上 下
26 / 41

■そっちだって自覚を持つべき■

しおりを挟む
■そっちだって自覚を持つべき■

 「はぁ……今日も、しっかり働いて来たぞ。お疲れ、俺。偉いぞ、俺」

「はい、乾杯」と缶ビールを開けたのは、随分と久しぶりだ。浮腫むからと、飲もうとしないビールを買って来たのは理由がある。
誰かと打ち上げなんてことは無く、ただのセリフお疲れ会。ちょっとだけリッチなビールを奮発して来た。それから、カプレーゼ。見た目からして、綺麗だしお洒落。

プシッ! と炭酸の抜ける音がした後、一気に喉に流し込んだ。ゴッゴッゴッ……と喉を通る音が分かる。美味い! と思いながら、今の気持ちは一つだけ。酒を飲まずにはいられないんだ。

『なら、俺が好きだってことを自覚してくれ』

「…………」

ゴッゴッゴッ。

「………………っ」

ダン!

「そんなの、知るかっつーの!」

一気飲みしてテーブルに缶を打ち付けて出た感想は、ビールよりも加藤先輩のこと。
初恋の人に、また会えるとは思っていなかった。失恋に傷ついたのは事実だが、会えて嬉しいというのも事実。悔しいやら、照れくさいやら。あー……俺って、面倒臭い。自分一人で、気持ちがジェットコースター並みに上下する。

(それも全部、先輩のせいで)

考えないようにしているが、自分の気持ちに気付いている。自分の口で、言葉にしてしまえば。喉を通って出てしまった言葉を、聞いてしまったら。

(俺は、素直になれるだろうか?)

胸に引っかかっているのは、またフラれたくない気持ちと、どうして今さらの気持ち。酔いが回ってきたのか、思考がぼんやりとしてきて、考えが纏まらない。それに、我慢していた気持ちだとか、色んなものが顔を出し始める。

「なーにが好きだよ。何が連絡先知りたいだよ……」

そう毒づき、ぼやきながら見つめるのは別にフォルダを作った学生時代の画像。今のように社会に飲まれ、程良くやさぐれた今の俺と違う。毎日がキラキラして、ピュアだった俺。

「俺はさ……先輩。先輩のことが、本当に好きだったんですけど……?」

まだのビールが残っている缶を握り、口へ運んだ。女々しい気持ちを、また隠すように腹に沈める。今度はビールで沈めるなんて、大人になったもんだな、俺も。

ゴッゴッゴッ。

「んっ……ぁ゛―…………」

ダン、と今度は額をテーブルに打ち付けた。平たく硬い感触に、額が痛い。

(先輩が俺の事を好きな自覚を持て? だったら……)

「だったら、先輩だって俺のことフッた自覚持てよぉぉっ……!」

■そっちだって自覚を持つべき■

俺って案外と、酔ったら泣き上戸なんだと思いながら。同時に明日は土曜日で会社が休みで良かったと思った。

********
ちょっと詰んだので、シリーズを早く終わらせるかと迷いどころです><
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

継母の心得

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:70,043pt お気に入り:23,397

アマテラスの力を継ぐ者【第一記】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:582pt お気に入り:6

悪役令嬢を彼の側から見た話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:860pt お気に入り:139

カラダラッパー!

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:0

最愛の人がいるのでさようなら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,028pt お気に入り:667

デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:225

処理中です...