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その2. その名はケンケン

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 あれから一週間後。

 今は十二時十分。コンビニの店内には入らずに、美晴は日傘をさして店の前に立ち、二人を待っていた。いつもはおろしたままの肩までのストレートボブを、今日は一つに結わえてアップにしてある。その首筋から汗が流れ、ハンドタオルで押さえた。

 クーラーのきいた店内で待っていたほうが、良かったかもしれない。道の向かいの公園から聞こえる蝉の声にどうしようかと思っていると、走ってくる男性の姿が見えた。

「お待たせしました」

 美晴にハンカチを渡した、ピレネー犬の方。井草だ。

「あの、もうひとりの方は」
「柿村は、今日はいません」

 少し強い口調でそう言うと、じっと美晴を見つめる。

「二人いたほうが、良かったですか?」

 キュウンという鳴き声が聞こえてきそうな、不安そうな表情だ。いや、多分見た目はそんなに変化は無いのに、なぜか美晴の目にはそう見えてしまう。先週の出来事も、美晴には焦ったように照れたように見えた井草の態度は、客観的にはとても落ち着いたものだった。

「いいえ、いいですよ」

 美晴はそう返すと、ミニトートバッグから当初の目的のハンカチを取り出す。一応コンビニ菓子も添えて、透明なラッピング袋に入れていた。

「先週はありがとうございました」
「いや、元は俺がぶつかったのが悪いんで」
「それでも、丁寧に謝っていただきましたし」

 そしてこの話はお終いにするように、美晴は井草にハンカチを手渡す。

「それでこの後なんですが、今日もおにぎり買う予定ですか?」
「なんでそれを」

 驚いたように僅かに目を見開く井草をみて、逆に美晴のほうが不思議に思ってしまった。あれだけ毎回おにぎりの具について熱く語っているのに、自分たちの熱量について自覚をしていないのだろうか。

「コンビニでおにぎり買うならお勧めしたいところがありまして。すぐそこなんで、ちょっと付いてきてくれますか」

 それだけ言うと、美晴は井草の返事を待たずに歩き出す。昼休みの時間は限られているのだ。


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