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Case217.果たされる約束
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「あーあ・・・バレないと思ったのに。」
小日向はウイッグを取り、“小日向夏菜”のマスクを外した。
「何で分かったのか、参考程度に聞きたいな。この変装、自信あったんだぜ?」
マスクの下から現れたのは、ショートヘアーの黒髪に、髪と同じ色の瞳をした女性だった。歳は浩史より少し上くらいだろう。長い手足に筋肉質な体格が目立つ。
「大した推理ではありません。容疑者と断定した以上、警察は身元を調べます。その結果、本物の小日向夏菜は海外で仕事中でした。1人の人間を殺すためだけに、わざわざ帰国する方がいますか?」
「いねえな。しっかし、警察の情報力は恐れ入るね~。」
男のような口調で話す女性に、海里はなぜか懐かしさを感じた。その時、海里の頭に、誰かの声が響く。
“紹介するぜ、海里!俺の母親の本城咲恵‼︎女優なんだ!”
「・・・咲恵さん?」
「思い出した?そう、あんたの親友だった本城圭介の母親だよ。ガキの頃に、何度か会ってるな。」
龍と玲央の顔色が変わった。彼の母親ということは、テロリストの仲間であるということだからだ。
「おっと!妙な動きはするなよ、お2人さん。あたしも旦那も、一応“行方不明者”で通ってる。証拠もなしに突然逮捕は御免だ。」
咲恵はそう言うと、跳躍し、建物の天井に軽々と飛び移った。海里たちは外に出て屋根を見上げる。
「あたしがここに来たのは、資金調達と乃木家良の“ある絵画”を手に入れるためさ!人命じゃない・・・。任務は完了したし、失礼するぜ!」
そう言った途端、建物の屋根にヘリコプターが近づいた。縄梯子が降ろされ、咲恵はひょいっと登る。
「見逃してくれるお礼に、1つだけ教えてやるよ!乃木家良が海里に依頼した絵画は、この店の中にある‼︎探してみな!」
「ちょっ・・待ってください!咲恵さん!」
止める間もなく、ヘリコプターは遠くの空へ去って行った。
「追いますか?警部。」
「いや・・いい。現場の整理が先だ。」
※
「この店の中って・・・倉庫にもなかったんですけど。」
「ここは元々、乃木さんの所有地だったらしいよ。だから、あの話は嘘じゃないと思う。彼女の目的の絵画も、きっとこの建物のどこかにあったんじゃないかな?」
海里は溜息をつきながら壁にもたれかかった。すると、ガコッ、と何かが外れる音がして、壁が自動ドアのようにスライドした。彼はひっくり返りそうになり咄嗟に前に飛び出す。
「えっ?」
「地下室・・・⁉︎一体どういう仕組みなのよ、ここ・・・。」
海里は躊躇いながらも現れた階段を駆け降りた。龍たちも後を追うと、壁にかけられた明かりが次々と灯る。
階段を降り切ると、扉があった。鍵のないシンプルな扉で、海里はノブを掴んで開け放った。
「これ、は・・・。」
扉の奥には広々とした空間があり、真っ白な壁にはいくつもの絵画が飾ってあった。海里は扉の正面にある絵画を見て、唖然とする。
「父さん・・・?」
その絵画には、1人の青年が描かれていた。海里とそっくりの顔をした、彼の父親・江本拓海が。
「な・・何で・・・?一体、どうして・・・父の、絵が?」
「それだけじゃないわよ。この女性、あなたの母親じゃないの?真衣さんそっくりだけど、瞳の色が違うわ。」
「ああ。この4人が描かれている絵も同じだ。この子供は江本と妹さんだろ?」
「でもこんなにたくさん・・・。仲が良かったのかな?」
海里は信じられないという顔で部屋を見渡した。海里は父親の絵の真下に机があり、手紙があることに気がつく。海里は手に取り、内容を読み始める。
「親愛なる・・江本海里様へ・・・・」
『先日は突然声をおかけして申し訳ありません。昔出会ったある方に似ていたので、つい話しかけてしまいました。
20年以上前、私はあなたと妹さんと瓜二つのご夫婦に出会いました。2人は江本拓海・江本真由香と名乗り、美男美女の、仲睦まじいご夫婦でした。当時名を馳せ始めていた私は、拓海さんに妻の絵を、真由香さんに夫の絵を描いて欲しいと頼まれ、私は気前よく承知し、2人の絵を描かせて頂いたのです。
その後もお2人との付き合いは続き、子供が生まれた後は、4人の絵を描いて欲しいとも頼まれ、お描きしました。何度も手紙のやりとりをして、何度もご家族の絵を描かせて頂いたことは良い思い出です。
しかし16年前、拓海さんと真由香さんが亡くなったと聞き、子供たちの行方も分からず、10年前に画家を引退させられ、当時の日々を夢のように思っていました。だからこそ、海里さんと真衣さんにお会いした時、涙が出るほど嬉しかった。昔に戻ったようで、つい話しかけてしまったのです。
実は16年前、拓海さんと真由香さんに自分たちを描いた絵を譲って欲しいと頼まれていました。私はそれを承知し、家族で東京に出向く約束をしてくださった。しかしお2人は現れず、亡くなり、ずっと絵を持っていたのです。
そんな時、海里さんと真衣さんに出会って、残された絵画を受け渡すことを決めました。金の亡者に渡すより、よほど良い選択だと思ったから。
どうか、迷惑でなければこの部屋の絵を受け取って欲しい。拓海さんと真由香さんと果たせなかった約束を、あなた方を通して果たせたら嬉しく思います。』
「あなたたちに出会えて、本当に嬉しかった。ありがとう。乃木家良・・・。」
海里は胸がはち切れそうな思いだった。散りばめていた謎が、1つに繋がった気がした。
「そういうことだったのね。江本さんのご両親は、絵を受け取るためだけに東京に来た。それで、事件にーーーー」
「ええ・・・。恐らく、乃木さんは事件のことを知っていたと思います。」
海里は不自然な突っ張りがある壁をノックした。すると再び壁が動き、大量の新聞が現れる。
「事件の記事ばかりですよ。自分を責められたりしたかもしれませんが、それは絶対に違う。乃木さんも、父も、母も、何も悪くなんてない。」
「ああ・・・そうさ。あの男の毒が向かなければ、今でも平和に・・・・」
そう言いかけた龍は急に言葉を止めた。目を丸くしながら、玲央を見る。彼も同じような表情をしていた。
「どうされたんですか?」
「・・・いや・・何でもないよ。取り敢えず絵を回収しよう。乃木さん本人が江本君と妹さんに託した物だから、すぐに渡せたらいいんだけど・・・。」
「やはり1度警視庁に?」
「うん。でも、すぐに返すよ。って・・あれ?ここ・・・江本君のお父さんの絵の隣、空間がある。」
「多分、2人のお母さんの絵ね。咲恵さん・・・だったかしら?彼女が回収したのはその絵なんじゃない?江本さんのお父さんの指示で。」
「そうだろうな。さあ、全部取り外すぞ。」
数日後、海里と真衣の元に家良の絵が届いた。海里は全てを真衣に説明し、彼女は涙ながらに引き取ることを承知した。
「私たち、乃木さんに会ってたんだ。」
「ええ。あまりに幼くて覚えていませんが、彼は覚えていてくださった。それだけでも、感謝しなければいけません。」
「うん・・・そうだね。」
真衣は家族4人が描かれたキャンパスの縁を撫でた。快活に笑う自分と、涼やかに微笑む両親と兄を見る。
「ねえ・・兄さん。提案があるの。」
「提案?」
「うん。仕事は今回のやつを書いたら落ち着くんでしょ?一緒に、京都に行こうよ。記憶を取り戻すためだけじゃなく、お父さんとお母さんの人生を、知るために。」
小日向はウイッグを取り、“小日向夏菜”のマスクを外した。
「何で分かったのか、参考程度に聞きたいな。この変装、自信あったんだぜ?」
マスクの下から現れたのは、ショートヘアーの黒髪に、髪と同じ色の瞳をした女性だった。歳は浩史より少し上くらいだろう。長い手足に筋肉質な体格が目立つ。
「大した推理ではありません。容疑者と断定した以上、警察は身元を調べます。その結果、本物の小日向夏菜は海外で仕事中でした。1人の人間を殺すためだけに、わざわざ帰国する方がいますか?」
「いねえな。しっかし、警察の情報力は恐れ入るね~。」
男のような口調で話す女性に、海里はなぜか懐かしさを感じた。その時、海里の頭に、誰かの声が響く。
“紹介するぜ、海里!俺の母親の本城咲恵‼︎女優なんだ!”
「・・・咲恵さん?」
「思い出した?そう、あんたの親友だった本城圭介の母親だよ。ガキの頃に、何度か会ってるな。」
龍と玲央の顔色が変わった。彼の母親ということは、テロリストの仲間であるということだからだ。
「おっと!妙な動きはするなよ、お2人さん。あたしも旦那も、一応“行方不明者”で通ってる。証拠もなしに突然逮捕は御免だ。」
咲恵はそう言うと、跳躍し、建物の天井に軽々と飛び移った。海里たちは外に出て屋根を見上げる。
「あたしがここに来たのは、資金調達と乃木家良の“ある絵画”を手に入れるためさ!人命じゃない・・・。任務は完了したし、失礼するぜ!」
そう言った途端、建物の屋根にヘリコプターが近づいた。縄梯子が降ろされ、咲恵はひょいっと登る。
「見逃してくれるお礼に、1つだけ教えてやるよ!乃木家良が海里に依頼した絵画は、この店の中にある‼︎探してみな!」
「ちょっ・・待ってください!咲恵さん!」
止める間もなく、ヘリコプターは遠くの空へ去って行った。
「追いますか?警部。」
「いや・・いい。現場の整理が先だ。」
※
「この店の中って・・・倉庫にもなかったんですけど。」
「ここは元々、乃木さんの所有地だったらしいよ。だから、あの話は嘘じゃないと思う。彼女の目的の絵画も、きっとこの建物のどこかにあったんじゃないかな?」
海里は溜息をつきながら壁にもたれかかった。すると、ガコッ、と何かが外れる音がして、壁が自動ドアのようにスライドした。彼はひっくり返りそうになり咄嗟に前に飛び出す。
「えっ?」
「地下室・・・⁉︎一体どういう仕組みなのよ、ここ・・・。」
海里は躊躇いながらも現れた階段を駆け降りた。龍たちも後を追うと、壁にかけられた明かりが次々と灯る。
階段を降り切ると、扉があった。鍵のないシンプルな扉で、海里はノブを掴んで開け放った。
「これ、は・・・。」
扉の奥には広々とした空間があり、真っ白な壁にはいくつもの絵画が飾ってあった。海里は扉の正面にある絵画を見て、唖然とする。
「父さん・・・?」
その絵画には、1人の青年が描かれていた。海里とそっくりの顔をした、彼の父親・江本拓海が。
「な・・何で・・・?一体、どうして・・・父の、絵が?」
「それだけじゃないわよ。この女性、あなたの母親じゃないの?真衣さんそっくりだけど、瞳の色が違うわ。」
「ああ。この4人が描かれている絵も同じだ。この子供は江本と妹さんだろ?」
「でもこんなにたくさん・・・。仲が良かったのかな?」
海里は信じられないという顔で部屋を見渡した。海里は父親の絵の真下に机があり、手紙があることに気がつく。海里は手に取り、内容を読み始める。
「親愛なる・・江本海里様へ・・・・」
『先日は突然声をおかけして申し訳ありません。昔出会ったある方に似ていたので、つい話しかけてしまいました。
20年以上前、私はあなたと妹さんと瓜二つのご夫婦に出会いました。2人は江本拓海・江本真由香と名乗り、美男美女の、仲睦まじいご夫婦でした。当時名を馳せ始めていた私は、拓海さんに妻の絵を、真由香さんに夫の絵を描いて欲しいと頼まれ、私は気前よく承知し、2人の絵を描かせて頂いたのです。
その後もお2人との付き合いは続き、子供が生まれた後は、4人の絵を描いて欲しいとも頼まれ、お描きしました。何度も手紙のやりとりをして、何度もご家族の絵を描かせて頂いたことは良い思い出です。
しかし16年前、拓海さんと真由香さんが亡くなったと聞き、子供たちの行方も分からず、10年前に画家を引退させられ、当時の日々を夢のように思っていました。だからこそ、海里さんと真衣さんにお会いした時、涙が出るほど嬉しかった。昔に戻ったようで、つい話しかけてしまったのです。
実は16年前、拓海さんと真由香さんに自分たちを描いた絵を譲って欲しいと頼まれていました。私はそれを承知し、家族で東京に出向く約束をしてくださった。しかしお2人は現れず、亡くなり、ずっと絵を持っていたのです。
そんな時、海里さんと真衣さんに出会って、残された絵画を受け渡すことを決めました。金の亡者に渡すより、よほど良い選択だと思ったから。
どうか、迷惑でなければこの部屋の絵を受け取って欲しい。拓海さんと真由香さんと果たせなかった約束を、あなた方を通して果たせたら嬉しく思います。』
「あなたたちに出会えて、本当に嬉しかった。ありがとう。乃木家良・・・。」
海里は胸がはち切れそうな思いだった。散りばめていた謎が、1つに繋がった気がした。
「そういうことだったのね。江本さんのご両親は、絵を受け取るためだけに東京に来た。それで、事件にーーーー」
「ええ・・・。恐らく、乃木さんは事件のことを知っていたと思います。」
海里は不自然な突っ張りがある壁をノックした。すると再び壁が動き、大量の新聞が現れる。
「事件の記事ばかりですよ。自分を責められたりしたかもしれませんが、それは絶対に違う。乃木さんも、父も、母も、何も悪くなんてない。」
「ああ・・・そうさ。あの男の毒が向かなければ、今でも平和に・・・・」
そう言いかけた龍は急に言葉を止めた。目を丸くしながら、玲央を見る。彼も同じような表情をしていた。
「どうされたんですか?」
「・・・いや・・何でもないよ。取り敢えず絵を回収しよう。乃木さん本人が江本君と妹さんに託した物だから、すぐに渡せたらいいんだけど・・・。」
「やはり1度警視庁に?」
「うん。でも、すぐに返すよ。って・・あれ?ここ・・・江本君のお父さんの絵の隣、空間がある。」
「多分、2人のお母さんの絵ね。咲恵さん・・・だったかしら?彼女が回収したのはその絵なんじゃない?江本さんのお父さんの指示で。」
「そうだろうな。さあ、全部取り外すぞ。」
数日後、海里と真衣の元に家良の絵が届いた。海里は全てを真衣に説明し、彼女は涙ながらに引き取ることを承知した。
「私たち、乃木さんに会ってたんだ。」
「ええ。あまりに幼くて覚えていませんが、彼は覚えていてくださった。それだけでも、感謝しなければいけません。」
「うん・・・そうだね。」
真衣は家族4人が描かれたキャンパスの縁を撫でた。快活に笑う自分と、涼やかに微笑む両親と兄を見る。
「ねえ・・兄さん。提案があるの。」
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