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■子供っぽかったのは俺の方だったようで③
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■子供っぽかったのは俺の方だったようで③
田中さんと山本さんに連れて来られた居酒屋。
俺を気遣ってのことだが、出来れば穏便に済ませたい。出来るなら、二人が飲んでいるビールに酔って、楽しい飲み会へとシフトチェンジしたい。
俺の願望とは別に、酔ってしまったのは俺の方だったわけで。
「だって仕方ないじゃないですか」
ある程度、空腹だったお腹が満たされ。本題に入ろうとばかりに、二人が俺の方へ向き直り、逃げられないと悟った。ビールを進められ、ええい! ままよ! と腹を括って喉を潤した。喉を通ったビールの苦さが、未だに残る。グワン……! と 首が回り、ジェットコースターに乗っているような視界になったと、開いた口は言ってはいけないことを口走っていた。
「水野?」
「水野君?」
「気を張っとかないと、好きだって認めちゃうじゃないですかぁぁっ……!」
(ああ、俺。酒に弱かったんだ)
その、コンマレベルの後だ。おかしいな? 感じた後に、自分の言った言葉を頭の中で復唱してみる。
(…………ん? んんん???)
『好きだって認めちゃうじゃないですか』
「…………あ゛っ!!!!」
ダンッ! とグラスの代わりに自分の頭をテーブルに打ち付けた。
穴があったら入りたい。いや、むしろ今から俺が掘るから入らせてくれ!
「えっと……水野君?」
「違うんです、そういった意味じゃなくて! 本当、そういう好きじゃなくて……!」
うううぅ゛―! と顔を上げれば、顔の赤みが引いた山本さんが俺を慰めようと背中を撫でた。
「大丈夫だ、水野。尊敬とか、そんなんだろ。まぁ、もしそういった好きでも、俺は別に気にしねぇし」
「私も」
「だから違うんですって……まぁ、それは置いておいて。俺だってですね、加藤せ……主任から可愛がられてるなっていう自覚はあるんですよ」
「自覚あるんかい」
「田中さん、静かにして下さい」
言ってしまった言葉に、一周回って開き直り。それに、平気なフリをしている方が変に思われなく良いだろうと言葉を続けた。言葉にすれば、少しは自分の中でも整理出来るかもしれない。ツラツラと流れるように口を出る言葉は、止まることなく。
「俺だって、子供っぽいことしてるなって分かってはいるんですよ。でも引くに引けないし。主任は変わらずだし。大体、主任だって悪いんですよ」
ゴッゴッゴッと、もう一度ビールを飲む。また視界がグワンと回ったが、二回目ともなれば慣れたもの。
「人の前で俺のこと可愛いっていうし。もうすぐ俺もおじさんだっていうのに、何が可愛いですか。いや、嬉しいですけど? 嬉しいんですけど、変なマウントだって取って来るし、駄々こねるし。皆の前じゃ出来るイケメンですけど、二人きりの時はそうでもないし。何なら少し我儘だし」
「やだ、主任が我儘言ってるところ見たい」
「山本」
「すみません」
「言いたいことは沢山あるんですけど、一番はですね……!」
「「うんうん」」
「…………」
また顔を伏せて、少しだけ黙る。
タンッ、とまた襖が開く音がしたが、店員さんが来たのかと思い気にしなかった。思えば、この時気にしていれば良かったと思う。(と、10秒後の俺が言っている)
また音がして、店員さん戻ったんだとポツリと呟いた。
「…………加藤主任、顔が良すぎるんですよ……もう俺、全部許しちゃいそうで」
「……」
「……」
「?」
急に二人が黙り込む。惚気に聞こえたか? と顔を上げれば、嬉しそうに口元を押さえている山本さんと、目を瞑っている田中さん。それから二人の間に黒いスーツの足元。
「…………あ゛あ゛っ!!!!」
二度目の悲鳴は、あが一つ多くなっていた。
*******
田中さんと山本さんに連れて来られた居酒屋。
俺を気遣ってのことだが、出来れば穏便に済ませたい。出来るなら、二人が飲んでいるビールに酔って、楽しい飲み会へとシフトチェンジしたい。
俺の願望とは別に、酔ってしまったのは俺の方だったわけで。
「だって仕方ないじゃないですか」
ある程度、空腹だったお腹が満たされ。本題に入ろうとばかりに、二人が俺の方へ向き直り、逃げられないと悟った。ビールを進められ、ええい! ままよ! と腹を括って喉を潤した。喉を通ったビールの苦さが、未だに残る。グワン……! と 首が回り、ジェットコースターに乗っているような視界になったと、開いた口は言ってはいけないことを口走っていた。
「水野?」
「水野君?」
「気を張っとかないと、好きだって認めちゃうじゃないですかぁぁっ……!」
(ああ、俺。酒に弱かったんだ)
その、コンマレベルの後だ。おかしいな? 感じた後に、自分の言った言葉を頭の中で復唱してみる。
(…………ん? んんん???)
『好きだって認めちゃうじゃないですか』
「…………あ゛っ!!!!」
ダンッ! とグラスの代わりに自分の頭をテーブルに打ち付けた。
穴があったら入りたい。いや、むしろ今から俺が掘るから入らせてくれ!
「えっと……水野君?」
「違うんです、そういった意味じゃなくて! 本当、そういう好きじゃなくて……!」
うううぅ゛―! と顔を上げれば、顔の赤みが引いた山本さんが俺を慰めようと背中を撫でた。
「大丈夫だ、水野。尊敬とか、そんなんだろ。まぁ、もしそういった好きでも、俺は別に気にしねぇし」
「私も」
「だから違うんですって……まぁ、それは置いておいて。俺だってですね、加藤せ……主任から可愛がられてるなっていう自覚はあるんですよ」
「自覚あるんかい」
「田中さん、静かにして下さい」
言ってしまった言葉に、一周回って開き直り。それに、平気なフリをしている方が変に思われなく良いだろうと言葉を続けた。言葉にすれば、少しは自分の中でも整理出来るかもしれない。ツラツラと流れるように口を出る言葉は、止まることなく。
「俺だって、子供っぽいことしてるなって分かってはいるんですよ。でも引くに引けないし。主任は変わらずだし。大体、主任だって悪いんですよ」
ゴッゴッゴッと、もう一度ビールを飲む。また視界がグワンと回ったが、二回目ともなれば慣れたもの。
「人の前で俺のこと可愛いっていうし。もうすぐ俺もおじさんだっていうのに、何が可愛いですか。いや、嬉しいですけど? 嬉しいんですけど、変なマウントだって取って来るし、駄々こねるし。皆の前じゃ出来るイケメンですけど、二人きりの時はそうでもないし。何なら少し我儘だし」
「やだ、主任が我儘言ってるところ見たい」
「山本」
「すみません」
「言いたいことは沢山あるんですけど、一番はですね……!」
「「うんうん」」
「…………」
また顔を伏せて、少しだけ黙る。
タンッ、とまた襖が開く音がしたが、店員さんが来たのかと思い気にしなかった。思えば、この時気にしていれば良かったと思う。(と、10秒後の俺が言っている)
また音がして、店員さん戻ったんだとポツリと呟いた。
「…………加藤主任、顔が良すぎるんですよ……もう俺、全部許しちゃいそうで」
「……」
「……」
「?」
急に二人が黙り込む。惚気に聞こえたか? と顔を上げれば、嬉しそうに口元を押さえている山本さんと、目を瞑っている田中さん。それから二人の間に黒いスーツの足元。
「…………あ゛あ゛っ!!!!」
二度目の悲鳴は、あが一つ多くなっていた。
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