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最終話
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入り口のドアをノックして、返事を待たずに、白津透が三号室に入ってきた。利玖は、あまり起き上がらない方が良いと言われて、ベッドから動けなかったし、飲みものを頼んでいたので、最初から鍵をかけていなかったのだ。
「具合はいかがですか?」
そう訊ねながら、透は利玖にマグカップを渡す。もう片方の手で、蓋の付いたタンブラーを持っていて、そちらは自分の口に運んでいた。香りからすると、たぶんコーヒーだろう。
利玖も同じものを頼んだのだが、マグカップに入っているのは無臭の白湯だった。
「やっぱり、駄目でしたか……」
「カフェインですからねぇ」透はくすっと笑う。「こんなものを飲んだら、眠れなくなっちゃいますよ」
利玖を昏倒させるために使われたのは、ヤマブドウの精が作ったブドウ酒に、鎮静剤に似た働きをする花の蜜を混ぜたものだと、それを作った本人達から話を聞く事が出来た。それが虚偽の供述ではない事を確かめるために、ジュディスの指示によって、〈猫の王国〉及び協力関係にある他種族の妖精の中から複数の専門家が招集された。
彼らの調査は、朝食が出来上がる前に完了し、ほぼ間違いなくヤマブドウの精が述べたとおりである、との報告がされた。特に治療薬などの処方はなかった。
妖精達が帰った後は、白津透が簡単な問診を行った。十余りの質問に口頭で答えるだけという形式のもので、その頃には、体の調子はすっかり元に戻っていた。眠さも空腹も、いつもどおりに感じた。
それが顔に出ていたのかはわからないが、透は、
『ま、ちゃんと食べて寝ていれば、自前の代謝機能だけで分解出来るという事ですね』
と結論を述べた。
彼女の言う事にどの程度の信憑性があるかはわからないが、問診の最中、自分は過去に何度かこういう目に遭っているが、なぜか酩酊状態に陥らせるようなトラップに対しては、抵抗力、あるいは、それを無効にする力が強いようだ、という話をすんなり信じてもらえたのが、やや意外ではあった。
シャワーを浴び、新しい寝間着に着替え、七生が作ってくれた朝食を食べた。今から三時間ほど眠ったとしても、昼前にはチェックアウト出来るだろう。
利玖は、また窓の外に目を向ける。
薄いレース・カーテン越しに、緑簾石をいっぱいに散りばめたような新緑が輝いていた。
何て贅沢な日曜日だろう。
こんな日に、深い森の中にある英国風のホテルで、ベッドの上から動かなくても良いだなんて……。
名前を呼ばれ、利玖は振り向く。
どこに隠し持っていたのか、透が透明な瓶の蓋を開けて、こちらに差し出していた。一つ食べても良い、という事らしい。
中に入っているのは、イチジクの実を乾燥させたもののようだ。所々にぞっとするような緋色の割れ目があり、無数の種が、そこからこぼれ落ちそうに覗いている。
利玖は手を伸ばし、それを一つ摘んで口に入れ、奥歯で種を噛み潰した。
「具合はいかがですか?」
そう訊ねながら、透は利玖にマグカップを渡す。もう片方の手で、蓋の付いたタンブラーを持っていて、そちらは自分の口に運んでいた。香りからすると、たぶんコーヒーだろう。
利玖も同じものを頼んだのだが、マグカップに入っているのは無臭の白湯だった。
「やっぱり、駄目でしたか……」
「カフェインですからねぇ」透はくすっと笑う。「こんなものを飲んだら、眠れなくなっちゃいますよ」
利玖を昏倒させるために使われたのは、ヤマブドウの精が作ったブドウ酒に、鎮静剤に似た働きをする花の蜜を混ぜたものだと、それを作った本人達から話を聞く事が出来た。それが虚偽の供述ではない事を確かめるために、ジュディスの指示によって、〈猫の王国〉及び協力関係にある他種族の妖精の中から複数の専門家が招集された。
彼らの調査は、朝食が出来上がる前に完了し、ほぼ間違いなくヤマブドウの精が述べたとおりである、との報告がされた。特に治療薬などの処方はなかった。
妖精達が帰った後は、白津透が簡単な問診を行った。十余りの質問に口頭で答えるだけという形式のもので、その頃には、体の調子はすっかり元に戻っていた。眠さも空腹も、いつもどおりに感じた。
それが顔に出ていたのかはわからないが、透は、
『ま、ちゃんと食べて寝ていれば、自前の代謝機能だけで分解出来るという事ですね』
と結論を述べた。
彼女の言う事にどの程度の信憑性があるかはわからないが、問診の最中、自分は過去に何度かこういう目に遭っているが、なぜか酩酊状態に陥らせるようなトラップに対しては、抵抗力、あるいは、それを無効にする力が強いようだ、という話をすんなり信じてもらえたのが、やや意外ではあった。
シャワーを浴び、新しい寝間着に着替え、七生が作ってくれた朝食を食べた。今から三時間ほど眠ったとしても、昼前にはチェックアウト出来るだろう。
利玖は、また窓の外に目を向ける。
薄いレース・カーテン越しに、緑簾石をいっぱいに散りばめたような新緑が輝いていた。
何て贅沢な日曜日だろう。
こんな日に、深い森の中にある英国風のホテルで、ベッドの上から動かなくても良いだなんて……。
名前を呼ばれ、利玖は振り向く。
どこに隠し持っていたのか、透が透明な瓶の蓋を開けて、こちらに差し出していた。一つ食べても良い、という事らしい。
中に入っているのは、イチジクの実を乾燥させたもののようだ。所々にぞっとするような緋色の割れ目があり、無数の種が、そこからこぼれ落ちそうに覗いている。
利玖は手を伸ばし、それを一つ摘んで口に入れ、奥歯で種を噛み潰した。
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