13 / 41
■机の端のプリン■
しおりを挟む
■机の端のプリン■
「……静かだ」
今日は隣に先輩がいない。珍しく一人で外回りへと出て行った。午前に出て、今はお昼過ぎ。
『じゃあ、水野。行ってくる』
『はい、行ってらっしゃい』
俺の行ってらっしゃいを聞くと口角を上げて笑った先輩。俺の一言が、そんなに嬉しいのかとちょっと俺の方が恥ずかしくなったが、プイッと照れた顔を隠すように自分のパソコンへ向きなおした。
先輩が来る前までは、隣は空席だったのに。今は静かで、少しだけ寂しく感じてしまうから不思議だ。カタカタと打ち込む文字を見ながら、加藤先輩はいつ戻って来るんだろうと思った。
「よ! 水野」
ポンッ、と肩を叩かれ、振り向けば田中さんが立っていた。その片手には、缶コーヒー……ではなく。ミルクたっぷり! と書かれたココアが一本。
「お疲れ~。ほら、差し入れ。水野コーヒー苦手だったよな?」
「有難うございます。ははっ……コーヒーは飲めないことは無いんですけど、苦いのが苦手で」
「子供舌かよ」
「で? どうだ。イケメンには慣れたかよ」
「加藤主任ですか? まぁ、そうですね」
正直、まだ顔の良さには慣れないけど。(多分、一生慣れることはないと思う)
「ふーん。ま、なら安心だな。この前の昼時に現れた時は、顔が怖かったからよ。神経質なのかなって心配したんだぞ」
あの不機嫌な先輩の顔かと、思い出したら少し笑いそうにあった。
「田中さん、いつも俺の心配してくれますね。有難うございます! 加藤主任、あの時はカップ麺が伸びるって心配してたみたいで」
「え、意外。あのイケメン、カップ麺とか食べるのか?」
「結構ジャンキーなの好きみたいですよ」
「それで腹が出てないんだから、羨ましい限りだよな~」
田中さんは、部下思いだなぁと思っていれば「ただいま戻りました」と声がした。
「お、噂をすれば何とやらだ」
「加藤主任。お帰りなさい」
「おかえりなさーい」
迎えの声掛けに、ペコリと頭を下げながら加藤先輩が当たり前だが俺の隣へと戻ってきた。田中さんに「こんにちは」と挨拶をし、「お疲れ様です」と短い会話。加藤先輩の手には、ガザリと白いビニール袋が握られていて加藤先輩が田中さんに小さなお菓子を手渡した。
「差し入れです」
「わっ! 有難うって……。キャラクターのセリフ付きチョコ! 意外でビックリしました」
「色んなセリフがあって、面白そうだったので」
「主任、そのキャラクター好きですもんね」
田中さんの手に渡されたチョコレートのパッケージには、学生時代にアニメで見ていたキャラクターとセリフが描かれていた。
「イケメンさん、ちょっと親近感湧いて安心しました。じゃあ、俺はこれで」
「水野、ココア買ったのか?」
「良いでしょ? 田中さんに貰いました」
「そうか……」
田中さんが席に戻り。先輩も俺の席の隣に着くかと思えば、コトンと机の端で音がした。
「ん?」
置かれていたのは、小さなプリン。ガサガサと音がしたから、ビニール袋から出したのだろう。
「加藤先輩?」
「水野、そのプリン好きだっただろう?」
いや、確かに。このプリン好きですけど。
「俺も、水野の好きな物知ってるし」
スプーンもあるぞと、一緒に渡してきた。
■机の端のプリン■
「……何、対抗意識燃やしてるんですか」
やれやれと思いながら、俺は早速プリンを食べた。やっぱり美味しかった。
******
「……静かだ」
今日は隣に先輩がいない。珍しく一人で外回りへと出て行った。午前に出て、今はお昼過ぎ。
『じゃあ、水野。行ってくる』
『はい、行ってらっしゃい』
俺の行ってらっしゃいを聞くと口角を上げて笑った先輩。俺の一言が、そんなに嬉しいのかとちょっと俺の方が恥ずかしくなったが、プイッと照れた顔を隠すように自分のパソコンへ向きなおした。
先輩が来る前までは、隣は空席だったのに。今は静かで、少しだけ寂しく感じてしまうから不思議だ。カタカタと打ち込む文字を見ながら、加藤先輩はいつ戻って来るんだろうと思った。
「よ! 水野」
ポンッ、と肩を叩かれ、振り向けば田中さんが立っていた。その片手には、缶コーヒー……ではなく。ミルクたっぷり! と書かれたココアが一本。
「お疲れ~。ほら、差し入れ。水野コーヒー苦手だったよな?」
「有難うございます。ははっ……コーヒーは飲めないことは無いんですけど、苦いのが苦手で」
「子供舌かよ」
「で? どうだ。イケメンには慣れたかよ」
「加藤主任ですか? まぁ、そうですね」
正直、まだ顔の良さには慣れないけど。(多分、一生慣れることはないと思う)
「ふーん。ま、なら安心だな。この前の昼時に現れた時は、顔が怖かったからよ。神経質なのかなって心配したんだぞ」
あの不機嫌な先輩の顔かと、思い出したら少し笑いそうにあった。
「田中さん、いつも俺の心配してくれますね。有難うございます! 加藤主任、あの時はカップ麺が伸びるって心配してたみたいで」
「え、意外。あのイケメン、カップ麺とか食べるのか?」
「結構ジャンキーなの好きみたいですよ」
「それで腹が出てないんだから、羨ましい限りだよな~」
田中さんは、部下思いだなぁと思っていれば「ただいま戻りました」と声がした。
「お、噂をすれば何とやらだ」
「加藤主任。お帰りなさい」
「おかえりなさーい」
迎えの声掛けに、ペコリと頭を下げながら加藤先輩が当たり前だが俺の隣へと戻ってきた。田中さんに「こんにちは」と挨拶をし、「お疲れ様です」と短い会話。加藤先輩の手には、ガザリと白いビニール袋が握られていて加藤先輩が田中さんに小さなお菓子を手渡した。
「差し入れです」
「わっ! 有難うって……。キャラクターのセリフ付きチョコ! 意外でビックリしました」
「色んなセリフがあって、面白そうだったので」
「主任、そのキャラクター好きですもんね」
田中さんの手に渡されたチョコレートのパッケージには、学生時代にアニメで見ていたキャラクターとセリフが描かれていた。
「イケメンさん、ちょっと親近感湧いて安心しました。じゃあ、俺はこれで」
「水野、ココア買ったのか?」
「良いでしょ? 田中さんに貰いました」
「そうか……」
田中さんが席に戻り。先輩も俺の席の隣に着くかと思えば、コトンと机の端で音がした。
「ん?」
置かれていたのは、小さなプリン。ガサガサと音がしたから、ビニール袋から出したのだろう。
「加藤先輩?」
「水野、そのプリン好きだっただろう?」
いや、確かに。このプリン好きですけど。
「俺も、水野の好きな物知ってるし」
スプーンもあるぞと、一緒に渡してきた。
■机の端のプリン■
「……何、対抗意識燃やしてるんですか」
やれやれと思いながら、俺は早速プリンを食べた。やっぱり美味しかった。
******
408
あなたにおすすめの小説
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
泣き虫で小柄だった幼馴染が、メンタルつよめの大型犬になっていた話。
雪 いつき
BL
凰太朗と理央は、家が隣同士の幼馴染だった。
二つ年下で小柄で泣き虫だった理央を、凰太朗は、本当の弟のように可愛がっていた。だが凰太朗が中学に上がった頃、理央は親の都合で引っ越してしまう。
それから五年が経った頃、理央から同じ高校に入学するという連絡を受ける。変わらず可愛い姿を想像していたものの、再会した理央は、モデルのように背の高いイケメンに成長していた。
「凰ちゃんのこと大好きな俺も、他の奴らはどうでもいい俺も、どっちも本当の俺だから」
人前でそんな発言をして爽やかに笑う。
発言はともかく、今も変わらず懐いてくれて嬉しい。そのはずなのに、昔とは違う成長した理央に、だんだんとドキドキし始めて……。
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
【完結済】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!
キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!?
あらすじ
「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」
前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。
今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。
お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。
顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……?
「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」
「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」
スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!?
しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。
【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】
「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」
『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました
小池 月
BL
大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。
壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。
加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。
大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。
そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。
☆BLです。全年齢対応作品です☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる