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第二章 二人の距離

6.きもだめし

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 九月になったとはいえ残暑は厳しく、日が沈むのもまだゆっくりしている。夜の七時をそろそろ過ぎようとしていたはずなのに、空の色は夕闇というよりも藍色だ。かすかに流れてくる太鼓と笛の音をバックに、私達合計十一名はお寺の敷地でひそひそと話を続けていた。

「……まず最初の組は、私と槌田君。次は久美ともっちーね。真由美は勝久と高野っちの三人で行くから、えーっと、四組目が宮崎さんと小林君。で、ラストが香織ちゃんと倉沢君ってことで」

 遠藤さんの結果発表に続いて佐々木君の注意が入る。

「ここさ、結構住職がうるさいんだよ。騒ぐと一発でばれるから、おどかしは無しな」
「墓地にも入らない、おどかしも無しって、肝試しといえんのか?」

 高野君のもっともな突込みがはいったけれど、それは遠藤さんのからかいの言葉で不発に終わってしまった。

「なに高野っち? 真由美と二人じゃなくて勝久もいるからふてくされてんの?」

 高野君が慌てて反論しようとしている隙に、遠藤さんは槌田君と一緒に出発してしまう。その二人の自然な動作とか親密そうな雰囲気から、遠藤さんと槌田君は付き合っているのかな、ってなんとなく思った。組み分けもじゃんけんとかじゃなく、遠藤さんがささっと決めちゃったし。当たり前のように私と小林君が組みになっているし。

 非バスケ部員の谷口さんは友達の遠藤さんに置いていかれる形となって、それでもにっこり笑って手を振っていた。

 しかし、俊成君。

 集団の後ろの方、明かりが届かない位置で立っている俊成君をちらりと目で確認した。やっぱり表情までは分からない。

 和弘お兄ちゃんが「おおっ」で、良幸お兄ちゃんが「うわっ」。俊成君は私と小林君を見て、どう思ったんだろう。さすがに派手なリアクションはしてなかったけど、一応は驚いたような表情していた気がするし。

 妙に落ち着かなくなって、私は地面の砂利を足先で引っ掻きだした。

 やっぱりきちんと俊成君には報告した方がいいのかな。小林君と付き合うことにしたって、宣言するとか。でも、俊成君に報告って、それもなんか変だよね。幼馴染だからっていちいち報告する義務は無いわけなんだし。なのに焦っちゃっているのって、やっぱり初回に限って出会ってしまったからだと思うんだけど。というかさ、初回って、宣言って、つまり私は今後も小林君と付き合うことにしたって事だよね? 今夜のお祭りだけじゃなくって、今後も続けていくって考えているんだよね。それで、それでいいんだよね。

 自分に突っ込みを入れていたら、どんどんと心拍数が上がってきた。

 駄目だ。私今日一日だけで、かなり心臓とか血管を鍛えている気がする。

「宮崎さん」
「あ、はい」
「もう俺達の番。行くよ」

 気が付くと人がへり、残るのは私と小林君、そして俊成君と谷口さんの二組だけだった。ああ、真由美が行っちゃったの気が付かなかった。

 小林君は自分の腕時計を見つめ軽くうなずくと、俊成君に手を上げて合図すると歩き出す。私もその後に続いたら、上げた手をそのまま私の元へ差し出し、手を握られた。

「暗いから」

 反射的にびくりとすると、小林君が短く説明する。瞳が、笑っていない。思いもかけないその真面目な表情に気おされて、私は素直にうなずいた。

 なんだろう。さっきまでの二人きりで屋台を見ていたときとはまた違う雰囲気だ。

「……宮崎さんさ、倉沢とは親しいの?」

 庭園の中、手をつないで歩いていたら、小林君がぽつりと聞いてきた。

「え? なんで?」
「倉沢のこと、下の名前で呼んでいた。それにさっきの人たち、倉沢の兄貴達なんだろ? トシと一緒か、って聞いていた」

 ちゃんと聞いていたんだ、小林君。しかもなんか機嫌悪くなっちゃっているみたいだし。

「家、近いんだ。私と倉沢。だから家族を良く知っているの」

 ここまで説明した後に、念のためフォローを入れておく。

「でもクラスは一度も一緒になったことは無いんだよ」

 言った直後に気が付いた。これってフォローになるんだろうか。つないだ手の先を目で追って小林君の横顔を見つめたら、急に彼が立ち止まり、私の事をじっと見つめ返した。

「宮崎さん、俺」

 やけに緊迫した空気と、小林君のあらたまった口調にどきどきする。

「俺」
「好きなの。倉沢君のことが」

 耳を澄ませていたせいかはっきりと聞こえる声に、私と小林君は直前の雰囲気も忘れ思わず顔を見合わせてしまった。

「……あそこにいる」

 ついつい小声になる小林君。私なんて声も出ないで、その指された方向をのぞき見るだけだ。



    
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