【R18】二人の会話 ─幼馴染みとの今までとこれからについて─

櫻屋かんな

文字の大きさ
15 / 73
第二章 二人の距離

7.告白

しおりを挟む
 しめされた場所はお寺の由来が彫り込まれた、石碑の前だった。一段高くなっている石碑の土台。そこに俊成君と谷口さんが立っている。すぐ横の街灯に照らされて、まるでドラマの一場面を見ているみたいだった。

「今日、エンちゃんと一緒にお祭り来て、倉沢君たちと合流できて、それで告白するって決心したの」

 最大限の勇気を振り絞ってますといわんばかりの谷口さんに、ぴくりともしない俊成君。……あれ、固まっちゃっている。

 一見すると俊成君は落ち着いて見えた。でもそれはただ単に、とっさの行動パターンにバリエーションが少ないからなんだ。私から見ると、俊成君は突然の展開にかなり焦っている。

「ずっと倉沢君のこと、いいなって思ってたの。他に好きな子がいなかったら、私と付き合ってくれる?」

 そうか。俊成君に告白かぁ。

 なんだか自然に笑みが浮かんできてしまう。

 俊成君、どうするつもりなんだろう。受けるのかな。

 隠しようもない好奇心を抱え、耳をそばだてていたら、ふいに遠くから妙に騒々しい気配が伝わってきた。なんだろう。誰かの怒鳴り声っぽいんだけど。って、

「やべっ! 住職に見つかった。逃げろ!」

 別の方向から佐々木君の声がする。

「うわっ!」

 誰かの焦った声と、ガツッという物音が聞こえた。あれは、俊成君?

「宮崎さん、早く!」
「うんっ」

 確かめる間もなく手をとられて、私は小林君と一緒に走り出した。



◇◇◇◇◇◇



 まるでかくれんぼをするようにこっそりと神社の裏手に逃げ込むと、そこで立ち止まり息を整えた。他の人たちの姿は見えない。

「はぐれちゃったね」
「大丈夫だよ。つかまるような距離でもなかったし」

 立ち止まり、落ち着いたはずなのに、小林君は私とつないだ手を離そうとしない。この手を離すタイミングを計りかね、私は困って小林君を見た。

「さっきの続き。俺、宮崎さんのこと好きだから」

 行き詰るような緊張感とか、さあ言うぞといわんばかりの雰囲気とか。

 そんなさっきと違って、小林君は淡々と言った。でも、瞳はやっぱり真剣で、手は相変わらず離される気配もない。

「今日だけじゃなくて、これからも付き合ってくれる?」

 しばらく続く沈黙。次は私が何か言わなくちゃいけない番だと分かっていたのに、なかなか口を開くことが出来ない。

「あ……」

 ようやく口を開いたら、なんだかかすれて変な声が出てしまった。

 いいよね、私。OKしちゃっても、構わないよね。

 自分に問いかけながら決心して、小さく答える。

「……はい」

 けれど小林君は確認するように、「うん?」と首をかしげるだけ。今の、聞こえなかったのかな。

「あの、よろしくお願い、します」

 まともに顔を見ることが出来ず、目線を落としてそこまで言う。すると、つながれた手にきゅっと力を感じた。

「あのさ、あずさって呼んでいい?」
「え?」
「そのかわり、俺のこと名前で呼んでよ」

 彼の声が本当に嬉しそうで、私は小さく深呼吸をすると顔を上げ瞳を見つめた。

「圭吾君?」

 途端にちょっと顔が曇る。

「君はいらない。名前だけ」
「……圭吾」

 どきどきしながら呼びかけると、満足そうな笑みが彼の顔に広がった。

 本当に、きれいな顔立ちしているなぁ。

 照れるのも忘れ、つい圭吾の顔をうっとりと見つめてしまった。この人の、こんな表情を独り占めしていいのかな?  まだ『付き合う』ということが実感できないでいて、ぼんやりとそんなことを考えていた。




 その後は夜道は危ないからと主張する圭吾におされ、家の近くまで送ってもらって帰ってきた。神社は中学校の近くにあって、まんま通学路。日々通う道のりをこうして女の子として送ってもらえて、気恥ずかしい反面、素直に嬉しい。

 けれど、せっかく幸せな気分で帰ってきた家は真っ暗。寂しく留守番していたコロがじゃれついてくるのを適当にあしらいながらテーブルを見たら、お母さんの置手紙があった。
 
 お父さんと一緒に縁日見てきます。夕飯はレンジの中です。

 私がお祭り行くって言ったら、いいなーってお母さんつぶやいていたんだよね。お父さん、お母さんに引きずられたな。

 なんとなくお母さんの行動に予想がついて、納得した。ふと横目で電話を見ると、留守電が入っている。

「倉沢です。スマホ忘れちゃった? 良幸がお赤飯作ったんで店に取りにきて下さい。では」

 俊成君のおばさんからだった。電話機の横に置かれている充電器を慌てて見たら、お母さんの携帯機器がささったままになっていた。またやっちゃったか、あの母は。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...