華と毒薬

アザミユメコ

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番外編

クリスマスSSその後 ※R18

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「着たぞ」

 着替えて襖を開けると、床に座っていた志千がすごい勢いでこちらを振り向いた。

「うわぁ、かわっ、可愛いなおい」

 弁士のくせに噛むほどなのかと、と百夜は呆れ顔で恋人を見下ろす。

 外で婦女子の黄色い声援を受けているときは気障きざったらしく見えるのだが、自分の前ではいつもこんな感じだ。
 桜蒔には「シッチーはももが絡むと阿呆になる」とまでいわれている。
 溺愛がいきすぎていてたまに心配になるが、悪い気はしなかった。

「な、もっと近くで見せて」

 促されるまま近づいて、志千の脚のあいだに膝立ちの恰好ですっぽりおさまった。

「あーほんと可愛い」

 狐の耳を触ったり、髪を撫でたり。
 それから胴体に腕を回して抱きしめ、唇や喉にくちづけたり、たまに百夜の胸元に顔を埋めて匂いを嗅いだりしながら、志千は勝手に楽しんでいる。

 冷静に考えれば、作り物の獣耳と尻尾をつけた男など、どうかと思うのだが。

 俳優という職業柄、綺麗だの美人だのと褒められる回数は多い。
 だが、百夜を「可愛い」といって愛でるのは志千だけだ。

 ただの賞賛ではない、愛情と欲望、独占欲が入り混じった言葉を毎日浴びて、空っぽだった心が満たされていくような心地だった。

「こんだけ可愛いんだし、おまえならいつでも狐役ができるな」
「狐役ってなんだ。限られすぎている」
「九尾とか、葛の葉とか」
「どっちも女狐だろう」
「んじゃ玉水物語。百夜にぴったり」
「機会があったらな」

 どれも活動写真ではやらなそうな題材だが、こんなときの志千はとにかく百夜に構うのに集中していて、なにも考えていない。

「はー、この可愛い衣装の下にあの助平な革紐があるかと思うと、より一層たまんねえ気分になるよな……」
 
 と、百夜の背中を指でつつっとなぞりながらいった。

「紐? つけていないぞ?」
「……や、だまされねえぞ! だって、見えるし! 見える気がする!」
「幻覚だ」

 すっとぼける百夜の肩を掴んで、透視しようと身体を凝視している。

「確かめてみるか?」
「もちろん」

 即座に答えて、百夜の帯に手をかけてきた。
 こんな茶番をやっているのだから、自分もじゅうぶん馬鹿になっている、と思う。

 布団に押し倒されて、衿のあわせがふぁさりと左右にはだけた。
 胸の真ん中で交差している革紐が露出する。裸体よりは一応隠されているはずなのだが、薄紅色の突起はかえって存在を主張している。

 舌で下から上に柔らかく舐められたかと思うと、今度は硬くした舌先で先端をつつかれる。
 女とは違うただの薄い胸なのに、志千はここが好きなようだ。
 いつも百夜がとめるまで舐めて、吸って、舌で転がす。

「んっ……あ、ぁ……」

 絶頂に直結する刺激ではないが、ここまで丹念にいじられると、いつのまにか下から先走った液体が溢れてくる。

「ふぅ、んぁ……しち、もうそこやだ、しつこい」
「なに、もどかしいの? どうしてほしい?」
「はやく、先にすすめ」
「先って?」
「下も、触ってほしい」

 着物を下まではだけさせ、無意味に胸と腰、そして両腿に巻きついている革紐を見て、志千の目の色が変わった。

「……すげえ。後ろも見せて?」

 仰向けから体を返して四つん這いになると、無言で着物の裾をたくしあげられた。
 両方の脚の付け根をきつく縛っている紐、そして腰骨あたりで腰を一周する紐、そのあいだは縦に一本ずつの紐で繋がっている。

 紐と肌のあいだに指をいれて滑らせながら、志千がいう。

「つけてる意味がまったくねえのに、なんで全裸よりやらしいんだろうな」
「知るか。見たいという願望ならもう叶っただろう。満足か?」

 内腿を撫でようと伸ばしてきた志千の手を押し返し、あえて意地悪く尋ねた。

「こんなの目の前にして、我慢できるわけねえだろ。めちゃくちゃに抱かないと満足なんかできねえよ」

 欲がこもった瞳。
 普段はひたすら甘い恋人が、男の顔になる瞬間がたまらなく好きだ。

 あえて反抗してみせるのは、事が始まればどうせ主導権を奪われるからだ。
 頭の芯までとろとろに溶かされて、なにも考えられなくさせられる。

「ほら、もう観念しろ」

 これ以上抵抗できないよう、手首で余っていた紐を結んで、身動きが取れないように拘束された。
 後ろ手を縛られ、上半身を支えられなくなって布団に頬をつける。腰だけを突きだした無防備な恰好をさらしていた。

 唾液で濡らした志千の長い指がはいってきて、なかをゆっくり擦りはじめた。
 二本、三本と増えていく指をそれぞれ小刻みに動かされ、甘ったるい声が自身から勝手に漏れた。

「ひゃ、ぅん……あっ、ああっ──!」

 拘束されて手で支えられないせいで、強い刺激がきてもうまく逃げられない。
 口の端から顎へと、唾液が伝っていく。

「あー……百夜、可愛い……」

 感じている姿を見下ろしながら、志千が囁く。
 この「可愛い」は、すべて自分の姿態に向けられているのがわかるので、かなり気恥ずかしい。
 着物をはがされ、白い背が露出した。

「寒くない?」
「……大丈夫」

 むしろ、熱くてしかたがない。
 他の誰でもない、自分だけに欲望の視線を注いでいる事実に高揚して、全身が熱を持つ。

 志千は気遣いはしてくれるものの──最初の頃みたいに、繊細な壊れ物に触れるようなこわごわとした扱い方ではなくなっていた。
 大事にされていないという意味ではない。
 何度も体を重ねるうちに、そのほうが百夜が悦ぶのだと気づいてしまい、容赦なく攻め立ててくるようになったのだ。

「はいるよ」
「ん……」

 後ろから強く腰を掴まれ、指の何倍もの質量がぬぷりと押しいってきた。

「あっ、ぁあっ──!!」

 敷布を握ることもできず、直に快感を受けとめたせいで、挿入いれただけで軽く意識が飛んだ。目の前が白と黒に点滅する。

 志千も気づいたくせに、動きを緩めようとはしない。一気に奥まで突いてくる。

 入口近くまで戻って、奥を攻める
 いきなり激しい出し入れを繰り返され、百夜の触れてもいない鈴口から白濁液が細かく何度もほとばしった。

「や、あっ、はぁ、んんっ……! 手加減しろ、ばか……!」

 息もきれぎれに訴えると、打ちつけるのをやめて、繋がったまま百夜の上半身を起こし、後ろから抱きしめてきた。
 自分よりもたくましい胸が、背中にぴったりと密着する。

 一息ついたのも束の間。
 今度はきつく抱きしめられた体勢のまま、奥にある百夜のもっとも感じる部分に、硬くなっている先端をごりごりと押しあてられた。

 動きがなくなった分、手加減しているのかと思えばとんでもない。
 ずっと奥に当てられ続けて、同じところばかりを遠慮もなく刺激される。

「や、やぁ……それ、も、無理っ、むりぃ……!!」
「まだいけるだろ? 俺のだけで感じてみて?」

 前への接触がないまま、頭のなかまで志千の大きなものだけでいっぱいにされる。
 やがて下半身にきゅうっと熱が集まるような感覚がやってきて、出口もなく、全身をかけ巡るような激しい快感が襲ってきた。

「あっ……あぁっ……! しちの、気持ちいっ……!」
「出さずに後ろだけで気ぃやった? いい子」

 脱力して背を倒し、体ごと志千に預ける。
 志千は縛られている腕ごと百夜の胴体を抱きすくめて、止めることなく、さらに腰を激しく打ちつけた。

「し、ち……!? もぉ、できない……! やだ……おかしくなる……!!」
「百夜、好きだよ」

 耳元で囁かれる言葉。
 この声に弱いのを知っていて、わざとだ。

「ば、かぁ……も、だめ、気持ちいいの、むりぃ……」
「だめじゃねえよな? 腰、動いてる」

 指の腹で胸の突起を同時に圧し潰されて、腰が勝手にがくがくと揺れていた。

「百夜、可愛い、好きだよ」

 甘い声のさなか、白濁とは違う透明な体液が、自分のものとは思えないほど大量にあふれ、革紐で縛られた体を濡らす。

 同時に、愛する人の焼けるように熱いものが最奥に放たれるのを感じた。


 ***


「どうなってんだ、これ? 脱がせねえ。そもそもどうやって着たんだよ」
「さあ。なんとなくで着た」

 何度か睦みあったあと、ふたりが謎の構造をしている革紐衣装と格闘してる最中──
 いきなり、襖が開け放たれた。

「祝~!! 基督弥撒くりすますじゃ~!! いいこにはプレゼントを持ってきたけ、え……」

 布団の上で狐耳をつけ、縛られたままの百夜と、その上に覆いかぶさって紐の両端を握りしめている志千。

 最悪のタイミングで三太さんた九郎くろう──の恰好をした桜蒔が現れた。

「あー……や、なんていうか、身内のそういう趣味を知るのって、きっついのう……」
「んじゃいきなり開けんなよ!」

 桜蒔はあからさまに萎えている様子だったが、すぐに気を取り直して部屋にずかずか入ってきた。

「ま、どう見てもすでに事後じゃし、もうええじゃろ? わしからのプレゼントじゃー」

 白い袋から取りだしたのは、作り物の猫耳と、猫の尻尾の先に大きな数珠のような珠が連なった性具であった。

「後ろ用の張形はりがたじゃ! シッチーこういうの好きそうじゃなあと思って用意したんじゃけど、この感じなら完全に当たっとったなぁ~。よかったよかった!」
「こんなもん贈ってくるセンスのやつに、趣味がどうとかいわれたくねえんだけど……」

 なぜかみな獣耳を寄越してくる。
 よほど志千がこれを好きそうに見えるのか。

「ほいじゃ、これ使って二回戦楽しみんさいや~! あ、もう次で五回戦くらい?」
「んだよ、まだ四回だし」
「正直に答えなくていい」

 騒がしく桜蒔は去っていき、文句をいっていたはずの志千は興味ありげにプレゼントを見つめていた。

 聖夜はまだまだ長そうだ。
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