42 / 91
番外編
クリスマスSS
しおりを挟む
先に仕事を終えた志千が自室で休んでいると、撮影から帰ってきた百夜が部屋に入ってきて言った。
「志千、知っているか。今日は基督弥撒という日らしい」
「ああ、基督教の祭日だろ。子どもの頃に絵本で見たな。三太九郎がなんかくれるんだっけ」
ロバに乗り、白い布を被った三太九郎。
志千は昔の記憶をふんわり思い出しながら答えた。
「それがどうかしたか?」
「衣装部からふたつプレゼントをもらった」
と、二種類の風呂敷を取りだした。
「ほー、そりゃよかったな。俺とおまえに?」
「いいや、どちらも志千に」
「俺??」
両方とも百夜に、というならまだわかる。
だが、しょっちゅう出入りしているものの部外者である志千にプレゼントとは、いったいなんだろうか。
「ただし、片方だけだ。好きなほうを選べ」
「うん?」
「この中には、撮影のために試作したが使わなかった衣装がはいっているらしい。志千が選んだほうを着てやる」
「衣装……?」
着物でももらったのかと思えば、そうではなかった。
「まず、こっちの赤い風呂敷には、ものすごく助平な衣装がはいっている」
「ちょっと待て」
聞いた瞬間、志千は頭を抱えた。
「いや、待て。いったん落ち着いてくれ」
「おれは至極冷静だが。貴様が落ち着け」
「だってその風呂敷、衣装にしては明らかに小せえじゃん。布の面積が心配なるだろ、そんなん」
「本当はデビュー作で着るはずだったんだが、過激すぎて却下されたものらしい」
そもそもあの作品の衣装でさえ、すでにきわどかったのだ。
百夜は年老いた画家に見初められる蠱惑的な美青年役だったが、絵のモデルになって様々な服を着せられる場面がある。
筆が乗るにつれて、老人の趣味としかいいようがないぎりぎりの衣装を着せられていく。
「俺さぁ、あのシーンになるたびに説明を噛みそうになって大変なんだぜ。客は大抵顔を真っ赤にして口を押さえてるし、関係者席じゃ偉いオッサンたちが羨ましそうに観てんだよ。実物のおまえに触れられるのが俺だけだと思うと、優越感がすげえのなんの」
「仕事中にそんなことを考えていたのか……」
あれより過激とは、いったいどんな衣装なのか。
「で、もうひとつは?」
「緑の風呂敷は、助平ではないが可愛い衣装だといっていた」
「助平ではないが、可愛い……?」
たしかに風呂敷の容量的に、布面積は最初のほうより大きそうだ。
つまり助平か、可愛いか、どちらか選べということである。
衣装部の若い娘たちの顔を思い浮かべ、確信した。
絶対に楽しんでいる。
おそらく百夜はこう言えと指示されたとおりに、素直に従っているだけだ。
志千と百夜の関係に気づいていて遊んでいるのである。
遊んでいるというか、向こうもはしゃいでいるのが目に浮かぶ。
「さあ、どうする?」
「うーん…………」
正直、どちらも捨てがたい。
助平ももちろん見たいが、すでに日本一可愛い百夜が、可愛い服まで身につけたらどうなってしまうのか。
「うーん……うう…………」
「悩みすぎじゃないか?」
「こんなに頭を使ったのは生まれて初めてかもしんねえ」
「もっと勤勉に生きろ」
散々悩んで、交渉することにした。
「百夜、ひとつ提案していいか」
「桜蒔先生みたいな言い方だな。どんな?」
「中身を確認してから決めさせてくれ」
「どれだけ真剣なんだ」
まあそれは指示になかったからいいだろう、と百夜は了承した。
やはり衣装部の手のひらの上で遊ばれている。
「じゃあ、赤い風呂敷から」
「ふーん、おお……? いや、これどうなって……んんん、って、紐じゃん!!」
はらりと風呂敷が広がった途端にでてきたのは、衣装というか、紐である。
ほぼ革紐でできた服。
作中ではなぜか裸体の胸の下あたりを革紐で縛った恰好が登場し、なんの意味があるんだと思っていたが、あれのさらに紐を多くした服である。
「紐だし、手首と足首が拘束されるし……」
和装なのか洋装なのかすら、もはや謎だ。
上半身を交差する紐、下半身を縛る紐、ほとんど拘束具と呼んで差し支えない。
そのうえ大事な部分はいっさい隠れていない。
「こっちを選んだら、本気でこれ着てくれんのかよ……!?」
「まあ衣装だしな。べつにいいぞ」
私生活ではすぐに「いやだ」と返すくせに、仕事となると頭が切り替わるらしく、撮影とか演技だという名目があれば百夜はちょっと感覚が麻痺しがちだ。
だが、あえて指摘してこの流れを止めたくはない。着てくれるのならば黙っておくに越したことはない。
「しかたねえな、助平じゃないほうも見てみるか……」
「しかたないって顔じゃないが。ほら」
緑の風呂敷にはいっていたのは、一見普通の着物だった。
「べつに変わったところは……ん、尻のあたりになんか縫いつけてある」
広げてみると、獣の尻尾であった。
「耳もあるぞ」
「こりゃ狐か? すげーふわふわ」
狐の耳と尻尾つきの着物。
これだけ見れば可愛いが、大の男が身につけてどうするんだ?
そう思って百夜がこれらを着た姿を想像してみた。
「……可愛いな。間違いなく可愛い。やべえ。とてたますぎる」
「もはやおれがなにを着ていても興奮しそうだな。で、どちらがいいんだ?」
どっちも見たい。
中身を確認して、よけいに決めがたくなった。
「……百夜、交渉していいか」
「一応聞いてやる」
「狐の着物を着て、その中に革紐を仕込んでくれ。愛でたあとに脱がして助平を楽しむから」
「片方だけといっているだろうが」
「いやだ。どっちも着てほしい」
「駄々をこねるな」
「基督弥撒なんだし、いいだろ!?」
「貴様はいつから基督教徒になったんだ」
ついに謎の理屈をだしてまで、志千がごねはじめた。
結局百夜のほうが折れたのだが、最初から最後まですべて衣装部の思惑どおりであったという。
「志千、知っているか。今日は基督弥撒という日らしい」
「ああ、基督教の祭日だろ。子どもの頃に絵本で見たな。三太九郎がなんかくれるんだっけ」
ロバに乗り、白い布を被った三太九郎。
志千は昔の記憶をふんわり思い出しながら答えた。
「それがどうかしたか?」
「衣装部からふたつプレゼントをもらった」
と、二種類の風呂敷を取りだした。
「ほー、そりゃよかったな。俺とおまえに?」
「いいや、どちらも志千に」
「俺??」
両方とも百夜に、というならまだわかる。
だが、しょっちゅう出入りしているものの部外者である志千にプレゼントとは、いったいなんだろうか。
「ただし、片方だけだ。好きなほうを選べ」
「うん?」
「この中には、撮影のために試作したが使わなかった衣装がはいっているらしい。志千が選んだほうを着てやる」
「衣装……?」
着物でももらったのかと思えば、そうではなかった。
「まず、こっちの赤い風呂敷には、ものすごく助平な衣装がはいっている」
「ちょっと待て」
聞いた瞬間、志千は頭を抱えた。
「いや、待て。いったん落ち着いてくれ」
「おれは至極冷静だが。貴様が落ち着け」
「だってその風呂敷、衣装にしては明らかに小せえじゃん。布の面積が心配なるだろ、そんなん」
「本当はデビュー作で着るはずだったんだが、過激すぎて却下されたものらしい」
そもそもあの作品の衣装でさえ、すでにきわどかったのだ。
百夜は年老いた画家に見初められる蠱惑的な美青年役だったが、絵のモデルになって様々な服を着せられる場面がある。
筆が乗るにつれて、老人の趣味としかいいようがないぎりぎりの衣装を着せられていく。
「俺さぁ、あのシーンになるたびに説明を噛みそうになって大変なんだぜ。客は大抵顔を真っ赤にして口を押さえてるし、関係者席じゃ偉いオッサンたちが羨ましそうに観てんだよ。実物のおまえに触れられるのが俺だけだと思うと、優越感がすげえのなんの」
「仕事中にそんなことを考えていたのか……」
あれより過激とは、いったいどんな衣装なのか。
「で、もうひとつは?」
「緑の風呂敷は、助平ではないが可愛い衣装だといっていた」
「助平ではないが、可愛い……?」
たしかに風呂敷の容量的に、布面積は最初のほうより大きそうだ。
つまり助平か、可愛いか、どちらか選べということである。
衣装部の若い娘たちの顔を思い浮かべ、確信した。
絶対に楽しんでいる。
おそらく百夜はこう言えと指示されたとおりに、素直に従っているだけだ。
志千と百夜の関係に気づいていて遊んでいるのである。
遊んでいるというか、向こうもはしゃいでいるのが目に浮かぶ。
「さあ、どうする?」
「うーん…………」
正直、どちらも捨てがたい。
助平ももちろん見たいが、すでに日本一可愛い百夜が、可愛い服まで身につけたらどうなってしまうのか。
「うーん……うう…………」
「悩みすぎじゃないか?」
「こんなに頭を使ったのは生まれて初めてかもしんねえ」
「もっと勤勉に生きろ」
散々悩んで、交渉することにした。
「百夜、ひとつ提案していいか」
「桜蒔先生みたいな言い方だな。どんな?」
「中身を確認してから決めさせてくれ」
「どれだけ真剣なんだ」
まあそれは指示になかったからいいだろう、と百夜は了承した。
やはり衣装部の手のひらの上で遊ばれている。
「じゃあ、赤い風呂敷から」
「ふーん、おお……? いや、これどうなって……んんん、って、紐じゃん!!」
はらりと風呂敷が広がった途端にでてきたのは、衣装というか、紐である。
ほぼ革紐でできた服。
作中ではなぜか裸体の胸の下あたりを革紐で縛った恰好が登場し、なんの意味があるんだと思っていたが、あれのさらに紐を多くした服である。
「紐だし、手首と足首が拘束されるし……」
和装なのか洋装なのかすら、もはや謎だ。
上半身を交差する紐、下半身を縛る紐、ほとんど拘束具と呼んで差し支えない。
そのうえ大事な部分はいっさい隠れていない。
「こっちを選んだら、本気でこれ着てくれんのかよ……!?」
「まあ衣装だしな。べつにいいぞ」
私生活ではすぐに「いやだ」と返すくせに、仕事となると頭が切り替わるらしく、撮影とか演技だという名目があれば百夜はちょっと感覚が麻痺しがちだ。
だが、あえて指摘してこの流れを止めたくはない。着てくれるのならば黙っておくに越したことはない。
「しかたねえな、助平じゃないほうも見てみるか……」
「しかたないって顔じゃないが。ほら」
緑の風呂敷にはいっていたのは、一見普通の着物だった。
「べつに変わったところは……ん、尻のあたりになんか縫いつけてある」
広げてみると、獣の尻尾であった。
「耳もあるぞ」
「こりゃ狐か? すげーふわふわ」
狐の耳と尻尾つきの着物。
これだけ見れば可愛いが、大の男が身につけてどうするんだ?
そう思って百夜がこれらを着た姿を想像してみた。
「……可愛いな。間違いなく可愛い。やべえ。とてたますぎる」
「もはやおれがなにを着ていても興奮しそうだな。で、どちらがいいんだ?」
どっちも見たい。
中身を確認して、よけいに決めがたくなった。
「……百夜、交渉していいか」
「一応聞いてやる」
「狐の着物を着て、その中に革紐を仕込んでくれ。愛でたあとに脱がして助平を楽しむから」
「片方だけといっているだろうが」
「いやだ。どっちも着てほしい」
「駄々をこねるな」
「基督弥撒なんだし、いいだろ!?」
「貴様はいつから基督教徒になったんだ」
ついに謎の理屈をだしてまで、志千がごねはじめた。
結局百夜のほうが折れたのだが、最初から最後まですべて衣装部の思惑どおりであったという。
0
あなたにおすすめの小説
オークとなった俺はスローライフを送りたい
モト
BL
転生したらオークでした。豚の顔とかマジないわ~とか思ったけど、力も強くてイージーモードじゃん。イージーイージー!ははは。俺、これからスローライフを満喫するよ!
そう思っていたら、住んでいる山が火事になりました。人間の子供を助けたら、一緒に暮らすことになりました。
子供、俺のこと、好きすぎるのやめろ。
前半ファンタジーっぽいですが、攻めの思考がヤバめです。オークが受けでも別に大丈夫という方のみお読みください。
不憫オークですが、前向きすぎるので不憫さは全くありません。
ムーンライトノベルズでも投稿しております。
夢の続きの話をしよう
木原あざみ
BL
歯止めのきかなくなる前に離れようと思った。
隣になんていたくないと思った。
**
サッカー選手×大学生。すれ違い過多の両方向片思いなお話です。他サイトにて完結済みの作品を転載しています。本編総文字数25万字強。
表紙は同人誌にした際に木久劇美和さまに描いていただいたものを使用しています(※こちらに載せている本文は同人誌用に改稿する前のものになります)。
振り向いてよ、僕のきら星
街田あんぐる
BL
大学4年間拗らせたイケメン攻め×恋愛に自信がない素朴受け
「そんな男やめときなよ」
「……ねえ、僕にしなよ」
そんな言葉を飲み込んで過ごした、大学4年間。
理系で文学好きな早暉(さき)くんは、大学の書評サークルに入会した。そこで、小動物を思わせる笑顔のかわいい衣真(いま)くんと出会う。
距離を縮めていく二人。でも衣真くんはころころ彼氏が変わって、そのたびに恋愛のトラウマを深めていく。
早暉くんはそれでも諦めきれなくて……。
星のように綺麗な男の子に恋をしてからふたりで一緒に生きていくまでの、優しいお話です。
表紙イラストは梅干弁当さん(https://x.com/umeboshibento)に依頼しました。
【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!
天白
BL
【あらすじ】バース性診断にてΩと判明した青年・田井中圭介は将来を悲観し、生きる意味を見出せずにいた。そんな圭介を憐れに思った曾祖父の陸郎が彼と家族を引き離すように命じ、圭介は父から紹介されたαの男・里中宗佑の下へ預けられることになる。
顔も見知らぬ男の下へ行くことをしぶしぶ承諾した圭介だったが、陸郎の危篤に何かが目覚めてしまったのか、前世の記憶が甦った。
「田井中圭介。十八歳。Ω。それから現当主である田井中陸郎の母であり、今日まで田井中家で語り継がれてきただろう、不幸で不憫でかわいそ~なΩこと田井中恵の生まれ変わりだ。改めてよろしくな!」
これは肝っ玉母ちゃん(♂)だった前世の記憶を持ちつつも獣人が苦手なΩの青年と、紳士で一途なスパダリ獣人αが小さなキセキを起こすまでのお話。
※オメガバースもの。拙作「生まれ変わりΩはキセキを起こす」のリメイク作品です。登場人物の設定、文体、内容等が大きく変わっております。アルファポリス版としてお楽しみください。
シスルの花束を
碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年
~人物紹介~
○氷室 三門(ひむろ みかど)
・攻め(主人公)
・23歳、身長178cm
・モデル
・俺様な性格、短気
・訳あって、雨月の所に転がり込んだ
○寒河江 雨月(さがえ うげつ)
・受け
・26歳、身長170cm
・常に無表情で、人形のように顔が整っている
・童顔
※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。
※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。
※基本、三門視点で進みます。
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
最愛はすぐ側に
なめめ
BL
※【憧れはすぐ側に】の続編のため先に下記作品を読むことをおすすめ致します。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/573023887/670501303
〇あらすじ〇
律仁さんとの甘いひとときが瞬く間に過ぎていく中、渉太も遂に大学4年目を迎えた。就活も大手企業に内定をもらい、後は卒業を待つところで、以前律仁さんと大樹先輩と尚弥とでキャンプに行ったときの出来事を思い出していた。それは律仁さんと二人きりで湖畔を歩いているときに海外を拠点に仕事をしたいと夢を抱いていること、それに伴って一緒に暮らしてほしいことを彼から告げられていたことだった。
律仁さんと交際を始めて一年の記念日。返事を返さなければならない渉太だったが酷く気持ちを揺らがせていた……。
そんな中、那月星杏と名乗る元サークルの後輩をとあるきっかけで助けたことで懐かれ……彼女もまた兄が那月遼人という律の後輩で…。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
忘れられない君の香
秋月真鳥
BL
バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。
両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。
母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。
アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。
最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。
政略結婚から始まるオメガバース。
受けがでかくてごついです!
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる