1 / 6
夏の少し前
しおりを挟む
じゃあ、どこから話そうか。ああ、つまらない茶々も相槌もいらないよ。そういうのは他の記者たちでもう食傷気味なんだ。あいつらと来たら、余計な相槌と茶々が使命だと思っている節があるからね。…そんな顔をしないでくれ、別に今のあんたに文句を言ったってしょうがないしな。
簡潔に行こう、弟は俺が中学生の時に死んだんだ。何もなかったよ、事件でもないし、呪いだとかそんな類でもない。もちろんどこかの怪しい集団が弟を攫って何かの儀式に使ったとかそういうわけでもない。熱中症だったかな。まだ小学生だったからね。熱中症だから、なんて言っても話を聞くわけがないよな。渡された水筒に碌に口もつけないまま遊びまわって、疲れた、って言ってベンチに横になって、そのまま、だ。馬鹿だよな、少しぐらい兄の言うことを聞いてほしかったよ。今さら言ったって何にもならないんだけどな。
可愛いやつだったよ、いや、そんな意外そうな顔をしないでくれよ。あんた、兄弟は?そうか、いないのか、じゃあわかりにくいかもしれないな。周りでも兄弟がいないやつは理解していなかったような気がするよ。とにかくそんんなもんなんだよ。生意気だし、言うことは聞かないし、俺のことをなめ腐っていたけど、それでも弟なんだよ、可愛くて仕方がないんだよ。頼まれたら文句言いながら、愚痴を言いながら、結局やってあげちゃうんだよ。弟ってだけでなんだか許しちゃうんだよ。ま、ここら辺は人に依るだろうけどな。
それで、あー、何だ、あいつが死んだって言われた時はしばらく放心していたらしいよ。流石にそこまで詳しくは覚えてないけど。不思議そうな顔で棺を眺めていたそうだ。もうその時は中学生だったんだけど、それでもまだ一年生かそこらだったからな。理解するのは難しかったんだろうな。別に頭がよかったわけでもないし、泣き始めたのはだいぶ後になってからだったらしい。そこからは流石に覚えているよ。夜通し泣いていたよ。知ってるか?泣きすぎると涙も枯れるんだよ、本当に泣いてるのに、我慢しているわけでもないのに、涙が一滴も出てこないんだよ。泣き声だけが延々と出ている感じなんだ。いや、涙が枯れるほどだったし、声も枯れてただろうな。涙折れ声も尽きてってやつだ。あんだけ泣いたのはいまだにあの時だけだよ。去年に父親が死んだんだけどな、流石に弟の時ほどは泣かなかったよ。
すまんな、話が逸れた。それで、弟が死んでからの俺は相当に沈んじゃったんだ。そりゃそうだよな。生意気なクソガキって言ったって血を分けた弟で毎日顔を合わせて話をしてたんだ。喧嘩だって数えきれないほどしたさ、殴り合いに罵り合い、どれだけしたのか見当もつかないさ。でもある朝からそれはもう一回だって増えなくなったんだから、そこからだろうな、本当に心が落ちてきちゃったのは。朝起きてから隣を見ても布団が無いし、一緒に隣の席で朝ご飯を食べることもなくてさ。学校から帰ってきたバカみたいなデカい声もなくなって、大騒ぎしながら一緒にゲームして母親に怒られたりとかもさ、全部だよ全部。ぜーんぶ無くなっちまったんだ。正直そのころの家の中のことなんて何も覚えてないよ。いなくなった弟のことで頭がいっぱいだったからね。ああ、でも家の中が異様に静かになったのは覚えてるよ。両親のどっちかだろうけど、少しぐらい賑やかそうと思ってテレビをつけたりもするんだけどね。誰も笑ったりしなかったよ、テレビを点けた本人も含めてな。あの静かさは本当にキツかったよ。今思い出すだけでもなんか嫌な気持ちになる。
それでも流石に何か月かもすればそれなりにもとに戻ってくるもんさ。弟がいなくたって仕事はあるし、家事があるし、やらなきゃいけないタスクは消えたりしないからね。・・・その顔だともうわかってそうだね、そう、俺を除いて、少しづつ元に戻ったんだ。
どうしても弟がいない生活に慣れることが出来なくて、両親にあたったりもしたさ。それでも多少は落ち着いたりしてね、暴れたり、物に当たったりもしなくなった。それだけでも随分とマシになったものだよな。それでもどうしても学校には行けなくてね。保健室に何回か行ったのが限界だった。
中学校だから、別に留年とかするわけではないけど、両親的には気が気じゃなかったんだろうな。病院とかにも行って、ちょっとどういう経緯を辿ったのかは覚えていないな、すまないけど。それで、田舎に行くことになったんだ。母方の、あれ、父方だったかな、うーん、あやふやだな、まぁどっちかは忘れたけど、その祖母ちゃんがいる田舎に行くことになったんだよ。夏休みの間だけだったから、二週間とかそこらか?まぁそんなもんだろうけど。産まれた時に何回か行ったぐらいだって話だったから、全く記憶には無かった場所だったな。名前を言われても全くピント来なかったよ。今では年一で年賀状を出したりするけど、行ってないな。偶には顔を出そうかな、相当お世話になったはずだし。
とにかく、それで田舎に行ったんだ。人よりも飼ってる家畜のほうが多そうな田舎だったよ。田んぼとかが広がってるわけじゃなくて、本当に山間って感じだったはずだ。どこ向いても山が広がっていてね、初めて行ったときはそれなりに興奮したよ。今じゃ億劫さしか感じない土地だけどな。なんで子供の時ってあんなに虫に抵抗がないんだろうな。素手で掴まえて放り投げて遊んだ記憶すらあるよ。あんた、知ってたりする?・・・ふぅん、へぇ、そうなんだ、確かに両親はどっちも虫を見たときはかなり嫌そうな顔をしていたっけな。あそこで何もない顔をしてたら今も俺は素手で虫を捕まえたりできたのかもしれないな。いや、それはそれで嫌だな。別に今のままでもいいか。
すまん、また話がずれたな。えーっと、そうそう、祖父とか祖母って言ったってその時はまだ還暦も迎えてなかったかもしれないはずだ。それで孫がいるんだから、田舎おそるべしってか感じだよな。俺?結婚もまだだよ。仕事で手一杯で他人の人生なんて背負う余裕ないさ。友達が言うにはなんとかなるから大丈夫って言ってたけどね。まぁそいつは去年の暮れぐらいには離婚してたけどね。なんとかなってないよな。あんたはしてるのかい、指輪はしてないみたいだけど。ああ、一緒か、もうそろ周りがうるさくなってくる頃合いだよな。
どうにも話が逸れるな。一回休憩してもいいかい。もうお茶もなくなったみたいだし。あら、あんたも空じゃないか。お代わりはいかがかな?ああ、じゃあ、少し待ってくれ。淹れてきたらまた話そう。
簡潔に行こう、弟は俺が中学生の時に死んだんだ。何もなかったよ、事件でもないし、呪いだとかそんな類でもない。もちろんどこかの怪しい集団が弟を攫って何かの儀式に使ったとかそういうわけでもない。熱中症だったかな。まだ小学生だったからね。熱中症だから、なんて言っても話を聞くわけがないよな。渡された水筒に碌に口もつけないまま遊びまわって、疲れた、って言ってベンチに横になって、そのまま、だ。馬鹿だよな、少しぐらい兄の言うことを聞いてほしかったよ。今さら言ったって何にもならないんだけどな。
可愛いやつだったよ、いや、そんな意外そうな顔をしないでくれよ。あんた、兄弟は?そうか、いないのか、じゃあわかりにくいかもしれないな。周りでも兄弟がいないやつは理解していなかったような気がするよ。とにかくそんんなもんなんだよ。生意気だし、言うことは聞かないし、俺のことをなめ腐っていたけど、それでも弟なんだよ、可愛くて仕方がないんだよ。頼まれたら文句言いながら、愚痴を言いながら、結局やってあげちゃうんだよ。弟ってだけでなんだか許しちゃうんだよ。ま、ここら辺は人に依るだろうけどな。
それで、あー、何だ、あいつが死んだって言われた時はしばらく放心していたらしいよ。流石にそこまで詳しくは覚えてないけど。不思議そうな顔で棺を眺めていたそうだ。もうその時は中学生だったんだけど、それでもまだ一年生かそこらだったからな。理解するのは難しかったんだろうな。別に頭がよかったわけでもないし、泣き始めたのはだいぶ後になってからだったらしい。そこからは流石に覚えているよ。夜通し泣いていたよ。知ってるか?泣きすぎると涙も枯れるんだよ、本当に泣いてるのに、我慢しているわけでもないのに、涙が一滴も出てこないんだよ。泣き声だけが延々と出ている感じなんだ。いや、涙が枯れるほどだったし、声も枯れてただろうな。涙折れ声も尽きてってやつだ。あんだけ泣いたのはいまだにあの時だけだよ。去年に父親が死んだんだけどな、流石に弟の時ほどは泣かなかったよ。
すまんな、話が逸れた。それで、弟が死んでからの俺は相当に沈んじゃったんだ。そりゃそうだよな。生意気なクソガキって言ったって血を分けた弟で毎日顔を合わせて話をしてたんだ。喧嘩だって数えきれないほどしたさ、殴り合いに罵り合い、どれだけしたのか見当もつかないさ。でもある朝からそれはもう一回だって増えなくなったんだから、そこからだろうな、本当に心が落ちてきちゃったのは。朝起きてから隣を見ても布団が無いし、一緒に隣の席で朝ご飯を食べることもなくてさ。学校から帰ってきたバカみたいなデカい声もなくなって、大騒ぎしながら一緒にゲームして母親に怒られたりとかもさ、全部だよ全部。ぜーんぶ無くなっちまったんだ。正直そのころの家の中のことなんて何も覚えてないよ。いなくなった弟のことで頭がいっぱいだったからね。ああ、でも家の中が異様に静かになったのは覚えてるよ。両親のどっちかだろうけど、少しぐらい賑やかそうと思ってテレビをつけたりもするんだけどね。誰も笑ったりしなかったよ、テレビを点けた本人も含めてな。あの静かさは本当にキツかったよ。今思い出すだけでもなんか嫌な気持ちになる。
それでも流石に何か月かもすればそれなりにもとに戻ってくるもんさ。弟がいなくたって仕事はあるし、家事があるし、やらなきゃいけないタスクは消えたりしないからね。・・・その顔だともうわかってそうだね、そう、俺を除いて、少しづつ元に戻ったんだ。
どうしても弟がいない生活に慣れることが出来なくて、両親にあたったりもしたさ。それでも多少は落ち着いたりしてね、暴れたり、物に当たったりもしなくなった。それだけでも随分とマシになったものだよな。それでもどうしても学校には行けなくてね。保健室に何回か行ったのが限界だった。
中学校だから、別に留年とかするわけではないけど、両親的には気が気じゃなかったんだろうな。病院とかにも行って、ちょっとどういう経緯を辿ったのかは覚えていないな、すまないけど。それで、田舎に行くことになったんだ。母方の、あれ、父方だったかな、うーん、あやふやだな、まぁどっちかは忘れたけど、その祖母ちゃんがいる田舎に行くことになったんだよ。夏休みの間だけだったから、二週間とかそこらか?まぁそんなもんだろうけど。産まれた時に何回か行ったぐらいだって話だったから、全く記憶には無かった場所だったな。名前を言われても全くピント来なかったよ。今では年一で年賀状を出したりするけど、行ってないな。偶には顔を出そうかな、相当お世話になったはずだし。
とにかく、それで田舎に行ったんだ。人よりも飼ってる家畜のほうが多そうな田舎だったよ。田んぼとかが広がってるわけじゃなくて、本当に山間って感じだったはずだ。どこ向いても山が広がっていてね、初めて行ったときはそれなりに興奮したよ。今じゃ億劫さしか感じない土地だけどな。なんで子供の時ってあんなに虫に抵抗がないんだろうな。素手で掴まえて放り投げて遊んだ記憶すらあるよ。あんた、知ってたりする?・・・ふぅん、へぇ、そうなんだ、確かに両親はどっちも虫を見たときはかなり嫌そうな顔をしていたっけな。あそこで何もない顔をしてたら今も俺は素手で虫を捕まえたりできたのかもしれないな。いや、それはそれで嫌だな。別に今のままでもいいか。
すまん、また話がずれたな。えーっと、そうそう、祖父とか祖母って言ったってその時はまだ還暦も迎えてなかったかもしれないはずだ。それで孫がいるんだから、田舎おそるべしってか感じだよな。俺?結婚もまだだよ。仕事で手一杯で他人の人生なんて背負う余裕ないさ。友達が言うにはなんとかなるから大丈夫って言ってたけどね。まぁそいつは去年の暮れぐらいには離婚してたけどね。なんとかなってないよな。あんたはしてるのかい、指輪はしてないみたいだけど。ああ、一緒か、もうそろ周りがうるさくなってくる頃合いだよな。
どうにも話が逸れるな。一回休憩してもいいかい。もうお茶もなくなったみたいだし。あら、あんたも空じゃないか。お代わりはいかがかな?ああ、じゃあ、少し待ってくれ。淹れてきたらまた話そう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる