からっぽ

てりやき

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人間

四日目

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「……完全数?」
「え」
 俺は少し間を空けて、それがなにか聞き返そうとした。
「あっ」
 それと同時に、思い出す。
「確か、自分以外の約数を全部足すと、その数になる、ってやつだよね」
「そうそう! よかったー焦った!」
 彼女はそこまで言ってようやく、ほっと胸を撫で下ろした。
「いやー日頃こんなこと言っても、みんなぽけーっとしちゃうからさ。最初からキミにやっとけばよかったんだなー」
 俺は彼女が何を言っているのか、いまいち理解出来なかった。ぽけーっとしちゃうっていうのは、ぼーっとしちゃうって意味か? 最初からってことは、今までも誰かにやってきたってことか?
 でも、一つだけ、彼女は28が完全数であることを知っている人間を見て、とても喜んでいるのだということは、俺にも分かった。
「そうだ!」
 不意に彼女は、ぱんっと手を叩いて、何かを閃いたような顔をした。コロコロと表情が変わるのは、癖なだろうのか? それとも、わざとそうしているのだろうか?
「金土日の三日分の自主学習で、完全数が何なのか、詳しく勉強してきてよ!」
「…………は?」
 乱暴な言葉が出そうになって、慌てて口を閉じる。
「いや、やだよ。めんどいし」
 すぐさま冷静になって、至って適切な言葉で断った。
 彼女は、意気揚々と喋っていた時のまま、口を半開きにして固まっていた。そして、そのうちどこか机の端っこ辺りに軽く視線を逸らして、小さく呟いた。
「……そうだよね。ごめん」
 眼鏡越しに見えた 眼が、あまりにも寂しそうで、俺は耐えきれず前を向いた。



 それから丸一日、彼女とは話さなかった。
 プリントを前から渡す時も、振り返りはしたが、目をどうしても合わせられなかった。
 いつもだったら、ごめんと一言言って、それで解決を図るのに、何故かその日一日だけは、そうしてはならないような気がしたのだ。
 帰り道、なんでだろうと自分で考えて、そして、あぁ、これが罪悪感というものなのかもしれないなと思った。
 悲しませたことに対する、そんなつもりじゃなかったんだという意思表示だったのかもしれない。
 そこまで考えて、俺は不思議に思った。
「なんというか……」
 変というか、不気味というか……
 自分という人間を、自分の思うように動かせないなんて、そんなおかしな話、あまりにも非現実的すぎやしないか?



 ゲームをして、ダラダラと土曜日を過ごしていたのだが、
「あのカスゾンビ、許せねえ!」
といった感じで、途中ゲーム内のモンスターにボコボコにられて萎えていた。リベンジマッチする気分にもならなかったので、ゲームから手を離して、ベッドを出て勉強机に座る。
 いつもの日記を書くことにしたのだ。
 金曜日の分をとりあえず飽きるまで書いて(辞書で漢字を引きながらだから、これだけで一時間掛かった)、シャーペンを置く。
 時刻は夕方の六時。母親が帰ってきて飯を作るのがいつも七時なので、一時間ほど時間があった。
「めんどくせーけど、今日のも書ききるか」
 書くことは何も決まってなかったが、俺はとりあえずシャーペンを握って、再びノートのページをめくった。
 ノートの上の方には、もちろん、さっき書いたばかりの文字が書かれていた。
 ――完全数。いいでしょ。
 指でなぞると、読み上げ機能のように、頭の中で彼女の声がリピートされた。
「…………」
 少し間を置いたあと、俺は、まるで何かに観念したかのように深くため息をついた。すぐさま入学祝いで買ってもらったスマホを取り出し、ロックを解除する。
 罪悪感とは、罪を犯したことに対する後ろめたさのこと。
 では、俺は一体、何を後ろめたく思っているのだろうか。
 検索ボックスに文字をタイプして、そして、検索ボタンを押した。
「完全数とは 性質」
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