小説探偵

夕凪ヨウ

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Case229.タイムリミット③

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 閉塞空間に耐えかねたのか、赤ん坊が泣き出した。犯人は母親を睨みつける。

「おい、黙らせろ‼︎」
「ま・・待ってください。ほら、いい子だから泣き止んで・・・。よしよし・・・。」

 赤ん坊は泣き続けていた。犯人は更に怒鳴る。

「黙らせろって言ってんだろ!殺されてえのか⁉︎うるせえんだよ!」
「この場で1番うるさいのはあなたです。」

 海里は言った瞬間しまったと思ったが、引き返すこともできず、続けた。

「子供は大人より敏感な所があります。こんな殺伐とした場所で、赤ん坊が泣くのは当たり前です。自分で原因を作っておきながら、人に当たらないでください。」

 犯人は大股で海里の元へやってきた。筆談をしていた女性はギョッとしている。

「お前から殺してやろうか⁉︎ああ⁉︎」
「怒鳴るだけで実行に移していないーーーー。そもそも、あなたの行動は全てが不自然なんです。」
「何だと?」
「警察と交渉もせず、金銭も要求しない。時限爆弾だなんて妙な物を持って脅しに来た、あなたの目的が分からない。おまけに、子供に怒鳴り散らす・・・。あなたが原因で乗客が怯えているのに、黙らせろ?殺してやろう?あなた、何様ですか?」

 海里は立ち上がった。わずかに光が差し込むカーテンの隙間から、彼は外を一瞥した。

「殺したいなら、殺せばいい。爆発させたいなら、させればいい。幸い、ここは大通りです。大勢の人が車で走り、歩道には多くの人がいる。あなたが望む殺人を、すぐに叶えられるんです。それが目的なら、今ここで私を殺したらどうですか?それだけで乗客は今まで以上の恐怖に陥り、あなたの言うことを聞く。願ってもない話でしょう?」

(ちょっと、ちょっと!江本海里・・・この人、何言ってんの⁉︎考えて言ってるのか、ただの馬鹿なのか、どっち⁉︎第一、何で犯人を挑発するようなことを・・・!)

「できませんよね?」

 出し抜けに言った海里の言葉に、隣にいる女性は目を丸くした。

「あなたから悪意は感じられても、殺意は感じません。そもそも、私がバスに乗る前に、あなたはバスに乗ってきていますよね?あなたが座っていた席は真ん中よりやや後ろ。あの時のバス停に停まって脅すには不自然な場所です。私が乗ったバス停から、あなたが行動に出るまで4つのバス停を通りました。場所と人口密度から考えて、4つのうち2つ目のバス停が1番助けが呼びにくい場所だった。にもかかわらず、あなたは“人が多いバス停で”行動を始めた。警察に通報されたくないのなら、人がたくさんいる場所は避けるべきではありませんか?私があなただったら、そうしますよ。」

 急に展開される推理に、乗客は釘付けになった。

「私がバスに乗った時、あなたはリュックを膝に置き、両腕で包み込むようにしていた。汗をかき、息も荒かった。空調が効いているバスでは、不自然です。体調が悪いのかと思いましたが、そんな素振りはない・・・。」
「お前、何言って・・・」
「あなたは迷っていた。」

 犯人の言葉を遮り、海里は断言した。

「本当にバスジャックをしていいのか、迷っていた。だから汗をかき、息が乱れ、不自然な場所まで行動を起こすのを待った。違いますか?」
「ばっ・・馬鹿なこと言ってるんじゃねえぞ!」

 犯人は銃を海里に向けた。

「あなたの最も不自然な点を言い忘れていました。」

 海里は犯人に近づいた。ゆっくりと右腕をあげ、運転席横に置かれているリュックサックを指さす。

「あれは女性もののリュックサックですよね?妹が同じ物を持っているので分かりました。成人した男性・・しかも、あなたのように割とがっしりした体型の方が持つには、あのリュックサックは小さ過ぎます。爆弾は割と大きいですし、かなりキツく入っていたはず。」
「だったら何だ⁉︎」
「あれはあなたの物ではない。女性の所有物です。かなり使い込まれていますが、綺麗なままです。手入れをしていたのでしょう?」
「ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ!何でそんな・・・」

 海里はするりと犯人の横を通り抜け、リュックサックの肩紐を掴んだ。すると、右肩の紐に、小さくA・Nと記されている。

「これはどなたのイニシャルなんでしょうね?」
「それに触るんじゃねえ!」

 犯人が飛びかかろうとした瞬間、海里は叫んだ。

「運転手さん!止めてください!」

 バスが止まると同時に、犯人が床にねじ伏せられた。海里の隣に座っていた女性が、突如飛び出したのだ。
 すると、パトカーのサイレンが聞こえ、一気にバスに近づいた。今度は女性が叫ぶ。

「運転手さん、扉開けて!乗客の皆さん、バスから出てください‼︎」

 扉が開くと同時に、乗客は雪崩のように外へ駆け出した。女性は反抗する犯人の両腕を固め、銃を奪う。

「バスジャックするなら、銃の扱い方は学習した方がいいよ。セーフティーが掛かったままで扱える銃なんて、ないんだから。」

 女性は笑ってそう言った。すると、龍が中に乗り込んでくる。

「東堂さん。ありがとうございました。気づいてくださったんですね。」
「ああ。怪我は?」
「大丈夫です。犯人の確保をお願いします。」

 龍は頷き、手錠を取り出しながら犯人を見た。そして、動きを止めた。

「・・・・何してんだ、お前。」
「久しぶり~龍!元気そーだね!」

 犯人は女性に腕を絞められ、泡を吹いていた。龍は溜息をつき、ゆっくりと犯人に手錠をかける。

「相変わらず容赦がないな。可哀想に見えてくる。」
「抵抗されたんだから仕方ないでしょ?」

 龍が犯人を起こすと、女性も埃を払いながら立ち上がった。息を吐きながら伸びをし、海里を見る。

「見事な推理だったね。さっすが小説探偵!」
「あの・・・失礼ですがなぜその名前を?江本海里が小説探偵だと知る人間は限られています。やはりあなたは警察の・・・?」
「お前、名乗ってなかったのか?」
「時間なかったんだもん。」

 女性は胸元を探り、警察手帳を開いた。

「初めまして!警視庁警備部警護課の、北条星子です!」
「警備部・・警護課・・・?それって・・・・」
「ああ。俗に言うSPだ。」

 龍の言葉に、海里は唖然とした。女性SPなど、聞いたこともなかったのだ。星子は海里を見ながら、ふふっと無邪気に笑う。

「龍たちから話を聞いてて、知ってたんだ~。銀髪に水色の瞳をした、美形だってね‼︎」
「しかしそれだけで・・・・」
「それだけじゃないよ?バスジャックが起こっているのに冷静だし、あんな状況で筆談できる、肝っ玉の座った人間なんてそういないだろなあ、って。」

(鋭い人だな。でも、どうして・・・。)

「どうして、バスジャック犯を見て笑っていたんですか?」

 海里の質問に対し、星子は不思議な答えを告げた。

「どうやって倒そうかなーって考えてたの。色々考えてたら、ついにやけちゃってさ。」
「ええ・・・?」
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