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23話
負けらんねぇ
しおりを挟む「まさか、こんな所に、一人でお出でになるとは・・・・。」
暗くなってきた辺りから、突然、不気味に低い声が届いて、俺はとっさに身構えた。
眼を凝らして息を抑えた。
じっとその周辺に気を集中させる。
暗い茂みの中から、数体の人影のようなものが浮かんで見えたのが分かった。
じわり、じわりと、静かに近づいてくる人影がはっきりと姿を現した。
「――安藤・・・いや、棕玄・・・・」
俺は以外にも落ち着いていた。
何度かはお目にかかったことはある奴だ。
(まぁ、こんな山ん中、人間でよかったよ。)
軽い冗談も言えてる余裕?
無事に帰ろうなんてどうせ思ってもなかったから、こその余裕。
奴を筆頭に、その衆が四方から威圧してくる。
睨みを返して周りに気を張る。
「己の立場を知っての行動か・・・・それとも、単なる身のほど知らずか。」
侮るように奴は見下して笑う。
ここで争って勝ち目はない。
この自分には。
あいつらと違って俺には術なんてもんありもしないし、素手で戦おう相手じゃねぇし。
そんなこと分かってる。
ただ・・・・
全てに決着をつけたかった。
曖昧な、この自分に。
深く吸い込んだ呼吸と一緒に瞼をゆっくりと閉じた。
それから、はっきりと俺の視界に映る奴を睨みながら、
「この首、欲しけりゃ、くれてやる!」
「・・・ほほぅ・・・、負け惜しみの覚悟ですかな?」
そう嘲けながら少し眼を細めて薄笑いを浮かべてる。
と、
合図を送るようにして奴が軽く片手を上げた。
一瞬に、――――!
激しい熱さと痛みが全身を襲ってきた。
躰を裂かれた激痛で膝から崩れ地面に蹲ってしまった。
「・・・う・・・くっっ・・・・!」
躰が熱い・・・
体内から沸いてくるような熱さを感じた次には、口からなんか生温かいもんを吐き出してた。
手で拭ったそれを見て吐血したって気づいた。
(・・・・あぁ――ぁ・・・内臓やられたな、こりゃ・・・・)
眩暈までしてきた。
そんな中に見えたのは、あの孤鬼ってやつ?
何度も何度も噛みついてきやがる・・・それを手で払うのがやっとだ。
激しい痛みで躰が震えてる。
鋭い刃物で切り裂かれたような傷から、躰中を廻ってる血が流れ出てくる。
「これほどの攻撃を受けても・・・・だが、立っているのがやっとであろう・・・本条 直臣よ――。」
見下すような眼つきで、口許を歪ませる。
「お前には、我々に喰らいつく力もなければ、己自身を守る力さえないのだ。」
そう言って奴は鼻先で笑う。
それでも・・・・
大地を踏みしめて、
気力を奮い立たせる。
「人の命を何とも思っちゃいねぇてめぇなんかに、負けるわけにはいかねぇんだよっ!!」
その姿、恐れを知らない気高き猛獣の如し―――
そう、立ってるのがやっとだ・・・・
どう足掻いても、この自分に勝ち目はない。
だけど―――、
負けるわけにはいかない!
逃げるわけにはいかない!
――――いつからか・・・・
風が、この躰を包んでくれてる。
雨が、この疵ついた躰を癒してくれてる。
その風に、雨に、身を委ねるように俺は空を仰いだ。
風は―――、
〝生きよ〟と、背中を推す。
雨は―――、
〝共に〟と、包んでくれる。
風を感じて、雨を感じて・・・・空を仰いで俺は穏やかに笑ってた。
――――共に生きた同志よ。
「必ず、お前の首を捕り、彼奴の力を手に入れてみせる――!」
嘲り笑う棕玄の声がこの山林に響き渡った。
「・・・あんた・・・可哀想な人間だな・・・・」
人を信じたことがない。
だから、力で人を捩じ伏せようとする・・・・
自分しか見えない。
だから、本当の同志の大切さを知らない・・・・
哀しい人間。
「何を喚こうが、これが貴様の最期だ―――!」
それは、影か光か――?
棕玄の躰から浮遊する黒い煙のようなものが巨大な影の塊となる。
恐ろしいまでに膨れ上がったその影は、
揺れ動きながら棕玄の頭上高く空へ昇ると、凄まじい勢いで保の躰を貫いた――――
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