11 / 25
人間
十日目
しおりを挟む
今日は、数学の小テストがあった。
これから月に一度のペースで、生徒の理解度を測るために行うそうだ。
問題は十問で、ほとんどは数学とも呼べないような基礎問題だったので、配られてから一分ほどで片付いてしまった。あとの時間は暇だったので寝たフリしていたのだが、終わり際になって最後の問題が少し気になった。
(-1)÷0
問題文は、これだけだった。
俺は当然、「0」と答えていた。0を掛けたら0になるんだから、0で割っても0に決まってると思ったのだ。
十分経って、テスト終了。
後ろからテスト用紙を回してきてもらうことになって、俺は桜から紙の束を受け取った。
そして、こっそりと桜の回答を見てみた。特に十問目。俺の回答があってるかどうか、確認したかったのだ。
覗いたら、不意にそのまま固まってしまった。時が止まったように、目が釘付けになって、動けなかった。
前の人に肩を軽く叩かれて、ようやく俺の中で止まっていた時が動き出した。慌てて自分の回答を束の上に乗せて、前の人に差し出す。
俺は、目に焼き付いたままの桜の回答を、頭の中で反芻した。
「わかんない」
一言、そう書いてあったのだ。
……わかんない?
例えそうだったとしても、何か書くべきじゃないのか?
俺はいよいよ、後ろの人間が不気味なオーラを纏って、俺の事を威圧しているように感じた。いや、人間《あいつら》とは違った、もはや理解不能な別の生き物なのかもしれない。
テストを回収し終わった先生が、解説をし始めた。
一番から七番までの基礎問題は、答えをサクッと言って、「ここは教科書通り」と言いつつ解説を入れていた。まだひと月ちょっとしか教えてもらっていないけど、例え話にして教えるのが上手くて、わかりやすい先生だと思っている。
八番、九番は絶対値の問題の応用で、絶対値が8の数は? 絶対値がπの数は? といったものだった。
同じ数字や記号でも、プラスとマイナス、それぞれから絶対値をとるので、答えが二つ出てくるのだそう(解説で先生が言っていた)。あまり考えすぎずに、そういうものだと割り切っていたので、解説を聞いて、少しだけ分かったような気がした。
「最後に、これ」
そして先生は、十問目の問題を黒板に書き出した。
(-1)÷0
「先に答え言うけど、これは、『定義されない』が正解ね」
??????
俺の頭の中は「?」でいっぱいになった。
「なんでって言うと、じゃあ、例えば、これが出来るとしよう。すると、マイナス1割る0だから、マイナスの0分の1になるな?」
はい、と言う代わりに、俺は大きく頷いた。
「じゃあ、これに0を掛けると、どうなる?
分母の0と打ち消し合うから、1になるよな? でも、小学校の時、0に何掛けても0だって言われたから、掛けたら0か」
……あれ?
「あれっ? ってことは、1=0ってことになるなぁ」
そう言って、先生は黒板に「1=0」と書いた。
「でも、1=0って、どう考えてもおかしくねぇ?
……ってなるから、0で割っちゃいけねーんだ。わかった?」
俺は再び、大きく頷いた。
なるほど、理にかなっている。
俺は数十分前に安易な気持ちで「0」と書いたことを恥ずかしく思った。
「ちなみに、僕が答案用紙をパッと見た感じ、当たってたのは…………永峯さんだけだね」
え?
振り返って、右斜め後ろの端っこの席にいるゆうかを見た。他の人、というかクラスに居た全員が、ほぼ同時にそっちを見る。
「いやー、たまたまっす」
クラス中の視線を集めながら、ヘラヘラ笑って謙遜していたそいつは、やはり、桜とは違った不気味さを纏っていた。
これから月に一度のペースで、生徒の理解度を測るために行うそうだ。
問題は十問で、ほとんどは数学とも呼べないような基礎問題だったので、配られてから一分ほどで片付いてしまった。あとの時間は暇だったので寝たフリしていたのだが、終わり際になって最後の問題が少し気になった。
(-1)÷0
問題文は、これだけだった。
俺は当然、「0」と答えていた。0を掛けたら0になるんだから、0で割っても0に決まってると思ったのだ。
十分経って、テスト終了。
後ろからテスト用紙を回してきてもらうことになって、俺は桜から紙の束を受け取った。
そして、こっそりと桜の回答を見てみた。特に十問目。俺の回答があってるかどうか、確認したかったのだ。
覗いたら、不意にそのまま固まってしまった。時が止まったように、目が釘付けになって、動けなかった。
前の人に肩を軽く叩かれて、ようやく俺の中で止まっていた時が動き出した。慌てて自分の回答を束の上に乗せて、前の人に差し出す。
俺は、目に焼き付いたままの桜の回答を、頭の中で反芻した。
「わかんない」
一言、そう書いてあったのだ。
……わかんない?
例えそうだったとしても、何か書くべきじゃないのか?
俺はいよいよ、後ろの人間が不気味なオーラを纏って、俺の事を威圧しているように感じた。いや、人間《あいつら》とは違った、もはや理解不能な別の生き物なのかもしれない。
テストを回収し終わった先生が、解説をし始めた。
一番から七番までの基礎問題は、答えをサクッと言って、「ここは教科書通り」と言いつつ解説を入れていた。まだひと月ちょっとしか教えてもらっていないけど、例え話にして教えるのが上手くて、わかりやすい先生だと思っている。
八番、九番は絶対値の問題の応用で、絶対値が8の数は? 絶対値がπの数は? といったものだった。
同じ数字や記号でも、プラスとマイナス、それぞれから絶対値をとるので、答えが二つ出てくるのだそう(解説で先生が言っていた)。あまり考えすぎずに、そういうものだと割り切っていたので、解説を聞いて、少しだけ分かったような気がした。
「最後に、これ」
そして先生は、十問目の問題を黒板に書き出した。
(-1)÷0
「先に答え言うけど、これは、『定義されない』が正解ね」
??????
俺の頭の中は「?」でいっぱいになった。
「なんでって言うと、じゃあ、例えば、これが出来るとしよう。すると、マイナス1割る0だから、マイナスの0分の1になるな?」
はい、と言う代わりに、俺は大きく頷いた。
「じゃあ、これに0を掛けると、どうなる?
分母の0と打ち消し合うから、1になるよな? でも、小学校の時、0に何掛けても0だって言われたから、掛けたら0か」
……あれ?
「あれっ? ってことは、1=0ってことになるなぁ」
そう言って、先生は黒板に「1=0」と書いた。
「でも、1=0って、どう考えてもおかしくねぇ?
……ってなるから、0で割っちゃいけねーんだ。わかった?」
俺は再び、大きく頷いた。
なるほど、理にかなっている。
俺は数十分前に安易な気持ちで「0」と書いたことを恥ずかしく思った。
「ちなみに、僕が答案用紙をパッと見た感じ、当たってたのは…………永峯さんだけだね」
え?
振り返って、右斜め後ろの端っこの席にいるゆうかを見た。他の人、というかクラスに居た全員が、ほぼ同時にそっちを見る。
「いやー、たまたまっす」
クラス中の視線を集めながら、ヘラヘラ笑って謙遜していたそいつは、やはり、桜とは違った不気味さを纏っていた。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる