ。

「兄貴!」
「龍!」
「消防と救急車が到着した。後はそっちに任せろ。俺たちは爆弾処理班の仕事が終わるまで待機しなきゃならない。」
「・・・分かった。」
                      
         ※

「何の前触れもなく爆発したってことか?」
「はい。もしかしたら何かしらの音があったのかもしれませんが、賑わっていたので聞こえないと思います。」
「怪しい人間を見たりはしなかったのか?」
「人が多いので、逆に目立たないかと。ただ玲央さん、何か仰っていましたよね。視線を感じたとか・・・。」
「ああ、そういえば言ったね。」

 玲央は濡れたタオルで汚れを拭きながら頷いた。

「でも一瞬だったかな。鋭い視線を感じた気がして、振り向いたら消えたって感じ。」
「ストーカーとかじゃないの?」
「まさか。そんなことがあったらさすがに気がつくよ。」
「だがそうなると、犯人の可能性が高いんだがな。」

 龍の言葉に、海里は同意を示した。すると、爆弾処理班の1人が頭を下げながら入って来て言った。

「他に爆弾はありませんでした。先程の爆弾は小型ですが威力が強い物でして、出火が酷かったのもそれが原因かと。」
「爆弾はどこに仕掛けてあったの?」
「ジェットコースターの裏です。よく見れば分かりますが、スピードもありますし、人が見るような場所ではありませんから。」
「・・・そうか。もう現場に近づいても?」
「はい。」

 海里も立ち上がろうとしたが、龍が押し留めた。

「今日はやめとけ。爆発物はきちんと点検したが、後から仕掛けられたら元も子もない。」
「同意見だね。江本君、悪いけど小夜を送ってくれない?」
「分かりました。じゃあ2人とも、行きましょうか。」

 真衣と小夜が頷き立ち上がった時、遊園地の入り口に一台のパトカーが止まった。

「アサヒかな?」
「いや、あいつは今日仕事が溜まっていて現場に赴かないって・・・。」

 パトカーの扉が開き、1人の男が現れた。すると、その男を見た途端、玲央と龍は顔色を変えた。

「根岸警視監⁉︎」

 ふくよかな体型をし、黒い口髭を生やした男が2人を見た。根岸と呼ばれた男は微笑を浮かべ、2人に近づいてくる。

「大事だな。」
「なぜ・・警視監ともあろう方がこんな所に・・・・?」
「見張り、かな。」

 玲央は眉を顰めた。

「どういうことですか?私たちの仕事に不備があったなら謝罪しますが。」
「いやいや。君たちの見張りではないよ。私は・・・・」

 根岸の視線が海里の方へ泳いだ。龍はすかさず口を開く。

「今回は帰らせますよ。爆発物が仕掛けられている場所に残して、怪我でもしたら洒落にならない。何より家族と一緒にいます。巻き込めない。」
「いやいや。そんな“もったいない”ことはしないでくれ。私は、小説探偵の実力が本物かどうかを確かめたいのだから。」

 鼻につく言い方だった。龍は眉を顰めて言う。

「・・・・つまり、江本に謎を解いてもらいたい、と?」
「そういうことだ。加えて、良い“客人”もいるし、何なら一緒に解いてもらおうか。」

 海里は思わず小夜を見た。根岸は頷く。

「お断りします。私は探偵ではない・・謎を解くのが仕事ではありませんから。」
「後のことを気にしているなら、心配無用。他言はしない。」
「そういうわけではなく・・・私は謎を解きたいとは思っていません。」
「しかし大勢の命が奪われたのは事実。一般人1人を危険に晒して、自分だけ安全地に逃げる覚悟がおありかな?」

 小夜は唇を噛み締めた。玲央は彼女の前に立つ。

「無理いじりはしないでください。今の彼女は財閥の娘ではなく、ただの一般人です。」
「そうとも。しかしだからこそ、自分の家族が苦しめて来た一般人に協力することが必要ではないか?」

 その言葉に海里はムッとし、龍は根岸を睨み、玲央は反射的に口を開いた。

「・・いい加減に・・・!」
「いいのよ、玲央。」

 小夜は玲央の肩を掴み、弱々しい笑みを浮かべた。

「江本さんがいる以上、時間はかからないし、私が頭を使う必要はほとんどないわ。それに、危険な目に遭うのは慣れてるから大丈夫。」
「そんなこと・・・!俺は・・・‼︎」

 “君を危険な目に遭わせたくない”。その言葉を、玲央はすんでのところで飲み込んだ。深い溜息をつき、分かった、と彼は呟く。
 根岸はそれを聞き、満足げに笑った。

「分かってくれて嬉しいよ。私は車から見ているから、気にせず調査をしてくれ給え。」
                    
         ※

「すみません、小夜さん。巻き込むような形になってしまって・・・。」
「気にしないで。どの道、あの人は捜査に私を加えようとしていたもの。どう足掻いても無駄だったわ。」
「そうですね・・・。でも、東堂さん。あの人・・何なんですか?私だけでなく、小夜さんのことまで嫌っていますよね?」

 龍はパトカーを一瞥し、軽い息を吐いた。

「根岸信真警視監は、昔から俺と兄貴が嫌いなのさ。警視総監の息子だから優遇されてるなんていう、面倒な噂を信じているからな。」
「実際は違うんですね?」
「ああ。逆に俺たちに厳しいくらいだ。第一、組織の長たる人間が肉親の情で優遇なんてしていいわけないし、親父はそんな馬鹿なことはしない。寧ろややこしい事件を押し付けて来るくらいだ。」
「そうそう。でも噂を否定するのが面倒臭くて放置してたんだ。こんなことになるとは思わなかったけどね。」

 玲央は首をすくめた。海里は苦笑する。

「さっき言った通り、私はほとんど何もしないわ。テロリスト以外の面倒とは関わりたくないの。」
「そうですね。ただ、小説探偵の名と共に素顔も広まっていますから仕方ないのかもしれません。かと言って、警察の方に目の敵にされるのは厄介です。気に入らないにしても、あんな露骨に言わなくてもいいじゃないですか。」
「全くよ。」

 2人の気のあった愚痴に玲央と龍は笑ってしまった。

 しかし、この事件がそう簡単には終わらないことを、口には出さずとも、心の内で彼らは密かに理解していた。
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