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15】知らなかったこと②

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15】知らなかったこと②

 魔王様のことが好きだ。本当に好きだ。でも魔王様は口数が少ないし、俺が魔王様について知っていることといえば、綺麗だとか魔力があるだとか。俺以外の魔族の誰でも知っているような、そんなことしか知らなかった。魔王様という肩書の無い「一人の魔族」としての魔王様のことなんて、何にも知らなかったんだ────。

「魔王様は、別に人間が嫌いってわけじゃねぇさ。昔、魔王様は人間の男と恋仲だったからな」



「は?」


例えば、こんなことだって。
俺が小さな頃から魔王様は魔王様だったし、綺麗なままだった。魔族の差はあれど、人間よりも十分長い寿命。魔王様はずっと一人だったし、人間に対して酷いことをしたという記憶がない。

(ただ、ずっとどこか寂しそうだとは思っていたけど……)

「魔王様に、恋人……? しかも人間……? って痛ぇ!」

情報が多過ぎる。どういうことだ!? と身を乗り出すように独り言を言い出した門番に詰め寄ろうとすれば、背中に痛みが走った。打ち付けて身体中が痛いことを忘れていた。

「まぁ、俺たちも深いことは知らねぇが人間と魔族だ。しかも相手が魔王様を倒しに来た騎士だったからなぁ……」

「そんな……魔王様に恋人がいて、しかも人間で……?」

「これも独り言なんだが、特にあの庭は人間がいた場所らしいからな。魔王様は、あの庭を汚されるのを許さないんだよ」


多分、思い出が詰まっているんだろう。俺の知らない人間が、魔王様と過ごした時間と思い出の場所。

『私だけだと言いながら、他の者の匂いをつけてくるのも。ましてや、この庭に知らぬ人間の匂いを持ち込むとは……』


「はぁぁぁぁ~~~~~~…………」


きっと、魔王様はずっと俺の知らない人間を思ってるんだ。初めて知った相手に、無駄に嫉妬した。それから、何も知らなかった俺にもムカついた。言葉に出来ない代わりに、大きく長い溜息を一つつけば、この辺でお開きだと門番が言った。

「俺の独り言はこの辺にしとくぜ。早死にしたくないからな」

「教えてくれて、ありがとな。俺、全然魔王様のこと知らなかったんだな」

「まぁ……魔王様はご自身の話をされないし、独り言の事を知っている魔族はほんの一握りだからな」

「なぁ……、俺また魔王様に会えると思うか?」

珍しく弱気になる。だってそうだろう? あんなに好き好きだとアピールしていたものの、未だに忘れられない人間がいると分かったんだ。勝手にフラれて勝ち目がないときている。おまけに、今魔王様は俺にお怒りで嫌われているところ。せっかく上がった好感度が、地底深く下がっているんだから。

「俺たちは魔王様じゃないから、分からねぇよ。まぁ、ほとぼりが過ぎたら大丈夫なんじゃねぇか?」

「それってどれくらいだよ」

「200年くらい?」

俺の寿命は問題ないだろうが、200年も魔王様に会えないのは暇だし寂しいとガクッとまた項垂れることしか出来なかった。


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