小説探偵

夕凪ヨウ

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Case179.真紅に染まる遊園地①

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 真紅という言葉が、これほど似合う時はない。
 私は、そんなことを思って目の前に広がる景色を見つめた。

「クソ!このままじゃ間に合わない・・・‼︎」

 嶺が悔しそうに叫び、周囲を見渡した。私たちが探す人間は、まだ見当たらない。私も一緒に周囲を見渡すと、塔の天辺に、人影が見えた。私はハッとし、駆け出す。

「柄本⁉︎」
「いました!あの塔の上です!急ぎましょう‼︎

 私たちは駆け出し、真紅の炎へ身を投げた。1人の人間を、捕まえるために。                                                                      

   ーカイリ『真紅の遊園地』よりー
                    
         ※

「おや?龍。玲央はどちらへ?」
「今日は有休取ってるぞ、伊吹。」

 龍は資料から顔を上げてそう答えた。伊吹はそうなのですか、と不思議そうな顔をする。

「珍しいですね。」
「まあ・・・兄貴にとっては、大事な日だからな。」

 今日は7日であった。そう・・玲央は、小夜の親友・月城由花の月命日のため、彼女のお墓へ行っていたのである。

「無理して来なくても良かったのよ?玲央。」
「気にしないで。来たかったから来たんだ。仕事は龍たちに任せても問題ないしね。」
「それならいいけど。」

 玲央と小夜は由花の墓石に手を合わせた。あの夜の悲しみが、重くのしかかって来る。

「時々、考えてしまうわ。もしあの子が生きていたら、私はどうしていたのだろうって。」
「俺も考えるよ。雫と由花が姉妹として生きていたら、どうなっていたのかって。叶わない未来を、命日が近くなると考えてしまう。」

 小夜は花を添えてすっと立ち上がった。東京の街並みを見下ろし、目を細める。

「テロリストたちは、この美しい景色を壊すのかしら。」
「そうかもね。でも、させない。これ以上・・・何も失いたくないから。」

 小夜はわずかに頷いた。2人は丘を降り、玲央の車に乗った。

「車持ってたのにどうして東堂さんの車に乗ってたの?」
「4年前の件で上から運転まで禁止されてたんだ。最近やっと許可が降りて乗れるようになった。」
「随分厳しい話ね。」
「仕方ないよ。何も知らない人間から見れば、俺や龍は人殺しに見えてしまうから。車に乗ってたら、殺人に行くとでも思うんじゃない?」

 玲央はネクタイを緩めながら小夜に尋ねた。

「この後どうする?凪の店に帰るなら送るけど。」
「あ・・・少し行きたい所があるから、近くまで送ってくれると助かるわ。」
「行きたい所?」
「ええ。覚えてない?私たちと由花と雫さんで行った、遊園地。思い出巡りって言うのかしら。何となく行きたくて。」
「なるほど。」

 玲央は頷いたが、同時に不安になった。小夜は、テロリストたちに今も命を狙われている。簡単に1人にすることが良いとは思えなかったのだ。

「1人で大丈夫?凪に連絡して付き添いとかは?」
「ああ・・確かに危険かもね。」

 そう言った後、小夜は横目でどこか申し訳なさそうに玲央を見た。

「・・・一緒に来てくれたり・・する?やっぱり仕事に行くとかなら、構わないんだけど。」

 不安げな顔をする小夜に対し、玲央は笑って答えた。

「小夜が良いなら、一緒に行くよ。」
                    
         ※

「懐かしいな。少し内装変わったみたいだね。」
「8年以上だものね。昔見た物が無かったり、無かった物があったりしてるわ。」

 遊園地は平日だが人で溢れていた。親子連れや友人など、多くの人々が行き来し、あちこちから笑い声が聞こえる。

「突っ立てるのも変ね。少し歩きましょうか。」
「そうだね。」
「玲央さん?小夜さん?」

 呼ばれて2人が振り向くと、海里と真衣がいた。玲央は驚く。

「江本君。今日は本業の方はいいの?」
「はい。締め切りも過ぎて落ち着いたので、真衣がここに来たいと。」

 真衣は興味深そうに小夜を見ていた。主に、彼女の青い瞳を見ているのだ。

「あ・・・あなたが、江本さんの妹さん?」
「はい。江本真衣です。あなたが、天宮小夜さんですか?」

 小夜は頷いた。2人は互いに頭を下げる。すると、真衣が口を開いた。

「一緒に回りませんか?私、兄さんがお世話になってる人のこともっと知りたいんです。」

 海里はちらりと2人を見た。2人は構わないという風に頷く。真衣は嬉しそうに笑った。

「じゃあ、行きましょう!」

 真衣は終始小夜と話をしていた。小夜も楽しそうに笑っており、2人の笑い声が響いた。

「元気な妹さんだね。江本君と性格は正反対?」
「そうですね。義父曰く、私は父親似、真衣は母親似らしいです。本当のところは、よく分かりませんけど。」

 その言葉に玲央は首を傾げたが、海里は何も言わずに笑った。

 その後、4人は多くのアトラクションに乗ったり、食事をしたりして楽しんだ。同じ歳の真衣と小夜は驚くほど仲良くなり、色んなことを話していた。

「・・・小夜があんなに笑って話すのは久しぶりに見たよ。由花を失って以来、家族との関わりばかりだったから。」
「私も驚きました。真衣は人と話すのが得意ですが、ここまでとは思わなかったので。」

 そんなことを話していると、真衣が観覧車に乗る提案をしてきた。3人が頷き、歩き出そうとした瞬間、急に玲央が足を止めた。

「玲央?」
「・・・ごめん。何か視線を感じた気がしたんだけど、気のせいだと思う。行こうか。」
「でも玲央さんは警察官ですから、そう言ったことには敏感ですよね?」
「まあね。でも本当に勘違いの場合も・・・・」

 その時だった。昼間、海里たちが乗ったジェットコースターが、突如爆発したのだ。

「えっ・・・?」

 ジェットコースターは一気に炎に包まれ、黒い煙が上空へぐんぐんと上がっていた。周囲の人々は叫んだり、状況が飲み込めていないのか唖然としている。

 だが、ジェットコースターから焼け焦げた遺体が落ちてきたことでようやく状況を理解したのか、甲高い悲鳴があちこちで聞こえた。

「江本君!救急車と消防に連絡して、2人と逃げて!」
「玲央さんはどうするつもりですか⁉︎」
「状況を確認して、犯人がいれば確保する‼︎龍には俺から連絡するからとにかく逃げて!」

 玲央はそう言い残して駆け出した。海里は2人の腕を掴み、遊園地の出口へ走る。

(爆弾魔が潜んでいたのか?それにしたって、何で急に?人がいる時に爆発した以上、遊園地の破壊が目的じゃないことは明らかだ。テロリストたちの仕業にしてもおかしい!とにかく今は状況の確認をしないと!)

「龍!至急出動してくれ!場所はドリームランド。突然アトラクションが爆発した!」
『分かったが、兄貴はそこにいるんだろ?逃げてないのか?』
「少しだけ現場の確認をしたいんだ!とにかく、急いで!」
『了解。すぐ行く。』


 突然の爆発。混乱する遊園地。玲央の行先に何があるのか。
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