小説探偵

夕凪ヨウ

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カジノに潜む悪魔 前日談

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「ここでいいわ。送ってくれてありがとう」
「そっか。気をつけて帰ってね」
 小夜は、江本家から捜査官の車に玲央と同乗して警視庁での手続きを済ませた後、玲央の車で帰路に着き、家の近くで別れた。窓越しに手を振って微笑みを交わして別れた2人だったが、車が見えなくなったのを確認した彼女は素早くスマートフォンを取り出し、電話帳から1つの番号を呼び出した。
 発信ボタンを押すと、一コールも鳴り終わらないうちに相手は電話に出た。
「私です。上手くいきましたよ。江本さんも、すぐ現場に復帰すると思います」
 電話の相手は恭しく礼を口にした。小夜は「お気になさらず」と前置きして続ける。
「それにしても・・・あなたも随分な策士ですね。事件が起きたのは偶然とはいえ、江本家のお茶会の情報を事前に入手し、江本さんが私を呼ぶと踏み、私に出席するよう促した。 
 ただ、仮に事件が起きたとしても、今の彼は謎解きを否定する。だから彼と同じやり方で私に解決させて、私と彼の本音を引き出し、向き合わせたあと、立ち直らせる。
 こんな面倒なことをするなんて・・・・案外、お暇なんですか?」
 小夜は少し間を開け、相手の名を述べた。
「ーー
 電話越しに浩史が笑った。呆れ笑いだった。
『やれやれ。そこまで分かっているのであれば、追求せずとも良かろうに』
「確認ですよ。あなたに悪意がなく、東堂兄弟のために江本さんを求めているということのーーね」
『相変わらず疑り深いことだ。でも安心してくれ。彼は2人の仲を修復させたきっかけだ。2人にとって彼は欠かせない存在であり、彼にとっても2人は欠かせない存在。いや、そんな存在になったと言うべきかな』
「まあ・・・そこまで分かっているなんて、相変わらず頭の切れる人。そのお陰で、色々助かっていますけど」
 再び浩史の笑いが聞こえた。小夜は江本家の事件の概要を話し、詳細は報告書で確認してほしいと頼んだ。浩史は江本家の事情を興味深そうに聞いたものの、特段驚く様子はなかった。
 そして、ある程度の報告を終えたのち、浩史は真剣な声で尋ねた。
『それで? 今回は“当たり”だったのか?』
「いいえ。一也さんの発言から調べましたけど、外れです。これで何度目でしょうね。呆れて涙も出ません」
 小夜は失笑した。浩史は重々しく頷く。
『そうか。まあ、引き続きこちらでも調べておこう。玲央とも再会したのだから、あまり危険な真似はしないでくれ』
「分かっていますよ。じゃあまた」
『ああ』
 電話を終えるなり、小夜は深い溜息をついた。顔を上げて雲に隠れる様子のない満月を忌々しく見つめ、足早に家路を進んだ。
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