とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛

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数学教師の落山先生

第23話 満ちず足らず

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「久しぶり」
 後ろから声がかかる。その声はどこかで聞いたことがあるような、なんて曖昧なものではない。過去を強烈に刺激するその声は私が求めてやまなかった、そして半ば以上あきらめていた人の声でもある。
「落山、先生・・?」
「ひどいな、君は。もう私のこと忘れたの?」
 目の前でわざとらしく泣きまねをするのは私をこうした原因ともいえる人だった。全ての原因が彼女にあるとはおもわない。いずれ私はこうなっていただろうとも思う。でも、それでも、私を好きなだけ弄んでふい、とどこかへ消えられた身としては恨み言の一つも言いたくもなる。
「久しぶりですね。先生。ずいぶんと元気そうですね」
「・・・なんか怒ってる?」
「怒ってないと思ってたんですか?何も言わないで塾もやめちゃって」
「それは、いろいろとあったんだよ」
 この人は本当に何も言わずに私の担当を降り、塾もやめ、連絡先もわからずじまいだったのだ。探そうにも講師の個人情報を教えてもらえるわけもなく、一年以上が経っていた。
「というかなんでここにいるんですか?」
「え?最初に全校生徒の前であいさつしたんだけど、もしかしてさぼった?」
 …そういえばさぼった気がする。別に新しい教師に興味もなかったし、保健室で養護教諭とおしゃべりしていた気がする。
「それにしてもずいぶんと派手に遊んでいるね」
「・・・何のことですか?」
 とりあえず白をきってから、この前聞いた話を思い出す。曰く、生徒に手を出している悪い教師がいるとかなんとか。もしかして、この人だったのだろうか。いや、この人以外にそうぽんぽんとそんな教師がいるとは、いるとは、そういえばいた。私に手を出した国語教師がいた。
「別に隠さなくてもいいよ。いくつかは見たしね」
 見られていたらしい。まぁ、結構派手にやった時もあるしたぶんそのうちのどれかだとは思うけれど。
「それで、何か用ですか」
「そんな固くならないでよ。懐かしい顔があったからちょっと話をしに来ただけだって」
「話、ですか」
「そう、話」
 彼女の言葉にどれだけの真意が含まれているかなんて私には理解できない。先生が塾をやめることも察知できなかった私が一体どれだけ考えれば彼女の思考に至るかなんて考えるだけ無駄だろう。
「まあ、いいですけど」
 少しだけ考えた後、私は彼女についていくことにした。どのみちここで断ったら最後、二度と会うことができないような、そんな気がしたのだ。
 ついてこいと言わんばかりの背中からは彼女の表情も何を考えているかも窺い知ることはできない。でもそんなことはどうでもいいと思えてしまえる、その程度には私は浮かれていた。久方ぶりに会う初めて本気で好きになった人との再会はまるで夢のようで、吸い寄せられるように私は彼女のあとをついていった。


 ついていった先は数学教師用の準備室だった。各教科にこれだけ大きい準備室が用意されているのはかなり珍しいことだということが分かったのは実は最近だ。学年と教科で別れた準備室は一つ一つが私の部屋ぐらいある。正直羨ましい。部屋の中は思ったよりも綺麗にされていた。
「・・・?」
 部屋の中を眺めているとなんだか違和感がある。妙に統一感に欠けるのだ。どう見てもひとりで使っている様子なのに、全体的にちぐはぐな印象がある。取り合えずその違和感は放置することにして促されるままに席につく。
「どうかした?」
 さすがに統一感がないですね、とは言えずに曖昧にごまかすしかない。ついさっき放置することにした違和感がどんどんと膨れ上がって無視できない規模になっているのを感じる。再会の喜びが落ち着くほどに違和感が脳と心を占めていく。目の前に先生ともっと話すことがあるのに、話したいことがあるのに、棘のように刺さって抜けない。
 先生に出されたお茶を飲む。ふわりと広がるいい匂いはお茶に何一つ詳しくない私ですらいいものだとわかるほどだった。なんでこんないいお茶がこんな場所に・・・。
「美味しいでしょ、それ。PTAの方に貰ったの」
「PTAに」
「そう、仲良くしている人もいるからね。さすがに大っぴらに受け取れるわけじゃないけどね」
 それを私に話してもいいのだろうか。とりあえずそれだけ信用されていると好意的に受け取ることにした。そういえば久々に会ったのだし、あの時渡せなかったプレゼントでも持ってこようか、いや、さすがに気持ち悪いか?そんなことを考えて煩悶していると、気づく。
「あ」
 思わず漏れた声に不思議そうな顔をする先生の顔を思わず見つめる。
「ここの全部貰い物?」
 妙に統一感が無いのもそれなら納得がいく。人形、アクセサリーといった一般的なものから造花、香水といった明らかに年齢が合わないものまで。
「惜しいね。別に私のものじゃない」
 どういう、という質問は空気に乗ることなく霧散する。

「落山先生、あら、取込み中だったの」

「昔の知り合いでして、ちょっとした昔話をしてただけですよ」
 ノックも無しに部屋に入ってきたのは、確か、科学の先生だっけ?違う学年の先生はあんまりわからない。私をちらりと見る視線に籠っていたのは明らかな、嫉妬と、不快の感情。あからさまな悪感情を向けられると流石にたじろいでしまう。
「止めてほしい、かな」
 思わず怯える私に助け舟を出したのは先生だった。その言葉で一気に顔に乗る悪感情が散るのを感じる。さっきとは打って変って穏やかな表情で彼女は続ける。
「ふぅん、昔話、ね」
「な、何ですか」
「別に?昔話だけで済むといいねって」
 そんなことを言いながら、部屋の棚にあった高そうな香水を掴む。あれはこの人のだったのだろうか。
「これ、一回持って帰るね。また新しいの持ってきてあげる」
「ふふ、ありがと。いつもいい匂いをありがとね」
 短い会話だけでもこの二人が相当親密な関係性のあることは理解できてしまう。その割には甘い空気がさっぱり無いのが気になったけど。
「さて」
 そんなことを言いながら先生は、部屋のドアにカギをかける。
「先生?」
「まさか本当に昔話だけで終わるつもりだったの?少し見ない間にずいぶんと初心になったね」

 そう言いながら服に手をかける先生の顔は見慣れた”雌”の顔をしていた。
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