9 / 25
人間
八日目
しおりを挟む
今日も相変わらず、二人で話していた。
話の内容は…………もはや覚えてすらいない。確か、税金がどうとか、総理大臣のハゲがどうとか、そんな感じだった気がする。
人間を観察していて、気づいたことが幾つかあった。
まず、二人のうち少なくとも桜は、何かを取り繕って話をしていることがあるということ。
例えば、桜はゆうかからよく、
「桜はどうする?」
と聞かれることがあった。もちろん、将来についての真面目な話とかじゃなくて、「総理大臣になったら」とか、「警察官だったら」とか、そういう現実味を帯びていない「もしも」の話だった。
桜は、その類の質問をされる度に、真面目な顔になって考え始めた。そして、喜怒哀楽をコロコロ顔に出しながら、最終的に悲しそうな顔で、
「わかんない」
と答えるのだ。
ゆうかは、それまでおちゃらけた感じでニコニコしながら話していたが、わかんないと悲しげに言われてからは、どんな表情をしていいか分からなくなっているような反応を示していた。
それから、シーンと静まり返らないように、ゆうかがたどたどしく話を続けるが、その度に俺は、ゆうかも桜に何か思うことがあるのかもしれないなと思うのだ。
二人の距離感には違和感を感じるざるを得ない。
次に、ゆうかは見た目と反して、知能が(多分かなり)高いのだということ。
普通の中学生が使わないような言葉、例えば「杞憂」「鑑みる」「恣意的」などを、さも当たり前のように使うのだ。
そして、桜は当然のように首をかしげて、俺の頭の中も「?」でいっぱいになって、そこでようやく、ゆうかが「あー、〇〇ってこと」と解説を入れるのが、最早テンプレートのようになっていた。
さらに驚くことになったのは、昼休みのこと。
ゆうかはおもむろにスマホを取り出し、画面のロックを解除して桜の机に置いた。
なんかの質問箱だったのだろうか? そこには、こう書いてあった。
「数学はすべての科学における公理や理論の記述言語で哲学や宗教の理論でさえ数学で記述できると聞きました。 その一例をぜひ皆様にご教示して頂きたいのです」
見ての通り、とても中学生が調べてたどり着けるような内容では無いが、驚くのはまだ早かった。
ゆうかは、「ここ!」と言って、「ご教示して」のところを指差した。そして、
「『ご教示』じゃなくて、『ご教授』じゃない?」
と言ったのだ。
なんのことだか、一ミリも理解出来なかった。ゴキョウジュがどんな漢字なのかすら、スマホで調べるまで全く分からなかった。
その後のゆうかの解説によると、「ご教授」はより専門的なものを教えて時に用いるもので、この質問の場合は数学という専門的な学問について教えてもらおうとしてるから、こっちの方が適切なのだそうだ。
なぜ、どうやって、この知識を得たのだろうか。未だに不思議に思っていた。
不良は頭が悪いという先入観のせいで、普通の人より評価が高くなるという話はよくあるが、それを加味しても、ゆうかは異常なほど頭がいいのかもしれない。
最後にもうひとつ。
二人は、いよいよ俺の扱いに困っているということ。
俺は正直、二人と話したいとは到底思えなかった。そもそも俺は人生を豊かにするような有意義な話をしたいのであって、愚痴り合いたい訳では無いのだ。
にもかかわらず、二人は容赦なく、俺に質問を浴びせてきた。家がどこら辺なのか、通学はチャリか歩きどっちなのか、日頃買い物をするのか、先週末何をした、帰ったらいつも何をしているのか、etc……
答えるのが面倒くさいので、大抵の質問になるべく素っ気なく答えるようにしている。
当然その場が盛り下がるので、その度にゆうかが盛り上げようと頑張っていた。まだ二日しか経っていないけど、そろそろ懲りて、そして、俺と関わるのは無理だと諦めて欲しい。
話の内容は…………もはや覚えてすらいない。確か、税金がどうとか、総理大臣のハゲがどうとか、そんな感じだった気がする。
人間を観察していて、気づいたことが幾つかあった。
まず、二人のうち少なくとも桜は、何かを取り繕って話をしていることがあるということ。
例えば、桜はゆうかからよく、
「桜はどうする?」
と聞かれることがあった。もちろん、将来についての真面目な話とかじゃなくて、「総理大臣になったら」とか、「警察官だったら」とか、そういう現実味を帯びていない「もしも」の話だった。
桜は、その類の質問をされる度に、真面目な顔になって考え始めた。そして、喜怒哀楽をコロコロ顔に出しながら、最終的に悲しそうな顔で、
「わかんない」
と答えるのだ。
ゆうかは、それまでおちゃらけた感じでニコニコしながら話していたが、わかんないと悲しげに言われてからは、どんな表情をしていいか分からなくなっているような反応を示していた。
それから、シーンと静まり返らないように、ゆうかがたどたどしく話を続けるが、その度に俺は、ゆうかも桜に何か思うことがあるのかもしれないなと思うのだ。
二人の距離感には違和感を感じるざるを得ない。
次に、ゆうかは見た目と反して、知能が(多分かなり)高いのだということ。
普通の中学生が使わないような言葉、例えば「杞憂」「鑑みる」「恣意的」などを、さも当たり前のように使うのだ。
そして、桜は当然のように首をかしげて、俺の頭の中も「?」でいっぱいになって、そこでようやく、ゆうかが「あー、〇〇ってこと」と解説を入れるのが、最早テンプレートのようになっていた。
さらに驚くことになったのは、昼休みのこと。
ゆうかはおもむろにスマホを取り出し、画面のロックを解除して桜の机に置いた。
なんかの質問箱だったのだろうか? そこには、こう書いてあった。
「数学はすべての科学における公理や理論の記述言語で哲学や宗教の理論でさえ数学で記述できると聞きました。 その一例をぜひ皆様にご教示して頂きたいのです」
見ての通り、とても中学生が調べてたどり着けるような内容では無いが、驚くのはまだ早かった。
ゆうかは、「ここ!」と言って、「ご教示して」のところを指差した。そして、
「『ご教示』じゃなくて、『ご教授』じゃない?」
と言ったのだ。
なんのことだか、一ミリも理解出来なかった。ゴキョウジュがどんな漢字なのかすら、スマホで調べるまで全く分からなかった。
その後のゆうかの解説によると、「ご教授」はより専門的なものを教えて時に用いるもので、この質問の場合は数学という専門的な学問について教えてもらおうとしてるから、こっちの方が適切なのだそうだ。
なぜ、どうやって、この知識を得たのだろうか。未だに不思議に思っていた。
不良は頭が悪いという先入観のせいで、普通の人より評価が高くなるという話はよくあるが、それを加味しても、ゆうかは異常なほど頭がいいのかもしれない。
最後にもうひとつ。
二人は、いよいよ俺の扱いに困っているということ。
俺は正直、二人と話したいとは到底思えなかった。そもそも俺は人生を豊かにするような有意義な話をしたいのであって、愚痴り合いたい訳では無いのだ。
にもかかわらず、二人は容赦なく、俺に質問を浴びせてきた。家がどこら辺なのか、通学はチャリか歩きどっちなのか、日頃買い物をするのか、先週末何をした、帰ったらいつも何をしているのか、etc……
答えるのが面倒くさいので、大抵の質問になるべく素っ気なく答えるようにしている。
当然その場が盛り下がるので、その度にゆうかが盛り上げようと頑張っていた。まだ二日しか経っていないけど、そろそろ懲りて、そして、俺と関わるのは無理だと諦めて欲しい。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる