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46.発見-2
しおりを挟む「滅相もない」と震え上がる男を男を圧しきり、荷台の隅に潜り込んで半刻。合流した町の男達に馬を借りてさらに二時間ほど、クォーツの指示を元に森を北上していけば、ものの見事に焦土とかした地がフェリクス達の目の前に現れる。
「すごい……な……」
「まだ俺がいた時はなかったんだが……そうか、やはり吐息が始まっていたか」
驚愕するフェリクスをよそに、クォーツが苦々しげに舌打ちをする。二人とも口にはしないものの、テオドアを無事発見することは、おおよそ困難であろうと察してしまった。無言のまま炭と化した森を進んでゆく。
黒炭の世界は悲しいほど見晴らしがよく、崖先までまっすぐ一本道が切り開かれている。
「……ここで終わっているな」
クォーツが切り立った崖の下を覗き込みながらつぶやく。確かに真下にな広がる広葉樹林は青々と緑が生い茂っており、吐炎の跡はない。
「この様子、ここから落ちた可能性があるな。フェリクス、降りるぞ」
「いや降りるったって、ここら辺に坂はないぞ?いったいどう……」
言い終わらぬうちに、クォーツがフェリクスの腹あたりを腕で抱え込む。
「おいっ!?一体何を!?」
「飛び降りるしかなかろう、こんなとこ」
「はああぁっ!!??」
フェリクスがらしくない大声をあげる。正気かとクォーツの顔を凝視するが、恐ろしいことに彼の目は本気であった。抵抗虚しく、身体を浮遊する感覚が包み込む。
「ああああああああああああぁぁっ!?」
今まで経験したことのないような強烈な落下感がフェリクスを襲う。先ほどまでいたはずの崖先が凄まじいスピードで遠のいていった。ゴツゴツしているはずの岩肌がなぜか滑らかなクリームのように見えた。動体視力が落下速度に追いつかない。
「『凍てつく吹雪よ 白銀の針で全てを飲み込め 白き闇夜』」
再び身体が浮遊する感覚に包まれた。どうやら地面に衝突する寸前、クォーツが魔法で小さな吹雪を地面に当て、クッション代わりしてくれたようだ。粉雪の真上にふわりと着地する。
「……クォーツ、君、こういうのはちゃんと説明してからやってくれ」
顔を真っ青にしながら、しわがれた声でフェリクスが忠告する。心臓に当てた手から、ばくばく高鳴る鼓動が響く。恨めしげにクォーツを睨めば「ああ悪い悪い」などとまったく悪びれずのたまっていた。言葉に態度が伴っていない。
「しかし、やはり勘は当たったようだな。当たってしまったというべきか……あまり嬉しくないが、テオドアはここから落ちたようだ」
フェリクスの顔がこわばる。クォーツが苦々しげに目配せした先には、ぼろぼろに刃こぼれした騎士団の剣が落ちていた。
「そんな顔するな。むしろ手がかりが見つかっただけ幸運だと思えばいい。おそらくそう遠くへは行っていないだろう」
「……ああ、そうだな。この辺りで他に何か残っていないかさがそう。なにかめぼしいものがあれば……」
その時、フェリクスの片耳に微かにだが水のせせらぐ音が聞こえた。決して力強くはないものの、穏やかな小川か何かがこの近くを流れているようだ。
「クォーツ、聞こえたか!?水の音がする」
もしテオドアがこの辺りに落下したのなら、帰路の目印や飲料の確保にこれを辿らない手はないだろう。が弱いせせらぎの音を頼りに二人は森の奥へと進んでいった。
結果、フェリクス達の推測は当たらずとも、その判断は吉と出た。
水音に導かれ辿り着いた先には、ひっそりとした沢が流れていた。綺麗な清流だが、一部分だけ何やら赤黒く濁っている。その中央にある赤紫のグロテスクな物体から、騎士団の勲章がちらついているのに気付いた時、フェリクス達の顔からさっと血の気が引いた。
「テオドアッ!?」
「テオッ!!」
脇目も振らず沢へ飛び込む。一歩踏み込むたびに水がバシャバシャと跳ね身体を濡らすが、二人ともまったく気にしなかった。水流に足を掬われながら前へ突き進む。やっと辿り着いた沢の真ん中で、二人は目の前の現実離れした光景にただ絶句した。
かろうじて人型を保った赤紫のそれは、皮膚をベラリと剥がしたようなびらんと無数の水膨れに覆い尽くされていた。遠目では分からなかったが、一部は黄や緑といった蛇の模様を思わせるような色に変色もしている。とても人間とは思えない、まるで異形のようなおぞましい姿だ。
いっそ間違いであってくれ。そんな淡い期待でそっと瞼らしかところをあげてみる。しかし残酷なことに、その下にあった瞳は、柘榴のような赤色をしていた。
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