からっぽ

てりやき

文字の大きさ
4 / 25
人間

三日目

しおりを挟む
 結局、一番近くの公立の中学校に行くことになった。
 あの日以来、自分以外の人間が別の生物なんじゃないかと思うようになった。そして、そう思い始めたが最後、今までのようにとして認識することが出来なくなってしまった。
 そのうち俺は、これが本来の世界の姿なのだと信じ込むようになった。
 何も珍しいことはない。街灯に集まる虫たちを見て、何も知らなければ気持ち悪い集合体だと感じるけど、人間の手によって上下感覚がバグらされたのだと知った後だと、不憫な生き物だと認識する。それと同じで、人間それらについてより深く知ったからこそ、今までとは違った景色が見えているのだと、そう解釈するようになった。
 中学校に入っても、特に変わりはなかった。
 ほとんど小学校と変わらないような日常。オスは遊びのこと、メスは人間関係のこと、そして教壇に立つ大人たちは、自分の評価のために、教室内の人間それらを統括しようと奮起になっていた。
 俺はというと、人間それらを横目で見ながら、読書をするようになった。今までは家でしか読んでなかったのだが、学校で読むことで時間をちょうどよく潰せるのだと気づいたのだ。おかげで、休み時間に厄介事をなすり付けられたり、昼休みに五月蝿うるさい生き物に絡まれることも無くなった。
 そして家では、自分の感じたこと、起こったことなどを、日記のように記録することにした。日頃の読書で得た漢字や文法のアウトプットとして、とても効果的な気がするし、それに、社会で生きていく上で、「継続力」は大きな利点になるだろうと思ったからだ。
 そんなこんなで始まった中学生活。
 俺はただ、耐えようと思っていた。理解できない人間それらを無視して、卒業までの約六百日の登校日を、ただ消化するだけでいいのだと。
 それなのに。



 五月に入ると、朝の短い時間で、席替えが行われることになった。
 くじ引き制で、席にランダムで振られた番号と同じ場所に移動する仕組みだった。
 俺が引いた番号は二十七番。席は一番左の列の前から二番目になった。
 ヒトの見た目をした騒音製造機たちが、後ろの席がどうとか、誰々の隣の何番がよかっただとかわめいているのを不愉快に感じながら、俺は席を動かし、そしてじっと、その番号の書かれた紙を見つめた。
 27は三番目の立方数(nの三乗)。nがn乗される場合でも三番目。そして何より……
「全ての自然数は、高々二十七個の素数の和で表される」
「へぇそーなんだー。知らなかったなぁ」
 突然耳元で聞こえた声に、俺は飛び跳ねて驚いてしまった。すぐさま振り向いて睨みつけたが、そんな俺を見て、人間そいつは笑っていた。
「そんな顔初めて見た! これからよろしくね、陰キャくん」
 そう言って、手を振るみたいに紙をヒラヒラさせる。呆然とする俺を│他所《よそ》に、人間そいつは馬鹿にするようにニヤニヤと口角を上げていた。
「あっ見たいの? 番号」 
 どうやら、俺はずいぶんと紙に目がいってしまっていたらしい。不意に人間《そいつ》は真面目な顔をして、「はい、どーぞ」と、紙を机に広げた。
 番号は、二十八番だった。
「完全数。いいでしょ」
 俺は反射的に、の顔を見た。
 やわらかい春風でなびいていた髪が妙に綺麗に写っていたのを、俺は今でも覚えている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...