5 / 25
人間
四日目
しおりを挟む
「……完全数?」
「え」
俺は少し間を空けて、それがなにか聞き返そうとした。
「あっ」
それと同時に、思い出す。
「確か、自分以外の約数を全部足すと、その数になる、ってやつだよね」
「そうそう! よかったー焦った!」
彼女はそこまで言ってようやく、ほっと胸を撫で下ろした。
「いやー日頃こんなこと言っても、みんなぽけーっとしちゃうからさ。最初からキミにやっとけばよかったんだなー」
俺は彼女が何を言っているのか、いまいち理解出来なかった。ぽけーっとしちゃうっていうのは、ぼーっとしちゃうって意味か? 最初からってことは、今までも誰かにやってきたってことか?
でも、一つだけ、彼女は28が完全数であることを知っている人間を見て、とても喜んでいるのだということは、俺にも分かった。
「そうだ!」
不意に彼女は、ぱんっと手を叩いて、何かを閃いたような顔をした。コロコロと表情が変わるのは、癖なだろうのか? それとも、わざとそうしているのだろうか?
「金土日の三日分の自主学習で、完全数が何なのか、詳しく勉強してきてよ!」
「…………は?」
乱暴な言葉が出そうになって、慌てて口を閉じる。
「いや、やだよ。めんどいし」
すぐさま冷静になって、至って適切な言葉で断った。
彼女は、意気揚々と喋っていた時のまま、口を半開きにして固まっていた。そして、そのうちどこか机の端っこ辺りに軽く視線を逸らして、小さく呟いた。
「……そうだよね。ごめん」
眼鏡越しに見えた 眼が、あまりにも寂しそうで、俺は耐えきれず前を向いた。
それから丸一日、彼女とは話さなかった。
プリントを前から渡す時も、振り返りはしたが、目をどうしても合わせられなかった。
いつもだったら、ごめんと一言言って、それで解決を図るのに、何故かその日一日だけは、そうしてはならないような気がしたのだ。
帰り道、なんでだろうと自分で考えて、そして、あぁ、これが罪悪感というものなのかもしれないなと思った。
悲しませたことに対する、そんなつもりじゃなかったんだという意思表示だったのかもしれない。
そこまで考えて、俺は不思議に思った。
「なんというか……」
変というか、不気味というか……
自分という人間を、自分の思うように動かせないなんて、そんなおかしな話、あまりにも非現実的すぎやしないか?
ゲームをして、ダラダラと土曜日を過ごしていたのだが、
「あのカスゾンビ、許せねえ!」
といった感じで、途中ゲーム内のモンスターにボコボコに殺られて萎えていた。リベンジマッチする気分にもならなかったので、ゲームから手を離して、ベッドを出て勉強机に座る。
いつもの日記を書くことにしたのだ。
金曜日の分をとりあえず飽きるまで書いて(辞書で漢字を引きながらだから、これだけで一時間掛かった)、シャーペンを置く。
時刻は夕方の六時。母親が帰ってきて飯を作るのがいつも七時なので、一時間ほど時間があった。
「めんどくせーけど、今日のも書ききるか」
書くことは何も決まってなかったが、俺はとりあえずシャーペンを握って、再びノートのページをめくった。
ノートの上の方には、もちろん、さっき書いたばかりの文字が書かれていた。
――完全数。いいでしょ。
指でなぞると、読み上げ機能のように、頭の中で彼女の声がリピートされた。
「…………」
少し間を置いたあと、俺は、まるで何かに観念したかのように深くため息をついた。すぐさま入学祝いで買ってもらったスマホを取り出し、ロックを解除する。
罪悪感とは、罪を犯したことに対する後ろめたさのこと。
では、俺は一体、何を後ろめたく思っているのだろうか。
検索ボックスに文字をタイプして、そして、検索ボタンを押した。
「完全数とは 性質」
「え」
俺は少し間を空けて、それがなにか聞き返そうとした。
「あっ」
それと同時に、思い出す。
「確か、自分以外の約数を全部足すと、その数になる、ってやつだよね」
「そうそう! よかったー焦った!」
彼女はそこまで言ってようやく、ほっと胸を撫で下ろした。
「いやー日頃こんなこと言っても、みんなぽけーっとしちゃうからさ。最初からキミにやっとけばよかったんだなー」
俺は彼女が何を言っているのか、いまいち理解出来なかった。ぽけーっとしちゃうっていうのは、ぼーっとしちゃうって意味か? 最初からってことは、今までも誰かにやってきたってことか?
でも、一つだけ、彼女は28が完全数であることを知っている人間を見て、とても喜んでいるのだということは、俺にも分かった。
「そうだ!」
不意に彼女は、ぱんっと手を叩いて、何かを閃いたような顔をした。コロコロと表情が変わるのは、癖なだろうのか? それとも、わざとそうしているのだろうか?
「金土日の三日分の自主学習で、完全数が何なのか、詳しく勉強してきてよ!」
「…………は?」
乱暴な言葉が出そうになって、慌てて口を閉じる。
「いや、やだよ。めんどいし」
すぐさま冷静になって、至って適切な言葉で断った。
彼女は、意気揚々と喋っていた時のまま、口を半開きにして固まっていた。そして、そのうちどこか机の端っこ辺りに軽く視線を逸らして、小さく呟いた。
「……そうだよね。ごめん」
眼鏡越しに見えた 眼が、あまりにも寂しそうで、俺は耐えきれず前を向いた。
それから丸一日、彼女とは話さなかった。
プリントを前から渡す時も、振り返りはしたが、目をどうしても合わせられなかった。
いつもだったら、ごめんと一言言って、それで解決を図るのに、何故かその日一日だけは、そうしてはならないような気がしたのだ。
帰り道、なんでだろうと自分で考えて、そして、あぁ、これが罪悪感というものなのかもしれないなと思った。
悲しませたことに対する、そんなつもりじゃなかったんだという意思表示だったのかもしれない。
そこまで考えて、俺は不思議に思った。
「なんというか……」
変というか、不気味というか……
自分という人間を、自分の思うように動かせないなんて、そんなおかしな話、あまりにも非現実的すぎやしないか?
ゲームをして、ダラダラと土曜日を過ごしていたのだが、
「あのカスゾンビ、許せねえ!」
といった感じで、途中ゲーム内のモンスターにボコボコに殺られて萎えていた。リベンジマッチする気分にもならなかったので、ゲームから手を離して、ベッドを出て勉強机に座る。
いつもの日記を書くことにしたのだ。
金曜日の分をとりあえず飽きるまで書いて(辞書で漢字を引きながらだから、これだけで一時間掛かった)、シャーペンを置く。
時刻は夕方の六時。母親が帰ってきて飯を作るのがいつも七時なので、一時間ほど時間があった。
「めんどくせーけど、今日のも書ききるか」
書くことは何も決まってなかったが、俺はとりあえずシャーペンを握って、再びノートのページをめくった。
ノートの上の方には、もちろん、さっき書いたばかりの文字が書かれていた。
――完全数。いいでしょ。
指でなぞると、読み上げ機能のように、頭の中で彼女の声がリピートされた。
「…………」
少し間を置いたあと、俺は、まるで何かに観念したかのように深くため息をついた。すぐさま入学祝いで買ってもらったスマホを取り出し、ロックを解除する。
罪悪感とは、罪を犯したことに対する後ろめたさのこと。
では、俺は一体、何を後ろめたく思っているのだろうか。
検索ボックスに文字をタイプして、そして、検索ボタンを押した。
「完全数とは 性質」
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる