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第十章 呪力と言霊
第三節
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だいぶ眠りが浅くなっている。何度か夢と現の境目をさ迷うのだが、ほんのわずかな物音ですぐに頭が冴えてしまう。
だが、この晩は風に揺れる草木の音が妙に煩く感じた。それほど風は強くないはずなのに、何故こんなにも気になってしまうのか。
美咲は布団の中で、何度も寝返りを打つ。頑張って眠ろうにもなかなか寝付けない。
辺りは不気味なほど暗闇に包まれている。実家にいた頃は必ず豆電球を点けていたから、なおさら暗いのが気になってしまう。
夜は不安で押し潰されそうになる。南條から離れてしまったことを改めて後悔してしまう。
「南條さん……」
声に出して名前を口にする。それで淋しさを紛らわそうと思ったが、かえって恋しさが増し、胸が苦しくなってきた。
帰りたい、とは口が裂けても言えなかった。それこそ、口に出してしまったら辛さが増すと分かっていたから。
「――桜姫……」
孤独から逃れようと、今度は桜姫を呼ぶ。このところ、美咲の呼びかけに全くと言っていいほど反応がない。最初は単純に沈黙を守っているだけかと思ったが、ここまで無反応だと、出たくても出られない状況にあるのではないかと心配になってくる。
不意に、日中、仏間で藤崎が言っていたことが脳裏に過ぎる。
――オッサンのチカラは、簡単に言っちまえば〈呪い〉だ……
藤崎は、藍田のチカラはヒトならざる者を斃す力はないと言っていた。だが、斃すことは無理でも、ある程度抑えることが出来るのだとしたら、桜姫は藍田の何らかの圧力を受け、美咲と対話出来ずにいるということになるのではないだろうか。
藍田は桜姫に異常なまでに執着している。同時に、畏れも抱いているだろう。だからこそ、今は干渉されないようにチカラで抑え込んでいるのかもしれない。もちろん、これはあくまでも美咲の中の仮定だが。
(誰も、あの伯父には対抗出来ないってことなんだ……)
美咲に絶望が広がる。結局、周りは藍田の掌の中で踊らされている。南條ですら敵わない。むしろ、南條は自分の父親と同様の運命を辿る可能性もあり得る。
(南條さんが死んじゃうなんて……、絶対嫌だ……)
苦痛に歪む南條を思い浮かべ、また胸の痛みが増してゆく。南條さんが死ぬぐらいならば自分が身代わりになりたい。いや、いっそのこと、一緒に――と思いかけて、美咲はハッと我に返る。
死ぬ、などとはとんでもない発想だ。死ぬのではない。どんな形でも生き抜く方法を探さないと。
(南條さんも、言ってた……)
以前、南條が美咲に向けて、藍田美咲として生き延びろ、と言ってくれたのを想い出した。南條は死を望んでなんかいない。美咲も、南條も、共に生き、共に歩む未来を望んでくれている。
(希望は、まだある……)
美咲はそう言い聞かせた。藍田のチカラが如何ほどのものかは分からない。だが、これからのため、まだ死ぬわけにはいかないと強く思った。
だが、この晩は風に揺れる草木の音が妙に煩く感じた。それほど風は強くないはずなのに、何故こんなにも気になってしまうのか。
美咲は布団の中で、何度も寝返りを打つ。頑張って眠ろうにもなかなか寝付けない。
辺りは不気味なほど暗闇に包まれている。実家にいた頃は必ず豆電球を点けていたから、なおさら暗いのが気になってしまう。
夜は不安で押し潰されそうになる。南條から離れてしまったことを改めて後悔してしまう。
「南條さん……」
声に出して名前を口にする。それで淋しさを紛らわそうと思ったが、かえって恋しさが増し、胸が苦しくなってきた。
帰りたい、とは口が裂けても言えなかった。それこそ、口に出してしまったら辛さが増すと分かっていたから。
「――桜姫……」
孤独から逃れようと、今度は桜姫を呼ぶ。このところ、美咲の呼びかけに全くと言っていいほど反応がない。最初は単純に沈黙を守っているだけかと思ったが、ここまで無反応だと、出たくても出られない状況にあるのではないかと心配になってくる。
不意に、日中、仏間で藤崎が言っていたことが脳裏に過ぎる。
――オッサンのチカラは、簡単に言っちまえば〈呪い〉だ……
藤崎は、藍田のチカラはヒトならざる者を斃す力はないと言っていた。だが、斃すことは無理でも、ある程度抑えることが出来るのだとしたら、桜姫は藍田の何らかの圧力を受け、美咲と対話出来ずにいるということになるのではないだろうか。
藍田は桜姫に異常なまでに執着している。同時に、畏れも抱いているだろう。だからこそ、今は干渉されないようにチカラで抑え込んでいるのかもしれない。もちろん、これはあくまでも美咲の中の仮定だが。
(誰も、あの伯父には対抗出来ないってことなんだ……)
美咲に絶望が広がる。結局、周りは藍田の掌の中で踊らされている。南條ですら敵わない。むしろ、南條は自分の父親と同様の運命を辿る可能性もあり得る。
(南條さんが死んじゃうなんて……、絶対嫌だ……)
苦痛に歪む南條を思い浮かべ、また胸の痛みが増してゆく。南條さんが死ぬぐらいならば自分が身代わりになりたい。いや、いっそのこと、一緒に――と思いかけて、美咲はハッと我に返る。
死ぬ、などとはとんでもない発想だ。死ぬのではない。どんな形でも生き抜く方法を探さないと。
(南條さんも、言ってた……)
以前、南條が美咲に向けて、藍田美咲として生き延びろ、と言ってくれたのを想い出した。南條は死を望んでなんかいない。美咲も、南條も、共に生き、共に歩む未来を望んでくれている。
(希望は、まだある……)
美咲はそう言い聞かせた。藍田のチカラが如何ほどのものかは分からない。だが、これからのため、まだ死ぬわけにはいかないと強く思った。
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