【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華

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11】モヤモヤと野菜炒め

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11】モヤモヤと野菜炒め

(何だか逃げるみたいに店を出て来てしまったな……)

まぁ、確かに。半ば逃げる気持ちだったので、間違ってはいない。向かう時は軽かった足取りが、今は重たい。

「……」

『海野さん』
『海野さんがいる~!』

最後に耳に残る可愛らしい声に、不思議といたたまれなくなった。
男一人なのが恥ずかしかったのか。はたまた、彼女たちから海野さんを俺が独占するのもおかしな話だと、急いで店を出てしまった。それもそうだ。海野さんは仕事中だったわけだし。商品の弁当を、売らなきゃいけない。俺一人に構っている暇なんて、元々無かったんだ。
いつもは丁寧に袋に入れる弁当が、急いで歩くものだから袋が大きく揺れている。帰ったら、中身が崩れていないといいなと思う。というか、何の弁当だったかも確認していなかった。

あっとう間に電車の改札口を通り過ぎていた。今ばかりは、早く電車が来てくれとホームで思う。そのままやって来た電車に飛び乗って、帰路についた。ぼんやりとする頭が、いつも以上に疲れている。

(どうしたんだろう。俺)

今まで、こんなこと無かったのに。
電車の窓から見える景色を眺めながら、妙な気持ちになっていた。こんなにモヤモヤしたのは初めてだ。胸の奥が、チクチクするような感じ。何だ、これ。

「……」

(ほんの数回)

(まだたった2回お店を訪れ、顔を覚えて貰っただけで嬉しくなっていたんだろうなぁ)

再び現れた、名探偵・水野こと俺は、そう結論づけた。舞い上がってしまった自分を、反省しなくては。

『水野さん』

初めて名前を呼んで貰えた嬉しさを思い出しつつ、これは不味いと焦った。

(俺と海野さんは、店員とお客さんに過ぎないのに)

そうこうしていれば降りる駅に着いて、またいつもの道を帰って行く。玄関のドアを開けて「ただいま」と呟いた声がいつもより小さく。これまたいつものように夕食の準備をしつつ、気持ちは浮上してこなかった。

「そういえば、今日の弁当なんだったんだろ」

電子レンジに入れる前に開けて見る。緑や赤と色が鮮やかな野菜炒めだった。

「……美味そう」

それから数分。またレンチンが終わった弁当を取り出す。蓋を開ければ香る匂いは、ハンバーグとはまた違った美味しそうな匂いだった。

「頂きます」

両手を合わせてから、端を伸ばす。人参、キャベツ、ピーマン、玉ねぎ、豚肉。野菜炒めのオールスターズだが、俺一人では手が伸びない野菜の数。健康になる気がすると思いつつ、味も塩コショウと、ほんのりソースのような味がした。

「美味い……」

一口、二口と箸は進む。米も進む美味さに、弁当をまた完食していた。一服しながら、腕を伸ばして身体を伸ばす。

「……ん~~……明日はいつものスーパーで弁当買うかぁ……」

流石に連続で店に行くのは、ちょっとな。うん。深い意味は無いし。

『水野さん』

はぁ……と小さな溜息をつきながら、そんなことを思った。
チラリと脳裏に海野さんの顔が浮かんだが、どうして海野さんの顔が? と俺にはよく分からなかった。

*******
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