異世界に転生されたら高校時代くらいの年齢に戻ってたんだが？

第22話よりそう者

　源十郎は初めて人を殺してしまった。全身が震えている。その夜は食事も取らず、ブルブルと震えていた。目も虚ろだ。女子高生が抱きついて添い寝をしてようやく眠りについたが、今度は悪夢にうなされているようだ。源十郎が優しい事は知っていたが、悪人を殺す事でもここまでのダメージを受けるとは想像しようもない。朝起きると源十郎の姿がない。女子高生は必死に探す。ジュリエナの町を2時間駆け回って、休憩しに宿屋に戻ってみると、宿屋の屋根の上に放心状態の源十郎がいた。

「そこかい！　まったくもう！」

　源十郎を探すついでに屋台ですぐに食べれるものを買ってきていたので、源十郎の口に運ぶ。だが、口が開かない。

「昨日から何も食べてないでしょ。食べなさいよ」

　源十郎は首を横に振る。

「俺はこのまま飢え死にするんだ。5人も人を殺したら死刑さ。大量殺人犯さ。裁判でも有罪確定」

　源十郎は異世界に転生したのに現代人だった頃の癖が消えないらしい。確かにそうだけど。殺人は絶対ダメだけど、異世界だし、異世界でもダメだけど、相手は悪人だし、正当防衛だし。女子高生は必死に考えていた。

「あのね、あなたよく聞いて。世の中には悪人がいます。その悪人は良い人達を殺して奪って生きています。その悪人をほおっておけば20人殺したとします。その悪人をひとり殺せば20人の命が救われるのです。つまりね、あなたは盗賊を倒して大勢の善良な人達の命を救った事になるの」

「そ、そうか？」

「うん。そうよ。例え裁判になったってあなたは正当防衛で無罪よ。例え有罪になったって私が一緒に逃げてあげるわ」

「ほんとうか？」

「うん」

　弱った源十郎は可愛いなと女子高生は思った。とりあえず、何か食えと食べ物を口に運ぶとゆっくりだが口が開いた。

「おいし？」

「ああ、うまい」

　ようやく源十郎が食料を口にした。わざわざ食べ物を口元に運ぶのは面倒だったが、普通のカップルのようで女子高生は嬉しかった。こうして徐々に源十郎は元気を取り戻していった。このメンタルの繊細さとダメージの多さがガンの原因だったのかも知れない。