騎士学生と教官の百合物語

コマドリ

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第7節 過去編 人魔大戦 キールとマサキ

第159話 自分自身で選ぶことこそ

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ネットワ「見えてきました。正面突き当たりの大扉です」

魔族をいなしながら漸く目的地にたどり着こうとしている。

まずは第一段階。……もうすぐです。お姉様。

見ていて下さい。

私の勇姿を。

…大扉の隙間から光が…?


ネットワ「っ!エリシア、下がって!」

彼女の言葉と爆音が響き大扉が吹き飛ぶ。

エリシアを庇うように前に立ち、破片を叩き落とし『彼女への』攻撃を完全に防ぐ。

煙が充満する中、足元には骨を組み上げられ動く骸骨の魔物。

スケルトンナイト『だった』骨が撒き散らされる。


ネットワ「…視界不良につき、邪魔な煙を私の翼で吹き飛ばします」

悪魔の双翼が大きく羽ばたくと突風が吹き荒れ、煙が晴れる。

そして眼前に見えた光景……

右手に身の丈ほどの魔法杖を持った黒髪、金色の瞳の女性が息を切らし。

それを隣の踊り子衣装の金髪の女性が支えている。

しかし…杖の先端には人の顔ほどの巨大な目玉があしらわれていてギョロギョロと辺りを不気味に見回し、杖の柄からは細い触手のようなものが彼女の右手に何本も突き刺さっている……何とも禍々しく不気味だ。


マサキ「くそっ、新手か……っっぅぐ!」

恐らく呪怨の魔具の1つ『杖』だ。

ネットワ「エリシア、下がって下さい。…危険です」

ーーーー

エリシア「あれが…っ…くっ! ネットワ…私を庇って…大丈夫か? しかし…今のは…むっ…あれは…人か…?」

ここに至るまでに戦闘の感を取り戻すため何体かを相手にしたが…感覚は完全にまでとは程遠いが、それでも少なからず取り戻せていた。

そうして扉の前まで来ると…漏れる光とネットワの声で、私はすぐさま後ろに回避すると爆風が起こり…

私は剣を構えながらネットワを心配し声をかけながら、扉の先へと目を向け…煙が晴れると同時に人らしき2つの姿が確認できた。


エリシア「見たところサキュバスではないが…ネットワ…彼女たちがオーフェとマーサという人物ではないのか? しかし…あの禍々しい杖は…一体なんだ…。」

オフェリア「はぁ…はぁ…あなたたちは…? っ…マサキ 大丈夫!?」

現れた2人の人物を見て、私はネットワに彼女たちがそうなのかと尋ねる…

けど禍々しい杖とその持ち主らしき女性の様子とネットワの言葉から、私は剣を構えたまま様子を伺って。

こちらの姿を捉える2人…踊り子衣装の彼女は、支えている女性のことを心配している様子が見て取れた。

ーーーー

ネットワ「……はい。左の黒髪の方が、マーサ様。

右の金髪の方がオーフェ様です。

……恐らくお二人とも魔力切れの状態で、状況を打開するためマーサ様が『アレ』を使われたのでしょうが。

………エリシア、この距離を保って下さい。少なくとも、あの杖が落ち着くまでは」

ギョロギョロと絶えず周囲に視線を走らせる目玉は不快かつ邪悪な魔力を宿し、更にマーサの腕に突き刺さる触手は彼女の右側から何かを『吸い上げ』ドクン…ドクン…とまるで杖そのものが生きているかのように脈動を続けている。


ネットワ「…あれは『呪怨の魔具』という負の力を宿す古代の装備品。そのうちの1つです。

呪怨の魔具から打ち出される魔法は『生命』を根こそぎ奪うとされています。…絶対に刺激を与えないで下さい」

その間にも杖はパキキ…とその柄から悪魔の翼を象る装飾を顕現させ、『成長』させる。


ネットワ「マーサ様、オーフェ様。

こちらのエリシア様と含めて3名。

お姉様の命により、館からの脱出の援護を仰せ使っています。名をネットワと申します。

……時間がありません。

敵は、数、実力、物資、支援全てにおいてこちらを圧倒しています。

………立てますか、マーサ様」

黒髪の彼女は、呼吸も荒く顔色も青白い。

額の汗は熱気ではなく…寒気から来るものだろう。


マサキ「オフェリア…だ、大丈夫だ。…問題、ない。

……リリスはどうした。」

相棒である女性の支えを借り、ふらつきを抑えながらも、こちらを見る眼光は鋭い。

誰よりも最初に。唯一、黒幕を掴んだお方だ。

きっと何が起こってるのか、わかってるんだ。


ネットワ「……お姉様からの伝言です。

『残り1,5日はサービス。また会うことがあったら、請求するわ♪後のことは宜しくね』

……以上です」

ーーーー

エリシア「やはりあの2人がそうか…アレというのは杖のことか…了解だ。
(しかし…何とも禍々しい武具だ…しかもあの様子…おそらく使用者にも負担のかかる代物のようだな…。)

呪怨の魔具…? なるほど…古代の産物か…しかも生命を…ああ わかった…見た限り刺激を与えたら敵味方関係なさそうだ…。」

確認できた2人がお姉さまの客人だと分かるとともに、ネットワの言葉に従い距離を保つ…

その間にあの杖のことを説明してもらう…

生命を奪う魔の武具か…見たところその対象には使用者も含まれていそうだな…。


オフェリア 「本当に…? うん…わかったわ…だけど無理そうだって判断したら 私の血で問答無用で回復させるからね…。」

オフェリアと呼ばれた女性は 黒髪の彼女を支えながら言葉をかけている…

そこからは心配する様子が見て取れる…それこそ自分の命よりも…だ。

それにしても…血で回復とは一体どう意味だろうか…いや…時間がない…今はそれよりもだ。


エリシア「私からも一応 今の状況を簡潔に説明させてもらおう。

この館は今 魔族に襲撃を受けている…リリスお姉さまは私たちを逃すため 足止めをしてくれている…だからこの場にはいない。」

オフェリア 「そう…やっぱりマサキの予想通り『奴ら』がこの館を狙ってきたようね…。

ところであなたは…? 見たところサキュバスではなさそうだけど…。」

エリシア「ん? ああ すまない そういえば名乗っていなかったな。

私はエリシア=フレスベルグ…王国騎士で二つ名は『紫電』だ…なぜこのサキュバスの館にいるのかについては…まあ察してくれ。

私もリリスお姉さまから…なぜこの館が魔族に襲撃されているかの『事情』は少しだが聞かされて知っている。

あなたたちと共に脱出をするため…ネットワと同じくあなたたちの力にならせてもらう…だからお2人ともよろしく頼む。」

まあ確かに彼女たちからしたら…サキュバスではない私の存在は不思議だろうな…

オフェリアという女性から私のことを尋ねられ、私は自分の貴族としての家名と…騎士として与えられた二つ名を彼女たちに伝え…手短に自己紹介を交わして。

なぜここにいるかについては…騎士として恥ずかしいし…時間がないから濁すが…

鈴付き首輪と…彼女の行動に敬意を込めて今も呼んでいる『お姉さま』呼び…そして二つ名と名前からバレるだろう…魔族に囚われた騎士の1人だと。

ーーーー

マサキ「はあ……今は俺たちがいがみ合いをする場合でもなければ、警戒する余裕もない。

それに『紫電』の魔力波は、前に感じた時のと、さほど変化もない…ひとまずは大丈夫だろう…」

エリシアの身上を察したが追及する余裕がないこともあり、そこには触れず。

そのとき、少し離れた箇所の天井が広い範囲で崩落して破片が撒き散らされ、同時に8人のロリサキュバスが、落下して床に叩きつけられるのが見えた。

同時に大蛇と思わしき魔物が数匹、低い威嚇音を轟かせ丸呑みにしようと迫る。


マサキ「くそっ!『契約に求め力を貸し与えよ。縛られし我が魂は絶対なる僕にしてその徒。その眼に映したもう愚物を呪破をもって腐敗せん』……獄腐練破っ!」

大きな目玉がその瞳に大蛇を映し出すと、ロリサキュバスに迫っていた敵はその身体を崩し、維持できなくなり、たちまち腐り落ちて元の形すらわからない肉塊へと変わってしまう。

反動で彼女の肌に食い込んだ触手が、皮膚表面にビキビキビキ…!!浮き上がり蠢き侵食が進み、激痛に顔をしかめる中、闇の魔力がほんのわずかに彼女を自動再生する。


マサキ「っっっ……!!はーっ……はーっ……うぐっ……!!」

ネットワ「マーサ様、ありがとうございます。……貴女たち……!どうしてこんなところに……!!」

「ネットワお姉ちゃん……逃げるならお姉様も……」

「ねぇ、オーフェお姉ちゃんは凄い強いんだよねっ。お願いだから、リリスお姉様を助けてよっ。私たちのお姉様をっ!」

「エリシアお姉ちゃんっ、やだっ。こんなのやだよぉ……お姉様が居なくなるなんてやだぁ……うぅ……ひっぐっ……」

「もうあの笑顔が見れないなんてぇ…嫌だよぉお…!消えちゃ、やだぁリリス姉様あぁ…」

彼女たちは一様に瞳を潤ませながら、泣き必死に自分たちのお姉様を助けるよう懇願をする。

いずれも、身体的疲労はピーク。魔力も尽き果てた彼女たちに向けて。

勝ち目のない。敗北の目しか出せない彼女たちに。


ネットワ「…マーサ様……お姉様を…っく!いえ。失礼しました。

……貴女たち!馬鹿を言わないで!

リリスお姉様は、そんなこと望んでないっ!!

お姉様は私たちの無事を望んでいらっしゃるの!

むざむざこの方たちを、死地に送り込むなんて愚行!

お姉様は望まない!!

お姉様の誇りを踏みにじるつもり!?

オーフェ様!エリシア様も!耳を貸さないで下さい!」

ーーーー

エリシア「ふむ…どうやらマーサさんは自己紹介する前から 私のことを知っているようだ…

私はあなたのような女性とお会いした覚えが…いや…ローブ姿の人物…確か王国に1人居たようなっーーっ…お前たちは…くっ…!」

オフェリア「あの位置じゃ間に合わなっーーあっ…マサキ…! ああん もう! ほら私の血を飲みなさい!」

エリシアさんが王国騎士であるのなら…ジェイドがマサキということに気づいてもおかしくない…まあローブの下が美人なのだから驚いても仕方ない。

ロリサキュバスたちを助け、代償で苦しむマサキを見て…私は自身の手首を軽く裂き、そのまま彼女の口に当てて血を飲ませる…

真祖の血の効果により マサキの表情は少し楽になった様子となり、手を口から離すと傷が塞がっていて…

エリシアさんが驚いているけど今は無視よ…だって助けた彼女たちがこっちを泣きながら見つめているから…。


エリシア「お前たち…。」

オフェリア「っ…そ、そんな…こと…言われて…も…ちょ…泣かないでよ…。」

エリシア「……。」

泣きつかれても困る…私もマサキも魔力が枯渇している…はっきり言って私たちが向かおうが勝ち目はほぼない…

でも…微かにだが…勝算がないわけではない…

あと少しの刻が稼げるのであれば…『真祖としての力が極まって…この子たちが期待するようなスーパーパワーを持った吸血鬼になれる』けど…そんな賭けのようなことをしたくない…

私はマサキさえ無事ならそれでいい…奴らは憎っくき敵でいつかは倒す予定だけど…勝ち目が薄い今…マサキを危険に晒したくない…

だけど…この子たちは本当に心の底から私の境遇に悲しんでくれた…

それに…リリスにはフェアラートの時に危険を承知で助けてもらった借りがある…

そんな彼女らを見捨てるのは…だけど…マサキを失う可能性も…っ…私はどうすれば…。


エリシア「……お2人にネットワ…すまないな…私は…目の前で助けを求め泣く者たちを見捨てることはできない…だから…彼女を助けに向かうよ…。

見捨てることで助かったとしても…マリスや妹に家族へ顔向けできないし…何より…私の騎道に反するからな…

たとえそれで果てるとしても私は…自分の気持ちに嘘をつきたくないし…騎士として…いや人としてそうでありたいんだ。」

オフェリア「…!」

安心させるように泣いてるサキュバスたちの頭を一人一人撫でていっているエリシアさん…

この女騎士は…エリシアさんは『そういう人なんだ』…

自分自身が傷つこうと他者への思いやりと優しさを忘れない…

そして…そこに人も魔族も関係ない…

自分の心の赴くままに困ってる者に手を差出せる…私が憧れていた…心の形…

私の…気持ちは…。


エリシア「というわけだ…お2人は急いでネットワと脱出を…。」

オフェリア「……待ちなさいな。」

エリシア「えっ…?」

オフェリア「私はリリスに助けられた借りがあるわ…約束の日まではまだあるし…それを返せてないの…

それがなくても…この子たちの涙を見たら放っておけるわけないでしょ…。」

8人のサキュバスたちをネットワへと預け、リリスのいる戦場へと向かおうとするエリシアさんに声をかけ…未だに迷っている表情ながら 私は彼女を引き止める。


エリシア「しかしだ…私から引き受けておいてなんだが、ネットワの言う通り おそらく勝算はほぼないに等しいぞ…?」

オフェリア 「別に私のは勝算がないわけではないわ…あなたが死にものぐるいで身体を張って刻を稼いでくれるのならね…そう…『月が満ちる』まで…

もちろんそれでも私たちの勝算は2割くらいかしら…敵がその時間を待ってくれるわけないし…私もその力を扱いきれるかわからないうえに…それに…戦場から感じるやばい気配が4つもあるからね…

……はっきり言って私はマサキが一番なの…あなたを失うことが一番…怖い…

でも…この子たちにとってリリスは…私でいうマサキだと思ったら…見捨てられない…のよ…

それに…私の『心』は彼女たちを助けてあげたいって…叫んでる…だから…私…行ってきてもいい…かな…?」

エリシアさんには伝わらないだろうが、マサキになら意味がわかるだろう…

あと少し刻が経てば…『満月』だ…赤い月影の下での吸血鬼は…それも真祖なら…それでこそ一騎当千だ…自分でいうのもあれだけどね…

それでも…月が満ちるまでの時間…力の制御…戦場から感じ取れる3つの大きな存在…そしてそれ以上の何か…そのせいでリリスと共闘しても勝てるとは言い切れないし、逃げ切れる可能性も高いわけではない戦力差がまだある。

私にとってはマサキが一番の大事…マサキに何かあったら私は…

だけど…心ではサキュバスの彼女たちの願いを切り捨てられない…

魔の者として非情になれない…そんな自分の気持ちに葛藤した表情を私は浮かべながらも…自分の心から溢れる気持ちを相棒に伝え…。

ーーーー

マサキ「……はぁ…」

意識が薄れつつあり、絶えず亡者の声が聞こえる中でもこの2人の眼を見て溜め息が出る、俺が止めたところで愚かな道に歩を進めるのだろう。

いいさ。それなら俺も。

『やるべきことを、やるだけだ』


ネットワ「……エリシア様、オーフェ様、お、お止め下さい!それでは私はっ」

マサキ「よせ、ネットワ。こうなったらコイツら、どうせ俺たちの言うことなんか聞かない。

……オフェリア、それに……フレスベルグ。

それぞれに広がるいくつもの選択肢の中で。

お前らがどんな選択をするのかなんて、誰も指図なんか出来ない。

誰も教えることなんて出来ない。

お前たちが今、選択したように。

自分自身で選ぶことこそ。

ソイツが『自由』であり、意思ある者の『証』だ。

好きにすればいいさ。

結局のところ、ソイツの信念が勝てば未来は開き、敵の信念が強ければ、また見えてくるものがあるだろうよ」

厳しいながらも物事の真実の一面を指摘しながらその場に座り込み壁にその身を預け、小さく笑う。


マサキ「……俺は疲れたから、ネットワとここで待たせてもらう。……早めに戻ってこいよ」

ネットワ「わかりました……私がマーサ様を守ります」

その様子を見ているロリサキュバスたちは助けて貰えると知るとたちまち元気になり、エリシアとオフェリアに駆け寄り、ぎゅう♪抱きつく


「オーフェお姉ちゃんありがとう!!♪それじゃあ捕まって♪」

「エリシアお姉ちゃん、嬉しい♪私たちも行くよー♪」

「早く、リリス様のところに案内するから、私たちについてきてっ♪」

翼を生やして2人を崩落して露になった上階にあげ、地面に下ろしてあげる。

そのまま2人の手を引きながら、笑顔で走りはじめた。

ーーーー

エリシア「……マーサさん…そのお言葉 感謝します…。

私も…力なき正義は虚しいだけ…というのはこの戦争でいやというほど理解しております…

だから…己が持つ信念を突き通すため…私の力と意志を示してみせます。」

オフェリア「まあ私がいるから可能性はあるでしょう。それに…いや…なんでもないわ…。

……私も私で示してくるわ…マサキたちを利用して苦しめた奴らに…私の力と意志を…。

ええ 絶対にあなたのところに戻ってくるから安心して待ってなさいな。ネットワさん マサキのことをよろしく頼むわ。」

エリシアさんは頭を下げてお礼を言っている…マサキの言葉が胸に響いたのだろう…もちろん私の心にも…。

だんだんと研ぎ澄まされていく感覚…その中で一瞬 気になる『何か』を感じ取れた…

もう気配を感じ取ることはできない…でも…その中の一つ…あれは…

いや気にしてもしょうがない…今は目の前のことに集中よ…

私はネットワさんにお願いし…マサキたちを苦しめた奴らに一矢報いること…そして絶対に戻ってくることをマサキに約束して。


オフェリア 「わっと…ええ それじゃあさっさと借りを返しにいくとしますか。

あっ そだ…今の私 魔力ほぼないから道中の敵の露払いも頼むわね。」

エリシア「ああ 任せておけ。全開には程遠いが 騎士として恥じぬ 働きはしてみせるさ。」

私はエリシアさんと言葉のやり取りをし、サキュバスの彼女たちと館を駆けていった。

ーーーー

マサキ「はっ…………昔の俺なら、あいつらを半殺しにしてでも止めてたんだろうが……オフェリアのお人好しがうつった……!」

彼女たちの足音が遠くなり完全に離れたのを察したのか、自嘲気味に笑い、左手で懐から煙草を取り出し白煙を燻らせようと、口元に含み噛み込む。

そのまま両の瞳を閉じて眉間に指を這わせる。

……『いつも』より幻覚が強い。

……ネットワの肩や俺の足元にまで……

怨嗟の呻き声とともに、骸骨や顔を血塗れにした、見知った奴らがまとわりつく。


ネットワ「……お気持ちは嬉しいですが……大丈夫、でしょうか」

不安げな表情を浮かべながら気を効かせて、煙草に簡易魔法で点火。白煙がゆっくり昇り始めることで、気持ちを持ち直す。

右手の杖は依然として、俺の右腕に刺さった触手からドクン……ドクン……と『生命力』を吸い上げて成長を続けている中、首もとから鮮血を流した『キール』がしゃがみこみ俺の頬に触れる。


「マサキ……どうして……どうして助けてくれなかったの?アンタなら、あたしを助けることだって出来た……

そもそも何でアタシがこんな目に合わなきゃいけないの……?何で……アタシを消してくれなかったの?

魔王になんてなりたくなかった!どうして消してくれなかったの……!!マサキ!答えてよ!ねぇ!!」

マサキ「…………っ……!」

幻覚、だ。……相手にするな、惑わされるな。

取り込まれたら身体を乗っ取られる……!!


「馬鹿弟子…どうしてキールを消しておかなかった?

恩人を守りたい?随分、強そうな台詞を吐いたな。

何をやらせても半人前の中途半端ものの若造が。

ちょっと命を張っただけで、悲劇のヒーロー気取りかな?

『お前のせい』で、先生は先代魔王の器として封印されたというのに」

正面にユラユラと佇み見下してくる懐かしい姿が、こちらを見つめる眼差しは軽蔑と冷酷さに溢れている。


『……ーま。……さ、様…………さ……い……!』

「……そう。……結局、貴女は弱いのよ。

貴女なんかに何も守ることなんて出来ない……。

吸血鬼として悠久の時を生きてきた、私が保証するわ。

だいたい、甘えてこられるのも迷惑なのよ……

ふふ♪私が貴女のことをどう思ってるか知ってる?

私、貴女のこと、きらー……」

『マーサ様っ!!』

身体全体に強い衝撃と大きな声を受け、瞳が反射的に大きく開く。

目の前には息を切らしながらも、こちらを不安げに見つめるサキュバスがいた。


マサキ「…………すまん、助かった……恩に着るネットワ」

ネットワ「いえ……途中から意識が薄れておられた上に、昏睡されかけておりましたので、少し手荒くなりました。

それより……『寄生』の進行が早すぎます。早くそれを解除して下さい!

ますます『幻覚』が酷くなり……

元に戻れなくなりますよ……!」
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