81 / 91
第二章 乱れ桜に幕が下りる
二十一 逃げられない過去
しおりを挟む
かつての掏摸仲間──芒が進路を塞ぐように立ちはだかり、低い声で言った。
「おい、こま。雇い主を刺して逃げたくせに、なんでまだ目と鼻の先でうろついてやがんだ。もしかしてバカなのか、おめぇはよ?」
そのうち来ると思っていた。
芒が小幕を血眼で捜しているという噂は、ずっと耳に入っていたからだ。
先日まで身を置いていた蕎麦屋には博徒『一雁組』の息がかかっている。
小幕が男娼で稼いだ金は、彼らと蕎麦屋の主人が上前をはねて、自分自身のもとにはほとんど入らない。
最低限の衣食住、そして、この街で生きていても構わないという、言うなれば生存の許可を得るための支払いである。
「べつに逃げてませんよぉ。蕎麦屋の件は、嫉妬した奥さんが刃物を振り回して、止めてるうちに僕が刺したみたいになっちゃったんですって。向こうもそれをわかってるから追ってきませんし」
笑顔の仮面をつけて、上目遣いに彼を見あげた。
「それに、男娼をやるのは今年の春までだって、親分さんと約束したって言ったじゃないですか。それをご主人が反故にしようとしたから、ちょこっと揉めただけで。僕だって円満退職したかったのになぁ」
「親父の布団んなかで、その気持ち悪ィ喋り方で媚びて、魔羅を舐りながらした約束か? んなもん無効だって言ってんだろ。もう年季はなくなった。死ぬまで女郎として使えと蕎麦屋に命じたのは俺だ」
まだ下っ端のはずの芒がここまで強気でくるということは、博徒の親玉は成長した小幕に興味を失くしたのだろう。
数年前まではしょっちゅう呼びだされていたが、年を経るごとに頻度は減って、この一年はほとんどお呼びがなかった。
無論失くしてくれたほうがありがたいのだが、小幕の始末を芒に一任されたあろうことはだいたい想像がつく。
芒にさえつけ狙われていなければ、用済みとしてさほど頓着されずに抜けられたはずだった。
奴らの縄張りである浅草を出ればよかったのかもしれない。
だが、桜蒔のいない場所で生きていても意味がない。
それに自分だけ逃げたところで、代わりに大事なひとたちを狙ってくるのもわかっていた。
芒はそういう奴なのだ。肉体だけではなく、精神的に小幕をとことん痛めつけないと気が済まない。
思わず舌打ちが漏れそうになった。
「じゃあ、また刺して逃げようかな? てめぇを」
「物騒だなァ。新しいお仕事を紹介してくれた文士だかの偉い先生に迷惑かけんなよ? おめぇはガキん頃からあのオッサンに付きまとってたよな。新しく雇われた不気味な家もうちのシマだぜ? あそこに幽霊以外が住んでたとは、笑える」
今日見つかったわけではなく、もっと前から嗅ぎまわられていたようだ。
いなくなった小幕の近辺を調べ、弱点をさらってから満を持して目の前に現れた。
たいしたシノギにもならないだろうに、この執着はなんだろう。
口調を戻し、にこやかに答えた。
「連れ戻しても、もう限界ですよ? 男娼の花盛りは過ぎちゃいました。僕、じつは結構骨とか太いし、今まで慎重に削ぎ落してただけで、ほんとは筋肉つきやすいんですよね~。最近はいっぱいご飯食べさせてもらえるから、背丈もまだ伸びるかも」
「河岸見世と同じで、需要なんかあるとこにゃあんだよ。ほら、今晩の客だ」
走り書きの紙切れを渡される。
場所と客の名前。
何度か相手をしたことがある。嗜虐趣味の変態親父だ。
「作家先生が大事なら妙な気ィ起こすなよ。『浅草の子供たち』は一蓮托生だ。足抜けできるのは死んだときだけ。それまで、生きていることの罰金をきっちり払い続けな」
***
牡丹荘に瓦斯七輪などというハイカラな設備はない。
竈の火で揚げ物をするには、慎重に油の温度を調整する必要がある。
馬鈴薯を潰したものを俵型に丸め、メリケン粉と溶き卵と天日干しで作ったパン粉をまぶす。狐色になるまでからっと揚げる。
筍と絹莢の煮物は先に作っておいたので、味が染みている頃だ。
おひつにご飯を入れ、料理と食器を食卓に並べた。
「よし、ぜんぶうまくできた。待ってるって言っておいて、揚げたてじゃなくて申し訳ないけど……」
完成した夕飯に布製の蝿帳を被せる。
用があって出かける旨を一筆書いて、残しておいた。
そのうち売っ払おうと思っていた振袖や化粧品をふたたび引っ張りだし、身支度をする。
前は毎日の習慣だったから、じっくり眺めることはなかったが──
数週間ぶりに女装した自身の姿を鏡に映すと、若干の違和感を覚えた。
ほんの一、二年前なら、初見の相手には男だとばれない自信があったのに。
「顔は、まあ……お化粧すればまだ可愛いかな。肩まわりがなぁ~」
やはり体格の変化は大きい。女物では身頃と袖の境目の位置が大きくずれる。
今日は暖かいのだが、陰間らしく振袖のうえから羽織を着て誤魔化すことにした。
牡丹荘を出て、まずは六区のミルクホールに向かう。
桜蒔がなにもされていないかの確認だ。
「オージさん♡」
後ろ姿を見つけて抱きつくと、鼻先を赤茶の猫っ毛がくすぐった。
「あー、くっつくな」
「一度もお見舞いに来てくれないなんて、冷たいじゃないですかぁ」
「行ってもできることないじゃろ」
まったく予想していたとおりの返答があって、思わずにんまりしてしまった。
桜蒔は筆が乗っているようで、いつになく上機嫌だ。
「悩んどった次の脚本、ようやく固まってきた。『ドラキュラ伯爵』を翻案しようと思っとってのう」
「どらきゅら? なんですそれ」
文学などよく知らない。
でも、彼の話ならなんでも聞きたかった。
こう見えて日本一頭のいい学校を卒業しているらしいが、皮肉屋のわりに桜蒔から馬鹿にされたり、見下されたことは一度としてない。
わざと知識をひけらかすこともないし、乞えば小幕にもわかるようにちゃんと教えてくれる。
働くうえで困らない程度の読み書きができるのも、桜蒔のおかげだ。
権威や世間の評判に興味を持たず、自分の目で見て、頭で考えた物事でのみ判断する。そして自分の芸術を追求し、自分の好んだ相手のみを愛でる。
べつに桜蒔が本当に冷たい人間だとは思っていない。ただ、自分の物差しが明確だからそう見えるだけだ。
そういう人物だからこそ、浮浪児の掏摸なんかをまともに相手にしてくれたのである。
これまで受けてきた視線は、蔑みか憐れみのどちらかだった。誰も小幕がどう感じて、どう考えて生きているかを見ようともせず、誰も同じ人間だと思っていなかった。
小幕の人格を初めて認めてくれたのが、桜蒔だ。
彼が脚本を担当している舞台、活動写真は劇場に忍び込んだり、なけなしの生活費をはたいて観に行った。
あの頭のなかではいったいどんな物事が起こっているのだろう。なにもかも知りたかった。
付きまとって、いろんなことを尋ねて、話をした。
そのせいで、桜蒔が隠していたつもりだった残菊への深い愛情にも早々に気づいてしまったのだが。
力を込めて、後ろからぎゅっと抱きしめる。
幼い頃の小幕にとってあんなに大きかった体が、今は腕のなかにすっぽり収まるほど小さい。
「……ほんで、なして女装しとるん?」
「似合いますか? 可愛いですか?」
正面に立って平然と振袖を見せつけたが、その視線にわずかな失望が含まれているのは気づいていた。
せっかくちゃんとした仕事を紹介してくれたのだから、呆れられて当然だ。
狐のお面みたいに鋭い、一見なにを考えているのかわからない目。色つきの眼鏡がよけいに感情を覆い隠す。
でも、その奥に隠れた瞳は、明るく澄んだ茶色をしている。
いつもぶかぶかの羽織を着ているのは、締めつけられるのが嫌いだからだ。
男にしては小さめの手が指先だけ覗いていて、だいたいの場合、万年筆か煙管が握られている。
左手で綴られるせっかちそうで流暢な文字も、紡がれるロマンチックな物語も。
西の訛りが混ざった早口の巻舌も、年齢にしては幼くて出会った頃とそう変わらない声と顔も。
ぜんぶが好きだった。
十年以上、六区で毎日姿を捜し求めてきた。
こうして、興行街のどこかに存在していてくれるだけで幸せだった。
──素直に、そう言えればいいのに。
でも、こんな恰好で伝えられるはずもない。
新しい道を示してくれたのに、その厚意を裏切っているのだから。
せっかく親身になってくれた百夜たちに対しても罪悪感を抱えながら、心の奥底を隠すために無理やり笑顔を張りつけた。
「常連客から呼び出しがありましたし、夜のお勤めをしてきます!」
柄だけは豪華な袖を振って、店を出る。
桜蒔とは反対方向に大通りを進むと、道端にしゃがみ込んで待ち伏せしていたらしい大柄な男が隣にやってきた。
小幕がちゃんと仕事に向かうか確認しにきたらしい。
芒は勝手に並んで歩きだし、挑発的に言う。
「今日の客、相当な変態だよなァ。毎回ぐちゃぐちゃにヤられてるが、大丈夫か?」
そんなことは百も承知のくせに。
自分で斡旋しておいて、白々しい。
「べつに、なんとも思ってませんよ。心は無なんで~」
「本当は悦んでんじゃねェだろうなぁ。あんな年上のオヤジと寝て」
「やめてくださいよぉ。反吐がでる。金を引っ張れる相手なら、誰でもいいです。今の状況から早く抜け出したいので」
どうせ拒否権はないのだ。客なんか誰でもよかった。
それより、今回の分を収めたらしばらく放っておいてほしい。
早く芒から離れたくて足早に歩いていると、いきなり腕を掴まれた。
「……なんだよ、まだ時間になってないだろ。いまさら逃げやしねぇっての」
つい、昔の喋り方に戻っていた。
「いいから来いっつってんだよォ、こま」
半ば引きずられ、路地裏に連れ込まれてしまった。
「おい、こま。雇い主を刺して逃げたくせに、なんでまだ目と鼻の先でうろついてやがんだ。もしかしてバカなのか、おめぇはよ?」
そのうち来ると思っていた。
芒が小幕を血眼で捜しているという噂は、ずっと耳に入っていたからだ。
先日まで身を置いていた蕎麦屋には博徒『一雁組』の息がかかっている。
小幕が男娼で稼いだ金は、彼らと蕎麦屋の主人が上前をはねて、自分自身のもとにはほとんど入らない。
最低限の衣食住、そして、この街で生きていても構わないという、言うなれば生存の許可を得るための支払いである。
「べつに逃げてませんよぉ。蕎麦屋の件は、嫉妬した奥さんが刃物を振り回して、止めてるうちに僕が刺したみたいになっちゃったんですって。向こうもそれをわかってるから追ってきませんし」
笑顔の仮面をつけて、上目遣いに彼を見あげた。
「それに、男娼をやるのは今年の春までだって、親分さんと約束したって言ったじゃないですか。それをご主人が反故にしようとしたから、ちょこっと揉めただけで。僕だって円満退職したかったのになぁ」
「親父の布団んなかで、その気持ち悪ィ喋り方で媚びて、魔羅を舐りながらした約束か? んなもん無効だって言ってんだろ。もう年季はなくなった。死ぬまで女郎として使えと蕎麦屋に命じたのは俺だ」
まだ下っ端のはずの芒がここまで強気でくるということは、博徒の親玉は成長した小幕に興味を失くしたのだろう。
数年前まではしょっちゅう呼びだされていたが、年を経るごとに頻度は減って、この一年はほとんどお呼びがなかった。
無論失くしてくれたほうがありがたいのだが、小幕の始末を芒に一任されたあろうことはだいたい想像がつく。
芒にさえつけ狙われていなければ、用済みとしてさほど頓着されずに抜けられたはずだった。
奴らの縄張りである浅草を出ればよかったのかもしれない。
だが、桜蒔のいない場所で生きていても意味がない。
それに自分だけ逃げたところで、代わりに大事なひとたちを狙ってくるのもわかっていた。
芒はそういう奴なのだ。肉体だけではなく、精神的に小幕をとことん痛めつけないと気が済まない。
思わず舌打ちが漏れそうになった。
「じゃあ、また刺して逃げようかな? てめぇを」
「物騒だなァ。新しいお仕事を紹介してくれた文士だかの偉い先生に迷惑かけんなよ? おめぇはガキん頃からあのオッサンに付きまとってたよな。新しく雇われた不気味な家もうちのシマだぜ? あそこに幽霊以外が住んでたとは、笑える」
今日見つかったわけではなく、もっと前から嗅ぎまわられていたようだ。
いなくなった小幕の近辺を調べ、弱点をさらってから満を持して目の前に現れた。
たいしたシノギにもならないだろうに、この執着はなんだろう。
口調を戻し、にこやかに答えた。
「連れ戻しても、もう限界ですよ? 男娼の花盛りは過ぎちゃいました。僕、じつは結構骨とか太いし、今まで慎重に削ぎ落してただけで、ほんとは筋肉つきやすいんですよね~。最近はいっぱいご飯食べさせてもらえるから、背丈もまだ伸びるかも」
「河岸見世と同じで、需要なんかあるとこにゃあんだよ。ほら、今晩の客だ」
走り書きの紙切れを渡される。
場所と客の名前。
何度か相手をしたことがある。嗜虐趣味の変態親父だ。
「作家先生が大事なら妙な気ィ起こすなよ。『浅草の子供たち』は一蓮托生だ。足抜けできるのは死んだときだけ。それまで、生きていることの罰金をきっちり払い続けな」
***
牡丹荘に瓦斯七輪などというハイカラな設備はない。
竈の火で揚げ物をするには、慎重に油の温度を調整する必要がある。
馬鈴薯を潰したものを俵型に丸め、メリケン粉と溶き卵と天日干しで作ったパン粉をまぶす。狐色になるまでからっと揚げる。
筍と絹莢の煮物は先に作っておいたので、味が染みている頃だ。
おひつにご飯を入れ、料理と食器を食卓に並べた。
「よし、ぜんぶうまくできた。待ってるって言っておいて、揚げたてじゃなくて申し訳ないけど……」
完成した夕飯に布製の蝿帳を被せる。
用があって出かける旨を一筆書いて、残しておいた。
そのうち売っ払おうと思っていた振袖や化粧品をふたたび引っ張りだし、身支度をする。
前は毎日の習慣だったから、じっくり眺めることはなかったが──
数週間ぶりに女装した自身の姿を鏡に映すと、若干の違和感を覚えた。
ほんの一、二年前なら、初見の相手には男だとばれない自信があったのに。
「顔は、まあ……お化粧すればまだ可愛いかな。肩まわりがなぁ~」
やはり体格の変化は大きい。女物では身頃と袖の境目の位置が大きくずれる。
今日は暖かいのだが、陰間らしく振袖のうえから羽織を着て誤魔化すことにした。
牡丹荘を出て、まずは六区のミルクホールに向かう。
桜蒔がなにもされていないかの確認だ。
「オージさん♡」
後ろ姿を見つけて抱きつくと、鼻先を赤茶の猫っ毛がくすぐった。
「あー、くっつくな」
「一度もお見舞いに来てくれないなんて、冷たいじゃないですかぁ」
「行ってもできることないじゃろ」
まったく予想していたとおりの返答があって、思わずにんまりしてしまった。
桜蒔は筆が乗っているようで、いつになく上機嫌だ。
「悩んどった次の脚本、ようやく固まってきた。『ドラキュラ伯爵』を翻案しようと思っとってのう」
「どらきゅら? なんですそれ」
文学などよく知らない。
でも、彼の話ならなんでも聞きたかった。
こう見えて日本一頭のいい学校を卒業しているらしいが、皮肉屋のわりに桜蒔から馬鹿にされたり、見下されたことは一度としてない。
わざと知識をひけらかすこともないし、乞えば小幕にもわかるようにちゃんと教えてくれる。
働くうえで困らない程度の読み書きができるのも、桜蒔のおかげだ。
権威や世間の評判に興味を持たず、自分の目で見て、頭で考えた物事でのみ判断する。そして自分の芸術を追求し、自分の好んだ相手のみを愛でる。
べつに桜蒔が本当に冷たい人間だとは思っていない。ただ、自分の物差しが明確だからそう見えるだけだ。
そういう人物だからこそ、浮浪児の掏摸なんかをまともに相手にしてくれたのである。
これまで受けてきた視線は、蔑みか憐れみのどちらかだった。誰も小幕がどう感じて、どう考えて生きているかを見ようともせず、誰も同じ人間だと思っていなかった。
小幕の人格を初めて認めてくれたのが、桜蒔だ。
彼が脚本を担当している舞台、活動写真は劇場に忍び込んだり、なけなしの生活費をはたいて観に行った。
あの頭のなかではいったいどんな物事が起こっているのだろう。なにもかも知りたかった。
付きまとって、いろんなことを尋ねて、話をした。
そのせいで、桜蒔が隠していたつもりだった残菊への深い愛情にも早々に気づいてしまったのだが。
力を込めて、後ろからぎゅっと抱きしめる。
幼い頃の小幕にとってあんなに大きかった体が、今は腕のなかにすっぽり収まるほど小さい。
「……ほんで、なして女装しとるん?」
「似合いますか? 可愛いですか?」
正面に立って平然と振袖を見せつけたが、その視線にわずかな失望が含まれているのは気づいていた。
せっかくちゃんとした仕事を紹介してくれたのだから、呆れられて当然だ。
狐のお面みたいに鋭い、一見なにを考えているのかわからない目。色つきの眼鏡がよけいに感情を覆い隠す。
でも、その奥に隠れた瞳は、明るく澄んだ茶色をしている。
いつもぶかぶかの羽織を着ているのは、締めつけられるのが嫌いだからだ。
男にしては小さめの手が指先だけ覗いていて、だいたいの場合、万年筆か煙管が握られている。
左手で綴られるせっかちそうで流暢な文字も、紡がれるロマンチックな物語も。
西の訛りが混ざった早口の巻舌も、年齢にしては幼くて出会った頃とそう変わらない声と顔も。
ぜんぶが好きだった。
十年以上、六区で毎日姿を捜し求めてきた。
こうして、興行街のどこかに存在していてくれるだけで幸せだった。
──素直に、そう言えればいいのに。
でも、こんな恰好で伝えられるはずもない。
新しい道を示してくれたのに、その厚意を裏切っているのだから。
せっかく親身になってくれた百夜たちに対しても罪悪感を抱えながら、心の奥底を隠すために無理やり笑顔を張りつけた。
「常連客から呼び出しがありましたし、夜のお勤めをしてきます!」
柄だけは豪華な袖を振って、店を出る。
桜蒔とは反対方向に大通りを進むと、道端にしゃがみ込んで待ち伏せしていたらしい大柄な男が隣にやってきた。
小幕がちゃんと仕事に向かうか確認しにきたらしい。
芒は勝手に並んで歩きだし、挑発的に言う。
「今日の客、相当な変態だよなァ。毎回ぐちゃぐちゃにヤられてるが、大丈夫か?」
そんなことは百も承知のくせに。
自分で斡旋しておいて、白々しい。
「べつに、なんとも思ってませんよ。心は無なんで~」
「本当は悦んでんじゃねェだろうなぁ。あんな年上のオヤジと寝て」
「やめてくださいよぉ。反吐がでる。金を引っ張れる相手なら、誰でもいいです。今の状況から早く抜け出したいので」
どうせ拒否権はないのだ。客なんか誰でもよかった。
それより、今回の分を収めたらしばらく放っておいてほしい。
早く芒から離れたくて足早に歩いていると、いきなり腕を掴まれた。
「……なんだよ、まだ時間になってないだろ。いまさら逃げやしねぇっての」
つい、昔の喋り方に戻っていた。
「いいから来いっつってんだよォ、こま」
半ば引きずられ、路地裏に連れ込まれてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
振り向いてよ、僕のきら星
街田あんぐる
BL
大学4年間拗らせたイケメン攻め×恋愛に自信がない素朴受け
「そんな男やめときなよ」
「……ねえ、僕にしなよ」
そんな言葉を飲み込んで過ごした、大学4年間。
理系で文学好きな早暉(さき)くんは、大学の書評サークルに入会した。そこで、小動物を思わせる笑顔のかわいい衣真(いま)くんと出会う。
距離を縮めていく二人。でも衣真くんはころころ彼氏が変わって、そのたびに恋愛のトラウマを深めていく。
早暉くんはそれでも諦めきれなくて……。
星のように綺麗な男の子に恋をしてからふたりで一緒に生きていくまでの、優しいお話です。
表紙イラストは梅干弁当さん(https://x.com/umeboshibento)に依頼しました。
夢の続きの話をしよう
木原あざみ
BL
歯止めのきかなくなる前に離れようと思った。
隣になんていたくないと思った。
**
サッカー選手×大学生。すれ違い過多の両方向片思いなお話です。他サイトにて完結済みの作品を転載しています。本編総文字数25万字強。
表紙は同人誌にした際に木久劇美和さまに描いていただいたものを使用しています(※こちらに載せている本文は同人誌用に改稿する前のものになります)。
【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!
天白
BL
【あらすじ】バース性診断にてΩと判明した青年・田井中圭介は将来を悲観し、生きる意味を見出せずにいた。そんな圭介を憐れに思った曾祖父の陸郎が彼と家族を引き離すように命じ、圭介は父から紹介されたαの男・里中宗佑の下へ預けられることになる。
顔も見知らぬ男の下へ行くことをしぶしぶ承諾した圭介だったが、陸郎の危篤に何かが目覚めてしまったのか、前世の記憶が甦った。
「田井中圭介。十八歳。Ω。それから現当主である田井中陸郎の母であり、今日まで田井中家で語り継がれてきただろう、不幸で不憫でかわいそ~なΩこと田井中恵の生まれ変わりだ。改めてよろしくな!」
これは肝っ玉母ちゃん(♂)だった前世の記憶を持ちつつも獣人が苦手なΩの青年と、紳士で一途なスパダリ獣人αが小さなキセキを起こすまでのお話。
※オメガバースもの。拙作「生まれ変わりΩはキセキを起こす」のリメイク作品です。登場人物の設定、文体、内容等が大きく変わっております。アルファポリス版としてお楽しみください。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
シスルの花束を
碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年
~人物紹介~
○氷室 三門(ひむろ みかど)
・攻め(主人公)
・23歳、身長178cm
・モデル
・俺様な性格、短気
・訳あって、雨月の所に転がり込んだ
○寒河江 雨月(さがえ うげつ)
・受け
・26歳、身長170cm
・常に無表情で、人形のように顔が整っている
・童顔
※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。
※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。
※基本、三門視点で進みます。
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
最愛はすぐ側に
なめめ
BL
※【憧れはすぐ側に】の続編のため先に下記作品を読むことをおすすめ致します。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/573023887/670501303
〇あらすじ〇
律仁さんとの甘いひとときが瞬く間に過ぎていく中、渉太も遂に大学4年目を迎えた。就活も大手企業に内定をもらい、後は卒業を待つところで、以前律仁さんと大樹先輩と尚弥とでキャンプに行ったときの出来事を思い出していた。それは律仁さんと二人きりで湖畔を歩いているときに海外を拠点に仕事をしたいと夢を抱いていること、それに伴って一緒に暮らしてほしいことを彼から告げられていたことだった。
律仁さんと交際を始めて一年の記念日。返事を返さなければならない渉太だったが酷く気持ちを揺らがせていた……。
そんな中、那月星杏と名乗る元サークルの後輩をとあるきっかけで助けたことで懐かれ……彼女もまた兄が那月遼人という律の後輩で…。
忘れられない君の香
秋月真鳥
BL
バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。
両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。
母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。
アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。
最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。
政略結婚から始まるオメガバース。
受けがでかくてごついです!
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。
今さら嘘とは言いにくい
藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
オレ、蓮田陽介と大津晃は、同じ独身男子寮に住む仲間だ。学生気分も抜けずに互いにイタズラばかりしている。
ある日、オレは酔いつぶれた晃に、「酔った勢いでヤっちゃったドッキリ」を仕掛けた。
驚くアイツの顔を見て笑ってやろうと思ったのに、目が覚めた晃が発したのは、「責任取る」の一言で――。
真面目な返事をする晃に、今さら嘘とは言いにくくて……。
イタズラから始まる、ハイテンション誤解ラブコメ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる