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その11. トライアル始まる

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「本当? そんなつもり無かった。ご飯って美味しいと、意識しなくても普通に感想言っちゃうよね」
「普通そこまで情熱持っては言わないんじゃないかな」
「えー」

 クスクス笑っているうちに、鰹のカルパッチョが運ばれる。美晴は手元のワイングラスに目をやると、小さく唸った。

「鰹にラム肉……。このラインナップだったら、白ではなくて赤ワインだったかな」
「それなら二杯目を赤にすれば、あ」
「あ?」

 急に言葉を切った健斗に、美晴が聞き返す。健斗は言おうか一瞬だけ迷うと、すぐに決意をした。

「二杯目からはソフトドリンクでお願いします」
「この程度じゃ酔わないのに?」

 不思議そうに聞き返されるが、健斗から見るとすでに美晴の目もとはほんのりと赤くなり始め、艶を増してきている。酔っぱらいの言動はしていなくても、この表情だけで健斗には気がかりだ。

「危険です。俺、美晴さんの『酔ってない』は信用しないことにしているから」
「ひどい」

 わざとしかめっ面をして美晴が健斗を軽くにらむ。だがすぐにその表情を緩め、笑顔を返した。

「でも仕方無いか。お酒はこれで止めておく」
「いいの? 美晴さん」

 あっさり了承されて、思わず聞き返してしまう。美晴は少し困ったように言いよどむと、また笑った。

「一応、反省中なので。せっかく提案してくれているし、素直に従おうかなと思って」

 今のとこ全部、健斗に合わせてくれているんだろ? 十分好かれているんじゃないか?

 陽平の言葉を思い出し、健斗の頬が熱くなった。お願いをきいてくれたのは、反省中だからのこと。そうわざわざ頭の中で分析して自分に言い聞かせないと、このままでは気持ちが暴走して二週間前と同じことをやりかねない。

「えっと、これからは俺も酒飲むの止めときます。最初から酒飲まない」

 酒を飲んだときの危険性は、健斗にも均等に与えられている。そしてそれを回避するための対応策も。美晴に提案する以上、自分も実践しなくては説得力が無いと思い知る。

「夜ご飯でお酒を飲まないのって、厳しくない?」
「うーん」

 もっともな指摘に唸り声をあげると、健斗はそっと伺うように美晴を見つめた。

「これからは昼間に会いませんか? 土日のどちらかに映画観に行くとか、どこか行くとか」
「映画」

 美晴が小さくその言葉を反芻する。それから健斗と同じく伺うように見つめ返した。

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