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男は陥落を迎えるまで全身を緩く嬲られる

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壁と一体化しているX字型の拘束台へと磔にされた男は、衣服を剥ぎ取られた裸体を必死にもがかせ危機からの脱出を試みていた。
左右の手首と足首、そして二の腕と太ももを拘束台に縫い付けている黒革の枷と短い鎖を鳴らし、視界を塞ぐ黒革の目隠しの下で眉根を苦しげに寄せながら黒い棒状の枷を噛まされた口で言葉にならない唸りを上げて男は裸体を無我夢中でくねらせていた。
しかし、そんな男の努力も虚しく拘束具は一つも外れはしなかった。両手両足の自由は取り戻せず、視界と言葉も奪われたままの状況から逃れられなかった哀れな男。その男の元にやって来た青年は、諦め悪く拘束との格闘を続けている惨めな男の裸体を眺めて愉快そうに微笑むと、汗と唾液に濡れた男の顎を右手で緩く掴みながら意地の悪い口調で問いかけた。

「刑事さん、気分はどうです? 捕まえようとしていた悪人の僕に逆に捕らえられた訳ですけど……愉しんで頂けましたか?」
「うぅっ! んむ、むぐぅぅっ!!」

顎を掴む右手の感触を嫌がり、刑事と呼ばれた男が顔を振る。屈辱を煽る言葉に反抗心を刺激され、刑事は青年に対して怒りを込めた呻きをぶつける。
もちろん、そんなことをしても青年には何のダメージも与えられない。大きく行動を制限された刑事が顔を振っても青年の右手は振り払えず、怒気を乗せて声を放ってもそれはその程度の抵抗しか行えない状態に刑事を追いやった事実を青年に改めて認識させ、青年の加虐心と興奮を余計に加速させてしまう。
憎い悪に捕らわれ、一切の抵抗を封じられた刑事の男。この無様な男をもっと辱めたい。苦しめたい。掻き立てられた欲望に全身を震わせた青年は、反抗の態度を示した刑事に向かって残忍な笑みを浮かべると、白々しく困惑色の声を上げた。

「あれ? 愉しんで頂けなかったみたいですね? どうやら物足りなかったみたいですから、その不足分を今からたっぷり、サービスして差し上げますよ……」
「ふ、むぅっ!?」

何をするつもりだ。抱いていた怒りを警戒と隠しきれぬ怯えに変換させ、刑事は何もかもを無防備にさらけ出した裸体を強ばらせる。小刻みに震える刑事の裸体を舐め回すように堪能し、笑みの黒さを更に引き上げた青年は、顎を掴んでいた右手を離すと左の手と合わせて刑事の裸体をまんべんなく撫で、全身に緩い快楽を流し込み始めた。

「ん、んぐっ、む、むぅ、ふぶっ」

好き勝手に肉体を這い回る青年の手に刑事は嫌悪を募らせる。けれど、口からは胸で膨らんでいる嫌悪とは真逆の甘い声が口枷ごしに漏れ、拒む心とは裏腹に刑事の肉体は注がれる刺激を悦び、男根をむくむくと膨張させ心地良さげに情けなくくねってしまう。

「気持ち良いでしょう、刑事さん? 見えない分感度が増して……ほら」
「んむぅぅんっ!」
「ちょっとした不意打ちでこんなに可愛い声が出ちゃいますね……ふふっ」
「ふぅ、む、んぐぅんっ!」

見えないせいで感度が高まっている。それもあるだろう。だが何よりも青年の手が巧み過ぎるせいで刑事は堪らない快楽を感じてしまっている。
乳首を丹念に指で捏ね、舌先で弾かれたかと思ったら勃起した男根の特に過敏な亀頭を急に撫で上げられる。太ももの内側に位置する皮膚の薄い場所を左右同時に指先でくすぐられる刺激に翻弄されたかと思ったら、脇腹に存在する皮膚の薄い場所を青年の舌で舐められ音を立てて強く吸い上げられる。
意識が逸れている場所を的確に責められることで生まれる快感。身構えることも不可能な青年の責めに翻弄される刑事はもはや声を抑えたくても抑えられず、あっという間に甘く鳴き喚きながら我を忘れてよがり狂う状況に追いやられてしまった。

「ふぐっ! むぉ、うぐっ……ふぎゅぅぅっ!」
「遠慮せず、好きなだけ気持ち良くなっていいですからね、刑事さん。ゆっくり、じっくり、刑事さんがおかしくなるまで時間を掛けて可愛がってあげますからね……」
「うーっ! んも、むぶぅぅ……っ!」

刑事としての正義と、男としての誇りを溶かされるくらいに気持ち良い。それ程に気持ち良いのに、決して絶頂には至れない。イきたくてもイかせてもらえない緩い快楽の地獄に容赦無く嬲られる刑事の男は我を忘れて腰を振りながらおねだりをしても射精を許されず、無慈悲な青年の思うがままに鳴かされ、悶えさせられ、全てをかなぐり捨てて快楽を欲しがる陥落を迎えるまで肉体を焦らされ続けるのだった。
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