絶滅危惧種オメガと異世界アルファ

さこ

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爲永ためながさんのペンダントが見当たらないんだけど」
 確かこの辺に置いていたはず、と頭上のあたりをひとりで探したけど無くて、仕方なくモアサナイトに聞いてみた。
「ないよ」
「どこにあるんだ?」
「もう無いんだ」
 そう言ってモアサナイトは両方の手のひらを広げてみせる。
「素っ惚けるんじゃありません」 そして、叱られて嬉しそうにするんじゃありません。「ああして身につけているのは大事な物だからだよ。すぐ返してあげないと」
「だろう?」
「だ?」
まどかはそう言うと思ってね」 とどや顔をする。「もう元の場所に戻したんだよ」
「……いつの間に?」
「セックスの最中」
 スパン。顔面に張り手をしたら中々良い音が響いた。
「言うな!」
「僕のつがいは恥ずかしがりだね」 くつくつ笑って、「以後気をつけよう」
 手加減なしに叩いたのにモアサナイトは全然平気そうだ。むしろ愉しそう。俺の手が痛いだけである。
 一体どうやって戻したのか、考えるのが面倒だから置いておくけど。
 あの骨、爲永の元に帰ったのか。
「けどそうか……良かったけど」
 うーん。
「問題あるのかい?」
「うん。多分、余計に怒らせたと思う」
「ふーん。彼は短気なんだね」
 当然ではないかな?
 モアサナイトの言動から推測するに、爲永はあのとき突然、裸にされたという事で、それがドコでだったのかは想像したくもないが。
 その後で唐突にペンダントだけ返されても火に油を注ぐ様しか思い浮かばない。全く……どの口が言うかな。
 短気はモアサナイトも似たようなものじゃないかと──。
 と言いかけて、結局口に出すのは止めておいた。
 ふだんのモアサナイトは貴人らしい鷹揚さと余裕でもって大抵の物事に寛容だ。言動には滲み出る王者の風格を感じる。
 けれど、話題によってはものすごく心が狭い。爲永と比べられると多分ウルサイ。
「円、なに考えてるの? 奴のこと?」
 こっちが動けないのを良いことに、人を身体ごと抱き寄せて目を覗き込んでくる。
「……。違うよ骨の事」
「骨?」
「最初はオメガの骨だって思い込んでたけど、考えたらあれがオメガだって決まったわけじゃないんだよな……むしろあの人が持っていたんだからそうじゃない可能性の方が高い。オメガ嫌いな人だし」
 咄嗟に話題を逸らしてみたけれど、実際に気になっていた事だから自然、嘘のない真面目な口調になる。
「円は複雑な事を考えるね」
 言って、ちゅと口にキスをしてくる。
「……」
 ?
 思考が空白になる。なんでいまキスされたんだろう。……突っ込んだら駄目だ。これ指摘するとキス以上をしてくるパターンだ。俺は知ってる。学習したから。
 平常心平常心。息を吐く。
「……ぜんぜん複雑じゃない。爲永さんは運命の番も迷信だって鼻で笑いそうな人だよ」
 まあそれは以前の俺なんだけど。
 するとモアサナイトは静かに笑う。
「……それでも、彼こそが運命を求めている。境界へ繋がる扉をこじ開けてしまうほどにね」

「扉を、開けた?」
「そう」
「え……異界への道を創ったのはナイトじゃないか?」
「最近周囲で異変を感じた事はあるかい? 自然の摂理が崩れるような」
 ?
「桜と雷と雪が同時に降るとか?」
「うん。他には?」
「えーと。どうだろ。けど異常気象は日常的に多いよ」
 最近は異常なのが普通だから、異常だという実感はないのだ。
「だろう? いまこの世界は少し不安定でね。その不安定を利用して彼は場をこじあけたようとしていた。だから僕は便乗できたんだ。彼の思いと、場の不安定さを利用してね。条件が揃わなければこうすんなりとはいかないよ。内側から鍵をあけてくれた彼には感謝するべきかもな」

「そんなん簡単にできるモアサナイトも大概なんですけどね」 と別の声が割って入る。「けど、まんまと待ち伏せされてつがいを奪われてたら世話ないですよねえ?」
「トルマリンさん」 窓枠に座って手をひらひらさせている。「窓は出入り口じゃないんですよ」
「あ、いやすみません。ごめんなさい。なにも見てませんよ?」
 ずいぶんと過剰に謝って、トルマリンさんがそっぽを向く。唐突に視界が黒くなった。
 は? 何?
『────』
 モアサナイトが何かを言った。
 えっと? 黒いんじゃなく、暗くなったのか。頭からなにかを被せられてる。
「……布?」
『────。────』
 トルマリンさんが飄々とした感じで答えてる。
 ずぼっと布から頭を出して、会話を眺める。
『──、────』
『──!? ──!! ──!!』
 聞き取れない単語でモアサナイトがなにかを言って、慌てた様子でトルマリンさんが返している。

 単に言語が違うと言うよりも、つむがれる言葉に違和感がある。これが別の次元の言葉か。
 そりゃまあ……二人の会話ならわざわざ日本語を使う必要なんてないし、母国語の方が慣れてるよな。
 被せられたのはモアサナイトのマントで、またこんな物どこから出してきたのか、小一時間、問い詰めたい気分。
 二人の会話は続いてる。そしてトルマリンさんの顔色はどんどん悪くなっていく。
 溜息。
 ナイトをつつく。
「もう昼じゃん。なんで俺立てないの」
「え」
「誰のせい」
 淡々と聞く。──マントの下は裸だ。
 いまさらだけど、有名な噂があったのを思い出した。曰く──アルファは絶倫だ。というアレ。
 この手の下ネタ話は種族自体がすたれても、しぶとく残り続ける。役に立たない与太話と判断した自分はそれを記憶の隅に置いていたけれど、どうせならもう少し早く思い出したかった。今ごろ思い出しても遅いんである。
 腰が使い物にならない。さっき立とうとしたら無理だった。
「誰のせい?」
 もう一回聞く。
「……僕かな」
「なら部下をいじめない」
「……はい」
 見ていたトルマリンさんが眉を上げる。
「なんで会話がわかったんですか?」
「だいたいは雰囲気で」
「雰囲気……」
 モアサナイトが言いそうな台詞は想像がつく。トルマリンさんに言ったのは邪魔するなとか見るなとか、そういう俺様な内容だろう。
 邪魔もなにも、あれから丸一日以上経っている。異境の地まで付いてきた部下をひとりきりで追い出すなよ。
「円は頭が良いから僕たちの言葉もすぐ覚えてしまうかもしれないな……」
 つがい馬鹿がほざいてる。
「そんなわけ無いから人が見てる前ではなるべく日本語でお願い」
「はい」
「うわあ。ちょっと見ない間にきっちり上下関係が確立されてますね」
「そうなんだよ。僕は円に敵わないんだ。参ったな」
 嬉しそうに答えるモアサナイト。
「尻に敷かれているのを嬉しそうに報告しちゃって、まあ」
 トルマリンさんは複雑そうな顔だ。気持ちはわかります。
「けどトルマリンさん、今までどちらにいらしてたんですか。その目立つ格好でどうやって隠れていたんです」
「ん? ああ、どうにでもなるもんですよ」
「どうにでも……」
「あのね、一緒にいろと言われても御免ですからね。俺は馬に蹴られたくないです」
「そんな理由で危ない目に遭って欲しくないですよ。勝手がわからない異郷に来たばかりなんですよ? ここも物騒な世の中なのでもう少し気をつけてください」
「……はい」 叱られた子供みたいなしょんぼり具合でトルマリンさんが頷く。「あの、ところで円さん、俺に敬語使うのはなぜですか。モアサナイトと態度が違います」
「お前と俺で円の態度が変わるのは当然だろう。円は僕の番だ」
「いや、俺はモアサナイトの部下なんで逆でしょう!? 円さん敬語やめてくださいよ」
「ああ。なんとなく使ってただけなんだけど」
 異世界人なんだから敬語のあるなしにこだわらなくても良いと思うけどな。
 そういえばときどきモアサナイトの一人称は俺になる。……無意識みたいだけど、どういう言語変換なんだろう。親しさのパラメーター的な?
「じゃあ俺に対する敬語は止めてくれます?」
「ど……努力してみます」
「え……努力しないと無理ですか」

 と──着信音。めずらしく電話が鳴っている。
 着信名を確認したら職場だった。


 ◇ ◇ ◇


「クビになったんだ」
 うどんチェーン店である。注文を終えて、トレーを持って席に座ったところ。
「へえ。良かったんじゃねえ?」
 返った反応は薄かった。解雇されたのを告白した初めての人間なのに。
「薄情だな仲嶋。他人事だからって軽くないか?」
 ぷりぷりしながら一味を取ってうどんに振りかける。
「実際、他人事だしな」 と仲嶋は箸を割る。「呼び出されるのは良いんだけどさ。なんでうどん屋だよ」
「すきだと思って」
 俺の注文したうどんは半熟卵をのせて、少し豪華だ。体力つけたい。
「そこまで好きじゃねえよ」
 仲嶋のうどんにも卵が乗ってる。けれど、その他にもエビ天、ちくわ、餅、コロッケに唐揚げ乗せで、最早麺の姿が見えない。更におにぎりを付けてる。
「野菜はないのか?」
「大根」
 確かに大根おろしも乗っているけども。
 大食漢の仲嶋は食べるのも速く、眺めてる間に続々と麺の上の具が消えていく。麺も消えていく。相変わらず、俺より先に食べ終わりそう。
「食堂と仲嶋って取り合わせって、落ち着くなあ」
「なんだよそれ」
 少し、日常を思い出したい気分なのだ。
 食券でを買うシステムは社員食堂と雰囲気が似てる。
 ついさっきまで立ち上がることも出来なかったけど、今歩けているのはモアサナイトが直してくれたからだ。よくわからない力で。
 直してもらった後も、どうやってくれたのかよくわからない。あれがいわゆる魔法か。魔法なのか? 聞きたいような聞きたくないような。でも出来るならもっと早くやれ。
 異世界人二人には留守番をしてもらっている。
 アパートの部屋が狭くて申し訳ないけど、彼らを表に出すのは問題だ。
 少しは不満を言われるかとも覚悟していたのに、意外と素直に従ってくれた。
 素直すぎて嫌な予感がしないでもない。

「そりゃ俺だってお前が真っ当な仕事してたなら引き留めてもいいけどさ。仕事してなかったじゃん」
「……それを言われると弱い」
「まあ、ツテで仕事紹介するから許せよ」 仲嶋はうどんの具を食べながら名刺を取り出してテーブルの上に放る。「オメガは歓迎だから来てくれってところがあるぜ?」
「え? なんだ俺のクビ知ってたんだ。ありがとう仲嶋。お前良い奴だな」
「調子良いな。けどそう簡単に手のひらを返すんじゃねーよ。条件、まだ言ってないだろ」
「問題あるの?」
「そいつオメガフェチで変態だから。それが我慢できるならオススメ」
「わかった。いつから行けば良い?」
「即決すんなアホ。何安請け合いしてんだ危ねえな」
 箸で人を指さす。紹介したくせに説教するか。
「俺はいま保護者なんだよ。健康な男二人を養えるように稼がないといけないんだ」
「はあ? 二人もヒモを抱えてるのか? 爛れてんな」
「ひも? ただれる?」
 腐った紐? 紐じゃなくてヒモか? 誰が。
「ああいいや、先にうどん食え」
 思考の途中で声をかけられる。見れば仲嶋はもう食べ終わっていて、自分のはまだ半分以上残っている。慌てて食べ始める。
 黙々と食べるのを見守られ中。
「本当は」
 それだけ言って、仲嶋は言いよどむ。
「なに?」
 仲嶋にしては珍しく、歯切れが悪い。
「本当はもっとまともな所、紹介してやりたかったんだけど断られたんだよ。そこ以外は、全滅。しかも俺も上司からストップが掛かったぞ? お前をやめさせたんなら社はもう関係ないし、お前の事で俺がやってるのは完全に私事じゃん。なのに、だぜ? どんだけの圧力なんだよ」
「……ふうん」 どうして? という疑問よりも、『やはり』という納得の思いの方が強い。「……社会的に殺しに来たかな」
 オメガを殺すのには武器はいらない。
「……お前」
 さっき掛かってきた電話は二本あった。

 一本は職場の事務からで、クビのお知らせ。
 もう一本はアパートの管理会社からで、退去勧告。
 部屋を貸すことができなくなったから出て行ってくれというもの。どちらも具体的な理由は話されず、そしてどちらの担当者も大変申し訳ないという態度で接してくれたのでロクに追及もできずに切った。

 そもそも仕事先は協会からの斡旋で就職できた職場だ。
 住居だって、協会からのオメガ支援を受けて借りたものだ。
 オメガの社会的な評価は今も昔も変わっていない。実状はともかく、『発情期がある』という理由で信用がゼロに近いのだ。組織の後ろ盾がなければ満足に部屋を借りることもできなかったりする。

 宿なあ……どうしよう。当面ネットカフェにでも籠もるか? にしても俺一人ならともかく、あのいかにもロイヤルな異世界人をネカフェに泊めるのはちょっとほんと、どうかな。
 難しい。
「なあ、一体何を敵に回したらそうなるんだよ。ヤクザか? 政治家か?」
 仲嶋が聞いてくる。
「敵? 協会かなあ」

 敵だなんておこがましいけどな。協会にとって、オメガの自分はただの保護対象。その気になれば簡単に握りつぶせる存在だ。じっさい住処すみかと仕事を追われるだけで路頭に迷う。
 問題は、相手がどこまで本気か。
 これは単なる脅しでキツい警告なのか、それとも本気で俺は殺されようとしているのか。どっちだろう。
 どこまで怒らせたんだろう。服の件は当然、怒ると思うけど。わからないのはあのペンダントの影響力。
「面白いじゃねえか」
「……あ?」
「面白いって言ってんだよ。俺、協会、嫌い。お前が抵抗するってなら俺も助太刀するぜ?」
「……危ないから止めなさい。仲嶋に相談したいのは別のことだよ」


 ◇ ◇ ◇


 アパートに帰ってきたら誰もいなかった。

 予想はしてた。
「……別にいいよ。いないならそれで」
 狭い部屋に響く声が意外に寂しげに聞こえて、ひとりで焦る。
 違うんだ。拗ねてない。
 溜息。ひとり芝居、空しい。

 アパート退去までの猶予期限は、二週間だ。短い。
 けど、本当は『即時退去』が上からの通達だったらしい。『二週間』はここの担当の人がぎりぎりまで引き延ばしてくれた結果だ。『……だってあんまりじゃないですか。すみません。こんな事ぐらいしか出来なくて』 電話口で聞いた声に、追い詰められた状況なのに励まされた。契約の時にしか会ってないような他人なのに、理不尽な所行しょぎょうに抵抗してくれた事が有り難い。
 こういうとき、人はいろいろな人に支えられて生きているんだなって思う。

 考えなきゃいけないのは猶予期間にどう行動するか……なんだけれど、新しい部屋を探すのは無理だろう。
 試しに帰りに不動産に寄ってみたけれど、店内に入って顔を見られただけで丁重に追い出された。交渉以前。
 やっぱりネットカフェか? いやいや。
 追い出される期限までに問題の解決を目指す。それしかないだろう。──俺の武器を使って。


「円」 声をかけられてはっとする。「ごめん遅くなって」
 いつの間にか、うつらうつら眠ってた。
「ナイト。遅くなってごめんじゃなくて、今日は留守番してって俺言っ──」
「おはようございます。あ。びっくりしました?」
 いたずらが成功した時みたいな表情のトルマリンさんも、服装が現代風に変わってる。
「また誰か脱がした!?」
「大丈夫」
 そう言って俺の頭を撫でるモアサナイトはスーツではなく、ラフなTシャツ姿。ボードネックの黒にジーンズ。
「確かに、爲永さんの趣味じゃないけど」
「……なんでわかるのかな」
「え? イメージ」
「笑ったまま黒いオーラ出さないでくださいモアサナイト」
 トルマリンさんの服装はもっとカジュアルだ。カラフルなチェックシャツに、クロップドパンツ。
「ね。偉いでしょう。ちゃんと目立たないように外装変えてきたんですよー」
「……や、目立つのは変わらないと思うよ」 もう一度モアサナイトを見つめてから言い直す。「どちらかと言えばめちゃめちゃ目立つ」
「そうかな」
 身なりをチェックする姿はすっかり現代人だけども。
 シンプルな服装になった分、中身の上質さが際立つのだ。均整の取れた肉体とか。心拍数上がりそうなので目を逸らす。
「それで、二人とも留守番無視して何してきたんだ?」
「普段着の調達にね」
 そう言ってモアサナイトは微笑む。
「それで全部じゃないよね。どうせなにか企んでるだろ? 協会は攻撃しないようにね」
「う」
「……えっと」
「勿論、わかってるなら良いんだけれど」
 返ったのは気まずげな沈黙だった。

 溜息をつく。
「……つまり企んでるってことだよね」
 モアサナイトが焦りながら反論してくる。
「けど肝心なことを言ってくれなかったのは円も同じだよ。僕らがわからないと思って黙ってただろう? 仕事をなくしたんだろう? 住処すみかも追い出されるのに。こんな仕打ちを見過ごせるわけがない」
「そうだけど? これ以上関係をこじらせたら困るのはこっちだ。ふたりとも、故郷に帰れないならここで生活していかなきゃいけないんだ。ふたりがいくら凄くて強くても、オーバーテクノロジーがあるってだけで生活まではできないよ。それに、俺はこの世界の人と協力することを覚えて欲しい」
「で……でも、なら円はどうするつもりだい」
「そりゃ謝ってくるよ。爲永さんに」
「駄目だ」
「ナーイト? 誰が悪いかわかってるか」
 人差し指を相手の鼻の頭につける。
「う」
「爲永さんから奪った服、せめて有効に使うならまだ良いよ。破って終わったよね」
 モアサナイトは精一杯目を逸らしながら、観念した。
「……はい」
 ところで視界の端が気になるんだけど。
 トルマリンさんがすっごく楽しそうにこのやり取りを眺めてる。
「言っとくけど俺は別にひとりで乗り込む気はないからな。無理だもん。悪いけどナイトを頼るからね。一緒に行こう」
「……円」
「ちょ、どうしたふみゅ」
 モアサナイトに抱きしめられて胸板に押しつぶされそうになる。
 もー……。急に来る。モアサナイトがくすくす笑う。
「……僕はやっぱりここまで来て良かったよ」
 笑いながら声が震えてる。……。なんで泣きそうに言うかな。
「俺も、やり込められるモアサナイトを見られただけでもここに来て良かったと思いますよ」
 トルマリンさんも微笑ましげに言う。
 え。いい話風に言う台詞じゃ無いよそれ。
 なのに、本当に嬉しそうなので困る。

 だって、俺はそれほどすごいことは言ってない。
「円は本当に格好良い」
 過大な評価はくすぐったい。嬉しいけど。
 でも、そう思うなら、
「……俺が迷わず前に進めるのはナイトがいるからだよ」
 ひとりでは無理だった。
 自分に行動力があるなんて、今まで生きてきて初めて知った。
 何があってもこの人がいるなら頑張れると思う。そして、助けてくれるだろうと思える。その安心感は力をくれる。
「それだからお二人がメイトなんですよ」 当然でしょ? とトルマリンさんが笑って言う。「世界を変える力を持つ。それが運命の番ですから」

 なにげない台詞を聞き流しかけて、頭の中で反芻はんすうしてから耳を疑った。

 運命の番ってそういう意味?

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