はじまりはガシャポンで!

米と麦

文字の大きさ
14 / 83

13.赤-2

しおりを挟む
***


「そんで、副隊長はまーた今日もビアさんと会ってたんですか?」
「おう、昼休みにな!午前中は第二部隊との合同稽古だったからその後使って。つーかジミル、お前も来いよ。ビア寂しがってるぜ?」

 テオドアは夕食のシチューをばくばくと頬張りながら、こともなげにそう言った。それを聞いたジミルが思いっきり顔を渋くする。

「……あいにく馬に蹴られたくはないんで。」
「馬?」
「こっちの話です。……あーもー、なんだってこんな話俺が振らなきゃなんねーんだよ……はーあ。」
「ん?なんだお前、もしかしてビアのこと嫌いか?」
「まさか、そんなワケないでしょう。いい子ですもん、ビアさん。俺たちみたいな第八部隊平民上がりにも分け隔てなく接してくれるし。」

 テオドアの眉がピクリと動く。めざといジミルはそれを見逃さなかった。

「……まあ、そんな人がいてもおかしくないだろう。」
「なるほど、騎士団付きに望んで降格したがる・・・・・・メイドがいてもちゃんちゃらおかしくない、と……副隊長、あんたそれ本気で言ってます?」
「…………」

 沈黙は肯定。いや、この場合は否定か。
 相手が答えに詰まったのを契機に、ジミルは一気に畳み掛ける。

ローアルデ騎士団うちはあからさまな階級制で組織されている。メイドが色目を使うのは貴族集まる第五部隊まで。六から八は出世の望めぬ平民出。九・十部隊はたらい回しされた左遷組。こんなの新人メイドでも知ってる話だ。……ましてやあの子はお城のメイド。騎士団うちのメイドでも人によっては第八を小馬鹿にするのに、その上位にあたる城付きメイドが、あろうことか俺たちを見て『こっちのメイドになりたい』だなんて、どう考えても馬鹿げてる。常識が欠落しすぎている。」
「……」
「………こっちに来る時、毎回忍び込んで来ているんでしょう?表立って城を出れない理由があるってことだ。……断言しますよ、あの子はワケアリ・・・・です。」



 そこまで言いのけると、ジミルはテオドアをジロリと睨め付けた。まさか気づいてないとは言わせまい。

 テオドアもさすがに観念したのだろう。脱力したように椅子にもたれ掛かると、そのまま天井を仰ぎ見た。

「わーってるよ、それくらい。そもそも俺の目ぇ見て顔色ひとつ変えず、普通に接してる時点でおかしいだろ。」
「それは……」

 あえて言及を避けたところを突かれ、今度はジミルの方が目を逸らす。

「……別に、あんたの顔を好きって女がいてもおかしくないでしょう。」
「え、何、珍しくジミルが優しい……こわっ!!」

 一層顔を渋らせたジミルを華麗にスルーすると、テオドアは改めてかのメイドのことを思い浮かべた。

 忠告通り、ビアは確かにきな臭い女だ。その言動について怪訝に思うことはこれまで何度もあった。
 先日の発言については百歩譲ってまだ分かる。階級制を気にしない奇特な女もごく稀にいることだろう。しかし、彼女と話していると「気にしない」のではなく、そもそも「知らない」と言うのが正しい気がした。
 それくらい彼女はあらゆることに関して無知だ。
 歴史、地理、国政、流行……今まであらゆる話題を振ってみたが、彼女はどれについても全く知らない様子だった。お世辞にも学があるとは言えないテオドアも、一般常識程度は弁えている。しかしビアは、それすらも抜け落ちていたのだ。
 では彼女が生粋の馬鹿なのかと問われれば、それもまた違う気がした。話をする限り受け答えはしっかりしているし、言葉遣いも綺麗だ。それに一度教えれば、大抵のことは覚えている。
 なのでこれはあくまでもテオドアの勘だが、彼はビアが今までずっと知識を与えられない・・・・・・環境で育ったのではないかと考えている。

(ずっとどこかに閉じ込められていたか、あるいは遠い地からやむない事情でやってきたか……)


「……貴族の隠し子、もしくは亡命してきた異国の姫……俺はその辺りを踏んでますよ。」

 まるでテオドアの気持ちを汲んだかのような推論だ。どうやらジミルも自分と同じ考えらしい。

「……だから、おそらく害はないかと思いますけど……念の為、俺は忠告しましたからね。あんたもちょっとは気をつけてくださいよ。」

 そこまで聞いてやっと、テオドアは目の前の生意気な部下が、彼なりに自分の身を案じてくれているのだとわかった。

「……なにニヤニヤしてるんですか。んじゃ、俺は先に上がりますんで。」

 居心地が悪くなったのだろう。ジミルはさっさとシチューをかき込むと、足早に席を立ってしまった。
 食堂を出る直前、ふと何かを思い出したかのように、彼はこちらを振り返った。

「ついでにもうひとつ忠告です。……もうあの子と騎士団区画こっちで会うのはやめた方がいいです。」
「?」
「……第二部隊の奴ら、合同稽古の後、あんたのことを見てましたよ。……婦人会沙汰を起こした馬鹿どもです。」

 テオドアが真っ赤な目を大きく見開く。
 鈍い先輩に話が通じたのを確認すると、ジミルは今度こそ本当に去っていった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

処理中です...