からっぽ

てりやき

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人間

二十日目

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 学校に着いて、ゆうかに昨日のデートのことを一通り話すと、にやにやしながらこっちを向いて、一言、
「やるじゃん」
と言った。
 きっとゆうかは、俺らがようやく普通のカップルとしての第一歩を踏み出したと思っていたのだろう。実際に本人たちがどう思っていようとも、周りの他人はそんなこと関係なく、その上っ面の事実だけを見るのだ。
 だから俺は、人間が嫌いだ。
 ゆうかも、その例外では無い。
 ただ、彼女の場合は、それに追加である。
 頭が異常に良いことを隠したり、俺と桜を無理矢理くっつけたり、行動にナゾが多い。
「なんの映画観たん?」
「えっ、『余命十年』ってやつ」
 改めて、好奇心をくすぐるような、面白い人間だな、と思った。



「あのさ、ヒロト、だっけ」
 昼休み、誰かがしどろもどろな声で、俺の名前を呼んだ。
 しおりを挟んで小説を閉じて、顔を上げた。
 立っていたのは、クラスメイトの男子生徒。
 俺はそいつの名前を全く思い出せなかったので、多分クラスでも目立たない方の生徒なのだろうと予想した。
「もしかして昨日、桜さんと映画館にいた?」
 ドキッとした。
 そしてすぐ、冷静になった。
 コンマ数秒の間で、頭をフル回転させて色々なことを考えた。
 桜と俺の関係を、こいつは知っているのか?
 こいつの目的は?
 ドキッとしたのを、悟られていないか? 大丈夫か?
 そして――
「うん。居たよ」
 俺は至ってシンプルに、そう答えた。普通を取り繕っていたが、緊張で自分がどんな顔をしているのか分からなくなった。
「どうだった、『余命十年』」
「…………ん?」
 俺はてっきり、桜との関係について質問してくるのだと身構えていたので、つい、拍子ひょうし抜けしてしまった。
「あー、良かったよ」
 なーんだ。良かったー。
 別に、クラス中に情報をばらまかれても問題は無いのだが、単純に俺がこれ以上、面倒事を増やしたくなかったのだ。
「良かったって、どんな風に?」
「んー、なんというか、思ってた以上にリアリティがあったとことか?」
 しかし、彼はなぜ、俺らが付き合っていることを全く掘り下げてこないのだろう。
 これじゃあ、まるで、彼は映画にしか興味が無いみたい…………
「!」
「めっちゃわかる! なんか普通の感動モノの映画で終わらない感じ?」
 そこまで考えて、俺はようやく気づいた。
 彼と話が進むにつれて、彼の目が輝いていっていることに。
「脚本がまず良いよね! 二時間みっちり使って小説のように主人公の心の移り変わりを表現してるとこが評価高い。最初主人公が死ぬことを軽々しく語ることで後半になって好きな人っていう大切なものができた時により死ぬ事が重い恐怖の対象になって主人公を襲うところが、天才というか、もはや実体験書いてるだろってレベル。それに――」
「ちょっと待って」
「え?」
 早口言葉のようにベラベラと喋る彼を一旦止めて、確認してみた。
「映画、オタク?」
 まるで彼は、待ってましたと言わんばかりに、得意げに、メガネをクイッと持ち上げた。
 これまた、面倒くさいのにからまれた。
 呆れたように、俺はため息をついた。
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