8 / 25
人間
七日目
しおりを挟む
次の日、登校すると俺の席に誰か座っていた。どうやら、彼女が 他のメスとと何か話しているようだった。
彼女が何を話しているのかは分からなかったが、教室の入口付近まで聞こえてきた話し相手の声には、嫌なほど聞き覚えがあった。
「やべえだろ! それは」
「そーゆー時は、ガツンと言ってやんねぇと」
「ったく、そんなんだから舐められんじゃねーか」
昨日ぶつかった、あいつだった。
まさか、あの不良が、彼女と友達だったとは、夢にも思わなかった。すぐさま踵を返して、気づかなかったフリをするために俺は教室を出ようとした。
「なぁ、そう思わねぇか? 陰キャ」
ところが、不良はさらに声量を上げて、俺の背中に声をぶつけてきた。
ゆっくりと振り返ると、教室中の視線が俺に集まっていて、そして、何事も無かったように 人間は再び景色に溶けていった。
そこでようやく俺は動き出して、不良の方へと向かった。
「そこ、俺の席――」
「なあ」
俺の話など聞こえなかったと言わんばかりに、言葉を遮ってきた。少し身体に緊張が走り唾をゴクリと飲み込んだ。
「こいつさぁ」
そいつは右肘を彼女の机に乗せたあと、親指を立てて彼女のことを指した。
「パン屋で買い物してっとき、おせぇからって舌打ちされて、そんで、挙句の果てに割り込まれたんだとよ」
…………は?
「どう思う? これ」
「…………は?」
頭の中で考えていた言葉が、そのまま口から出た。
混乱する俺を他所に、彼女たちは話し続けていた。
「そうだよな! 『は?』だよな! ほら、やっぱり普通はキレんだよ」
「えー、陰キャくんもそうなのー?」
「だって、どう考えても許せるライン超えてんだろ、それぇ」
「そうかなぁ……」
「いや、だって考えてみ? 自分の家族がやられてたら――」
こいつらの会話が進めば進むほど、こいつらは俺の知らない人間へと成っていった。
宮田桜。
身長は推定約165センチメートル。体重は推定約50キログラム。スラリとした身体に、小さな頭を乗っけて、それから長髪を被せて眼鏡を着けたような外見。
特徴とするのは、喜怒哀楽の豊富さ。そしてそれらを素直に表現する表情筋たち。
永峯ゆうか。
身長は推定約150センチメートル。体重は推定約45キログラム。メスの割に筋肉質な身体に、コンパスで描いたような丸い頭を乗せて、短い茶髪を生やしたような外見。
特徴とするのは、口遣いの悪さ。そして何より、それを象徴するかのような、オスのような振る舞い。
人間二人と俺はこの日から、休み時間に話をするようになった。
……まあ、ほとんど俺は喋っていなかったが。
今日は一日中、パン屋で割り込みをしてくるような中年男性の実態について、議論をしていた。九割近くがゆうかの批判的(というか半ば罵詈雑言)な意見だったが、時々桜が意見を言う時もあった。
特に印象に残ってるのは、帰り際の会話。
ゆうかが、「帰ろーぜー」と言って桜の肩を後ろから叩くと、桜が急に振り返って、真面目な声でこう言った。
「あのおじさん、やっぱ私のせいで不機嫌になったのかな?」
質問自体が、意味不明だった。
確認なのか、そういうボケなのか、それとも真面目な質問なのか。どれに当てはめても、頭がおかしいとしか思えなかった。
俺は彼女のことを前の席から見てたので、どんな表情で言っていたのかは分からなかったが、きっと、マヌケ面でとぼけていたのだろう。いわゆる、「キャラ作り」というやつだ。他の人間たちと一緒で、こいつも結局自分にしか興味が無いんだ。
俺はそう、思い込むことにした。
彼女が何を話しているのかは分からなかったが、教室の入口付近まで聞こえてきた話し相手の声には、嫌なほど聞き覚えがあった。
「やべえだろ! それは」
「そーゆー時は、ガツンと言ってやんねぇと」
「ったく、そんなんだから舐められんじゃねーか」
昨日ぶつかった、あいつだった。
まさか、あの不良が、彼女と友達だったとは、夢にも思わなかった。すぐさま踵を返して、気づかなかったフリをするために俺は教室を出ようとした。
「なぁ、そう思わねぇか? 陰キャ」
ところが、不良はさらに声量を上げて、俺の背中に声をぶつけてきた。
ゆっくりと振り返ると、教室中の視線が俺に集まっていて、そして、何事も無かったように 人間は再び景色に溶けていった。
そこでようやく俺は動き出して、不良の方へと向かった。
「そこ、俺の席――」
「なあ」
俺の話など聞こえなかったと言わんばかりに、言葉を遮ってきた。少し身体に緊張が走り唾をゴクリと飲み込んだ。
「こいつさぁ」
そいつは右肘を彼女の机に乗せたあと、親指を立てて彼女のことを指した。
「パン屋で買い物してっとき、おせぇからって舌打ちされて、そんで、挙句の果てに割り込まれたんだとよ」
…………は?
「どう思う? これ」
「…………は?」
頭の中で考えていた言葉が、そのまま口から出た。
混乱する俺を他所に、彼女たちは話し続けていた。
「そうだよな! 『は?』だよな! ほら、やっぱり普通はキレんだよ」
「えー、陰キャくんもそうなのー?」
「だって、どう考えても許せるライン超えてんだろ、それぇ」
「そうかなぁ……」
「いや、だって考えてみ? 自分の家族がやられてたら――」
こいつらの会話が進めば進むほど、こいつらは俺の知らない人間へと成っていった。
宮田桜。
身長は推定約165センチメートル。体重は推定約50キログラム。スラリとした身体に、小さな頭を乗っけて、それから長髪を被せて眼鏡を着けたような外見。
特徴とするのは、喜怒哀楽の豊富さ。そしてそれらを素直に表現する表情筋たち。
永峯ゆうか。
身長は推定約150センチメートル。体重は推定約45キログラム。メスの割に筋肉質な身体に、コンパスで描いたような丸い頭を乗せて、短い茶髪を生やしたような外見。
特徴とするのは、口遣いの悪さ。そして何より、それを象徴するかのような、オスのような振る舞い。
人間二人と俺はこの日から、休み時間に話をするようになった。
……まあ、ほとんど俺は喋っていなかったが。
今日は一日中、パン屋で割り込みをしてくるような中年男性の実態について、議論をしていた。九割近くがゆうかの批判的(というか半ば罵詈雑言)な意見だったが、時々桜が意見を言う時もあった。
特に印象に残ってるのは、帰り際の会話。
ゆうかが、「帰ろーぜー」と言って桜の肩を後ろから叩くと、桜が急に振り返って、真面目な声でこう言った。
「あのおじさん、やっぱ私のせいで不機嫌になったのかな?」
質問自体が、意味不明だった。
確認なのか、そういうボケなのか、それとも真面目な質問なのか。どれに当てはめても、頭がおかしいとしか思えなかった。
俺は彼女のことを前の席から見てたので、どんな表情で言っていたのかは分からなかったが、きっと、マヌケ面でとぼけていたのだろう。いわゆる、「キャラ作り」というやつだ。他の人間たちと一緒で、こいつも結局自分にしか興味が無いんだ。
俺はそう、思い込むことにした。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる