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11話
護るべきもの
しおりを挟む俺は、家に帰ることにした。
学校も嬉しい?夏休みに入って時間的には余裕があるはず・・・だったのに・・・・
「保!起きなさいって!学校でしょ?」
あの事故に遭ってから、それ以降学校に行ってなかった俺に、ご丁寧にも!学校の方から補習授業を受けるようにって。もぉ―最悪っ!俺の自由な夏休みは苛酷な夏休みになったってわけ・・・。
あの日の夜明け、ずっと悩んでた。
家に帰るべきか、どうか・・・。
もし、母さんに何かあったら――
母さんを護るのは俺しかいないって。できる限り、母さんの傍に居ようって決めた。
「もう!あんたが居ると大変だわ・・・・。」
何日ぶり?だろうな・・・
家にも帰らず、何処で何をしてたのか、母さんは問い詰めることもしなかった。でも、無事にってわけじゃないけど、息子の帰りを待ってたんだろう、そんな雰囲気が伝わってくるよ。
「遅れた分はしっかり勉強してきなさいよっ!」
母さんは慌ただしく部屋を出てった。どこの母親も朝は忙しい時間帯だよな。
親不孝者の俺でごめん。でもそんな母さんの優しさが分かる。
着々と工事は進んでいた。
住宅街や大型店舗を造る為、山々を切り開いた整地の工事が大掛かりで始まっている。
緑が美しく生い茂っていた山の木々は無惨に切り倒され、荒々しい山肌が露になっていた。
その一角に仮設事務所が設けてある。そこでは、現場を指揮する監督と、安藤コーポレーションの企画部関係者が数人、図面を広げて打ち合わせをしていた。
「ちょっと待ってください・・・整地区画域と、この図面との計画が違う・・・・」
デスクに広げられた図面を睨みながらそう言ったのは、和弘だ。
「計画ではこの山の三分の一を整地する予定だったはず・・・なのに、整地する域が拡がっているじゃないですか?」
そう、確かに計画では自分も目を通し、納得した上での着工だったはずなのだが、計画予定と大幅に域が拡がっているのに和弘も戸惑っていた。
「・・・そうなんですがね――社長が直に、この山全域を整地するようにって言われましてねぇ・・・」
和弘の疑問に、現場監督も少し苦笑いを見せた。
(・・・話が違う・・・あの人は何を考えているんだ・・・・)
それ以上は和弘も何も反論はできない。社長の令なのだから・・・・。
込み上げてくる反感をぐっと抑えるように和弘は下唇を噛んだ。
碧い山は美しかった。
四方の山々は悠然と聳え、四季折々の顔を見せてくれる。その一方の山の手に沿って飛走するように、この山はある。
昔から“龍の脊”と呼ばれていた――
その姿が、今、空へ翔け昇らんとする龍の姿に似ているから、と人々は云う――。
次世代にも残しておきたい豊かな自然。どれだけ人間は自然に支えられ、生きているのか・・・
それでも人間が、この自然を破壊してゆく。
和弘は人間の欲深さ、愚かさを痛感していた。
綾は研究室へと足を運んでいた。
大学も夏季休暇で、校内はいつもの賑やかさはなく教授や学生たちの姿も疎らだった。
この大学の院生で精神心理学を専攻として研究を続けている磯部 綾は、赤茶色の髪を掻き上げながら颯爽と歩いていた。
「綾――っ!」
その声に彼女が振り返る。
声を掛けながら綾の許へ駆けて来たのは、同じ専攻科の院生だった。綾と並ぶと彼女の長身が目立って見える。
「・・・・何?」
「綾、今夜、暇?みんなで食事しようって予定してるんだけど・・・?」
そう誘われて暫し困った表情で考え込んでいたが、
「・・・ん―、塾が終わってからなら大丈夫だと思うけど・・・時間空いたら連絡するよ。」
綾はさっぱりと応える。
大学院での研究を続けながら、夜は塾の講師をしている彼女にとってなかなか暇な時間などないのだが、せっかくの友人の誘いも断れない――といったところだ。
「・・・ふ――っ・・・・・」
軽く息を吐くと綾はまた研究室へ向かった。
ブーブーッ・・・・
携帯が着信を知らせる。
画面には予てから綾が連絡を取っていた相手の名が表示されていた。
「・・・もしもし・・・?」
落ち着いたハスキーボイスの声が響く。
「・・・塾が終わってからになるけど、大丈夫?・・・じゃぁ、後で。」
そう応えると綾は携帯をジーンズの後ろポケットに仕舞った。
(飲み会どころじゃない・・・ってね・・・・)
綾は心の中でそう苦笑いした。
夏の風が瞬間に吹き抜けていく。
その風に髪を揺らしながら青い空を見上げている。
そして研究室へと急いだ。
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