小説探偵

夕凪ヨウ

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Case216.オークションの罠⑤

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「アサヒから連絡があった。被害者のロープに、何者かの皮膚片と血痕が付いていたそうだ。血液型は、被害者と一致しない。」
「思った通りですね。指紋も出てきたのでは?」
「ああ。お前の狙い通りな。」

 海里は笑った。すると、義則が戻って来て彼らに告げる。

「鞄、見つかりましたよ。偶々通ったゴミ収集車の天井に落ちていたんです。あと扉の鍵なんですが、第一発見者のスタッフに聞いたところ、開いていたそうです。」
「窓の鍵は?」
「開いていました。倉庫にあった荷物から、こんな物が。」

 義則が出したのは、ルビーのネックレスだった。いくつか宝石はなく、紐も千切った跡がある。

「間違いなく、純のルビーね。値段は数十万ってとこかしら?入間さん。」
「さ・・さあ。忘れてしまいましたわ。昔のことですし。」
「まあ、どうして?あなた最近これを買われたのでしょう?」
「何を根拠に・・・!」

 小夜は無言で自分のスマートフォンの画面を見せた。そこには、入間が持っていたルビーが写されている。

「ここ、販売日のところを見れば分かるでしょう?発売されたのは昨日よ?あなたが宝石に目がないことは知っているし、自分で買ったはずよね?」

 入間は黙った。小夜は笑いながらスマートフォンを仕舞い、海里を見る。

「皆さんはあちこちに証拠を残しすぎましたね。」
「まだ私たちが犯人と決まったわけではないはずだ!警察だって、お前たちの言い分を信用していないぞ‼︎」

 その言葉を聞くと、海里はゆっくりと口を開いた。

「・・・・私が謎を解く時は、できるだけ犯人と警察の方以外は呼ばないことにしています。危険ですからね。今も、同じことですよ。」
「何⁉︎」
「全てを分かっているから、東堂さんと玲央さんには残って頂いているんです。お2人も、とっくの昔にあなた方が犯人だと確信を持っています。そうでなければ、こんな所で私たちの話なんて聞いていません。」
「ではなぜわしらに動向を聞いた?」
「江本君の推理を確実なものにするためですよ。2人の言動に嘘があるとは思っていませんが、2人の記憶だけだと曖昧だから、わざわざあなたたちの動向を聞いて、怪しい点を上げてもらったんです。」
「警察がそんなことを!」

 能坂が悲鳴に近い声で叫んだ。龍が口を開く。

「驚くことではありませんよ。囮捜査と似たようなものです。私たちは、あなた方がオークション会場に集まる前に、既に2人から話を聞いていました。」

 4人は唖然とした。入間が叫ぶ。

「だったら!なぜ小日向さんの怪しい点を上げないの⁉︎彼女が犯人である証拠はないのなら、間違っている推理だわ‼︎」
「間違ってなんていません。」

 海里は断言した。小日向の方がピクリと震える。

「彼女も犯人です。このオークション自体の・・・。」
「はあ⁉︎」
「警部!ワインのグラスを発見しました!あと、司法解剖で被害者の体内から睡眠薬が検出されたそうです‼︎」

 三好は後ずさった。海里は微笑を浮かべる。

「もう十分でしょう。犯行をお認めになってください。」
「ふざけないでください!私たちが殺人を犯す理由なんてない!」
「そうじゃ!言いがかりはよしてもらおう!」
「証拠は⁉︎証拠はどこにあるのよ⁉︎」
「ライバル関係である私たちが協力する理由など・・・!」
「言い訳は結構です。見苦しい。」

 海里は吐き捨てるようにそう言った。いつの間にか、彼の顔から笑顔が消えている。

「乃木家良さんを殺したのは、あなたたち4人です。犯行を一から説明しましょう。東堂さん、準備は?」
「終わってるよ。」
「ありがとうございます。では、現場へ行きましょうか。」

 現場に到着すると、倉庫の鍵は閉まっていた。小夜が1本の紐を出し、鍵穴の前に屈む。

「鍵を開けたのは入間さんね?この型は簡単だから、素人でも開けられるわ。」

 そう言っているうちに、ガチャリ、という音がして扉が開いた。海里は続ける。

「まず、入間さん。あなたはルビーのネックレスからルビーを取り、紐で鍵を開けた。少し時間はかかるでしょうが、お手洗いに行くとでも言えば、何のことはありません。そして、あなたは部屋に入り、残りの3人に連絡をした。大方、“作戦開始”って所ですかね?」

 海里は中に入り、4人へ向き直った。

「次に部屋に入って来たのは、乃木さんと三好さんですね?三好さんは並々入ったワインを持って、ここへ来た。睡眠薬入りのワインなどと思わなかった乃木さんは、勧められるままにワインを飲み、眠った。プラスチック製のグラスでしたから、割れなかったんでしょう。1つ失くなったくらいで分からないと思ったあなたはグラスを隠し、能坂さんと君崎さんを呼んだ。」

 刑事の1人が、部屋の中央に人形を置いた。別の刑事がロープを持って入り、人形の首に巻きつける。

「ここまでくれば簡単・・ですが、思わぬハプニングが起こった。そう、乃木さんが起きてしまったんですよ。睡眠薬の量が少なかったか知りませんが、とにかくあなた方は焦ったはずだ。叫ばれて誰か来たら、自分たちの犯行がバレる。そうならないためにも、早めに済ます必要があったんです。」

 海里は刑事が持っている君崎の鞄を手に取った。表面にあるわずかな傷に目を止めた彼は、微笑を浮かべる。

「これがあなたが鞄を捨てた理由です。抵抗した乃木さんは何かを掴もうとし、あなたが持っていた鞄を引っ掻き、触った。鞄を持っていなければ不自然なのに捨てたのは、警察が所持品を調べる可能性が高かったから。指紋が出て来れば怪しまれる・・・。あなたは咄嗟に窓から鞄を投げ捨て、運良くトラックの上に乗った。まあ、ゴミ収集車ですから、一気に遠くには行かず、すぐに見つかりましたけど。」

 海里は肩をすくめた。4人は少しずつ反抗する気力を無くしているように見えた。

「腰の曲がっている君崎さんが人を吊るすことは不可能。能坂さんにしかできなかった。あなたは急いで乃木さんを吊るしたでしょう?しかし同時に、彼は抵抗したはずだ。その時に吉川線ができ、その血液がコンタクトに付着した。だから捨てたのでしょう?」
「違う・・・!」
「指紋を調べればすぐに分かることですよ。あなたがしている眼鏡も少し小さい。入間さんの物をお借りしたのではないですか?加えて、縄をかけた時、手袋をしなかったのなら、縄から皮膚片が出る。そんなところまで考えましたか?」

 4人はがっくりと肩を落とした。三好が消え入るような声で尋ねる。

「なぜ分かった?私たちが犯人だと。」
「初めから怪しんでいた、と言っておくわ。財閥の長であるあなたなら分かっているでしょうけど、命を狙われる可能性がある私たちは人の不審な動きや敵味方を区別するやり方を教わる。あなたたちを見れば、怪しい人間だと分かるのよ。」
「まあ・・明らかに怪しかったですよ?警察が集まった途端、酷く慌てていましたし、私たちが奇妙な点を挙げた際も黙って聞いていた。犯人だと認めているようなものです。」

 君崎は苦笑した。

「では聞くがのう、なぜ小日向をここに留めた?殺人は犯していないはずじゃ。」
「ええ。彼女は殺人犯ではありません。彼女は、“このオークションの主催者”なんですよ。だからこの場に残って頂いたんです。」

 4人は唖然とした。全く分からなかったらしい。海里は続ける。

「しかし、彼女は小日向夏菜ではありません。全くの別人です。そうでしょう?」

 小日向はにやりと笑った。

「顔を見せてください。変装の下に隠した、あなたの本当の顔を。」
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