小説探偵

夕凪ヨウ

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Case228.タイムリミット②

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 その女性は不敵な笑みを浮かべて私を見た。膝置きに肘をつき、どこか楽しげな目でバスジャックを見ている。

「協力してくれる?無関係な人を巻き込むなんて嫌でしょ?」
「私だって無関係ですよ。あなたも無関係じゃないですか。」
「うん、そうだね。でも、体を張って守った、なんていい話じゃない?」

 女性の言葉が、私には理解できなかった。彼女は私が混乱している様子など気にも止めず、続けた。

「バス内を観察しておいてくれない?私は犯人見とくから。」

 私の返事を待たず、女性はバスジャック犯に視線を移した。彼女が何を考えているのか、私のことをなぜ知っているのか・・・・聞きたいと思っているのに、私はなぜか聞けなかった。                       

                                           カイリー『タイムリミット』よりー
                   
         ※

「力を貸す・・と言われても、何のことか分かりません。私はただの乗客ですよ?」
「またまた~。謙遜したって分かっちゃうよ?隠さなくていいから、協力して?」

 怪しげな笑みを浮かべる女性は真っ直ぐに海里を見つめた。海里は自分のことを知られているだけで動揺し、話が頭に入って来なかった。

(この人、何者だ?休日の昼間にバスに乗っている以上、会社員じゃない。有力なのは警察だが、捜査一課のバッチをしていないから・・・。いやでも、犯人に気づかれないよう隠したことも考えられるし・・・。)

「私の正体を探るのは後でいいよ。取り敢えず観察し合おう。犯人と、バスの中を。」
「いや、ですから・・・・」
「おい、そこ‼︎何喋ってんだ!」

 犯人が大股で近づいてきた。女性はにっこりと笑い、言う。

「何でもないですよ~。世間話くらいさせてください。」

 犯人は舌打ちをして去って行った。海里は鞄の中にメモ帳とペンがあることを思い出し、犯人に見られないよう走り書きをする。
 軽い音を出して女性に気づかせ、メモを見せた。

“犯人の狙いは何だと思いますか?少なくとも、私は金銭ではないと踏んでいます。”

 女性は隣にいる着物姿の女性から一筆箋と鉛筆を借りて書き、海里に見せた。女性らしい、丸っこい筆跡である。

“そこは同意する。どこか目的地があるのかもしれないけど、犯罪に関しては素人。堂々と都内を走っているバスのカーテンを全部閉めさせるなんて、考えなし。”

 海里は随分はっきりと物を言うのだな、と思いながら続きを書いた。

“飛びかかって捕らえたりとかは?私も一応動けますし、運動神経が良いとお見受けします。”
“できなくはないけど、距離があり過ぎる。飛び出す間に、他の人が怪我をするかも。”
“一理ありますね。ただ、1つ気になることがあります。犯人の持っている爆弾が、時限爆弾であることです。”

 女性も同じことを気にしていたのか、軽く頷いた。海里は続きを書く。

“3分という時間は、思っている以上に長いんです。まして犯人が1人なら、その間に逃げられる人もいる。爆弾を持ち込むなら、時限爆弾ではなく、スイッチ式の爆弾の方が一瞬で済みます。”
“同じく。そして、大通りで爆発させたら周囲も巻き込める。純粋に人を殺したい気持ちなら、金銭交渉がないことも理解できる。”
“でもおかしくないですか?全てのカーテンを閉めて走っているなんて、こんな冬の時期に考えたらおかしい。警察がパトロールでもしていれば気づくはずです。”
“近くで事件があって出払っている。駆けつけない原因はそこにあると思う。”

 なぜそんなことを知っているのか聞きたかったが、状況が状況なので、やめた。2人は1度筆談をやめ、考え始める。

(犯人の目的は何だ?なぜリスクを犯してバスを走らせる?そもそも、偶々乗り合わせた人間を目的もなく連れ回る必要があるのか?いや、殺人が目的なら考えられる話だ。しかしだとすると、時限爆弾である必要がない。)

 考えがまとまらず、海里はクシャクシャと髪を掻き回した。その瞬間、運転席の近くに置かれた、海里のスマートフォンが鳴った。

「誰のだ⁉︎」
「あ・・私のです。誰からですか?」
「東堂龍、だとよ。」

 その瞬間、女性の眉が動いたのを、海里は視界の端で捉えた。犯人が出ろと言うので、海里はスマートフォンを受け取った。

「もしもし?どうされました?東堂さん。」
『急に悪いな。明日、話があるんだが来れるか?』
「ええ・・・場所はいつものところですか?」

 この言葉は警視庁を隠すためだった。龍が不思議に思うかと不安だったが、彼はああ、と頷いた。バス内のアナウンスが聞こえた龍は、言葉を続ける。

『バスで移動か?珍しいな。徒歩が好きだって言ってたのに。』
「遠方なので仕方なく。それにしても、車から見える景色もいいですね。先ほど、帝国ホテルを通り過ぎたところですよ。」
『今日は随分と話すんだな。まあ、とにかく明日来てくれ。』
「はい。では、また。」

 電話を切ると、海里はスマートフォンを犯人に渡した。女性は犯人が去るなり、急いで筆談をする。

“どうしてホテルだなんて無茶苦茶な話を?”

 海里は笑い、返事をさっと書いた。

“おかしいと思って頂くためです。東京に上京した時、東京の電車やバスの路線図を覚えました。今日は土曜日ですが、土曜日に帝国ホテルを通り過ぎるバスはありません。従って、調べればすぐに妙だと分かるんです。”

 女性は唖然とした。あんな短い会話に、そんな意味があったなど、分からなかったのだ。

“後は時間の問題です。警察に一任します。私たちは犯人と爆弾を見ておきましょう。”
                   
         ※

 警視庁。

「東堂警部、どうされたんです?難しい顔で。」
「いや・・さっき江本に電話したんだが、何か会話に引っかかる所があった気がするんだ。」
「引っかかる所?一体どんなお話をされたのですか?」
「バスで遠方に出かける途中だとかだよ。」

 龍は腕を組み、海里との会話を思い出していた。すると、急にハッとして立ち上がった。

「そういうことか・・・!」

 驚く義則を尻目に、龍は指示を出した。

「磯井、警視庁付近で不審なバスがないか調べろ。バスジャック犯が乗っている可能性がある。」
「バスジャック⁉︎で、でも、どうして言い切れるんですか?」
「路線と日時だ。土曜のこの時間、警視庁付近のバスは帝国ホテルを通らない。江本は“帝国ホテルを通り過ぎた”と言ったが、それはあり得ないんだ。となると、何かの事件に巻き込まれている可能性が高い。電話越しにバスのアナウンスが聞こえたから、バスに乗っていることに嘘はない。嘘をついた以上、バスの中で何かあった・・・バスジャックがいると考えるのが自然なんだよ。」

 龍の言葉に納得したのか、義則は部屋を飛び出した。すると、玲央が戻ってきて、戦慄した弟に首を傾げる。

「兄貴も手伝ってくれ。江本がバスジャックに巻き込まれている可能性がある。」
「バスジャックに?全く・・・彼は事件に巻き込まれる性質なのかな?」
「そう思わざるを得ないな。とにかく、急ぐぞ。」
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