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■おにぎり1つ②
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■おにぎり1つ②
時間はお昼時。俺のバッグの中に、作り過ぎたおにぎりが眠っている。
本当に加藤先輩にと思ったが言える雰囲気ではないし、俺のお腹の容量も危うい。そんな時、天の助けのように現れたのが田中さんだった。田中さんも空腹な様子。なら万々歳だと、両手でお湯を淹れたスープを溢さないようにカップを持って話を続けた。
「あの、田中さん」
「ん?」
お腹減ってるなら……と、俺の望む言葉は無く。代わりに聞こえたのは、別の声。
「水野。遅い」
ヌッ……と現れたのは、俺にしか分からない程度の少し機嫌の悪そうな加藤先輩だった。
「ちょっ、加藤主任。危ないです」
「よ! イケメンさん。女性陣に大人気じゃないか」
「こんにちは、田中さん」
突然現れた割りには、当たり前だがちゃんと挨拶するんだと感心しながら。田中さんも気分を悪くしている様子じゃなくて良かったと胸を撫で下ろした。
「なんだ、二人の邪魔しちゃ悪いな。じゃあな、水野にイケメンさん。俺は外回りがあるから昼食は外で豪華に取ってくるからさ」
「田中さん、行ってらっしゃい」
「……行ってらっしゃい」
「行ってきまーす」
あーあ、行っちゃったと思いながら俺の背後には加藤先輩。
「水野」
「何ですか」
「俺のラーメンが伸びる」
「知りませんよ!」
ちょっと不機嫌そうな先輩に、俺の方もちょっとムッとした。
そのまま席に戻り、着席。互いに向かい合わせに座り、両手を合わせる。
「「頂きます」」
俺のスープのかやくが丁度よく解れ、見るからに美味しそう。先輩の機嫌なんか知らないと、いつも通りおにぎりを取り出せば、奥にコロンと転がるおにぎりが見えた。
「麺……伸びてる」
「先に食べておけば良かったじゃないですか」
「俺は、水野と食べたかったんだ」
「で? 田中さんとの話し中に突撃したと?」
「悪かった」
「別に良いですけど」
スープを一口。それからおにぎりのラップを剥がし、交互に食べた。いつもより少し違う味のおにぎりに、美味しいなぁと思う。
先輩はズズズッ、とラーメンをすすりながら箸を止め。「なぁ、水野」と俺を見つめた。
「なぁ、水野」
「はい」
「今日こそ俺に、おにぎりは無いのか?」
何だか見透かしたような様子に、心臓がドキリとした。
「どんだけ、俺のおにぎりが食べたいんですか。加藤先輩なら、言ったら俺なんかより別の女性陣がきっと美味しいおにぎり以上のお弁当作ってくれますよ」
ズルイと、好きにさせないでくれと心の中で思いながら先輩に言えば、先輩は引き下がらなかった。
「何で別の人が出て来るんだよ。俺は、水野の作ったおにぎりが食べたいんだって」
返事を遅らせるためにスープを飲もうとしたが、ペースが速かったのかカップの中はもう空っぽだった。
「……」
「水野、おにぎり」
「…………はぁ」
根負けだ。だから、その無駄に良い顔で俺を見つめるのを止めて欲しい。先輩に俺が弱いって、もう何年も前から知ってるでしょう? ああ、本当にズルイ。
「分かりましたよ。観念します」
ゴソゴソと、先ほど奥に見えたおにぎりを、机の上に取り出した。現れたおにぎりと俺を交互に見る加藤先輩。それから、目尻を僅かに垂らして笑った。
「水野が作ったおにぎりだ」
「ええ、そうですよ。先輩、カップラーメンも食べたじゃないですか。入るんですか?」
細身のわりに、結構なボリュームのあるカップ麺はスープだけになっている。俺の言葉にチッチッチッと完全オフモードになった先輩が俺に自慢げに言った。
「水野のおにぎりは、別腹」
「そ……ぅですか……」
おにぎり、一つじゃなくて二つですけど。
■おにぎり一つ■
先輩は、おにぎり二つも完食していた。
うっかり、たまに作ってあげようかなと思ってしまったが、これはきっと先輩の罠だ。
*******
時間はお昼時。俺のバッグの中に、作り過ぎたおにぎりが眠っている。
本当に加藤先輩にと思ったが言える雰囲気ではないし、俺のお腹の容量も危うい。そんな時、天の助けのように現れたのが田中さんだった。田中さんも空腹な様子。なら万々歳だと、両手でお湯を淹れたスープを溢さないようにカップを持って話を続けた。
「あの、田中さん」
「ん?」
お腹減ってるなら……と、俺の望む言葉は無く。代わりに聞こえたのは、別の声。
「水野。遅い」
ヌッ……と現れたのは、俺にしか分からない程度の少し機嫌の悪そうな加藤先輩だった。
「ちょっ、加藤主任。危ないです」
「よ! イケメンさん。女性陣に大人気じゃないか」
「こんにちは、田中さん」
突然現れた割りには、当たり前だがちゃんと挨拶するんだと感心しながら。田中さんも気分を悪くしている様子じゃなくて良かったと胸を撫で下ろした。
「なんだ、二人の邪魔しちゃ悪いな。じゃあな、水野にイケメンさん。俺は外回りがあるから昼食は外で豪華に取ってくるからさ」
「田中さん、行ってらっしゃい」
「……行ってらっしゃい」
「行ってきまーす」
あーあ、行っちゃったと思いながら俺の背後には加藤先輩。
「水野」
「何ですか」
「俺のラーメンが伸びる」
「知りませんよ!」
ちょっと不機嫌そうな先輩に、俺の方もちょっとムッとした。
そのまま席に戻り、着席。互いに向かい合わせに座り、両手を合わせる。
「「頂きます」」
俺のスープのかやくが丁度よく解れ、見るからに美味しそう。先輩の機嫌なんか知らないと、いつも通りおにぎりを取り出せば、奥にコロンと転がるおにぎりが見えた。
「麺……伸びてる」
「先に食べておけば良かったじゃないですか」
「俺は、水野と食べたかったんだ」
「で? 田中さんとの話し中に突撃したと?」
「悪かった」
「別に良いですけど」
スープを一口。それからおにぎりのラップを剥がし、交互に食べた。いつもより少し違う味のおにぎりに、美味しいなぁと思う。
先輩はズズズッ、とラーメンをすすりながら箸を止め。「なぁ、水野」と俺を見つめた。
「なぁ、水野」
「はい」
「今日こそ俺に、おにぎりは無いのか?」
何だか見透かしたような様子に、心臓がドキリとした。
「どんだけ、俺のおにぎりが食べたいんですか。加藤先輩なら、言ったら俺なんかより別の女性陣がきっと美味しいおにぎり以上のお弁当作ってくれますよ」
ズルイと、好きにさせないでくれと心の中で思いながら先輩に言えば、先輩は引き下がらなかった。
「何で別の人が出て来るんだよ。俺は、水野の作ったおにぎりが食べたいんだって」
返事を遅らせるためにスープを飲もうとしたが、ペースが速かったのかカップの中はもう空っぽだった。
「……」
「水野、おにぎり」
「…………はぁ」
根負けだ。だから、その無駄に良い顔で俺を見つめるのを止めて欲しい。先輩に俺が弱いって、もう何年も前から知ってるでしょう? ああ、本当にズルイ。
「分かりましたよ。観念します」
ゴソゴソと、先ほど奥に見えたおにぎりを、机の上に取り出した。現れたおにぎりと俺を交互に見る加藤先輩。それから、目尻を僅かに垂らして笑った。
「水野が作ったおにぎりだ」
「ええ、そうですよ。先輩、カップラーメンも食べたじゃないですか。入るんですか?」
細身のわりに、結構なボリュームのあるカップ麺はスープだけになっている。俺の言葉にチッチッチッと完全オフモードになった先輩が俺に自慢げに言った。
「水野のおにぎりは、別腹」
「そ……ぅですか……」
おにぎり、一つじゃなくて二つですけど。
■おにぎり一つ■
先輩は、おにぎり二つも完食していた。
うっかり、たまに作ってあげようかなと思ってしまったが、これはきっと先輩の罠だ。
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